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「ムダな仕事」にしがみつく人を戦力に変える方法

JBpress のロゴ JBpress 2018/09/11 06:00 松本 利明
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供

 こんにちは、人事戦略コンサルタントの松本利明です。PwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手のコンサルティング会社などで24年以上、人事と働き方の改革を行ってくる中で「おやっ!?」と思ってしまうことが実に多く発生してきました。

 実は、世間で言われる「セオリー」の9割が間違っているのです。思ったような効果が出ないのは、計算ミスより計算式そのものが間違っているのです。うすうす、あなたも気づいているのではないでしょうか?

 そこで前回に引き続き、「働き方改革」のセオリーにありがちな落とし穴と、それに代わる速くラクに成功するコツについて解説していきます。

ムダな仕事にしがみつくスタッフが出てくる理由

 働き方改革を進めていく時、ムダな仕事は徹底的にゼロにしていきたいものです。

 ムダな仕事の典型例の1つが、単に習慣化しているだけの資料作成です。その中には、「長年作成し続けてきたけど、そう言えば、この資料、何に使っているのか見たことがないな」なんていうものが意外と埋もれているものです。

 何年も前の経営会議で、先代社長がふいに「こういう資料が見たい」と口にした結果、次回の経営会議から必ず用意する定型資料になったけれども、よくよく調べてみると当の先代社長すらその資料に目を通すことはなくなっていた――なんていうのは会社組織の中ではよくあることです。ですが、「もう作成しなくていい」という指示が下りてこないと、現場は無用の資料を作り続ける羽目になってしまいます。

 賞味期限が切れ、会議やマネジメントで使われなくなった資料やフォーマットというものは、どんな組織でも少なからずあるもの。そのムダな書類作成の手間が見逃されてきたのは、これまで資料の活用度をチェックする習慣がなかったからです。「働き方改革は資料の活用度を見直すいい機会」と捉え、この際、使わない資料を作るムダは真っ先に削減していきましょう。思い切って資料の追跡調査を行い、必要性の有無の判断をつけることは働き方改革の第一歩です。

 ただ注意してほしいのは、この時に陥りやすい「罠」があることです。

「よし、ムダな仕事が見つかったぞ。じゃあそれをすぐ止めてしまおう」と意気込んでしまったばかりに、その仕事を担当していたスタッフには、「その仕事はムダな仕事なので止めなさい」などとついストレートに指示してしまいたくなるもの。しかし、これは厳禁です。

 指示する側は軽い気持ちで口にした言葉であっても、言われた方はそう簡単に受け入れることができない指示だからです。

 というのも、経営サイドからは「ムダ」に映るようになった仕事であっても、その仕事に携わってきた人にとっては、それなりのプライドを持ってやってきた仕事なのです。もしかしたら、その人の「仕事人生の価値そのもの」と考えている可能性さえあります。そうであれば、「その仕事は要らない=あなたの仕事人生そのものがムダで要らない」と宣告されたも同然。長年の仕事人生だけでなく人格まで否定されるくらいの衝撃です。

 あなたが指示を出したスタッフが、もしもそんなふうに受け止めてしまったらもう大変なことになってしまいます。

 自分の仕事人生を否定すれば、自分の存在価値が揺らぎます。だから、指示を出された側は、例えそれが屁理屈であっても、その仕事を「ムダ」とは認めず、無理やりにでもムダな仕事に意味を見つけだそうとします。

 無理やりその仕事を取り上げても効果はないでしょう。黙ってやり続けるか、全体の生産性につながるとは限らない、似たような仕事を自分で作り出してしまうのがオチです。

「そのムダな仕事は止めなさい」はNGワード

 せっかく見つけ出したムダな仕事をストップしてもらうには、心理的なプロセスを踏む必要があります。直球はデットボールになると相手に致命傷を与えてしまいます。ここは緩やかな変化球で様子を見ましょう。

「今まで担当していた仕事がムダだったから」ではなく、「その仕事は重要だったけど、優秀なあなたには、こちらの重要な仕事を担当してほしい」と伝えるのです。

 こんなふうに持っていけば、指示を受けたスタッフの心理的な抵抗はかなり減らせます。ただ、当の本人は現在担っている「ムダな仕事」に誇りを持っているので、スムーズに仕事を切り替えてもらうためには、もうひと工夫が必要です。

 それは、本人にとっても、チーム全体にとっても、「それをやったら生産性が上がりそう」と思える仕事を担当してもらう、ということです。その時点で、そんな仕事はチームの中に存在しないかもしれません。だったらそれを作り出していくのです。

 具体的に説明しましょう。

仕事のミッション(使命・存在意義)を再定義する

 今の仕事を止め、違う仕事を担当してもらうには、大義名分が必要です。ただし「納得感」と「それならやりたい」と思えるワクワク感がないと、大義名分がウソだと見透かされ失敗します。

 そこで最初にやらなければならないことは、現在担当している仕事の「ミッション(使命・存在意義)」を見直すことです。

 ここで1点確認しておいてほしいことがあります。「会社や部署が掲げるミッションなんてただのスローガンみたいなもので、どの会社にでも当てはまる抽象的な言葉じゃないか」と感じている人がいるとすれば、その認識は今すぐ改めなくてはなりません。

 ミッションを日本語にすれば「使命」や「存在意義」ですが、それは自分たちから宣言すればおしまい、というものではありません。仕事やサービスの提供先が「その宣言通りだ」と認めてくれてはじめて「ミッション」として成立するのです。

 私は以前の記事(「『ありふれたキャリア』から価値を見出す唯一のコツ」)の中で、「周りからもらえる『ありがとう』の声の中身こそが、それぞれの個人の持ち味であり、パーソナルブランドである」という説明をしました。これは、部署やチームにとっても同じ事が当てはまります。

 なので、仕事のミッションを見直すという作業は、現在担当している仕事を提供した時、相手がどう喜んでくれるのかを考えることから始めればいいのです。「どう喜んでくれるか」について、「どんな『ありがとう』の声をかけてもらうことが自分たちの存在意義なのか」と考えてみれば、分かりやすくシンプルな言葉で出てくるはずです。

 仮にあなたが経理部の一員だったとします。経理部門のミッションが「確実でミスがない経理」だったらどうなるでしょうか?

 そのミッションであれば、他部署のスタッフに対して、期日通りに正確な伝票書類の提出を求めることになるでしょう。その代わり周りからは「経理は難しい。手順通り書けと言われても分かりづらいし、質問しても専門用語を並びたてられて訳が分からない。その上、経費の処理では『NO』ばっかりだ」と思われてしまうかもしれません。これでは「ありがとう」の声は集まってきません。

 では、経理の仕事に社内の人たちが喜んでくれていたら、あなたたちはどんな「ありがとう」の声がもらえるか想像してみてください。

 それが「誰でも分かるように作業手順を簡単にしてくれてありがとう」という声だとしたら、例えば「サルでもわかる簡単な経理」という表現が経理部のミッションになります。

現状からではなく、ゴールから打ち手を逆算する

 ミッションが定まったら、「そのミッションを達成するには?」という視点から逆算して具体的な「打ち手」を考えていきます。この時、現状はいったん無視します。現状からの改善策を考えてしまうと、どうしても今の延長線上の打ち手しか出てこなくなるからです。

 アポロ計画で人類が月に行けたのは、飛行機を改善し続けたからではありません。月に到着するために必要なロケットの仕様を具体化し、その仕様を実現する視点から打ち手を洗い出していったからです。ミッションを実現するためには、周りから期待通りの「ありがとう」の声を引き出せるよう、ゴールから逆算して打ち手を出すのが早道なのです。

逆算して考えた打ち手以外の仕事は「ただのムダ」

 逆算して打ち手を考えたら、計画の実現に向けて、重要な打ち手からチーム内のメンバーに割り振っていきます。

「打ち手」をアサインする作業が終わったら、打ち手以外の仕事は全部廃止しましょう。「ミッションや目指す姿につながらない仕事はただのムダ」と整理してしまうのです。

 ここが肝なのです。ムダな仕事をしていた人も、新しいミッションから逆算した計画のアサインの計画に乗っていますから、「今までの仕事より、もっと重要な仕事をやって欲しい」という大義名分に納得感が伴います。そうなればすんなりとムダな仕事を止め、フレッシュな気持ちで、ミッション実現に結び付く仕事に取り組んでくれるようになるのです。

 働き方改革は、組織内のメンバー全員が「効率的な仕事」と「充実した私生活」「やりがいと成長」を手に入れるためのものです。「ありがとう」の声からミッションを再定義すれば、意外とスンナリ進みますし、実はこの手法は働き方改革を成功させている組織は必ず実施している打ち手なのです。逆に言えば、「現状改善」という従来の延長線上の発想から抜け出せないと、チームメンバーはなかなかムダな仕事から解放されず疲れ果て、働き方改革も失敗してしまうのです。

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