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「積立NISA」適格商品を金融庁に代わって考えてみた

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/02/14 山崎 元
「積立NISA」適格商品を金融庁に代わって考えてみた: 2018年1月から始まる個人の資産運用の税制優遇スキーム「積立NISA」。「長期投資」「分散投資」「積立投資」の3点の普及が導入の狙いとみられる © diamond 2018年1月から始まる個人の資産運用の税制優遇スキーム「積立NISA」。「長期投資」「分散投資」「積立投資」の3点の普及が導入の狙いとみられる

金融庁が「運用適格商品」を選定「積立NISA」の画期的な試み

 2018年1月から「積立NISA」と呼ばれる、個人の資産運用の税制優遇スキームが導入される見込みだ。少額投資非課税制度「NISA」は、すでに一昨年から導入され、その後、「ジュニアNISA」が追加され、さらに積立NISAと、矢継ぎ早の投入だが、この制度は、特にこれから資産を形成しようとする層に向けて、「長期投資」「分散投資」「積立投資」の3点を普及すべく導入される制度のように見える。

 元祖NISAの年間120万円の投資枠は、毎月の積立投資であれば1ヵ月10万円に相当し、特に若手のサラリーマンでは使い切れない場合がある。

 そこで、年間投資上限40万円の積立NISAが導入されるわけだが、その代わり、NISAが期間5年であるのに対して、20年の税制優遇期間を持ち、投資元本の合計残高では最大800万円まで非課税で運用できる制度となる(元祖NISAの元本残高は最大600万円だ)。

 加えて特徴的なのは、積立NISAでは、(おそらく)毎月の積立投資を前提とし、加えて長期的な積立投資に向いていると金融庁が認定した運用商品への投資のみが対象となると見込まれることだ。

 投資の理屈で考えると、「積立投資」に少々こだわりすぎている感がある制度だし、また、NISAは全体として制度的に不必要に複雑だ。また、何よりも元祖NISAの恒久化が決まらない中での新制度導入に不安はあるが、このくらいの金額的スケールと積立投資がちょうど手掛けやすい投資家が間違いなく存在するので、細かな難点にはこだわらずに、新制度の普及を応援したい。

 さて、金融庁が「運用適格商品」を選定するとは、何とも意欲的な試みで、どのような商品が選ばれるのか大変興味深い。

 残念ながら、筆者は、金融庁内の検討事情を知る立場にないが、本稿では、仮に筆者が金融庁の立場ならこう決めるという「積立NISA適格運用商品の条件」を提示してみよう。

積立NISAの投資としての特徴

 積立NISAの資金は、運用資金として際だった特色をいくつか持っている。

 第一に、ほぼ20年の持ち切りを前提とした運用だという点が特殊だ。運用にとって20年という時間は長く、この間に、運用環境が大きく変化する場合があることをどう考えるかが問題だ。

 例えば、日本の投資家にとって過去の20年の国内債券への投資を考えてみよう。この期間の債券投資には、デフレと低成長で株式投資が思わしくない時に利回り低下・債券価格上昇による債券のパフォーマンスが救ってくれるような場面があったが、現状では、国債利回りが10年程度までほぼゼロに張りつき、利回り的に魅力がない一方で、数年先にはデフレ脱却から長期金利が急上昇するリスクがある。

 例えば、株式と債券を半々に持つようなバランスファンドであれば、過去の20年にはまあまあの投資であったかもしれないが、今後の20年に関しては、「債券部分が無駄なので、持つ気が起こらない」投資対象だろう。

 NISAは、おそらく投資信託の乗り換え営業を封じるためだろうが、税制優遇対象期間の途中で資産を売却してしまうと、節税枠は復活しない仕組みなので、こうしたバランスファンドは運用対象として適切だといえない。

 第二に、NISAは多くの場合、「個人の運用の一部分」の役割を担わざるを得ないことが重要だ。

 例えば、NISAと似た節税運用のスキームとして確定拠出年金がある。確定拠出年金とNISAのどちらを先に使うべきかは、個人の状況によって若干異なるが、課税される所得のある人の場合、掛け金の所得控除による確定拠出年金の節税メリットが大きいので、確定拠出年金を先に使うのが経済合理的「正解」になる場合が多い。

 念のために申し上げておくと、確定拠出年金と積立NISAが、別々のサービスとして顧客の好みに訴えかけて顧客を取り合うことは、個々の顧客にとっての経済的な優劣がハッキリしているのだから不毛である。

 一般的な勤労者の場合、老後に備える貯蓄の額として確定拠出年金の利用上限枠では不足な場合が多いはずで、NISAは確定拠出年金に次いで利用すべき節税運用制度だという順番になる。

 つまり、積立NISAが主に想定する若手サラリーマンのような利用者は、確定拠出年金と積立NISAを併用する運用を想定しなければならない。

 併用の方法はそれほど難しくはないが、この場合、積立NISAで投資する運用商品は、個人の運用全体を組み立てる上で使える「使い勝手のいい部品」である必要がある。

 そして、個人が、「運用の部品としての積立NISA」の文脈で、NISAのメリットである運用益非課税の制度を考えるなら、積立NISAでは、自分の運用全体の中で期待するリターンが大きな資産を集中的に持つことが最適になる場合が多いはずだ。

 加えて、20年間の長きにわたって、途中で売却したくなりにくい対象に投資することが合理的だ。個別の株式のような、事情の変化によって売りたくなりやすく、かつリスクが大きな対象は不向きであり、広く分散投資された投資信託のようなものを長期保有することが条件に適う。

積立NISAの適格運用商品筆者が考える4条件

 さて、前記の事情を踏まえて、筆者が金融庁の立場なら提示するであろう「積立NISA適格運用商品の条件」を4つあげることにしよう。

 なお、金融庁は、現在の投資信託の「売れ筋」である毎月分配型の投資信託を積立NISAには不向きだとして(本当は、積立NISA以外の「全ての投資家にとって」不向きなのだが)、認めない方向にあるらしいので、この項目を除いた条件である。

<積立NISA適格運用商品の4条件> (1) ノーロード(販売手数料なし)の投資信託であること(2) 原則として単一資産クラスに投資する投資信託であること(3) インデックスファンドであること(4) 年間手数料の合計が運用資産の0.5%(税抜き)以下であること

 後で述べる重要な問題にも関わる条件なのだが、積立NISAで投資する商品はノーロード(販売手数料なし)であることが望ましい。20年の運用期間があれば、1年当たりで負担する購入時の手数料は低下するが、すでにノーロードの投資信託が多数販売されているわけであり、投資家にとっては、明らかにノーロードの方が得なので、投信業界のノーロード指向を後押しするためにも、ノーロードを適格運用商品の第一条件として強く推したい。

 そもそも販売手数料などという余計なものがあるから、投資信託の「乗り換え営業」、「回転売買」といった業界の悪弊が存在している。販売手数料を禁止しないまでも、販売手数料なしを奨励するぐらいのところまで踏み込んでもいいのではないか。ノーロードを推進して、回転売買を殺すことは、積立NISAのみにとどまらず、投資信託全般による投資家の長期的資産形成に好影響を与えるにちがいない。

 投資家が、運用の方法や商品についてアドバイスを求めたい場合はあるだろうが、アドバイスの対価は「相談料」であるべきで、アドバイスの内容に影響しかねない「販売手数料」ではない方がいい。

「原則として単一資産クラス」というのは、「国内株式」、「外国株式(先進国株式)」あるいは「新興国株式」「国内REIT(不動産投資信託)」といった資産分類が、複数にまたがらない投資信託を対象にするということだ。

 前述のように、投資家にとって、積立NISAは、これだけを単独で運用することが合理的でない場合が多い。確定拠出年金等、他の運用口座との「合計」を最適化する必要がある。すると、積立NISAの中での運用がシンプルに把握可能であるためには、投資対象となる個々の商品の運用内容が単一の資産クラスである方が、運用を組み立てやすい。

 百歩譲って、投資配分を固定して複数資産クラスに投資する投資信託を認めてもいいようにも思うが、例えば、先にも説明したように時間の経過に伴って、「国内債券」のような一部のカテゴリーが不要になってしまう事態が考えられる。

「世界株式(含む日本株)」のようなものはあってもいいように思うが、バランスファンド(内外の株式と債券の両方を含むような投資信託)は対象外とする方がいいと思う。運用は、自分で組み立てるのがいいし、それは難しくない。また、その組み立てが難しい人がバランスファンドの可否を判断することは、もっと難しい判断だ。

 市場平均を上回ることを目指してファンドマネージャーが運用する「アクティブファンド」を積立NISAの投資対象に入れるか否かは、少々判断の難しい問題だ。

 個人的には、将来、アクティブファンドの運用管理手数料水準が十分下がってきた場合には、アクティブファンドが対象商品であってもいい場合があるかもしれないと思うのだが、現時点では、(1)相対的に良いアクティブファンドを事前に選ぶ方法がないこと、(2)アクティブファンドの選び方を投資教育することが不可能であること、(3)手数料水準がインデックスファンドよりも大幅に高いこと、の3点から、積立NISAへのアクティブファンドの採用に、筆者は反対することにする。

 アクティブファンドの採用を急ぐ必要はない。将来、「良心的なアクティブファンド」が認められるような状況が登場してきた場合に、追加で認定すればいいだけのことである。

 なお、インデックスファンドが対象とするインデックス(指数)は、時価総額ウェイトの市場平均に近く、過去のデータが十分ある伝統的な指数が望ましい。過去の指数のデータでリターンやリスクを検討・把握できることは、インデックスファンドの長所の一つだ。

 いわゆる「スマート・ベータ」や新顔の指数に連動する商品は、少なくとも、当初は要らない。十分な実績期間を経てから対象に加えることを検討するのが良心的だ。

 もともとお金を増やすことが目的である以上、手数料は「確実なマイナスリターン」であり、運用パフォーマンスの明確な敵だ。年間の手数料コストに対する上限は当然ある方がいい。

 運用商品として単一資産クラスのインデックスファンドを主に想定しているので、本当はもう少し低水準でいいのかもしれないが、年率0.5%くらいの上限を設けたい。この条件は、これから長期間にわたって資産を形成しようとする人たちにとって、結果的に大きな助けになるはずだ。

 もちろん、現在、内外の株価指数に連動するインデックスファンド(当然ノーロードだ)の運用管理手数料は0.2%程度になっているので、個々の投資家にあっては、0.5%も手数料を払う必要がないことを付記しておく。

販売手数料なしでスイッチングを認めよ

 さて、4点条件を付けてみたが、これでも20年間の間には積立NISAでの商品が環境に不適合であるように見える事態が生じる可能性があるし、何よりも、投資家自身が自らの選択の間違いに気づいたり、個人的な事情が変わったり、単に気が変わったりすることは、あり得るのではないか。

 年が変わると別の商品を積立対象として選ぶことができるとはいえ、確定拠出年金のように、商品をスイッチングできないのは不自由だ。

 ところで、NISAでなぜスイッチングが認められないかというと、投資信託の「乗り換え勧誘」「回転売買」による金融機関の手数料稼ぎを封じるためだろう。

 そう考えると、そもそも乗り換え対象商品が「ノーロード」であれば、スイッチングを認めていいのではないか、という考えが湧いてくる(もちろん、スイッチングの際の外国為替などで手数料稼ぎが行われないかについても、監視や条件付けが必要だろうが、難しくはあるまい)。スイッチングの機会は、年に一度程度でいいように思われる。積立NISAにあっては、20年に及ぶ長期間に鑑みて、スイッチングを認めてもいいのではないか。ただし、対象商品はノーロードに限定することが条件だ。

 積立NISAは単純に20年続いて終了する制度であり、1年単位に設定される個々の口座内で運用商品の売却と再買い付けを認めるだけでよく、非課税の元本をいちいち確認する必要はないのだから、スイッチングを認めていいはずだ。

 対象商品をノーロードに限定する場合、2点影響が考えられる。

 一つは、ETF(上場型投資信託)の累積投資のような、サービスとして存在するなら長期運用に向いた対象を、積立NISAに取り入れにくくすることだ。これは、悩ましい問題だが、ETFの累積投資サービスを個々に認める方法はあるだろう。

 もう一つの影響は、率直に言って、ノーロードだと金融機関が積立NISAの普及に消極的になるのではないかということだ。

 これは、現実的に影響しそうなファクターだが、だからといって、仮に「積立NISAは入口で手数料を稼げるから、確定拠出年金よりも優先して普及させよう」と金融機関が考えるようになるなら、問題であろうし、販売手数料をエサに普及を推進しようと考えるなら、金融庁も不純である(「フィデューシャリー・デューティー」的でない)。

 積立NISAにあっては、「対象商品をノーロードに限定しつつ、スイッチングもできる」という最も投資家の利益を考えた制度設計を期待したい。

(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)

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