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ダリの遺体も掘り出された 婚外子の死後認知とは

NIKKEI STYLE のロゴ NIKKEI STYLE 2018/10/11 11:00

写真はイメージ=PIXTA © NIKKEI STYLE 写真はイメージ=PIXTA Case:42 私はいわゆる婚外子として生まれました。父は、母と私にはずっと「そのうち認知をする」と言っていたようですが、先日急逝してしまいました。財産が欲しいわけではありませんが、父の子であることをきちんと認めていただきたいと思っています。認知は父の死後も可能と聞きましたが、どのような手続きになるのでしょうか。

■嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同じ

 法律上の婚姻関係、つまり婚姻届を提出した男女の間に生まれた子を「嫡出子」といい、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子どものことを「非嫡出子」といいます。

 非嫡出子のうち、父が認知届を提出した場合に限り、父と子の間には法律上の父子関係が認められます。認知とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子を、実の子と認める手続きをいいます。母子関係は分娩の事実によって当然、発生しますので、女性の場合は認知は基本的に問題になりません。

 認知が行われるのは、妻がいる男性が妻以外の女性との間に子をもうけた場合ばかりではありません。例えば、入籍をしていないが同居して夫婦として生活している事実婚の場合では、父が子を認知して初めてその子の法律上の父になります。

 認知がなされると父子関係が認められ、父には子に対して扶養義務が生じ、子には父の財産を相続する権利が発生します。なお、以前は非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1でしたが、最高裁が法の下の平等に反するとして違憲判断を示したため、2013年12月に民法が改正され、非嫡出と嫡出子の法定相続分は同じになりました。

■被告は検察官

 父親が任意に認知をしてくれない場合、民法は認知されていない子自身や未成年の婚外子の母親が認知の訴えを提起することができると定められています。この訴えは死亡後も父の死後3年以内なら可能です。これを「死後認知」といいます。

 婚外子の父が生きていれば、その父を相手に訴えを提起しますが、死後認知の請求は、公益の代表者である検察官を相手方として訴えを提起します。

 「えっ?」と思われる人がいるかもしれません。そうです、被告は検事さんです。原告の住所地または父親の最後の住所を管轄する地方検察庁の検事正が被告になりますが、検察官は何も事情が分かりませんから、裁判では「不知」という答弁になります。

■相続人が訴訟に「補助参加」

 死後認知の訴えでは、被告は検察官ですが、それ以外に「利害関係人」として父の相続人(被相続人の配偶者や子)に訴訟が係属したことが通知され、相続人が「補助参加」という形態で訴訟に加わることができ、実質的には非嫡出子(であることを主張する者)と正妻・嫡出子の争いになるわけです。

 なお、「骨肉の争い」という言葉があります。これは血のつながっている者同士の争いのことですが、認知訴訟は「骨肉の争い」かどうかが争点になります。

■最も有効な手段はDNA鑑定

 さて、原告が父と血縁関係があることの立証はどうやって行うのでしょうか。現在、この証明に最も有効な手段がDNA鑑定です。父と子の検体を鑑定し、同一と認められればこれが決定的な証拠となり、裁判所もそのまま認知を認めることになります。

 問題は父がすでに亡くなっている死後認知の場合です。いささか旧聞に属しますが、1989年に亡くなったスペインの画家サルバドール・ダリの娘と主張する女性が現れ、スペインの裁判所がダリの遺体を掘り出す命令を下し(驚きました!)、遺体の毛髪や歯からDNA鑑定が行われたという事件が昨年ありました(鑑定の結果、親子関係は否定されました)。

■異母兄弟姉妹にはDNA鑑定を強制できず

 このように、古いものであっても検体があれば鑑定は可能です。しかし、墓を掘り返すならともかく(なお、日本ではこのような命令が出ることはありえません)、例えばただ単に「父の遺髪です」と差し出されても、その毛髪が本当に亡父のものかどうか信頼性に乏しい場合が多いでしょう。その場合、父の遺伝子を承継している別の人、つまり異母兄弟姉妹のDNA鑑定を行えば、ある程度の精度で親子関係の認定が可能といわれています。

 ただし、父母ともに同一の場合と比べると精度が落ちますし、そもそも異母兄弟姉妹は死後認知訴訟の実質的な相手方でもあり、DNA鑑定に協力してくれないことも珍しくありません。刑事事件とは異なり、DNA鑑定を強制することはできないのです。

■写真・手紙・日記・証言などでも立証可能

 父とされる人と子の血液型に矛盾がないことが大前提ですが、その場合でも、父とされる人と母との出会いから妊娠、出産に至った経緯、継続的に関係があったことを写真・手紙・日記・証言などで立証できれば、DNA鑑定の結果を得られなくても立証が可能な場合があります。

 DNA鑑定は一昔前までは警察の犯罪捜査に限定されていました。個人でも民間業者に依頼して比較的廉価(数万円~20万円程度)で利用できるようになったのは最近のことであり、それまでは上記のような立証を積み重ねて親子関係を認定していたのです。

■生前に本人の責任で解決を

 認知の判決があると、その効果は子の出生のときにさかのぼります。そうすると、父が死亡している以上、子には相続権が発生し、父の遺産を相続できることになります。ただし、認知請求が認められるまでに遺産分割協議などが済んでしまっている場合には、遺産分割協議は有効としたまま他の相続人に金銭のみを請求することになります。

 いずれにしても、父の死後に突如、兄弟姉妹が現れたうえに裁判にまでなったら混乱は必至です。やはり父が生前に認知し、遺言を作成するなどして本人の責任で解決しておくべきでしょう。

志賀剛一 

© NIKKEI STYLE  志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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