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フランス人の起業意識は日本人と同じくらい低かった

JBpress のロゴ JBpress 2018/11/27 06:00 市川 隆治
フランスはベンチャーが育つのに適した国なのだろうか。 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 フランスはベンチャーが育つのに適した国なのだろうか。

 日本のオープンイノベーション促進には何が必要なのか? 通商産業省/経済産業省で貿易振興、中小企業支援などに携わり、現在はベンチャーエンタープライズセンター理事長を務める市川隆治氏が、諸外国の実例とデータに基づき、オープンイノベーションの環境について議論を重ねていく。(JBpress)

【第8回】「カオスが強み、イスラエルが第2のシリコンバレーに」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54644)

日仏のインターネットへの完敗

 今回はフランスである。フランスについては最近顕著な変化がみられるので、“before & after”で説明を試みてみたい。

サービス初期(1982年)の「Minitel 1」端末。Photo by Deep silence, under CC BY 3.0. © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 サービス初期(1982年)の「Minitel 1」端末。Photo by Deep silence, under CC BY 3.0.

 思うに、フランスがインターネットの世界に登場するのが周回遅れとなった理由のひとつは、「ミニテル(Minitel)」ではないかと私は考えている。ミニテルは、1980年代にフランスで普及した家庭用情報端末で、鉄道、航空機、ホテルなどの予約ができたり、オンラインショッピングや生活情報などさまざまなサービスが提供されていた。パリ留学時代にこんな便利なものがフランスにはあるのかと驚いた記憶がある。

 しかし、米国文化に対する嫌悪感も手伝い、ガラパゴス化したミニテルから、きれいな映像や格段に豊富な情報を入手できるインターネットへの移行が2000年頃まで遅れてしまった。ちょうど日本で、通信機器メーカー各社独自のパソコン環境を構築しようと頑張ったためにインターネットへの移行が遅れたのと、軌を一にしていると言えなくもない。

 この点、フランスの学者に聞いてみると、ミニテルが端末装置の拡販に重点を置いていたのに対し、インターネットはネットワークの拡充に重点を置いていたとの説明を受けた。これで日仏のインターネットへの完敗がうまく説明できると思った。

フランスの起業意識

 さて、『ベンチャー白書』においても、欧州のVC投資動向などの分析はInvest Europeのレポートに依拠するため、欧州各国の国内事情までは拾えていない。今回、在京仏大使館のご厚意によりCOFACE(仏貿易保険会社)の2015(平成27)年2月のレポート「フランスはベンチャーに適した国か?」を入手したので、フランスの国内事情の一端を紹介することとしたい。

 アメリカ人は外国語が不得手で、特に喉の奥を震わすフランス語の“r”の発音は苦手なはずであるが、そのアメリカ人ですら“entrepreneur(アントルプルヌール)”という言葉については一貫してそのまま使っている。それはフランスが“entrepreneur”という言葉の発祥の地であり、それに敬意を表してのことだと聞いたことがある。

 しかしながら、GEM調査(Global Entrepreneurship Monitor)における起業活動率(各国の起業活動の活発さを表す指標:TEA;Total Early-Stage Entrepreneurial Activity)の低さにおいては、下表のとおりフランスは日本と肩を並べる存在となっている。その後も、このようなフランスと日本の位置は程度の差こそあれ、それほど変わりはない。

各国の起業活動率(TEA)。 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 各国の起業活動率(TEA)。

 同調査によれば、「失敗に対する怖れがあり、起業を躊躇している」との設問に、フランス人は45%が「はい」と回答しているが、この比率はアメリカ人では35%、イギリス人では40%と低い。日本人では47%と、フランス人以上に失敗に対する怖れが強い。

 COFACEレポートによれば、「2013年以前は失敗は重要視され、会社更生法適用により清算となった起業家は、フランス銀行のブラックリストに掲載された。2013年以降は、失敗の名誉回復努力がなされたものの、長期にわたり、失敗した起業家は新たな活動を開始しようとするときに、銀行取引へのアクセスに困難が生ずることとなった」とある。日本と同様、失敗した場合の再チャレンジが難しい環境があるということのようである。

 また、事業機会の認識、「今後6カ月以内に、自分が住む地域に、起業に有利なチャンスが訪れると思うか?」との設問に、フランス人の23%しか「はい」と回答していないが、この比率はアメリカ人では47%、イギリス人では36%、ドイツ人では31%と高い。ちなみに日本人では7.7%と極端に低い。

ベンチャーの活用への大きなうねり

 COFACEレポート「フランスはベンチャーに適した国か?」のコラムからフランスエンジェル副会長、Tanguy de la Fouchardière氏のインタビュー記事を拾ってみた。

Q:フランスにおけるベンチャー発展の最大の阻害要因は何か?

A:『Baromètre France Angels/BFM Business en 2014』誌に対する回答者の半分のエンジェル投資家(Business Angels)にとって、経営の不安定さが投資の主要な阻害要因となっている。その次に、経営者の可視性の欠如および金融チェーンにおける不十分な流動性(例えば、エンジェルと投資ファンドの間の流動性が不十分なため、リレー投資が上手くいかない)が挙げられている。その改善策としては、次のことが言われている。投資家(すなわち、エンジェル投資家とベンチャーキャピタル)の再編促進。投資活性化のために中期的に安定した経営者の任命。

Q:IT分野が投資の主要分野なのか?

A:デジタルとエンジェル投資家はイノベーションの中心である。デジタルは明日をリードする産業には不可欠な構成要素であり、国境がなく、ますますグローバル化した経済において重要性を増してきている。競争力強化はイノベーションなくして語れず、イノベーションは投資なくして語れない。フランスエンジェルに加盟するエンジェル投資家は、狭義のデジタルの世界と関連性を有している(2013年で年間投資額の60%)。つまり、エンジェル投資家は投資家である以前にイノベーションの同伴者である。そして、イノベーションはもはや先進技術という概念だけに要約されるものではなく、今日では利用のイノベーションやプロセスのイノベーションという概念に取って代わられている。

Q:貴職のお目に留まるには、若い起業家は主としてどのような特徴を備えていなければならないのか?

A:エンジェル投資家に評価される主要な基準は次のとおり。

 (1)狙う市場と市場規模

 (2)提供する付加価値およびイノバティブな特徴

 (3)ビジネスプランの信ぴょう性

 (4)チーム構成

 (5)成長の見通し

 (6)エンジェル投資家にとっての機会

 エンジェル投資家はビジネスプラン事業化の初期に投資をするが、その際ビジネスプランはまだ未熟で、ビジネスモデルは進化する可能性がある。このようなリスクを取ることが、エンジェル投資家の投資の難しさを物語る。

Q:クラウドファンディングとの競合はあるのか?

A:クラウドファンディングとエンジェル投資家は、競合というよりはむしろ補完関係にある。クラウドファンディングのプラットフォームは、ベンチャー企業に投資しようと思っている個人に新たな可能性を提供する。それはまた、エンジェル投資家との共同投資の新たな形態を提供することができる。実際、クラウドファンディングの対象は、エンジェル投資家の投資対象とはいつも同じわけではない。エンジェル投資家は高い専門性を持ち、イノベーションを対象とし、むしろB-to-Bのビジネスモデル向きである。逆にクラウドファンディングに投資をする個人は専門性があるのはまれで、投資決定をする前にベンチャー企業が提供する製品ないしサービスの潜在的顧客であることが多い。このように、クラウドファンディングは、エンジェル投資家が狙うベンチャー企業とは異なる企業に投資する。

 

 また、別のコラムでは、リアルオンタイム広告業のベンチャー企業CTO(Vincent Lepage, Chief Technology Officer, AlephD)のインタビューが取り上げられている。

Q:フランス人はリスクを恐れるとの評があるが。

A:私はフランス人のリスクに対する嫌悪感がまだ強いとは思わない。優秀な大学の学生たちは、今日、大銀行や大企業で働くよりも次のフェイスブックを創設することを夢としている。失敗を、履歴書において通常の、そしてまた成長のためのステップとして受け入れることが障害を排除することになる。

Q:フランスの環境は貴社の発展に適していると思うか? 貴社を海外移転しようとは思わないか?

A:シリコンバレーと比較してそんなに高くない給料とか、競争力のおかげで、フランスの環境はむしろ良い。しかしながら、我々の市場はフランスではないので、欧州、そして米国へと急速に市場を開拓していかざるを得ない。2015年には売上の70%以上が輸出となろう。しかし、R&Dおよびテクノロジーの中心は、ITおよびデータサイエンスに関して、人材採用に最も有利なフランスに残すこととなろう。

 

 これらのインタビューでは、日本でもよく話題に上る、若者の大企業志向からの決別の動きやグローバル市場を目指す“Born Global”の発想、そして失敗力の活用の有用性が読み取れる。フランスにおいても、大企業一辺倒からベンチャーの活用へと、大きなうねりが始まっていると言っていいのではないだろうか。

 他方の投資する側については、業界再編への期待とクラウドファンディングの勃興、ベンチャー企業の安定した経営陣への期待が読み取れる。同じような段階で憂鬱から抜け出そうとしている日本としても、その動きは大いに参考になるのかも知れない。

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