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他人事ではない!普通の生活でも起こり得る老後破産

JBpress のロゴ JBpress 2019/09/09 06:00 加谷 珪一
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供

(加谷 珪一:経済評論家)

 年金2000万円問題によって、公的年金への関心がかつてないほど高まっている。現時点においても、かなりの割合の高齢者が、年金だけでは生活できない水準の金額しか受け取っておらず、今後、給付金額が削減された場合、生活困窮者が続出する可能性がある。

 現役時代には何とかなっていても、老後になって生活が立ち行かなくなることを「老後破産」などと呼んでいるが、老後破産した人のすべてが、他の人と比べてだらしない生活をしていたわけではない。

 老後破産に対する世の中の反応は、自己責任論に基づくバッシングや、逆に、悲劇を過度に強調したものばかりで、なぜ破綻したのかという重要な情報を欠いていることも多い。以下では、客観的なデータから、どのような人が老後破産に陥りやすいのか考察する。

年金が100万円以下という人が全体の4割

 日本の公的年金は、現役世代が高齢者を支える賦課方式ということもあり、世代間対立になりがちである。確かに保険料として支払った金額に対する給付金額という点では、現在の高齢者と比較して、若い世代の人が相対的に不利なのは間違いない。

 だが、今、年金をもらっている高齢者が、皆、十分な金額をもらっているのかというとそうではない。つまり年金問題の本質は世代間格差ではなく、年金をたくさんもらえる人とそうでない人の格差であり、これは今の若年層にとっても同じである。

 現時点では、対高齢者という点で、若年層は皆、同じような感覚を持っているかもしれないが、あと30年もすれば、今の若年層の間でも、年金を相対的に多くもらえる人とそうでない人の格差が深刻になるのは目に見えている。

 では、現時点で高齢者はどのくらい年金をもらっているのだろうか。

 厚生労働省の調査によると、年金受給者全体の平均給付額は年間138万5000円となっている。月あたりに換算するとわずか11万5400円である。100万円以下しか年金をもらっていない人は全体の4割、150万円以下まで条件を拡大すると、何と全体の6割が該当する。

 高齢者は若年層よりも優遇されているわけだが、それでも、現実の年金給付額はこの程度しかない。これが日本の現実であり、今後はここからさらに給付額が削減されることを考えると、状況はかなり厳しい。

 この数字は、厚生年金(公務員共済)と国民年金のみの受給者をすべてを含んだ平均値であり、どの年金に入っているのかで状況は大きく変わる。

男性の厚生年金受給者に限っても、年金額は少ない

 企業に勤めるサラリーマンは基本的に厚生年金に加入している。厚生年金の加入者は国民年金にプラスして厚生年金も受給できるので、老後に受け取る年金の絶対額は、国民年金のみの加入者(つまり自営業者やフリーランス)よりも多くなる。

 では厚生年金の受給者に対象を絞った場合、数字はどうなるだろうか。

 厚生年金の受給者における年金額の平均は149万6000円である。確かに全体の平均値よりも高いが、金額が大幅に増えるわけではない。日本の場合、男性の方が圧倒的に賃金が高く、男性が家計の担い手となっているケースが多いと考えられるが、男性の厚生年金受給者に限定した場合はどうだろうか。金額はだいぶ高くなり、年間の平均額は191万8000円、月あたりの金額に換算すると約16万円となる。

 年収190万円でもかなり厳しいが、ここまで来れば、何とか生活が成り立つレベルといってよいかもしれない。

 日本の中でもっとも稼いでいる、男性の厚生年金受給者の段階でようやく生活が成り立つというのが現実であり、逆に言えば、男性サラリーマン以外の立場の人は、相当、厳しい環境だということが分かる。だがこの金額の年金をもらえている人は、退職時には年収が600万円から700万円程度だった可能性が高く、かなりの高給取りである。

 男性の厚生年金受給者においても、年間150万円以下という人が3割存在しているので、平均的な給与水準の場合、年金額はかなり少ないと思ったほうがよい。

 さらに言うと、年金をもらっていても、介護保険料や所得税、健康保険の保険料は徴収されるので、手取りの金額はもっと少なくなる。

持ち家や貯金、そして配偶者の有無が状況を分ける

 では、支払う保険料が少ない代わりに、年金額も少ない国民年金の受給者はどのくらい年金をもらっているのだろうか。

 国民年金のみに条件を絞ると、金額は一気に小さくなり、年間給付額の平均は62.4万円となってしまう。月あたりの金額は5万2000円なので、当然のことながら、これだけで生活するのは不可能である。

 一連の結果を見て何が分かるだろうか。

 もし夫が主な稼ぎ手となっているサラリーマン世帯(つまり厚生年金の世帯)で、保険料を満額、収めていれば、月16万円がもらえているので、何とか生活はできる。だが、持ち家がなかった場合には、年金収入の多くが家賃に消えてしまうため、実質的な生活水準は大きく下がってしまうだろう。

 ここで病気や配偶者の介護など予想外の事態が発生すると、一気に支出が増え、場合によっては家計が破綻してしまう。年金2000万円問題でも焦点となったが、どれだけ貯金があるのかで、こうした事態への対応力には違いが出てくる。常識的な話かもしれないが、持ち家の有無、まとまった貯金の有無が重要なファクターであることがお分かりいただけるだろう。

 もし、その両方がなく、突発的な支出に見舞われた場合、サラリーマンとしてまじめに働いてきたとしても、老後破産に陥る可能性は誰にでもある。

 自営業者やフリーランスなど、国民年金だけという人は、国民年金基金に入ったり、自力で資産を運用するなど、公的年金以外の手段を確保しておく必要があるが、一連の対策をしてこなかった人も多いと考えられる。

 こうした人たちにとって生活を支えるカギとなるのが配偶者の存在である。夫と妻が国民年金の受給者であれば、単純計算で2倍の年収となるので、何とか生活を維持できるかもしれない。だが、配偶者の死亡や離婚など、単身者になったことをきっかけに老後破産に陥るケースは少なくないので注意が必要だ。

自己責任と一刀両断にできる人は少ないはず

 こうした状況は、生活保護の需給状況からも推察できる。

 2019年4月時点で生活保護を受けている人は約210万人である。このうち55%が高齢者世帯だが、高齢受給者のなんと9割以上が単身世帯となっている。これは、配偶者との死別や離婚などで年金額が半減し、生活が破綻したことを物語っている。

 統計から伺い知ることはできないが、最終的に生活保護などの公的支援に至るかどうかは、子どもや兄弟など、頼れる親族がいるのか、本人の健康状態が良好なのかといったところにかかってくる。これらの条件を満たさない場合、生活保護になる確率は一気に上がってしまうだろう。

 一連のデータを冷静に分析すると、よほど高い年収を維持してきた人を除けば、誰でも老後破綻する可能性があるという結論にならざるを得ない。

 破綻するかしないかを分けるのは、持ち家やまとまった貯金の有無、配偶者、健康状態、そして支援してくれる家族ということになるだろう。

 これらはある程度までなら自分でコントロールできるが、不可抗力という部分も大きい。少なくとも、老後破産は自己責任であるとして一刀両断にする風潮は望ましくない。老後破産を「自己責任」と言い切ることができるのは、ごくわずかなか高額所得者だけというのが現実だからである。

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