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東京の不動産価格がこれから「下落」する必然 23区は住宅「選び放題」の時代が到来する

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/03/15 07:00 牧野 知弘
首都圏の不動産価格は今後どのように変動していくのだろうか(写真:まちゃー/PIXTA) © 東洋経済オンライン 首都圏の不動産価格は今後どのように変動していくのだろうか(写真:まちゃー/PIXTA)

「家を買うなら五輪後」とまことしやかに語られる東京23区。しかし「この瞬間、大きな変化はすでに起こっている」と主張するのが、不動産事情に詳しく、多くのベストセラーを抱える牧野知弘氏だ。

「働き方改革」に象徴されるライフスタイルの変化に伴い、住まい探しの絶対的価値基準「沿線ブランド」「都心まで○分」が崩壊。それぞれの街の”拠点化”が進んだ先に新たな格差、「街間格差」が露呈し始めたという。牧野氏の新刊『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』 の内容を一部抜粋し、再構成してお届けします。

「都内不動産下落」が断言できる理由

 これからの東京では「相続ラッシュ」が避けられないうえ、生産緑地の一部が賃貸や売却といった形でマーケットに拠出される「農地放出」まで控えており、結果として不動産の供給圧力が強くなります。

 それに加えて「働き方改革」の影響などもあり、確実に起こってくるのが、隣り合った街と街との間で生じる格差拡大と不動産価格の「下落」です。

 このように言うと、必ず受けるのが「東京は絶対に大丈夫だ。現に銀座の地価は平成のバブル期よりも上がっている」といった指摘です。

 そのとおりです。ただし東京の不動産について考える場合、つねに「投資用の不動産」と「実需に基づいた不動産」との違いを理解しておかなければなりません。

 例えば、毎年その価値が上がった、下がったと話題になる銀座5丁目の地価とは、あくまで「投資用の不動産」だということです。なお2020年以降、とくに五輪前後に東京に起こりうる景気後退、さらには世界経済の動向次第で、私は投資用不動産の価格でも下落局面がくると考えています。

 ただし投資用マネーには必ず循環があります。例えばニューヨークやロンドン、香港やシンガポール、台北などの世界不動産マーケットの中で投資利回りを比較して、「東京が割安」と感じられれば、投資マネーは当たり前のように東京マーケットへ姿を現します。

 東京の投資用不動産マーケットは世界の金融不動産マーケットの中に深く組み込まれています。ですので、これは『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』の中で見いだそうと試みた「これから先、本当に住むべき街」というものとは、まったく別の世界の話題となります。

 つまり、あくまで私たちが住んだり、生活をしたりするという「実需に基づいた不動産」という意味では、東京の不動産価格はこれからかなり下落していくというのが私の見立てです。

 また、供給圧力が強くなるだけでなく、東京の人口増加ペースも鈍り、いずれ減少に転じます。人が集まらなくなるということは、それだけ住宅に対する需要も減退し、価格においては下落バイアスがかかる、ということです。

 もちろん住宅の価格は人口の増減だけで決まるものではありません。

 実際これまでの日本では人口の増加ペースが鈍っても、世帯数が増え続けてきました。ライフスタイルが変化し、核家族や単身世帯が増えたことがその原因です。結果、日本の世帯数は5340万世帯(2015年国勢調査)まで増え、それが住宅の価値を押し上げてきました。

 しかしその世帯数すら国立社会保障・人口問題研究所の推定では2023年の5419万世帯を境に減少へ向かうとされています。

「借り手市場」「買い手市場」になる

 これからの日本においては若者人口が減り、高齢者の単身世帯が引き続き増加します。ただ、後者の世帯はすでに住宅を所有しているケースがほとんどで、新たに住宅を買ったり借りたりする層ではありません。そういった意味で、若者人口が減少してしまえば、やはり住宅に対する実需が減らざるをえないのです。

 「供給が増えて、需要が減る」ということは、価格は下がる。これは経済学の基本中の基本と言えます。さらに言えばこれから先、都内の不動産は「借り手市場」「買い手市場」へと転換していきます。賃貸だろうと購入だろうと、都内の不動産はエリアによっては選び放題になるでしょう。

 自由度が高まるということは、都内における住まい選びの審美眼が上がることを意味します。

 今までは、とにかく「会社ファースト」の考えのもと、会社にアクセスしやすく交通利便性の高い住宅を選んできたのかもしれません。しかしこれからのマーケットではもっと落ち着いて、あくまで「住む」「暮らす」ということをさまざまな角度から「考える」ようになるはずです。

 会社への通勤は都内の不動産が大量に拠出されることで楽になる。加えて働き方改革の進展によって必ずしも9時から5時まで都心のオフィスで勤務することが求められなくなる。

 つまり自身で使える自由な時間が増えることを意味します。そして、そうした視点であらためて東京を捉えたとき、ニーズを満たすことができる「街」、そしてできない「街」で、受ける恩恵が大きく開いてしまう。それこそが、私の主張する「街間格差」の正体です。

 なお23区内に居を構えられるのなら、都心の会社へおおむね1時間以内で通勤できるはずです。そうなれば、これまでの神奈川や千葉、埼玉からの通勤を前提としたときのものと、異なる生活が可能となります。

 例えばこれまでの通勤では、なかなか難しかった会社までのバス通勤が現実のものになるかもしれません。私がオフィスを構えている新橋から六本木に向かうにはJRや地下鉄より、都バスでのアクセスのほうが圧倒的に早いです。

 そしてこの路線は六本木ヒルズ近辺に居住する人たちが新橋や銀座まで出る際、とても便利な路線でもあります。こうした路線が、朝夕の通勤に使われるだけではなく、六本木に暮らす人が増えることによって、より生活に密着した普段の足として再発見されるかもしれません。

通勤風景は大きく変わる

 自転車通勤もより増えるでしょう。朝夕の都心の景色を見ていれば、如実に自転車通勤者の数が増えていると感じます。加えて自転車シェアリングを行う企業や行政区が増加したことで通勤のみならず、最寄り駅や関係先までの「ちょい乗り」が気軽にできるようになりました。

 さらに日進月歩で進化しているのが自動運転技術です。自動で車が街を行きかうようになれば、通勤の風景はまた大きく変わることでしょう。 

 いずれにせよこうした動きは、これまでの「鉄道頼り」だった都内の交通手段のあり方を変えてしまう可能性を秘めています。つまり、これまでにあった「駅から徒歩何分」「都心まで電車で何分」という絶対的な価値基準が、住まい選びの条件としては後方へと追いやられ、自分たちが根を下ろす足元の街の環境や機能へ、あらためて目を向けることになりそうです。

 では都内の不動産がリーズナブルになり、都心居住がより進展していくと、これまでの交通体系、とくに鉄道にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 戦後高度成長期から平成までの首都圏の鉄道会社の戦略とは、地方の人々を沿線に集めてその住まいを提供していく、ということが基本方針でした。しかしこの戦略は、どうやらこれからの東京では成り立たなくなる可能性が生じ始めています。都心から1時間以上かかるような鉄道沿線の駅は、今後住宅地としての機能がより縮小していく可能性が高いからです。

 「東京都心まで1時間」という通勤の限界ラインを具体的に見てみれば、東京都西部は立川、府中あたりまで、神奈川県なら厚木、茅ケ崎、金沢文庫あたりまで、千葉県なら柏、津田沼あたりまで、埼玉県ならば所沢、志木、大宮あたりまでとされるのでしょう。

 そうなれば鉄道各社は、少なくともその限界ラインから先の駅についてはこれまでのような住宅と駅前商業施設の開発をセットに展開してきた戦略を見直さなければならなくなります。

 通勤客の絶対数が減少することと利用距離が縮まることは、いずれも鉄道会社の収益を直撃します。これまで首都圏の鉄道会社にとって、通勤客の定期券収入は収入の柱でした。その柱が細くなることは経営の根幹を揺るがします。鉄道会社はいやが上にもその戦略を変えざるをえない状況に追い込まれていくでしょう。

「上り電車」中心から「下り電車」を売りにする戦略へ

 鉄道会社にとっては、とにかく延伸してきた路線でしたが、これから先は都心に向かってどんどん太く、短くなっていく。路線が長すぎるなら切ってしまえばいい、という単純な結論になりそうですが、公共交通機関としての使命からそんな乱暴なことはできません。

 そこでおそらくポイントとなるのは、これまでの東京都心への「上り電車」中心の戦略から「下り電車」を売りにする戦略への転換です。都心へ人を送り出していた機能に加えて、都心から人を招き入れる機能が必要になるのです。

 例えば、新宿から延びている京王線の終着駅は「高尾山口」です。今この駅には高尾山観光を目的とした外国人をはじめとする大勢の観光客が訪れ、駅も2015年にリニューアルされるなど、活気を帯びています。

 同様に小田急線には「箱根湯本」と「片瀬江ノ島」が、京浜急行線には「三崎口」が、京成線には成田山新勝寺がある「京成成田」が、西武線には「西武秩父」が、東武線には「東武日光」がというように、国内外の観光客を呼び寄せる観光地(駅)があり、訪日外国人が「下り」電車を利用してこうした観光地を訪れるようになっています。

 もちろん国内観光客についても高齢化が進むに従って車移動を避け、「下り」電車を利用しているグループが目立つようになっています。

 つまり各路線では、通勤客に代わり、観光客に対していかに魅力的な場所を提供できるかが問われ始めているのです。

 そうなるとこれまで培ってきた鉄道会社のブランドイメージは当然変わってくることになるでしょう。通勤客にとっての快適さだけではなく、沿線の観光施設の整備や拠点都市の設置が大きな課題になってくるからです。

 そもそも、東京都心から少し離れれば、都内でも自然が豊かな住宅地は多くあります。東京とは思えないような静かな住宅地も見つかります。都心のタワーマンションを背伸びして選び、着飾った生活を送ろうとせずとも、都内にはすでに住みやすい「街」はちゃんとあるのです。

 そしてそれらの「街」が再発見されることで東京の住まい選びは、不動産デベロッパーが作った「マンションポエム」と揶揄される広告宣伝に惑わされるようなものでなく、じっくりと腰を据えて住むべき「街」を選ぶ、より高いレベルのものに変わっていくはずです。

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