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脚光浴びる「ワーケーション」ブームの陰にある、自治体のホンネとは?

BUSINESS INSIDER JAPAN のロゴ BUSINESS INSIDER JAPAN 2019/12/02 05:20 横山耕太郎
かつて林業が盛んだった下北山村は緑が豊か。11月後半に訪れると紅葉も楽しめた。 © 撮影:横山耕太郎 かつて林業が盛んだった下北山村は緑が豊か。11月後半に訪れると紅葉も楽しめた。

ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語「ワーケーション」が注目されている。

普段の職場を離れ、リゾート地や温泉地でテレワークで仕事をしつつ、地域を楽しむ働き方だ。2019年11月には、全国の60を超える地域が協議会を作るなど、ワーケーションの誘致に乗り出した自治体も多い。

人口減少が続く地方では、移住者の確保が死活問題になっている。地方創生が叫ばれて久しいが、国も有効な手段を示せておらず、地方には「地域に、ただ来て帰る人を増やすだけでは、人口減少の解決にはならない」との危機感が募っている。

奈良県下北山村でワーケーションを実践しながら、地方とワーケーションの今を取材した。

東京から8時間かけ下北山村へ

車道からすぐの山中でみかけたシカ。 車道からすぐの山中でみかけたシカ。

記者は11月21日から25日、カヤックLivingとBusiness Insider Japanの取り組み「紀伊半島はたらく・くらすプロジェクト」に参加し、奈良県南部の下北山村に滞在した。

下北山村は遠かった。東京から電車を乗り継いだ後、レンタカーを約1時間運転。片道約8時間の長旅だった。

下北山村はかつては林業で栄え、1960年の人口は4000人を超えていた。しかし少子高齢化が進み、2015年には人口895人にまで減少。過疎化が進む山間部の小さな村だ。

滞在期間中は、東京で取材しておいた原稿を書いたり、取材先にメールを送ったりとまったり仕事をこなした。週末にはシカ猟を見学したり、夜には満天の星を撮影したりと休日を満喫。5日間の滞在期間中、地元の人と交流する機会も多く、東京に戻ってからもSNSを通じて村の情報を知るのが楽しみになった。

「遊んでるプレッシャー」高まり逆に集中できる

木村さんは「同じ地域にいるからこその楽しみがある。下北山村は星空が最高でした」と話す。 木村さんは「同じ地域にいるからこその楽しみがある。下北山村は星空が最高でした」と話す。

ソーシャルメディア運用などを手がけるガイアックスで人事を担当する木村智浩さん(38)も、同プロジェクトに参加。過去にも沖縄県でワーケーションをした経験があり、今回は下北山村で約1週間過ごした。

「週末だけの旅行では、次々に名所を巡ることになってしまう。ワーケーションのように、同じところに滞在するからこそ、余裕をもって現地の自然や食文化、生活を楽しめます」

木村さんは、常にメールをチェックし、会社や家族への連絡も頻繁にしていた。

「リモートワークのデメリットは特にないと感じています。むしろ、東京から見ると『遊んでいる』と思われがちなので、逆にプレッシャーが高まり集中できます」

SNSでは伝わらない「まず来てほしい」

地元の住民と談笑する間瀬さん。コワーキングスペースには地元住民の訪問も多い。 地元の住民と談笑する間瀬さん。コワーキングスペースには地元住民の訪問も多い。

滞在中にワーケーションの拠点になったのは、地域おこし協力隊・間瀬奈央子さん(35)が運営するコワーキングスペースだ。間瀬さんは東京で生まれ育ったが、2019年6月から下北山村に移住。9月には同村役場に勤める男性と結婚した。地域おこし協力隊の任期は3年だが、「任期後も下北山村に住み続けたい」と言う。

コワーキングスペースは、月に村外から約140人、村民が約130人が利用しており、旅行や仕事で訪れた人と地元住民の交流の場になっている。1人でも多く村への移住者を増やしたいと考えているが、移住者の獲得は簡単ではないという

「下北山村の一番の魅力は住んでいる人ですが、SNSなどでその良さを伝えるのは限界があります。一度来てくれれば、魅力に気が付いてくれると思っているので、ワ―ケーションなどの形でまずは地域に来てもらえれば。移住はそれからだと思っています」(間瀬さん)

ワーケーションに盛り上がる自治体

移住スカウトサービス「SMOUT」にはさまざまな企画が並んでいる。 © 出典:SMOUTのHPより編集部キャプチャ 移住スカウトサービス「SMOUT」にはさまざまな企画が並んでいる。

たしかにワーケーションに注目し、街に人を呼び込もうとする取り組みは全国に広がっている。

2019年11月18日には、1道6県58市町村が「ワーケーション自治体協議会」を結成。11月29日時点では計67自治体が参加している。

和歌山県によると、2015年に白浜町にセールスフォース・ドットコムがサテライトオフィスを設置するなど、リモートワークの誘致を積極的に取り組んできた。2017年度には全国の自治体に先駆けてワーケーションの誘致を予算化。体験会やモニターを募集し、2018年度には25社、327人がワーケーションに訪れるなど成果を上げている

SMOUT(スマウト)移住研究所の増村江利子編集長は、ワーケーションの可能性について次のように話す。

「都市部から地域に来た人は、地域の日常の暮らしを見ることで、享受する側から地域を作る側に回るようになる。地域のことを自分のことだと感じるようになります。ワーケーションは、移住へ向けた一つのステップになるのでは」

ただし、ワーケーション誘致を掲げるだけでは、地域の過疎化は止められないのが現実だ。

「移住につながる流れが必要」

下北山村では驚くほど多くの星が見えた。 下北山村では驚くほど多くの星が見えた。

本当に大切なことは移住者を増やすこと。ワーケーションや関係人口など、いろいろと新しい言葉があるけれど、最終的に移住につなげていく流れはできていない

奈良県の関係者はこう漏らす。

2014年に「消滅可能性都市」が注目され、これまで国は地方への移住政策に注力してきた。しかし、地方からの人口流出は止まらず、最近ではその地域を何度も訪れたり、ふるさと納税をしたりと多様な地域との付き合い方をする「関係人口」が重視されるようになった。

総務省は2019年度、「関係人口創出・拡大事業」モデル事業に全国44団体を指定し、5億1000万円の予算を確保するなど対策を続けているが、地方の人口減少には歯止めがかからないのが現実だ。

下北山村でワーケーションを行った東京在住の40代の男性は、下北山村をこう振り返る。

「自然が豊かでまた来たい。ただ、こんなに過疎化が進んでいるとは。衝撃だった」

地方が消滅せずに生き残っていくために、有効な手段を打ち出すタイムリミットは迫っている。

(文・写真、横山耕太郎)

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