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親の収入が低いと子どもの「やり抜く力」が低くなる!?

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2016/10/07 アンジェラ・ダックワース,神崎朗子

世界の心理学者が長年追求してきた「人生で成功するのに最も重要なファクターは何か?」がついに研究で解明された!ビジネスリーダー、エリート学者、オリンピック選手……成功者の共通点は「才能」でも「IQ」でもなく、もうひとつの能力「グリット」だった――。これまでの能力観・教育観を180度くつがえし、世界的ベストセラーとなっている『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』から、その驚くべき内容を紹介する。

ハーバードはやり抜く力(グリット)で合格者を選んでいる

 ウォーレン・ウィリンガムが「性格的特徴研究プロジェクト」に関する研究論文(本連載第4回参照)を発表した年に、ビル・フィッツシモンズがハーバード大学の入学試験事務局長に就任した。

 その2年後に私がハーバード大学に出願したとき、私の応募書類を審査したのがフィッツシモンズだった。なぜそれがわかったのかというと、学部生のときに参加した地域奉仕活動で、たまたま一緒になったのだ。

「おお、君か!ミス・スクールスピリット!」

 私が自己紹介をすると、フィッツシモンズは大声で言った。そして、私が高校のときに行ったさまざまな活動を、驚くべき正確さで列挙した。

 先日、私はフィッツシモンズに電話をして、課外活動を最後までやり通すことについて、どのような見解を持っているかたずねてみた。すると予想どおり、彼はウィリンガムの研究を熟知していた。

 それで、彼はウィリンガムの結論に賛成したのだろうか?ハーバードの入学試験事務局は実際に、SAT(大学進学適性試験)のスコアと高校の成績以外の要素も考慮しているのだろうか?

 なぜそれが気になったのかというと、例の論文を発表した当時、ウィリンガムは、大学の入学試験事務局は課外活動を最後までやり通すことの重要性をよく認識していない、と考えていたからだ。

 フィッツシモンズの説明によれば、ハーバード大学には毎年、数百名の生徒がずば抜けて優秀な成績によって入学を許可される。どの生徒も早くから卓越した学業成績を収めており、将来、世界的な学者になることが期待される者たちだ。

 しかしフィッツシモンズの言葉を引用すれば、ハーバード大学は「自分が好きなことや、価値があると信じている活動に、わき目もふらず熱心に取り組み、厳しい鍛錬と努力を重ねてきた生徒たち」も同じくらいたくさん入学させているという。

 ただし入学試験事務局は、その生徒たちが、大学入学後もずっと同じ活動を続ける必要性があるとは考えていない。

「たとえば競技スポーツの場合、途中で負傷したり、よく考えてやめる決断を下したり、選抜チームに入れなかったりする場合もある。しかし、多くの学生を見てきてわかったことは、高校時代にそれだけ必死に部活に打ち込んで、鍛錬を積んできた生徒なら――それだけやり抜く力(グリット)が強ければ――どんなことをやっても同じように熱心に取り組める、ということだ」

「最後までやり通す経験」から人格が形成される

 そしてフィッツシモンズは、ハーバード大学は実際に「最後までやり通す」ことを重視していると語った。私が最近の研究でウィリンガムの研究結果が正しいことを確認したと話したところ、ハーバード大学でも非常によく似た評価方法を採用しているという。

「ハーバードの入試事務局で行っているのも、君がグリット・グリッド(本連載第5回参照)を使って行っているのと、まったく同じような方法なんだよ」

 それを聞いて、フィッツシモンズが以前、1年以上も前に読んだ私の入学願書の内容を、なぜあれほどはっきりと覚えていたのか、ようやく合点がいった。彼は私の成績だけでなく、私が高校時代に課外活動にも熱心に取り組んだことを評価し、これなら大学生活の厳しい試練を乗り越え、さまざまなチャンスをつかめるだろうと判断したのだ。

「40年以上も入学審査にたずさわってきて思うのは、ほとんどの人は生まれながらにとてつもない可能性を持っているということだ。だから問題は、やり抜く力を発揮して、ひたすら地道な努力を積み重ねることで、その可能性を最大限に生かせるかどうかにかかっているんだ。最後に大きな成功を収めるのは、そういう人たちだからね」

 そこで私は、課外活動を最後までやり通すことは、「やり抜く力(グリット)」のある証拠にはなるとしても、「やり抜く力」を育む効果はない可能性も考えられるのではないか、と指摘した。

 それに対してフィッツシモンズは、そういう考え方もわからなくはないが、やはり、課外活動をやり通すのは、たんに「やり抜く力」がある証拠だけではない、という考えをあらためて主張した。

「活動に取り組んでいくうちに、周りの人から多くのことを学ぶ。いろいろな経験を重ねるうちに、自分にとってなにが重要なのか、その優先順位がわかってくる。そういうなかで人格が育まれる。ときには、学生が親やカウンセラーの勧めで活動を始めるケースもある。しかし、そういう活動をとおして学生たちは重要なことを学ぶし、そこで学んだことはほかでも生きてくる。学生たちがアドバイスにしたがって思い切って活動を始めてみると、親やカウンセラーが思ってもみなかったほど、熱心に取り組むようになるケースも多い」

家の収入と「やり抜く力」の相関関係

 このときのフィッツシモンズとの会話で、私がもっとも驚いたのは、課外活動で「やり抜く力」を育む機会に恵まれない生徒たちのことを、彼が深く憂慮していることだった。

 ハーバード大学の政治学者、ロバート・パットナムらの研究によれば、この数十年、アメリカの裕福な家庭の高校生たちの場合、課外活動への参加率は継続的に高い傾向にある。それに対し、貧しい家庭の高校生たちの課外活動への参加率が急激に低下しているのだ。

 家庭の経済状況によって、生徒たちの課外活動への参加率に大きな差が出ているのにはいくつかの要因がある、とパットナムは指摘している。ひとつには、サッカーなど合宿等にお金のかかるスポーツ活動は、平等な参加が難しくなっている。参加費用が無料であっても、すべての親が子どもにユニフォームを買ってやる余裕があるわけではない。

 また、練習や試合のたびに子どもを車で送り迎えする余裕がない親たちもいる。音楽の場合は、個人レッスンや楽器の購入にかかる費用を考えると、手が届かない場合もあるだろう。

 おそらくパットナムには想像に難くないはずだが、家庭所得とグリット・グリッドのスコアには、懸念すべき相関関係が見られる。私の研究に参加した高校3年生のうち、国から給食費の援助を受けている生徒たちは、恵まれた家庭の生徒たちにくらべて、平均でグリット・グリッドのスコアが1ポイント低いことがわかった。

(本連載は書籍『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』より抜粋しています)

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