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趣味に金をつぎ込む妻 老後資金は「1億円ほしい!」

NIKKEI STYLE のロゴ NIKKEI STYLE 2017/08/09

PIXTA © NIKKEI STYLE PIXTA

 「老後資金を1億円ためたい」。専業主婦のCさん(38)が相談に訪れました。Cさんは会社員の夫(43)と長男(2歳)の3人暮らし。金融機関での投資相談で「年利7%の投資商品で毎月8万円を30年積み立てれば、1億円をためるのは可能」と言われたそうですが、「今の家計では8万円はとても捻出できない」と言います。今どきそんな高金利で安全に運用できる金融商品はありませんが、そもそもなぜそんなに多額の老後資金が必要なのでしょう。その点を尋ねると、「漠然とした不安がある」という答えが返ってきました。

 Cさんが抱える問題点ははっきりしています。(1)老後資金の必要額を誤解している(2)老後資金を捻出するための毎月の剰余金がない――の2点です。

■老後資金の必要額を誤解

 まず、老後資金について考えました。現在の夫の収入が今後も変わらないとすると、65歳以降、いわゆる1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金を合わせた公的年金の受給額は、夫婦で月22万円ほどになります。老後は今の支出(月35万円)の7割程度の生活費ですむことが見込まれるので、単純計算すると老後の生活費は24万5000円ほどと予想されます。予定通りの年齢と金額で年金が受給でき、ぜいたくな生活をしないとすれば大きな心配は必要のない水準です。

 もう少しゆとりのある老後の生活もシミュレーションしてみました。毎月の生活費をあと1万円増やしたいなら、退職金などを含む貯蓄から補てんする必要があります。90歳まで生きるとすると、65歳から25年間の必要額は300万円。2万円増やしたいなら同じく600万円、3万円なら900万円です。病気になったときの治療費などを考慮しても1000万円あれば十分で、受給できる年金の額が今後の政策で変わるとしても、「1億円が必要」ということにはなりません。Cさんの老後資金の必要額についての誤解は解けました。

 むしろ難航したのは、老後資金を捻出するための剰余金づくり、つまり家計の改善です。Cさんの家族の家計は月数千円程度の赤字でした。ある月の家計表を見せてもらったところ、4000円の赤字。Cさんによると、「これでもかなり切り詰めている」そうですが……。

■減らせる支出は「ない」との回答

 老後資金をためたいのであれば、家計を黒字に転換し、さらに黒字額を増やさなければなりません。そのために、どの支出ならば減らせるか聞いたところ、あっさり「ない」という回答。長男がまだ2歳なのに一般の家庭に比べて教育費が多すぎることを指摘し、その支出を抑えられないかとアドバイスすると、「教育費は子どものためではなく、ほとんどは絵画塾の費用など私の美術の勉強のため。でもこれだけは減らしたくない」と一歩も引きません。食費についても同様の指摘をしましたが、「夫と子どものために有機野菜を購入し続けたいので、こちらも減らせない」といった具合で、何を提案しても受け入れてもらえません。

 「ではパートなど働きに出て収入を増やしてはどうか」と水を向けると、「まだ子どもが小さいし、今から保育園は見つからない。自分も体が丈夫ではないので、仕事と育児、家事の両立はできない」と言います。みなさんはCさんのことを「とんでもない」と思うかもしれませんが、性格はまじめで一生懸命。それゆえに全く融通が利かず、家計を改善することにかなりの困難を感じました。

 Cさんが家計を見直すようになるには、どうしたらいいでしょうか。それは自身の美術の勉強のための学費が家計を圧迫していること、食費を含めた今の支出すべてが当たり前ではないことを本人がしっかり認識することです。「やっているつもり」「これ以上できない」という思い込みをやめないかぎり、解決はあり得ません。

 まず、美術の学費に向き合ってもらいました。Cさんは今後、美術の教師になるつもりも、絵画塾を開く予定もなく、ただ単に趣味として美術の勉強を続けたいと言います。家計の状況を考えると、本当にそれでいいのか、時間をかけて考えてもらいました。ずいぶん悩んだようですが、「これからは絵画塾に通うのではなく、外に出て絵を描くことを楽しむライフスタイルに変える。知識は今まで学んだことを復習することで磨く」という考えに至りました。自分のわがままが家計を圧迫していることにようやく気づいたのです。その後、絵画塾に通うことがほぼなくなり、交通費も減りました。

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■食費は週9000円に設定

 家計表をみると、十分に節約できている費目も多かったのですが、まだ減らせる可能性のある費目として、やはり食費が目に付きました。有機野菜など高価な食材にこだわればこだわるほど費用は膨らむので、食費だけ1週間の予算を9000円に設定し、「9000円以内であれば買うものは自由」というルールでやりくりしてもらいました。最初はかなり大変そうでしたが、次第に慣れました。スマートフォンは夫婦で別のキャリアと契約しており、かつ大手にこだわっています。そのためキャリアだけはそろえてもらい、あとは割安な料金プランに見直すことで利用料がかなり減りました。

 こうして節約する費目を絞って家計を改善した結果、月に8万4000円ほどを削減でき、毎月の収支では、当初希望していた8万円の黒字を生むことができるようになりました。このお金でやはり投資がしたいのかと聞くと、「貯蓄を増やしていきたい」とCさん。現在の60万円という貯蓄額では心もとないので、100万円を超えたら投資についても勉強し、投資信託などへの投資と貯蓄を並行させながらお金をためる計画にしました。

 家計相談をしていると、理想と不安ばかりが先に立ち、自分が今どうすべきか、何を切り捨てるべきかを冷静に判断できなくなる人を多く見ます。「この費目は譲れない」「あの支出はあきらめたくない」では、お金がたまるはずがありません。正しいアドバイスを受け、自分で客観的に切り捨てられる部分を見つけなくてはいけないのです。

(「もうかる家計のつくり方」は隔週水曜更新です)

横山光昭

© NIKKEI STYLE マイエフピー代表取締役、家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。お金の使い方そのものを改善する独自のプログラムで、これまで1万人以上の赤字家計を再生。書籍・雑誌の執筆や講演も多く手掛け、「はじめての人のための3000円投資生活」(アスコム)は47万部を超え、著書累計は218万部。

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