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「管理職が偉い」という、できない組織の勘違い 機能で「役割分担」する組織が強くなる

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/03/13 07:50 出口 治明
部下の適性を見抜いて、正しく人材を配置するための4つのポイントを紹介(写真:xiangtao/PIXTA) © 東洋経済オンライン 部下の適性を見抜いて、正しく人材を配置するための4つのポイントを紹介(写真:xiangtao/PIXTA)

組織において生産性の高さを求められるなか、ますますリーダーのマネジメント力が問われています。部下の指導に頭を悩ませている方も多いでしょう。

ライフネット生命の創業者であり、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)で学長を務める出口治明さんは、「上司にできるのは、部下に対して『今持っている能力を最大に発揮できる仕事』を上手に与えて見守ることだけ」、マネジメントとは、突き詰めると「人を上手に使うこと」だと言います。

『知的生産術』を著した出口氏に、その真意について語っていただきます。

「マネジメント」とは「人を上手に組み合わせること」

 僕は、「人間はみんなちょぼちょぼ。そんなに賢い人はいない」ことを前提にマネジメントをしています。社会がどの方向に変化しているかを見極め、人材をうまく組み合わせて変化に適したチームをつくることがマネジメントの本質です。

 人の能力にそれほど大差がなかったり、効率がそれほど変わらなかったりする以上、組織の生産性を上げるには、上手に「組み合わせること」しかできないと思っています。人にはそれぞれ「得意・不得意」「向き・不向き」があるので、部下の適性と周囲の状況に合わせて、適材適所で人材を配置できれば、個々の能力は伸びなくても、組織の生産性は上がります。

 例えば、「人としゃべるのは得意だけれど、書類仕事が苦手な人」と、「人としゃべるのは苦手だけれど、契約書を作成するのが得意な人」を組ませれば、お互いの欠点を補完することが可能です。そして強い営業チームができあがります。

 生産性が高い強い組織をつくるためのいちばんのポイントは、一人ひとりのメンバーの適性をよく見て、どういう組み合わせを行えばチームが強くなるかをよくよく考えることです。

 つまり、「得意・不得意」「向き・不向き」といった部下の適性を見抜いて、正しく人材を配置するのがリーダーの役割です。そこで、僕が考える人材配置の4つのポイントを紹介します。

人材配置のポイント① 部下の適性や意欲を把握する

 部下の適性にふさわしい仕事をあてがうのが、マネジメントの要諦です。とはいえ、「キミは何がしたい?」「キミの得意なことは何?」と聞いても、「はい、これです」と答えられる部下は少ないと思います。

 したがって上司は、普段から部下とのコミュニケーションを密にして、「何にチャレンジたしたいと思っているのか」「どんなことが得意なのか」を見極める必要があります。

部下の話をよく聞き、適性を見極める

 仕事を適切に割り振るためには、まず部下の話をよく聞かなければなりませんが、部下とのコミュニケーションは、基本的に「労働時間内にやるべき」仕事です。時間外にコミュニケーションを取るなど論外です。グローバル企業であれば、絶対に許されないことです。

 また、部下の適性について、僕から見ると「向いていない」のに、本人が「向いている」と思い込んでいる場合があります。そのときは一度、やらせてみます。

 僕がライフネット生命の社長を務めていたとき、「会社を辞めさせてほしい」と願い出た社員がいました。「いいけど、次はどこへ行くの?」と聞いてみると、「○○をやってみたいと思う」との答えが。僕は内心「向いていないな」と思ったのですが、「チャレンジしたい」という彼の気持ちをくんで、背中を押してやることにしました。

 結果はどうなったかというと、退社してから1年も経たないうちに、ライフネット生命に戻ってきました。出戻りです。でも、それでいいと思います。何事もラン&テストです。

 いったん外の世界に出た人が戻ってくるのは、その企業にとってチャンスだと思います。なぜなら、自社のことがわかっているうえに、自社と他社の違いも、そして「世の中は甘くない」ということも身を持って経験しているので、貴重な戦力になるからです。

人材配置のポイント② 短所は無視して長所を伸ばす

 長所や短所は、その人の個性そのものです。例えば、「自分の意見をはっきり言う」ことを、「他人の目を恐れない」「自分の頭で考えることができる」という長所と見ることもできますし、反対に「協調性がない」「自己中心的すぎる」と短所として捉えることもできます。

 長所も短所も、その人の「尖った部分」。人は誰しも、はじめは尖った三角や四角です。それが、人に合わせることを覚えていくうちに、尖った部分がなくなり、丸くなっていきます。

 尖った部分を長所と捉えるか、短所と捉えるかは人によって異なりますが、いずれにせよ「尖った部分は削ってはいけない」と僕は考えています。「小さい丸より大きい三角や四角」です。尖った部分を削られた人は、その分だけエネルギーが小さくなるのです。

 長所を伸ばして短所を直す、という考え方はまったく現実的ではありません。長所を伸ばすことと、短所を直すことは、まさにトレードオフです。尖った部分を短所だと考えて削ってしまうと、必然的に長所もまったくなくなってしまうのです。

 人口が減少していくこれからの社会で求められるのは、知的生産性の高さです。新しいアイデアを生み出す力です。それを実現するのは、「人と違うこと」を考えられる「尖った人材」しかいません。

人材配置のポイント③ 全員を管理職に育てる必要はない

 プレーヤーとマネジャーはまったく違う仕事です。高校野球に例えるとわかりやすいと思いますが、エースピッチャーや4番バッターがキャプテン(マネジャー)を務めているわけではありません。補欠の選手が、キャプテンを務めている場合もあります。キャプテンにふさわしいのは、豪速球を投げられなくても、ホームランを打てなくてもいいので「皆をまとめるのがうまい選手」であるべきです。

 そもそも、プレーヤーをマネジャーにするという考え方自体が間違っています。プレーヤーとして優れている人は、プレーヤーとして扱えばいい。職場の役職は、決して「偉さ」を表すものではなくて、あくまでも「機能」による役割分担にすぎません。

マネジャーの本質は機能の1つでしかない

 管理職は、人の管理に適した人がやればいいのです。上位の役職を権力として捉えている人がいますが、プレーヤーとマネジャーの間に上下関係はありません。マネジャーの本質は、1つのファンクション(機能)でしかないと、僕は考えています。

 僕は、ライフネット生命の社長と会長を10年にわたって務め、現在はAPUの学長をしていますが、大学の学長とベンチャー企業の社長(会長)は同じだと考えています。なぜなら、どちらもトップとして「目標を定め、優先順位をつけ、財政基盤を強固にし、皆が働きやすい環境をつくる」ための機能を果たしているにすぎないからです。

 僕がツイッターやフェイスブックを始めたのも、ライフネット生命時代に、部下から「やりなさい」と指示されたからです。

 僕は、当時の部下に対して「大手生保ではできないことをやろう。人とは違うことを考えて実行しよう」と言い続けてきました。すると、開業から3年ほど経ったとき、20代の社員から「出口さん、今日からツイッターをやってください」と指示されました。

 僕が、「何で、そんな面倒くさいことをしなければいけないのや」と聞いたら、「調べたところ、保険会社の社長は、まだひとりもツイッターをやっていません。出口さんは、僕らにいつも『人とは違うことをやろう』と言っていますよね。だったら、自らほかの保険会社の社長とは違うことをやってください。出口さんは有言不実行ですか?」と畳み込まれたのです。

 「それは確かにそうだな。やるしかないな」と思って、ツイッターを始めました。社長も、会長も1つの機能にすぎないのですから、その機能を果たせばそれでいいわけです。

人材配置のポイント④ サボる社員がいてもいい

 アリの世界が典型的ですが、集団が形成されると、2割・6割・2割の割合で3つのグループが形成されると一般には考えられます。いわゆる「2・6・2の法則」です。

 学校の遠足で例えると、

上位2割……放っておいてもどんどん歩くグループ

中位6割……普通に歩くグループ

下位2割……チョウを追いかけたり、花を摘みにいったりして集団から遅れるグループ

このように、行動特性や思考特性よって集団は3つに分かれ、職場の組織も同じです。

上位2割……生産性が高いグループ

中位6割……平均的なグループ

下位2割……生産性が低いグループ

この法則で興味深いのは、例えば下位2割を排除すると、中位6割から転落する者が現れて、再び「2・6・2」の割合に戻ることです。上位の2割を排除しても同じです。

 組織としての生産性を上げるには、下位の2割の底上げを図るのではなく、上位2割にどんどん仕事を任せることです。いわゆる「パレートの法則」を適用すればいいのです。

 「チョウを追いかけたりするのはけしからん」と遅れた2割を個別指導するのではなく、やる気がある上位2割をどんどん先に歩かせる。すると、中位6割は、置いていかれまいとしてスピードを上げて歩き出し、残り2割も、姿が見えなくなると不安になって動き出します。

 また、動物学的にみると、下位の2割を遊ばせておくことが必要です。そうしないと、非常事態が発生して人手が必要なとき、対応できません。

上位2割の部下をいかに味方につけるかがカギ

 全員に能力を100%発揮させて仕事を行わせることはできません。仕事が2倍できる部下には、2倍の仕事を割り当てる。仕事が半分しかできない社員には、半分の仕事を割り当てる。

 カギはトップ層2割の働かせ方にあります。2・6・2の法則が正しいとしたら、上司の言うことを聞かない2割が存在する組織のほうが、むしろ健全です。

 2・6・2の法則を前提にすると、まず上司が考えるべきは、「一生懸命、仕事をする上位2割の部下を味方につけること」です。そして、中位6割のうち、半分くらいの部下から信頼を得ることができれば、全体の5割を押さえたことになります。

 集団のイニシアティブ(主導権)を取るうえで間違いやすいのは、「こんなに自分が頑張っているのに、なぜ部下はついてきてくれないのか」と考えることです。5割、6割の部下を押さえることができれば、十分と思っていいでしょう。

 20世紀の歴史で、全員をついてこさせたのは少数の独裁者だけです。そんな上司にはなりたくないでしょう。2割くらいが横を向いているのであれば、「ウチの組織は正常でよかった」と、むしろ喜ぶべきなのです。

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