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映画『はな恋』 菅田将暉&有村架純が演じる“普通”の魅力

NEWSポストセブン のロゴ NEWSポストセブン 2021/02/28 19:05
実力派人気俳優の競演が見もの(時事通信フォト) © NEWSポストセブン 提供 実力派人気俳優の競演が見もの(時事通信フォト)

 リピーター続出の大ヒット映画『花束みたいな恋をした』では、ダブル主演を務めた人気俳優・菅田将暉と有村架純の好演が話題だ。ドラマオタクのエッセイスト・小林久乃氏が、2人の演技が観客を引き付ける理由を考察する。

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 コロナ禍によりエンタメ不況と言われる2021年において、映画『花束みたいな恋をした』がとんでもないヒットを飛ばしている。映画興行成績は1月29日の公開以来、連続して第1位を獲得。興行収入も20億円に届く勢いだ。

 実写の邦画によるこれだけのヒットは異例だ。私も作品を観た感想が尽きないほど、それこそ夜が開けるまで話すことができそうなほど、小さな感動をいくつも覚えた。

伏線が広がる脚本へ絡みつく、主役2人の演技

『はな恋』は菅田将暉さん、有村架純さんの主演による、1組のカップルの物語。いくつもの偶然を共有して惹かれあって、一緒に暮らしていく。例えばそこへどちらかが難病を抱えているとか、実は血縁関係のある兄妹でしたとか、そういうハプニングに近いドラマはない。

 普通の物語がなぜ観客の関心を引き寄せるのかといえば、脚本家・坂元裕二氏の力が大きい。ドラマ『最高の離婚』(フジテレビ系・2013年)、『カルテット』(TBS系・2017年)など、物語の中に多くの伏線を仕掛け、最終的には全てを回収していくのが彼の脚本の特徴でもある。作品の背景となる時代のカルチャーをよく考察していて、台詞にもその力が感じられる。一度でも彼の作品にハマると、底無し沼から出てこられないファンも多数いる。

 そんな坂元氏の脚本に対して、映画では主演の2人が本当に上手に絡んでいる。有村さんは『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系・2016年)で一度、坂元氏とタッグを組んだことがあるものの、菅田さんは初めてだ。

「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたびに一生その子のことを思い出しちゃうんだって」(有村演じる絹のセリフ)

「えらい人なのかもしれないけど、その人はきっと今村夏子さんの『ピクニック』を読んでも、何も感じない人だよ」(菅田演じる麦のセリフ)

「始まりは、終わりの始まり」(有村演じる絹のセリフ)

 紙に出力をしたら全てを太文字にしたくなるような、印象的な言葉を2人はごく自然に話している。まるで生活音を鳴らすような雰囲気で、当たり前の今日を演じている。マスクも消毒もしない、コロナ禍以前の普通の東京での話。今だからこそ求めてしまう、日常の魅力がこの作品には詰まっているのだ。

鑑賞後は主演の2人しか記憶に残らない

 主人公の麦(菅田)と絹(有村)を見ていて、ニヤッとしながら思い出すシーンがいくつかある。

 雨に濡れた絹の髪の毛を乾かす麦。2人で暮らそうと決めて、引っ越した先にあった老舗パン屋の“焼きそばパン”を一口ずつ頬張って、嬉しそうに笑う。電車に乗ると、恋人らしい密着感で座る。

 こんな“普通”の風景が心に残る。その分、セリフは一癖も二癖もあるような、煮込まれた言葉ばかり。普通と名セリフのバランスを取る演技は難しい。ただ2人とも、まるで本当に付き合っているような雰囲気を醸し出しつつ、表現していた。

 静かに見せているけれど他の追随を許さない、これが若き彼らの実力だ。「オーバーリアクション」「体型を変える」「怪演」など、世間一般で言う“爪痕残し”のような演技は数多存在する。でも、こんな普通を演じ切ることこそ、実った力=実力と言える。

 そのせいだろうか? 映画の観賞後は多くの出演者について感想が残るものなのに、今作に関しては主役の2人以外の印象があまり残らない。映画を観た知人も同じことを言っていた。戸田恵子さん、オダギリジョーさんなど名だたるバイプレイヤーが名前を連ねていたはずなのに。

 4月スタートのドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)で、菅田さんと有村さんは再び共演する。映画に2人の共通の友人として出演していた、古川琴音さんも顔を見せる。強力布陣による、心を揺らす演技に今度はテレビで会える。

【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

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