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北海道地震:厚真の誉れ「ホウレンソウ夫婦」の早すぎる死

毎日新聞 のロゴ 毎日新聞 2018/09/14 10:38

 最大震度7の地震に襲われた北海道厚真町で、地域の農業を長年支えてきた中村初雄さん(67)と妻百合子さん(65)が犠牲になった。コメ農家の傍ら、ホウレンソウ栽培や高齢者施設の菜園を手がけていたことでも知られていた。早すぎる死に、残された人々は悲しみに暮れている。

 中村さん夫妻は稲作をしていたが国の減反政策が進められると、ほかの野菜栽培にも挑戦した。農協OBの南部典幸さん(64)は「初雄さんは地域の農業の発展をいつも模索していた」と語る。

 初雄さんは少ない面積の畑でも育てられる野菜を探し、1970年代後半に町内で初めてホウレンソウの品種を比べる試験をした。自分のハウスで数種類のホウレンソウを植えて気候や土壌に合った品種を選び、データを農協に提出した。5年ほどで生育が難しい夏でも色が濃く株が太くなる品種を見定めて広めた。

勤務先の高齢者グループホームで中村百合子さんが育てた紫蘇を見つめる加藤恒光さん=北海道厚真町で2018年9月11日、岸川弘明撮影 © 毎日新聞 勤務先の高齢者グループホームで中村百合子さんが育てた紫蘇を見つめる加藤恒光さん=北海道厚真町で2018年9月11日、岸川弘明撮影

 農協のホウレンソウ部会長就任を打診されても「おれは上に立たなくていい。側面から応援する」と固辞した。「縁の下の力持ちとして実務に身をささげた」と南部さんは言う。

 厚真町産のホウレンソウは「色が濃くて甘みが強い」と定評がある。「厚真にホウレンソウがあるのは初雄さんたちが築いた歴史があるから。頼りになる『兄貴』を失ってしまった」。南部さんは寂しそうにつぶやいた。

 一方、百合子さんは、厚真町本郷の高齢者グループホームで介護員として働きながら、敷地内の菜園で入所者と収穫を楽しむためジャガイモや食用菊、トマトといった多くの野菜を栽培した。野菜の手入れや収穫時期などを指導し、「畑の先生」と頼られていた。

 施設の裏では3畳ほどの広さで紫蘇を育てていた。毎年、摘んだ葉を鍋で煮出し、グラニュー糖とクエン酸で味を調え、紫蘇ジュースを作った。「あした、収穫するからね」。そう周囲に伝えていた翌日未明、百合子さんは帰らぬ人となった。

 今夏、「糖尿病にも気をつけて、今年は少し酸っぱめにしようか」と入所者の健康を気遣っていた。施設の介護福祉士、山下直樹さん(48)は「入所者と一緒に収穫する喜びを大切にしていた。新鮮な物を食べて、みんなで長生きしようねって……」と百合子さんの人柄をしのぶ。

 菜園には、百合子さんが丹精を込めて育てた紫蘇の葉が摘まれずに残っている。施設長の加藤恒光さん(68)は「私も去年、『味見してみて』とジュースを分けてもらった。遺志を継いで、今年も何とかして作りたい」と話す。【岸川弘明、川上珠実】

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