古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

やっぱり、前澤社長が悪いのか 「ZOZO離れ」の原因

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/02/26 09:30

 先週、ある情報番組で今話題の「ZOZO離れ」を取り上げていた。

 スタジオでは、巨大パネルを用いて「オンワード」「ユナイテッドアローズ」など有名ブランドが続々と撤退していることや、ZOZOの株価に、前澤友作社長の自由奔放な言動がどれだけ悪影響を及ぼしているのかを解説して、「ZOZO離れ」の原因は、「取引先の信頼を裏切ったから」というような話で盛り上がっていた。

 それを象徴するものとして、司会者がうれしそうに紹介していたのが、前澤社長がSNS休止宣言直前に、フォロワーへの質問形式で行った以下のような投稿だ。

 「どうせ少し時間がたてばセールになるので、洋服を定価で買うのは馬鹿らしいと思う」

 「自分が定価で買った洋服が、あとあとセールで安く売られているのを見たときの気持ちは?」

 「いまお店で約1万円くらいで売られている洋服の原価がだいたい2000~3000円くらいだということを、皆さんはご存知ですか?」

 こういうアパレルメーカーにケンカを売るような「失言」や、前澤社長の経営方針に対して、取引先の不信感が募って、それが「ZOZO離れ」に結びついたというのである。

 出演者からも「取引先の原価をバラすなんて絶対にやっちゃダメだろ」「完全にやっちまったな」なんて感じでブーイングが殺到。ゲストで出演した著名な経済評論家の方などは失笑しながら、「ちゃんとしたプロの経営者を呼ぶべき」と、前澤社長を完全に素人扱いしていた。

●「魔女狩り」のようなムード

 情報番組を見て、「その通り!」とウンウンうなずいている方も多いかもしれないが、個人的にはこの「偏向」ぶりは、かなり危ういなと感じた。

 お昼のワイドショーなので、「女優と付き合う成り上がり社長をスカッと成敗!」という欠席裁判が数字的にも正解というのはよく分かる。が、さすがに話があまりにも一方的すぎて、なんでもかんでも前澤社長とZOZOが悪い、というような「魔女狩り」のようなムードをあおっているからだ。

 そもそもビジネス上の取引なので、互いの方針に違いが出れば、別々の道を進むのは当然だ。にもかかわらず、そういう当事者間の「損得」という話を飛び越えて、ZOZOや前澤社長のやることなすことこき下す、というかなり強めのバイアスがかかっている。

 例えば、先ほどスタジオ一体で叩いた「暴言」が分かりやすい。

 実は前澤社長のあの問いかけは、ちっとも「やっちまった」というものではない。1年半前、アパレル業界を担当する経済産業省生活製品課が公表した「取組方針」というものがある。これを報じた新聞記事を引用しよう。

 「原価率を下げて大量生産し、余った在庫をセールで売る――。その悪循環が競争力を損なうと指摘した」「商社などの卸を挟むアパレルの場合、原価率は2割程度と言われている。定価が1万円の場合、原価は2000円という計算だ。百貨店などへの出店にかかる費用、輸送費などの中間コストに加えて、セールで大幅値引きをしても利益を残せる価格に設定されている」(日経MJ 2017年10月2日)

 いかがだろう。前澤社長の「最後の投稿」と丸かぶりなのではないか。

 先ほどの情報番組をはじめとした多くのメディアは、前澤社長が述べたことを、アパレル業界の商慣習や仁義を無視して、怒りに灯油をぶっかける「失言」として扱っている。

 が、実はこれは、前澤社長オリジナルの問題提起ではない。この業界が長く抱え、監督官庁が警告するほど、誰もが知っている構造的な「病」なのだ。

 なんでもかんでも前澤社長が悪いという、大きなネガの潮流ができつつある、と申し上げた理由が少しは分かっていただけただろうか。

●「安売り」ではなく、「根拠のある安売り」

 そして、もうお気付きだろうが、これとまったく同じことは「取引先の信頼を裏切った」というZOZOに対する批判にも当てはまる。

 ZOZOはけしからんと怒っている人たちが、その理由に挙げているのが、「ZOZOARIGATO」という有料会員を割引するという新サービスである。これによって、アパレル各社は自社サイトから客が取られてしまうので、損をする。また、ブランド価値が低下するなどの不満が持ち上がっているという。

 要するに、「安売りするな」が最大の理由だというのだ。だが、決算説明会に登壇した前澤社長が「百貨店やリアルなショッピングモールは優良顧客施策としてカードを持っていると何%オフなど、ほぼすべての商業施設がやっている施策」と述べているように、「安売り」自体はどこでもやっているし、メーカー自身も自社ECでセールをしている。

 では、なぜみんなやっているのに、ZOZOの「安売り」だけがダメなのか。専門家はブランド価値や顧客が取られるうんぬんと小難しいことを言っているが、「ZOZOARIGATO」を正しく理解すれば、何が原因かは明らかだ。

 一部アパレルがイラっときたのは、これが「根拠のある安売り」だからだ。

 実は「ZOZOARIGATO」は、いわゆるバーゲンセール的な「安売り」ではない。割引額の一部を、日本赤十字社やWWFジャパンなどの団体に「寄付」できるほか、自分の好きなアパレルブランドへ「応援」することができるのだ。

 「ふーん、目立ちたがり屋の前澤社長っぽいけど、それが何か?」と冷ややかな反応を見せる方も多いかもしれないが、実はこれ、一部のブランドの根幹を揺るがしてしまうほど、画期的かつ、挑発的な取り組みなのだ。

 先ほど経産省が指摘したように、アパレル業界は基本的に、ハナから「安売り」を組み込んだビジネスモデルが主流となっている。売れ残ったものをバーゲン時に30%オフにしてようやく利益を得られるので、当初の値付けは「安売り」前提で高く設定される。この「安売り」依存の傾向は近年さらに進行している。

 『アパレル会社の健全性を示す指標に、定価販売率がある。従来は70%が目標だったが、コンサルティング会社、カート・サーモン(東京・港)の河合拓マネジメント・ディレクターは「今は4割にも達さない」と指摘する。収益が落ちてもなおアパレルはセールの集客効果に頼り、店舗では値引き分をあらかじめ上乗せする例もある』(日本経済新聞 2017年7月26日)

●アパレルのビジネスモデルが覆される

 こういうもうけの構造があるアパレルメーカーからすれば、「なぜ3万円の服が急に半額になるんですか?」「こんなに安売りしてもうかるんですか?」という質問は、答えに窮する「タブー」以外の何物でもない。

 高い定価のブランド服が次から次へと世に送り出され、次から次へと値引きされていく――。その構造に対して、消費者には何の疑問も抱いてもらいたくないのである。

 では、そういうビジネスモデルを長くやってきた人たちの目に、「ZOZOARIGATO」がどんな風に映るのか想像していただきたい。

 消費者への影響力抜群のZOZOがこういう「根拠のある安売り」に踏み切れば、消費者は「根拠のない安売り」――つまり、世間一般のセールに対する疑問が生じる。どうせ数カ月で安くなるのなら、なぜ最初から安くしないのか。安くしている理由は何なのか。消費者がアパレルに対して、「安さ」の「見える化」を求めていくかもしれないのである。それはイコール、現在のアパレルのビジネスモデルが根底から覆されることでもあるのだ。

 「そんなのはお前も妄想だ!」とキレるアパレル関係者の人も多くいらっしゃると思うが、海の向こうを見渡せば、アパレル業界では、これまでブラックボックスとされてきたことが次々と「見える化」されている。

 分かりやすいのが、アメリカ西海岸を拠点に、売上高が150~300億円規模のEverlane(エバーレーン)だ。

 このアパレルメーカーは、消費者に商品ごとのコストを項目ごとに公表している。一方で、商社などの中間流通を省いて、工場で直接商品の企画・生産を行い、消費者に届けるといういわゆる「D2C」(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)によって、従来のアパレルメーカーよりもかなり価格を抑えている。

 つまり、大量生産で安価さを実現してきたGAPが閉店を余儀なくされて苦戦する一方で、原価というブラックボックスの「見える化」が進んでいるのだ。

 このような流れは、米国や中国というネット通販大国では既に起きている。ということは、その流れも遅かれ早かれ、日本にもやって来る。そのとき、「根拠のない安売り」が商習慣としてビタッと定着している日本のアパレル業界はどういう動きをするか。追随する者も出るだろうが、「ムラ社会」特有の反応として、まずはやはり叩くのではないか。ああだこうだと理屈をつけて、「村八分」にするのではないか。

●「安売り」に依存しているアパレル

 ZOZOが始めた「根拠のある安売り」は、その世界的な「見える化」の流れがひと足先にやってきた、ようにも見える。そう考えると、「ZOZO離れ」という現象もまったく違って見える。「根拠のある安売り」に対する拒否反応、つまり、みんなで長年守ってきた「セール」という商習慣を壊されてしまう恐怖感もあるのではないか。

 筆者がなぜそのように考えるのかというと、前澤社長の「先見性」だ。今でこそ月に行くとか、お年玉をあげるとか楽しい話題に事欠かない前澤社長だが、実は過去に「大炎上」したことがある。

 2012年10月に、ZOZOを利用した女性がSNSで「配送料が高い」と文句を言ったところ、前澤社長が「注文しなくていい」と乱暴なもの言いで返したことで、ボコボコに叩かれ謝罪に追い込まれたのである。

 確かに、言い方は悪かった。が、言っている内容は叩かれるようなものではなく、以下のように、紛れもなく「正論」だった。

 「汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれたんだよ」

 ご存じのように、「宅配クライシス」が社会問題化したのは17年である。その5年も前から、前澤社長は通販業界に迫る構造的危機と、「荷物はタダで届いて当たり前」という日本の消費者カルチャーに問題意識を抱いていたということだ。

 12年当時、前澤社長を擁護する人はほとんどいなかった。それどころか今のように「ZOZO終わったな」「こんな非常識な社長がやってるZOZOはもう利用しません」など完全に迷惑者扱いだった。

 前澤社長にもいろいろな問題点があるのかもしれないが、時代の先と、問題の本質を読み解く力があるのは間違いない。そういう異能の経営者を日本はこれまで「出る杭」として社会全体で叩いてきたという動かしがたい事実がある。

 叩かれるようなことをするのが悪いという人もいるが、「魔女狩り」ではないのだから、もうちょっと冷静かつ客観的にこういう人たちの主張に耳を傾けてもいいのでは、と個人的に思う。

 今は「ZOZO離れ」だと叫ばれ、「前澤社長は引っ込め」と騒がれているが、5年後はどうなっているのか。もしかしたらそのとき、消費者から見離されているのは、「魔女狩り」をあおるマスコミや、いつまでたっても「安売り」に依存しているアパレルなのではないか。

(窪田順生)

ITmedia ビジネスオンラインの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon