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ホンダの新型スーパーカブは何が進化したか 世界販売1億台の名車も環境規制対応に苦慮

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/10/20 森川 郁子
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 世界中で1億台売れた乗り物はどれだけあるだろうか。世界生産累計1億台を足かけ59年で達成したのが、ホンダの「スーパーカブ」だ。

 「これからも世界中の人に愛されるように、全員が志を1つにしてチャレンジしてほしい」

 10月19日、ホンダが国内唯一の2輪生産拠点、熊本製作所で開いた記念式典。八郷隆弘社長は感激で声を詰まらせながら、社員に語りかけた。熊本工場には、8月に国内向けスーパーカブの生産が2012年以来5年ぶりに中国から移管されたばかりだ。

年間販売300万台のロングセラーに

 初代「スーパーカブC100」は、ホンダの創業者・本田宗一郎が「役立つ喜び」を体現するべく、1958年に生み出した。

 当時のバイクは左レバーでクラッチ操作、右レバーでアクセル操作をする必要があった。カブシリーズは左足でペダルを踏む新方式のクラッチを採用。その使い勝手や高い耐久性が支持され、バイクに乗って働く人々の間でたちまち人気となった。スカート姿でも乗り降りしやすいデザインにしたことで女性たちの心もつかんだ。

 成功は日本にとどまらず、海を越えた。鋪装されていない道路や悪路も走破できる馬力を備えることから、インドネシアやタイ、ベトナムなど東南アジアを中心に暮らしの足として爆発的に普及する。現地開発のモデルも数多く展開。今では世界160の国と地域で年間300万台が販売されている。

 ホンダは生産1億台の達成に合わせ、日本市場向けの「スーパーカブ50」(50cc)と「スーパーカブ110」(110cc)を5年ぶりにモデルチェンジして、11月10日に発売する。通常モデルに加え、荷物を多く載せられる「プロ」仕様も刷新される。国内販売目標はシリーズ合計で年間2万200台だ。

 新型のスーパーカブはデザインとエンジンが大きく変化した。2012年にモデルチェンジしたときに、グローバルモデル仕様で四角くなったランプが丸型に戻り、初代や2代目を彷彿させる形に仕上がったことで、原点に立ち返った。式典に登場した世界各国向けのモデルには比較的ゴツゴツしたものが多い中、日本向けモデルは、日本人好みの丸さやレトロさが際立っている。

 スーパーカブはその耐久性から商用利用が多く、4輪でいう小型トラックのような存在だ。国内販売の約3分の1は日本郵政への商用販売が占め、新聞や飲食店の出前の配達で使われるバイクとしても定番だ。新型スーパーカブ開発責任者の亀水二己範氏は、「プロの人々が安心して使えるよう、デリバリー車としての魅力を高めた」と語る。坂道でもグイグイ登れるような性能を最優先に、エンジン部品は約半分を刷新した。

新エンジンで排ガス規制強化に対応

 しかし、今回大きな壁となったのが、今年9月に強化された排ガス規制だ。欧州の規制に合わせて、一酸化炭素などの排出量を従来の6割程度にするよう国の基準が改められた。排ガス規制を満たしつつ、卵1個分の排気量しかないエンジンの性能を落とさないのは至難の業だ。今回は、キャタライザーと呼ばれる排ガス浄化装置を1つから2つに増やし、燃料噴射のプログラムも見直した。

 結果として、燃費は2~4%ほど悪くなった。それでも、スーパーカブ50はガソリン1リットル当たり106キロメートル(国土交通省届出値)、スーパーカブ110は62キロメートル(同)走るのだから、燃費のよさという商品性は損なわれていない。一方で、ヘッドランプには初めてLED(発光ダイオード)を採用した。

 こうした排ガス規制への対応や装備の充実により、価格は約4万円上がり23万2200円(税込み)からとなる。価格は高くなったが、メンテナンスの手間を減らし、ユーザーの利便性を高めることにも努めている。従来は煩雑な作業が必要だったエンジンオイルやフィルターの交換も、機構を見直すことで簡単にできるようにした。

 ロングセラーのスーパーカブの一新で国内の2輪販売を活性化したいところだが、足元の環境は厳しい。「原付一種」と呼ばれる、50ccの低排気量バイクは、世界中でも日本でしか販売されていない「ガラパゴス」車種だ。2016年の販売台数は16万2000台あまりと2輪全体の半分近くを占めるが、2015年に比べ16.4%の減少となった。

 ホンダでは今年8月、人気車種の「リトルカブ」や「モンキー」が惜しまれつつ生産を終了した。厳しくなった排ガス規制に対応しようとすると、排ガス浄化装置を新たにつける必要があり、価格を維持できなくなるからだ。環境規制により、趣味性の高い50ccバイクがラインナップから姿を消すという寂しい状況となっている。

 そもそも国内の2輪市場はジリ貧の状態だ。237万台を売った1980年から市場は7分の1に縮小。2011年から2014年にかけては中高年が再び2輪に乗りだす「リターンライダー」需要で少しだけ盛り返したが、2016年の販売は約34万台と前年比1割減に沈んだ。

 昨年、ホンダはヤマハ発動機と、2輪の生産や開発での業務提携を発表した。かつて「HY戦争」と揶揄された宿敵との提携は業界に衝撃を与えた。ホンダは今後、ヤマハの50ccバイクの生産も請け負うことになる。規制対応では、50cc以外のバイクについても手を組むと表明し、次世代電動バイクの共同開発も進めているという。

 電動バイクは現状ではほとんど普及していない。ホンダは、「アジアを中心にインフラ整備やバッテリーのリサイクルなど、法規上の問題を政府と詰めているほか、国内では、過疎化でガソリンスタンドのない地域での需要を想定して形にしていく」(安部典明・二輪事業本部長)考えだ。2015年に発表して以来音沙汰のないEV(電動)カブは、「やや優先順位は下」(同)で、日本郵政との提携など商用利用を先に展開していくという。フィリピンでの実証実験を今年9月から行っており前向きな姿勢を見せるが、実用化には時間がかかりそうだ。

原点としての2輪に寄せる期待

 ホンダの2輪事業は営業利益率が約10%と、約5%の4輪と比べ高い収益性を誇る。リーマンショック時に赤字転落を回避できたのも、2輪事業の黒字があったからだ。八郷社長は「ホンダにとって2輪は原点であり、これからも収益を牽引していくと期待してほしい」と、やや自嘲気味に語る。しかし、4輪同様に環境規制の厳格化や電動化の波が押し寄せる中、2輪で世界トップシェアを誇るホンダといえども、安穏としてはいられない。

 ホンダは今月、2021年度をメドに埼玉県の4輪生産拠点を寄居工場に集約し、電動化に対応した生産技術を開発する拠点として強化すると発表したばかりだ。八郷社長は会見で「日本の製造現場が世界をリードしていくことが不可欠」と表現し、ホンダの技術の原点が日本にあることを強調した。海外で成長してきたスーパーカブが、4輪より一足先に「原点回帰」へと舵を切ったのは、ホンダの危機感の表れかもしれない。

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