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リーダーがPCを使わないことがもたらす、想像以上に深刻な事態

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/12/07 08:09
組織のリーダーのPCスキル不足は笑い話では済まされないことに……(写真提供:ゲッティイメージズ) © ITmedia ビジネスオンライン 組織のリーダーのPCスキル不足は笑い話では済まされないことに……(写真提供:ゲッティイメージズ)

 桜田義孝五輪担当相が「自分でPCを打つことがない」と発言したことが大きな話題となっている。世の中ではPCが操作できることの是非といった低次元の論争となっているが、背後にはもっと深刻な問題が横たわっており、PC操作は氷山の一角でしかない。その問題とは、世界中で進むビジネスや生活の標準化という流れに対して、日本だけが追随できていないことである。

●PCの普及が世界の様子を一変させた

 桜田氏は政府のサイバーセキュリティ戦略本部副本部長を兼務しているが、11月14日の衆議院内閣委員会で「自分でPCを打つことはない」と答弁したことから、セキュリティ戦略の責任者としての資質を問う声が上がった。

 一連の指摘に対して桜田氏は、判断するのが自分の仕事であり、「判断力は抜群だと思っている」と答弁したが、桜田氏は国会答弁で間違いを連発しているだけでなく、福島第一原発事故で発生した指定廃棄物について「原発事故で人の住めなくなった福島の東京電力の施設に置けばいい」と発言するなど、以前から不用意な言動で知られている。

 客観的事実を見る限り、判断力が抜群とは思えず、担当大臣としてふさわしいのかについては疑問の余地があるが、PC経験の有無だけが、リーダーとしての適性を決めるわけではないという点についてはその通りだろう。

 しかしながら、現実問題として社会において指導的な立場にある人がPCを使っていないというのは、判断力や決断力といったリーダーとしての適性にそのものに悪影響を及ぼす可能性があり、かなり深刻な問題と捉えた方がよい。そしてこの話は、PCの操作に限ったものではなく、社会のあらゆる部分で多くの日本人が直面する課題でもある。それは、ビジネスや生活の「標準化」というテーマに密接に関係しているのだ。

 1990年代にPCが急速に普及したことで、社会の仕組みは大きく変わった。

 それまでコンピュータは大量の計算や業務処理を行う「装置」であり、個人の生産性を向上させる目的で使われるものではなかった。だが、PC(パーソナル・コンピュータ)はその名称からも分かるように、個人の生産性を飛躍的に向上させる「道具」であり、PCの普及によって個人の知的活動とITは切り離せない関係になった。その結果、ビジネスや生活の多くがITをベースに設計・構築されるようになり、全世界的な標準化が一気に進んだのである。

●グローバル化の本質は英語を話すことではない

 かつては主要国ではない国の大学を卒業した人物が、どの程度のスキルや知識を持っているのか、即座に判断する手段はなかった。しかし社会のIT化が一気に進み、全世界的なデータベースの構築が進められたことで、今ではどんな小国であっても、大学名と学部が分かれば、その人材をどの程度のポジションと給与で処遇すればよいのか、たちどころに把握できるようになっている。

 業務の手順もかつては国ごとにバラバラだったが、ITシステムの普及が進んだことで、言語こそ異なっていても、業務プロセスは似たようなものとなってきた。国籍が異なる人材であってもスムーズに採用し、即戦力として活用できるのは、こうした標準化が進んだからである。

 業務プロセスが標準化されれば、当然、消費者向けサービスも標準化が進む。海外に出る機会が多い人なら、実感として理解できると思うが、ここ10年の間に、エアラインやホテル、レストランといった各種サービスの標準化が驚異的なペースで進んでいる。

 かつては経済的に遅れている国のサービスはひどいというのが常識だったが、こうした格差はほとんどなくなったといってよい。国としての経済力の格差は依然として存在しているものの、多くの人が利用するサービスについては、国際標準がほぼ確立しており、どの国のサービスを利用してもそれほど大きな違いを感じなくても済むようになっている。

 バルセロナのホテルから台北の民宿、バンコクのコンドミニアムに至るまで、価格によってレベルが異なるだけで、基本的なサービス体系や予約のルール、Webサイトでの情報提供の方法などは、皆、同じようになっている。

 こうした標準化の背景となっているのは社会のIT化であり、その基礎となっているのがPCであることは言うまでもない。国籍や人種、宗教は違っていても、一定以上の収入やスキルを持つ人のライフスタイルや価値観は今後、さらに似通ってくるだろう。

 グローバル化というものの本質は、外国語を話すことではなく、標準化された仕事の方法や価値観、立ち居振る舞いを身に付けること意味している。

●流れに追いついていない先進国は日本だけ

 実は、こうした流れに唯一、追いついていない先進国が日本であり、そこにはPCがあまり普及していないという現実が深く関係している。

 桜田氏はたまたま答弁が下手だっただけで、日本では特に珍しいことではない。先日は経団連会長の執務室に初めてPCが導入されたという驚くべきニュースが世間を騒がせたし(秘書がいるとしてもやはり驚くべきことである)、自民党の石破茂元幹事長は、PCのワープロソフトは操作ミスしてしまうので、「かつてのワープロ専用機をもう一度発売して欲しい」と主張している。著名キャスターの古舘伊知郎氏が、番組中で「パワーポイントが何なのか分からない」と発言し、視聴者を驚かせたこともあった。

 子どもの教育環境も同様である。先進諸外国では中高生は、ほぼ全員、スマホに加えてPCも保有しており、授業や宿題もPC使用が前提となるケースが多い。だが、日本の中高生におけるPCの保有率は諸外国と比較して突出して低いことはよく知られた事実であり、カリキュラムもPCやタブレットを前提としたものにはなっていない。

 PCの普及率を正確に調査したデータはないが、PCの使用可能年数や販売台数などから筆者が独自に算定したところ、日本は欧米各国の半分から3分の2程度しか普及していない。ちなみに日本の労働生産性は、欧米各国の半分から3分の2程度にとどまっており、単なる偶然かもしれないが、両者の数字は一致している。

 この問題が深刻なのは、PCができないことは、単なるPC操作の問題にとどまらず、思考プロセスや行動様式に関係してくる点である。PCができる、できないといった話に矮小(わいしょう)化せず、社会全般の問題として捉えていくことが重要である。そうしなければ、冗談抜きで、日本は本当にガラパゴスな社会に転落しかねない。

(加谷珪一)

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