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安倍総理とトランプ大統領の共通点=「○○失政」が生んだリーダー

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/10 村上尚己

トランポノミクスとも呼ばれるトランプ大統領の経済政策の本質はどこにあるのだろうか? マスコミで取り上げられるのは、本質を外した議論ばかりである。「トランプ相場」の到来を的中させた外資系金融マーケット・ストラテジストの村上尚己氏の最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』から一部をご紹介しよう。

トランプが目指すのはアベノミクス!?

前回の連載では、トランプ氏の経済政策はレーガンのそれとは大きく異なることを確認した。一方で、賢明な読者の方であれば、むしろトランポノミクスにはアベノミクスとの類似点が多いことに気づかれたのではないだろうか。

アベノミクスは、金融緩和(第一の矢)、財政出動(第二の矢)、成長戦略(第三の矢)という3つの軸を掲げて、従来の経済政策のフレームワークを大転換させた。そのなかで最も効果が出たのは金融政策である。日銀が積極的な金融緩和を進めたことで、2013年には一時1%台までインフレ率が上昇、さらに失業率が4%台半ば→3%前後にまで低下するなど、その効果は労働環境にまで波及していた。トランプも1月20日の大統領就任演説後には、自身のウェブサイトで「向こう10年で2500万人分の雇用を米国民のために創出する」と強調している。

一方、日本メディアでは「成長戦略が最も重要」などとする的外れな論評が目立った。規制緩和などの供給側の強化が成長率押し上げに直結するのは、第一・第二の矢を徹底することでインフレ率が2%程度で安定し、総需要不足が解消された「あと」のことである。現状の日本経済はそこまでの回復を見せてはいないので、成長戦略が国民の生活水準を高める効果はまだ期待できない。ただ、規制緩和などの成長戦略は、金融緩和や財政出動に比べると、効果が現れるまでに時間がかかるため、地道に進めていくことは必要だ。

問題は第二の矢だ。2013年度に公共投資などを増やしたまではよかったが、2014年4月には消費増税という緊縮財政政策が行われた。これは政策判断としては痛恨のミス以外の何ものでもない。デフレに向けて放つはずの矢を自分自身にグサリと刺した、いわば「逆噴射」である。

この失政への反省を受けて、アベノミクスは軌道修正を行い、2度の消費増税見送り、さらに、2016年夏場の総額28.1兆円規模の追加財政政策の発動を決めた。「ヘリコプターマネー政策」と呼べるにはほど遠いにしろ、拡張的な財政政策への転換の兆しが見られる。

「経済失政」から生まれた2人のリーダー

一方、トランプ政権は「アベノミクスの第二の矢」、すなわち財政政策によって成長率を一段と高めることを重視している。米国ではすでにインフレ率がプラス2%に近づいていることから、FRBは金融引き締めへと転換しつつある。そして、金融面でアクセルを弱める分、経済成長が失速しないように、しっかりと財政政策で手当てをするという方向に舵を切りつつあるのだ。

ここで思い出したいのが、2016年G7(伊勢志摩サミット)での安倍首相の問題提起である。安倍首相は「先進諸国が協調して財政出動を行うことで、世界経済の成長を支えていくこと」を提案していた。財政政策により経済を伸ばしていこうとするトランプ氏は、まさに日本がリードする財政政策シフトの枠組みに乗っていると見ることもできるのだ。

そもそも、政権の誕生経緯からして、安倍政権とトランプ政権はきわめて似ているのかもしれない。デフレを放置し、緊縮財政を推し進めてきた日本の民主党政権(当時)、経済面での無策を続け、増税や社会保障のコストを国民に押しつけてきた米国・民主党のオバマ政権―両者はいずれも、経済失政を繰り返し、国内の雇用環境改善に尽力してこなかったという点では共通している。

そうした状況に不満を持った国民の声を受けて、経済を成長軌道に乗せる具体的政策を打ち出して政権交代を実現したのが、自民党・安倍政権であり共和党・トランプ政権である。これこそが日米の経済状況を正しくつかむうえで、最もシンプルかつ最も強力なフレームだろう。

「保護貿易」は米国を貧乏にする

トランプ氏が掲げる経済政策のうち、投資家目線でもマクロ経済環境の観点でも望ましいものはたくさんあるが、懸念すべきものがいくつか含まれているのも事実である。議論の公平性を保つためには、彼の保護主義的スタンスを正面から取り上げておく必要があるだろう。

最も心配されているのが、メキシコ・中国に対する関税引き上げ、TPP交渉からの撤退といった通商政策である。企業の貿易や対内外投資活動を抑制する政策は、経済成長率を抑えつける愚策としか言いようがない。万が一、選挙期間中に語っていたような大幅な関税引き上げをトランプ氏が実現させれば、これは通商相手国であるメキシコや中国だけではなく、米国民の生活水準を低下させる作用を持つ。政権基盤を揺るがしかねない危険な結果を招くだろう。

自由貿易、そして国境を超えた企業の投資活動は、相手国だけでなく自国の経済にとってもメリットが大きい。貿易赤字というフレーズを聞くと、どうしても相手との取引のなかで損をしているかのような印象を受けるかもしれないが、じつは自国経済の豊かさとはまったく関係ない。

貿易赤字とは相手国からの輸入のほうが多いことによる「結果」に過ぎず、自国経済の消費の底堅さを物語るものである。実際、相手国からの輸入によって国内に割安な製品が広がれば、消費者にとっての効用(豊かさ)は高まる。つまり、貿易赤字であることと、国民の生活水準が上がることとは矛盾しないのだ。

珍策の「白紙撤回」があり得る合理主義者

米国では近年、中国からの輸入が増えているが、安価な財が入ってくることによって、米国の人たちはさらに他のモノ・サービスに消費を振り分けることができる。仮に、関税を大幅に引き上げたりすれば、国内の家計は一気に圧迫され、豊かさは徹底的に損なわれるはずだ。

こうした理屈を理解せず、保護主義的な通商政策に踏み切れば、おそらくトランプ氏が4年後の大統領選で再選するのは難しくなるだろう。ただ、トランプ氏がそうした政策を掲げる背景には、「国内企業の経営や雇用を守り、再び、米国を強い国にする」というメッセージを有権者に伝える戦略的意図があるのではないか。

もともとビジネスマンであり、損得勘定で合理的に決断をする性格の持ち主なので、これが明らかな愚策であるということを納得しさえすれば、いい意味での「手のひら返し」をする可能性は決して低くない。その点、理想に邁進してオバマケアの負担を国民に押しつけてしまったオバマ大統領と比べると、はるかにリアリストなのではないだろうか。

また、減税などの財政政策のほうが即効性が高いことを考えると、当面1~2年のあいだは経済成長を後押しする政策のポジティブインパクトが勝る状況が続くと考えていいというのが私の見通しである。過剰な悲観論に流されない冷静さが求められる局面だろう。

[通説]「自国利益を優先する奇策。暴言・暴走は止まらない」【真相】否。アベノミクスと本質は同じ。損得重視の人物。

村上尚己(むらかみ・なおき)アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。

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