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頑張っても上司に評価されない、本当の理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2016/12/27 田坂広志
頑張っても上司に評価されない、本当の理由 © diamond 頑張っても上司に評価されない、本当の理由

拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第16回の講義では、前回に引き続き「技術」に焦点を当て、拙著『仕事の技法』(講談社現代新書)において述べたテーマを取り上げよう。(田坂広志 [田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授])

同じ仕事をやっても差がついてしまう二人

 今回のテーマは、「頑張っても上司に評価されない、本当の理由」。このテーマについて語ろう。

 世の中の職場を見渡すと、仕事は頑張っているのだが、なぜか、上司や周囲からの評価が高くない、気の毒な人材がいる。

 なぜ、こうした人材が生まれるのだろうか?  そのことを考えるために、どこの職場でも見かけそうな、ある仕事のエピソードを紹介しよう。

 月曜日の朝、9時過ぎ。出社したばかりの同期の若手社員、鈴木君と田中君が自席で仕事をしている。

 すると、部長室から戻ったばかりの木村課長に、二人は呼ばれ、こう言われた。

「鈴木君と田中君、緊急の仕事を頼みたいので、相談だ…。このA社とB社の資料、かなりの枚数で煩雑な資料だが、何とか今日の夕方5時までに数字を整理し、一覧表にして持ってきてくれないか。急遽、夕方6時からの経営会議で説明しなければならないので、大変な作業だが、よろしく頼む!」

 木村課長は、続けて言う。

「このA社の資料は鈴木君が担当してくれ。B社の資料は田中君が担当で頼む。なお、それぞれ、午前中の作業をして、夕方5時までに一人では処理できないと思ったら、遠慮なく報告してくれ。場合によっては、他のスタッフにもサポートを頼むから…」

 二人は「了解しました」と答えて席に戻り、早速、作業に取り掛かった。木村課長の言うとおり、これはかなりの作業になる。そう思った二人は、昼食も、同僚に買ってきてもらったパンをかじりながら作業を進めた。

 午後、外回りから帰ってきた木村課長が、鈴木君と田中君を見ると、二人は、引き続き、頑張って作業を続けている。それを見ながら、木村課長がパソコンを開くと、鈴木君からのメールが入っている。

「木村課長、何とか一人でできると思いますので、サポートは不要です。ご配慮、ありがとうございます」

 そのメールを読み、安心した一方で、木村課長は、田中君が気になったので、声をかけた。

「作業は、大丈夫か…。必要ならば、サポートをつけるが?」

 それに対して、田中君、「大丈夫です。一人で何とかやれます」と答え、すぐにまた、時間を惜しむように、作業に戻った。

 木村課長も、自席で夕方の経営会議向けの資料を作っていると、4時過ぎに、鈴木君が席にやってきて、一言、報告した。

「課長、これから最後の数字の確認に入りますから、お約束通り、5時には、一覧表をお渡しできます」

 それを聞いて、また、田中君が気になる。「彼の作業は大丈夫だろうか…。一人で何とかやれます、と言っていたが、自席で脇目も振らず作業をしている雰囲気は、かなり時間に追い詰められているのではないだろうか…」。そう懸念しながら資料作りをしていると、4時半過ぎに、田中君が、一覧表を持ってやってきた。

「課長、予定より早く、一覧表ができましたので、持ってきました」

「おお、早かったな。緊急の作業、ご苦労さん」と言うと、田中君、一礼して席に戻ろうとする。そこで、木村課長、気になって聞いた。

上司が本当に「楽」になる部下とは?

 木村課長、心配そうな表情で、田中君に聞く。

「この資料、最後の数字の確認は、大丈夫だな?」

 それに対し、田中君、「ええ、確認もしてあります」と答える。

 そして5時、鈴木君が、一覧表を持ってやってきた。

「お待たせしました。数字の確認もしてあります。ミスはありません。ただ、一点、この数字の意味は、分かりにくので、注記をつけてあります」

「ありがとう。この一覧表、急いで作ってくれたので、助かったよ…」。

 木村課長、ほっとした表情で、そう言った。何とか、二人の資料、経営会議に間に合った。

 6時になり、木村課長が経営会議に向かった後、その一連の仕事を隣席で見ていた山本先輩が、田中君を夕食に誘った。会社の社員食堂で夕食を取りながら、山本先輩は、田中君に語りかけた。

「一日、緊急の作業、ご苦労さま。大変だったな…」

 それに対して、田中君、少し誇らしげに言う。

「ええ、突然の作業でしたので、少し大変でしたが、何とか、予定の5時よりも早く一覧表を課長に提出できました…。課長も喜んでくれました」

 その言葉を聞いて、山本先輩、微笑みながら、田中君に言った。

「そうだな…。作業が締め切り前に終わって良かったな…。ただ、良い機会だから、アドバイスをしておくけれど、もう少し、木村課長を楽にしてあげられたら良かったな…」

 そのアドバイスを聞いて、田中君、怪訝そうに、聞き返した。

「私の仕事、何か問題がありましたか…? 一応、締め切り前に資料を出し、あの一覧表にも、ミスは無かったと思うのですが…」

 田中君の、その言葉を聞いて、山本先輩、思わず笑いながら、優しく、こう言った。

「君は、木村課長の『作業』は、楽にしてあげているのだけれど、課長の『心』を楽にしてあげていないのだな…」

 なるほど、山本先輩、夕食に誘いながら、田中君に、大切な反省の機会を作ってあげている。

 さて、この場面、読者は、何を感じるだろうか?

「働く」という言葉の真の意味

 山本先輩の言わんとすることに賛同される読者も多いのではないだろうか?

 たしかに、田中君、木村課長から依頼された仕事を、昼食時間を返上して集中して取り組み、頑張って締め切り前にやり遂げ、提出した。その意味では、木村課長の「作業」を楽にしてあげたことは事実だ。

 しかし、山本先輩の言うように、木村課長の「心」を楽にしてあげていない。

 この場面を振り返ると、田中君は、何度も、木村課長に無用の心配をかけている。

 まず、「サポートが必要なら報告するように」という指示に対して、田中君から何も報告がないため、木村課長が心配になって、声をかけている。

 また、作業の進捗についても、途中で何の報告もないため、「大丈夫だろうか」と心配させている。そして、頼まれた一覧表は、締め切りより早く持ってきたが、「最後の数字の確認をしたか」という心配を、木村課長にさせている。

 これに対して、鈴木君は、どうだろうか?

 鈴木君は、頼まれた仕事を締め切りまでに提出しただけでなく、「サポートが不要であること」「締め切りまでに間に合うこと」「最後の数字の確認を行っていること」「一覧表での注記のこと」など、要所要所で、木村課長に無用の心配をかけないように報告し、課長の「心」が楽になるように行動している。

 その意味で、鈴木君は、まさに、「働くこと」の心構えを掴んでいる。

 なぜなら、 「働く」とは、 「傍」(はた)を「楽」(らく)にすること、だからだ。

 もとより、「働く」という言葉が、そうした語源を持っているか否かは、定かではない。しかし、この日本という国においては、昔から、人々の間で、「働く」ということの意味を、そう解釈するように伝えられてきた。それは、日本という国に伝わる、深みのある「労働観」と「仕事観」であろう。

 ここで「傍」(はた)とは、職場でいえば、上司や同僚、部下など、間近で働く人々のこと。そして、会社でいえば、「傍」とは、お客様のことであり、広く世の中や社会全般のこと。そして、「楽」(らく)にするとは、決して、相手の「体」を楽にすることだけではない。相手の「心」を楽にすることも、「働く」ことの大切な意味とされている。

 その意味で、残念ながら、田中君は、職場で「作業」はしているが、「働く」ことをしていない。木村課長という「傍」(はた)にいる人を「楽」(らく)にしていないからだ。木村課長の「心」を楽にしていないからだ。

 従って、この若手の鈴木君と田中君、同期入社ではあるが、上司や周囲からの評価という意味では、大きな差がついてしまう。明らかに鈴木君の方が「仕事ができる」という評価を受けるだろう。

 すなわち、我々が、このエピソードから学ぶべきことは、

 仕事においては、 相手の「作業」を楽にしたか、だけでなく、 相手の「心」を楽にしたかを、振り返れ。

 その教訓である。

 しかし、こう述べると、読者の中から声が挙がるかもしれない。

「たしかに、鈴木君の方が、田中君よりも、仕事において『心配り』や『気配り』ができますね…」

 しかし、そうではない。この鈴木君、いわゆる「心配り」や「気配り」という能力だけで仕事をしているわけではない。

「心配り」や「気配り」の本質は「深層対話力」

 実は、彼の「心配り」や「気配り」の奥には、「高度な能力」がある。

 世の中では、しばしば、「細やかに心配りをせよ」「気配りのできる人間になれ」といった言葉が語られるが、もし我々が、真に「心配り」や「気配り」のできる人間になりたいと思うならば、実は、その「高度な能力」の存在に気がつき、その能力をこそ身につけなければならない。

 では、この鈴木君の「心配り」や「気配り」の奥にある「高度な能力」とは、何か?

 先ほどの場面に戻り、鈴木君の心の動きを振り返ろう。

 鈴木君、木村課長が部長室から戻った瞬間、その姿を目に止め、その表情と雰囲気が厳しいものであることに気がついている。従って、木村課長から呼ばれた瞬間に、すでに、何か重要で緊急な仕事が発生したことを理解している。

 そして、木村課長が「必要であれば、サポートをつける」と言った言葉の奥に、「この作業は、何を置いても、夕方5時までに仕上げなければならない」という木村課長の切羽詰まった思いを理解している。

 そして、人柄は優しいが、仕事に対しては細やかで心配性な木村課長の胸中を察し、たとえサポートが不要であっても、無用の心配をしなくて済むように、午後一番に、そのことを伝えるメールを送っている。

 さらに、締め切りの5時が近くなった段階で、敢えて木村課長の席に行き、この作業が、どの段階にあるか、そして、締め切りまでに間に合う状況であることを伝えている。そのことによって、やはり、木村課長に無用の懸念をさせないようにしている。

 加えて、木村課長の心の中にある「緊急の仕事だが、数字の間違いは許されない」という思いを察し、一覧表の提出においても、「最後の数字の確認」を行っていることを先に伝え、これも、木村課長が無用の不安を抱かないようにしている。

 このように、鈴木君は、木村課長の表情、雰囲気、振舞い、声の切迫感、言葉のニュアンス、仕事の頼み方、そして、その人柄や性格などから、木村課長の「言葉以外のメッセージ」を見事に感じ取っている。すなわち、鈴木君は、木村課長との間で「深層対話」を行っているのである。

 これに対して、田中君は、基本的に木村課長の「言葉のメッセージ」しか聞いていない。すなわち、「表層対話」しか行っていない。

 そして、それが、鈴木君の能力との決定的な違いであり、上司や周囲からの評価の大きな違いになってしまっている。

「高度な仕事力」の本質は「深層対話力」

 従って、こうした鈴木君の姿に対して、ただ「心配りが細やかだ」「気配りができる」と評することは、あまり意味がない。

 なぜなら、もし我々が、仕事において「心配り」や「気配り」のできる人間になりたいと思うならば、ただ、「心配りをしよう」「気配りを大切に」と思うだけでは全く不十分だからだ。

 もし、本当に、「心配りをしよう」「気配りを大切に」と思うならば、この鈴木君のように、「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力を身につけ、「深層対話力」を身につけなければならない。

 すなわち、この冒頭のエピソードから我々が学ぶべきは、次の教訓である。

 仕事においては、 「言葉のメッセージ」だけでなく、「言葉以外のメッセージ」を感じ取れ。 「表層対話」だけでなく、「深層対話」を重視せよ。

 そして、もし我々が、この「深層対話力」、すなわち、相手の視線、表情、雰囲気、仕草、動作、振舞い、声のトーン、言葉のニュアンス、そして、人柄や性格などから、その「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力を身につけ、磨いていくならば、「心配り」や「気配り」といった次元を遥かに超えた、素晴らしい力を身につけることになる。

 すなわち、会議力、企画力、営業力、交渉力、プレゼン力、マネジメント力を始め、様々な分野、様々な職種における高度な「仕事力」を身につけることになる。

 では、この「深層対話力」を、いかにして身につけるか?

 その方法は、すでに前回の第15話において述べた。

 日々の商談や交渉、会議や会合の後、必ず、「反省」を行い、そこで起こった「深層対話」を振り返ることである。「言葉のメッセージによる表層対話」のレベルにとどまらず、「言葉以外のメッセージによる深層対話」のレベルでの振り返りを行うことである。

 しかし、「反省」において、この「表層対話」と「深層対話」を振り返るとき、この二つの対話が、ときに、矛盾したメッセージや相反するメッセージを発していることがある。

「反省」においては、まず、そのことに注意しなければならない。

 それは、なぜか?

 次回、そのことを語ろう。

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