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「1兆ドル」へ駆け上るアマゾンの意外な素顔 ジェフ・ベゾスは懐が深い経営者なのかも

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/08/17 15:00 成毛 眞
アマゾン創業者、ジェフ・ベゾス氏が求める組織とは?(撮影:今井康一) © 東洋経済オンライン アマゾン創業者、ジェフ・ベゾス氏が求める組織とは?(撮影:今井康一)

8月16日時点のアマゾンの株式時価総額は9201億ドル。これまでのペースで伸び続ければ、史上2社目の株式時価総額1兆ドル超え企業(最初の1兆ドル超え企業は8月2日に達成したアップル)になることはほぼ間違いない。アマゾンは、いったいなぜ破格の成功を収めることができたのか。成毛眞氏が近著『amazon 世界最先端の戦略がわかる』で描いたその素顔の一端をのぞいてみよう。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスの組織観がうかがえるエピソードがある。研修の際に、数人のマネジャーが従業員はもっと相互にコミュニケーションを取るべきだと提案したところ、ベゾスが立ち上がり、「コミュニケーションは最悪だ」と力説したという。

 ベゾスにとって、コミュニケーションを必要とする組織は、きちんと機能していないという証拠でしかないというのだ。

 ベゾスが求めるのは、協調などするよりは個のアイデアが優先される組織である。つまり、権力が分散され、さらにいえば組織としてまとまりがない企業が理想だという。たとえば、クラウドコンピューティングサービスの「Amazon Web Services(AWS)」を開発している部署は、リアル店舗事業である「Amazon GO」には興味がない。それがいいというのだ。

 その意味では、ローマ帝国のように勢力を広げていく、一見、何の事業会社か説明が難しいアマゾンは、ベゾスの理想をまさに体現しているといえよう。

失敗を繰り返してヒットを作るという経営方針

 ベゾスは、理系のトップらしいところが出ているように思う。たとえば、経営数値にあまりとらわれないところだ。

 公認会計士など、文系の人間は、今期の決算の数字を見るようにトレーニングされているが、理系は後付けでしか勉強していないから、自分のやりたいことをやる。キャッシュフロー経営などは、そこから生まれているのではないか。

 当然のことながら、AIなどテクノロジーへの感性も理系のほうがある。たとえば、理系には実験がつきものだ。実験したら失敗することがあることを、経験的に知っている。アマゾンは、よくベータ版を作ってテストをする。

 これは、まさにプログラミングの原理と一緒だ。コンピュータのプログラムは、とりあえずサブシステムという各部品のベータ版を作る。これと同じく、アマゾンは、あらゆるジャンルで中途半端でいいから世の中に出し、計画、実行、評価を繰り返す企業である

 たとえば、ベゾスとアップルのスティーブ・ジョブズとの違いは、そのまま会社のカラーに当てはまる。ベゾスは物理学者なので、ものごとの構造や作り方を知っている。アマゾンの経営にも、ネットを使ったテクノロジー会社を作りたいという気持ちが表れている。

 ジョブズは夢追い人であり、デザイナーだ。アップルも言ってしまえば「かっこいい」から始めた。そんなアップルは、GAFAの中でもハードウエアを作る能力が最も高い。

理念の追求に貪欲

 ベゾスは、理念の追求に本当に貪欲だ。「すべては顧客のために」を御旗に、無駄を徹底的に省く。幹部でも飛行機のビジネスクラスは禁止。とはいえ、働きに対する報酬はケチることはなく、日本では30代後半から40代後半の部長職ならば、年収は2000万円前後だという。

 また、企画会議では、6ページにまとめられたプレスリリースを模した資料を用意するらしい。それを、出席者が最初の20分をかけて読むことから始まる。パワーポイントなどスライドは使わない。

 これは、最初からプレスリリースの形にすることで、プロジェクトの完成形を作り上げ、さらに顧客目線を意識させる狙いらしいが、会議の冒頭で、出席者が資料を読むために20分間の沈黙を続けるというのはなかなか聞いたことがない。

 金融業界の経験があるベゾスが立ち上げた会社らしく、数字に徹底的にこだわる社風でも知られる。アマゾンはKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)至上主義ともいわれる。月、週、日などの期間を決めて、業務内容によって細かく設定された目標を達成したかどうかをチェックしていくのだ。たとえば小売業ならば、来店客数や客単価などの目標を定めていく。しかし、アマゾンのKPIはもっと極端に細分化して管理しているという。

 システムの稼働状況はもちろん、顧客からアクセス数、コンバージョンレート、新規顧客率、マーケットプレイス比率、不良資産率、在庫欠品率、配送ミスや不良品率、1単位の出荷にかかった時間などに細分化されている。それぞれの管理担当者に、地域ごと、倉庫ごと、システムごとに割り当てられているという。

 このKPIの数値を基にアマゾンでは毎週地域単位、グローバル単位で会議が開かれる。その会議では具体的な向上策のみを話すといわれている。各KPIには責任者がいて人事考課などにも大きく影響する。恐ろしいのは、このKPIの目標管理を0.01%単位(通常は0.1%単位)でしていることだ。

 なぜ目標を達成でき、あるいはできていないかを考え、日々の取り組みの改善につなげる。日本では楽天がこれをまねたが3カ月くらいで自然消滅したとか。

 これも、とりあえずベータ版を作り、実際に動かしてみて、改善点を見つけ出して、プログラムを修正するというプログラマーの手法と一緒だ。そのうえで、すべてのいいところを合体させて最終製品にするのだ。プログラマー出身のベゾスの面目躍如の経営手法だ。

起業時から「何でも販売するサイト」を目指していた

 その歴史についても少し振り返っておきたい。ベゾスは、ニューメキシコ州生まれ。プリンストン大学で電子工学とコンピュータサイエンスを専攻して、先物取引などを専門とする金融機関で、年金基金向けの情報システムを開発した。

 その後、ヘッジファンドに転じてここでもシステムを開発、副社長になるが、ネットビジネスの将来性を信じ独立する。ベゾスはよく「金融業界からIT業界に転じた」と経歴を語られるが、金融の実務を担当していたわけでなく、システムやネットワーク構築のエンジニア出身だ。

 1994年にインターネット書店を起業し、翌年7月16日に「amazon.com」のサイトを立ち上げる。取り扱ったのは書籍がスタートだが、ベゾスは起業時から「何でも販売するサイト」を目指していた。書籍を扱ったのは、ただ腐らないからである。また、ネットで書籍を販売するサイトも史上初だった。

 1日当たりの注文件数は当初は5、6件だったが、ネットの隆盛の時期にぴったり重なり、あっという間に大きくなる。10月までには1日100冊に達し、それから1年も経たない間に、1時間での注文件数が100冊に達した。

 アマゾンの社名は世界最大の河川であるアマゾン川に由来するが、決まるまでには紆余曲折があった。

 ベゾスは当初、呪文のような響きを持つ「Cadabra(カダブラ)」という名前を社名に使おうと考えていた。だが、アマゾンの最初の弁護士であるトッド・タルバートが「Cadabraの発音は解剖用の死体を意味するCadaver(カダバー)に似ている。電話越しに言われた場合には判別が付きにくく、印象がよくない」と反対し、ベゾスを説得した。

 もうひとつの案が、「Relentless.com」。ベゾスは英単語で「情け容赦ない」を意味する「Relentless(リレントレス)」という単語を非常に好んでいたからだ。ちょっと怖い。しかし、ベゾスは本当にこの言葉が好きなようだ。

 試しに、Relentless.comにアクセスしてみてほしい。怪しげなサイトにつながりはしないので安心してよい。リダイレクトされて、amazon.comにつながるようになっている。いくら、「Relentless」が好きとは言え、いまだにこんなドメインを保有しているとは、よほどこだわりがあるのだろう。

日本のブラック企業が生ぬるく見える過酷さ

 ベゾスはアップルの故ジョブズやフェイスブックの創業者のマーク・ザッカーバーグ、テスラモーターズ最高経営責任者のイーロン・マスクなどに比べると日本ではなじみがないかもしれない。

 はたしてどのような人物なのか。『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)を読むと、彼の一面をうかがい知ることができる。

 部下には長時間労働や、週末の休みを返上して働くのを強いるのは当たり前。有能でなければズタボロに捨てられ、有能な人物ならもうダメというところまで働かされる。日本のブラック企業が生ぬるく見える過酷さだ。

 ちなみに、求める人材は「どのような課題を与えられても、さっと動いて大きなことをやり遂げられる人物」とか。そのような有能な人物は自ら起業してしまうのではないかと思ってしまうが。

 会議の席でベゾスの意に沿わないと当然ながら罵倒される。「オレの人生を無駄使いするとはどういう了見だ?」と言うらしい。いちいち怖い。別のミーティングでは「そんなに頭が悪いのなら、1週間ほど考えて少しはわかるようになってから出直してこい」と罵ったことがあったとも。

 怒りが爆発したときはすさまじく、怒るときには感情を抑えることができなくなるため、感情を制御するために専門のコーチを雇っているとのうわさもあるほどだ。

 同書(『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』)は、ベゾスの恐怖政治の側面や勤労環境の厳しさを浮き彫りにしているが、ベゾスは著者に社内の取材の許可を出している。当然、取材すればベゾス本人や会社の評判にマイナスになる情報が出てくることは理解しているだろうから、実は懐が深い人物なのかもしれない。

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