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「使えない」辺野古新基地と幻の代替案

BUSINESS INSIDER JAPAN のロゴ BUSINESS INSIDER JAPAN 2017/04/18 渡辺 豪

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への代替施設建設をめぐり、政府は近く「不可逆」とされる埋め立て作業に着手する。最も肝要な「県民の理解」を得ず、既成事実の積み上げにまい進する政府に改めて問いたい、本当に「辺野古が唯一」なのか。

名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沖で再開されたボーリング調査(2016年11月12日) © 沖縄タイムス提供 名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沖で再開されたボーリング調査(2016年11月12日)

「公明、県内陸上案を検討」

昨年10月、普天間飛行場の移設先に関し、沖縄の地元紙に掲載された記事に注目が集まった。

「県内陸上案」とは何か。

「名護市辺野古の埋め立てによる滑走路建設ではなく、キャンプ・シュワブ、ハンセンいずれか」 (2016年10月20日付沖縄タイムス) に代替施設を建設する案だという。 キャンプ・シュワブ、キャンプ・ハンセンは、いずれも沖縄本島北部の米海兵隊演習場だ。現計画はキャンプ・シュワブの半島先端部をかすめる形で海域を埋め立てる案だが、「県内陸上案」は埋め立てを伴わない内陸部の既存基地内に造る案である。この案を「検討対象の一つ」として論議している、と報じられたのは公明党の「在沖縄米軍基地調査ワーキングチーム」(以後WT)だ。WTは昨年6月に発足。きっかけは昨年4月に沖縄県内で起きた元米海兵隊員の米軍属による女性暴行殺人事件だった。

辺野古以外も検討していた公明党WT

公明党関係者はこう話す。

「事件後、政府と米軍は再発防止を強調しましたが、党として沖縄県民の感情に寄り添ってもう少し踏み込んだ対策ができないかと、ゼロベースで沖縄の米軍基地の在り方を議論することにしたのです」

「ゼロベース」議論の中には、普天間の移設先として「辺野古」以外の選択肢を検討することも排除されていなかったという。WTは公明党の国会議員と沖縄県内の地方議員で構成。沖縄、東京で会合を重ね、基地視察のほか有識者や外務・防衛官僚のヒアリングも行っている。

公明党内部の状況については少し説明が必要だろう。 党の沖縄県本部は辺野古新基地建設に「反対」し、県外・国外移設を求める立場だが、東京の党本部は自民党とともに「推進」のスタンスで、地元と中央の間で「ねじれ」が生じている。

地元の党関係者はこう明かす。

「現行の辺野古案以外の有力案として検討されていたのは、軍事アナリストの小川和久氏の案です」

静岡県立大学特任教授の小川氏に取材を申し込むと、こんな答えが返ってきた。

「私は1996年の普天間返還合意以来の当事者です。日本側の当事者能力の不在に失望しています。私が提案した以上の構想が出ていないからです」

「当事者」を自認する小川氏の強い思いにひかれ、4月中旬、取材に臨んだ。小川氏は開口一番、こう言った。

「米軍は冷ややかに見ていますよ。軍事的合理性から見れば、まったく使えない施設ですから」

有事のときは那覇空港を使う

安倍政権が強行する辺野古新基地建設が「使えない」とはどういう意味なのか。 最大の要因は「キャパ不足」だという。

「辺野古案は普天間飛行場の38%のキャパしかありません。これでは有事に対応できないのです(小川氏)

日本に展開している米海兵隊第1海兵航空団は456機を保有し、日本への配備は約100機。在日米海兵隊の航空基地は普天間のほか岩国基地(山口県岩国市)があるが、有事には「普天間だけで300機規模に膨れ上がり、それだけの収容能力が必要。同時に海兵隊の飛行場は4〜5万人規模の陸上部隊と装備品を受け入れられなければならず、少なくとも普天間の広さは不可欠」(小川氏)という。

これを裏付ける記事が4月12日付朝日新聞に掲載された。 米政府監査院(GAO)が発表した米海兵隊のアジア太平洋地域の再編に関する報告書で、「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古への移転計画に関し、移転先の滑走路が『特定の飛行機には短すぎる』と指摘した。GAOは、同県内で代替の滑走路を探すよう求めている」というのだ。

報告書はさらに、「現行の普天間飛行場の滑走路(約2700メートル)はオスプレイのような回転翼がついた航空機や、災害時の国連の緊急対応など様々な用途で使われていると説明。そのうえで、辺野古に建設される予定の滑走路は『同様の作戦の要件を十分に満たさない』と指摘」している。 小川氏は言う。

「GAOは日本の会計検査院と行政監察の機能を高いレベルで兼ね備えた組織で、国防総省の戦略的判断や装備の調達計画をも修正させるパワーを持ちます。米国側は現行の辺野古案の不備を認識しつつ、日本政府に付き合ってきた面があるのですが、マティス国防長官の時代になってリアリティを優先する雰囲気が出て、GAOも腰を上げたのかもしれません」

米軍再編で普天間の移設先が現行案に決まったあとの2010年、米国防総省の高官は 小川氏にこう説明したという。

「普天間問題は早く決着をつけ、日米同盟が安定的に運用されているのを中国に見せることを最優先しました。海兵隊には泣いてもらいましたが、辺野古は使い物にならないので、有事の際は那覇空港を使うことになります」

有事には民間機の発着が限定される那覇空港を海兵隊航空基地に充てるというのだ。

米軍普天間飛行場の移籍先として新基地の建設が予定されているキャンプ・シュワブ(2016年12月12日) © 沖縄タイムス提供 米軍普天間飛行場の移籍先として新基地の建設が予定されているキャンプ・シュワブ(2016年12月12日)

引き継がれた掛け違えのボタン

小川案の中身はどうなのか。最優先すべきは「普天間飛行場の閉鎖による危険の除去」との認識から、2段階に分けて整備を図る構想だ。24機のオスプレイを始めとする普天間所属機の仮移駐先として、小川氏はキャンプ・シュワブの陸域を想定。仮移駐先の用地は2日間で更地にし、基本的な航空施設を1カ月以内に整備する。自衛隊は日米共同の転地訓練でこうした能力を保持しているという。仮移駐先にはその後、1年半以内をめどに段階的に2000m級滑走路を建設する。

移駐先の本命はキャンプ・ハンセンだ。WTのヒアリングで小川氏はこう説明したという。

「軍事的合理性などを加味すると、ハンセンの陸上案以外にはありません。東日本大震災後は特に、津波と高潮の課題が重視されています。辺野古はそういう面からもNG。沖縄県内で50メートル以上の標高に用地を確保できるのはハンセンだけです」

小川氏が普天間問題の当事者と自認するのには理由がある。橋本、小渕、小泉、鳩山政権で公式・非公式を含め普天間問題に関して助言を求められ、地元沖縄だけでなく米側との交渉にも当たってきた、との自負があるからだ。

小川氏が最初にハンセン陸上案を政府に提言したのは96年6月だという。日米が普天間返還合意した2カ月後だ。小川氏は当時、自民党総務会長の塩川正十郎氏に沖縄問題への対応のアドバイスを求められ、描いたばかりの「ハンセン陸上案」を説明した。

「塩ジイは、これで解決できるなあって言ってくれて、梶山(静六)のところへ行こうと言われて、議員会館の梶山事務所へ連れていかれた」(小川氏) しかし、梶山官房長官は小川氏に名刺すら渡さず、話を聴こうともせず、こう告げた。

「岡本行夫に評論家なんてやめて泥をかぶれと言ってんだ」

北米局北米第一課長などを務めた岡本氏は91年に突如外務省を去り、国際コンサルタント会社を設立。95年に沖縄で起きた3米兵による少女暴行事件を機に、「沖縄問題」が橋本内閣の最重要課題に浮上する中、梶山氏の知遇を得ていた岡本氏が「密使」として沖縄とのパイプ構築に尽力していた。岡本氏は後に、名護市長を「辺野古移設」受け入れ容認に導く上で主要な役割を果たす。

小川氏はこう言う。

「梶山さんはボタンを掛け間違えた。辺野古移設の流れは、そのまま梶山さんを師と仰ぐ、今の菅(義偉)官房長官に引き継がれたのです」

ハンセン陸上案は、96年12月のSACO(日米特別行動委員会)最終報告の段階で検討対象から除外されている。「演習場の真ん中に滑走路を造れば、演習ができなくなる」との米軍内部の反発が理由だという。これについて小川氏は「米側に否定されたのは防衛省が出した案でナンセンスな代物だった」と言う。小川氏のハンセン陸上案は別物だからだ。小川氏は、最適な代替地はキャンプ・ハンセンのチム飛行場跡地だという。チム飛行場は米海軍が45年の沖縄占領直前、日本本土爆撃の拠点とするため10日間で設営。戦後すぐに不要になり、跡地には米海兵隊の隊舎が建設されている。

「キャンプ・ハンセン南端の、この場所であれば訓練に支障は生じません。両端を延ばせば、普天間と同規模の2500メートル以上の滑走路建設も可能です」(小川氏)

小川氏は、米国のゼネコンが同規模の軍用飛行場を1年半の工期で建設した資料を米政府に提示したこともあるという。 公明党WTは昨年11月、提言書の提出時期を当初予定していた「16年内」から「17年春」に変更すると発表。「17年春」を迎えた今も、WTは報告書提出に至っていない。公明党広報部に問い合わせところ、「議論継続中」(4月5日)との回答だった。

公明党内部でいかなる政治力学が働いているのかは不明だが、「今の情勢でWTの報告書に普天間問題に関する記述が盛り込まれる可能性はほぼゼロ」(地元の党関係者)との声も聞かれる。しかし、普天間問題の先行きは依然流動的である、と筆者は考える。

軍事的合理性、災害時対応、工期、コスト、利権、ジュゴンやサンゴなど海域環境への影響、そして「新基地建設」というハードル……。沖縄世論の反発が大きい県内移設案の中でも、さまざまな面から筋悪の「辺野古」に政府が執着した結果、失いつつあるものの大きさに暗澹たる思いを抱かずにはいられない。

1968年兵庫県生まれ。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。主な著書に『「アメとムチ」の構図』(沖縄タイムス)、『日本はなぜ米軍をもてなすのか』(旬報社)、共著に『普天間・辺野古 歪められた二〇年』(集英社新書)

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