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「年金5兆円運用損!」参院選争点隠しの安倍政権の狡猾

プレジデントオンライン のロゴ プレジデントオンライン 2016/07/09 藤野 光太郎

英国EU離脱で日経平均1200円超暴落

6月23日(現地時間)に実施された国民投票で、EU離脱を是とした英国。そこを震源に世界が大きく揺れている。予想通り、スコットランドでは英国からの離脱のうねりが再燃し、意表を突く形でロンドン市でも英国離脱の動きが浮上。他のEU主要国の離脱可能性まで囁かれ始めている。

最も懸念されているのが、世界的な株安の再発と連鎖だ。6月24日の東京市場では、日経平均株価が前日の終値から1200円超の大暴落。その後も国民投票前とはほど遠い水準にある。これが国民の生活に直結するのが、国民から預かった巨額の年金基金を株式に投資しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用損である。GPIFからの正式な公表は例年よりも先延ばしされているが、漏れ伝わる情報で報じられた2015年度の運用損は約5兆円と見込まれている。

GPIFは、国民年金と厚生年金の積立金を国民から預かり、その資金を債券や株式に投資して「安定的に運用」する厚労省所管の独立行政法人として、06年に設立された。運用を委託されている金は実に約140兆円となる。米国最大の公的年金カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)が運用する基金約30兆円と比べれば、その巨大さが伺える。民間の機関投資家とはスケールが違うのだ。

GPIFが公式サイトで公表している運用実績のデータと厚労省の管理データを照合すれば、平成26(2014)年度までの運用損益の正確な金額を照合・確認できる(ファイル14ページ参照*)。

*http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/tsumitate/tsumitatekin_unyou/dl/houkokusho_h26_01.pdf

年次推移からこれまでに最大の運用損益を出した年度の運用損益と資産額をピックアップすれば、運用益の最大が2014年度の15兆2627億円(資産額145兆9323億円)、運用損の最大が9月にリーマン・ショックのあおりを受けた08年度の9兆3176億円(資産額123兆8381億円)だ。トータルではひとまず運用益が勝っている。

但し、GPIFの株式投資で動く運用損益は、その実績値からみれば数千億~十数兆円の単位である。当然とはいえ、とてつもない振れ幅だ。株式の市況次第で相応の株を放出しようにも、その膨大な分量ゆえに市場がパニックに陥る懸念があり、容易には売り出せない。慎重なエコノミストたちはこれまで「株式市場に異変が勃発すれば、国民の年金に致命的な打撃を与えるだろう」と警告してきた。

「年金5兆円運用損!」参院選争点隠しの安倍政権の狡猾 © PRESIDENT Online 「年金5兆円運用損!」参院選争点隠しの安倍政権の狡猾

年金運用損はさらに膨らんでいる予測も

ところが、株価の上昇によって景気の上向きとアベノミクスの成功を国民に印象づけようとしたのか、安倍内閣は14年10月31日、アベノミクスに基づいて日銀がマネタリーベースを年80兆円に拡大する追加金融緩和を発表したと同時に、GPIFの運用見直しを断行した。安定した投資先である債券中心の運用をやめて、外国株を含む株式投資を24%から倍以上の50%にまで可能にしたのだ。つまり、国民から預かった140兆円という巨額年金資産の半分を、債券とは対照的に値動きの激しい株式に突っ込み始めたのである。

この見直しの5カ月後に始まった15年度の年金の会計は今年3月末に締めている。当然、50%投資で生じた成績はすでに弾き出されているはずだ。貸借対照表や損益計算書など財務諸表については、各事業年度の終了後3カ月以内に所管大臣に提出することになっている(独立行政法人通則法38条)。過去3年度の経過記録を見ると、順に6月24日、同20日、同21日には運用委員会に財務諸表が提出されており、各々が同年の6月24日、同26日、同27日に厚労大臣に提出されている。従って、目安としては遅くとも6月末までの提出が常態と理解してよいスケジュールだ。

「例年だと7月初旬には公表されてきたのに、今回は参院選後の7月29日に公表するというんですね。誰が考えても、昨年度の運用成績は選挙で安倍政権のブレーキになる結果だったのだろう、と推測するしかなかったわけです」(全国紙経済部記者)

7月29日に公表されるのは財務諸表とは別の「業務概況書」(前年度では約80頁)だが、前述のように、すでに漏れ伝わってきた運用損が、米ブルームバーグの報道を端緒に国内主要メディアからも「5兆円台前半」と報じられた。

しかし、7月29日に公表される15年度の業務概況書では、既報の「5兆円台前半」を大きく上回る運用損が出る懸念もある。さらに、英国EU離脱に始まる今年のヨーロッパの大波乱は、来夏に発表される16年度の運用損を数十兆円規模にまで膨らませるのではないかとの危うい予測も飛び交っているのである。

焦る素人が損に損を重ねる典型

将来的な年金の財源不足が予測されて久しい。もともと年金は国民が税金とは別建てで国に預けたお金であり、「財政赤字だから支払う財源がなくなった」との弁明は通用しない。年金積立金は国が“別の財布”に保管しておくべきであり、2004年に大問題となったグリーンピア事業等への流用のように、国民に無断で他の歳出にあてがうようなマネをしてきた国には重大な瑕疵がある。

国民から預かる年金積立金を、国内株上昇の偽装としか思えないタイミングで株に投げ入れてきたGPIFと安倍政権は、国民の税金を預かる立場として無謀・無責任の誹りを免れないのではないか。借金に心を痛める妻に「ギャンブルで取り返す」と息巻くダメ夫のようなもので、焦る素人が損に損を重ねる典型である。

しかも、それは「安定した運用を担うべき基金」であるにも関わらず、株式投資の可能比率をいきなり半分にまで押し広げ、こともあろうか、ヘッジファンドやハゲタカファンドが跳梁跋扈する鉄火場に投げ入れるなどという所業が、なぜ平然と行われているのか。

ソロス氏と安倍首相の意外な接点

GPIFが株投資50%への運用転換へと舵を切ったのは前述のように14年10月31日だが、安倍内閣でそれが起案され、推計資料が集められ、試算が作成されて関係官庁や族議員・財界などに根回しされ、構想がまとまり合意されるまでには、少なくとも半年以上が費やされたはずだ。逆算すれば、起案は少なくともその半年以上前であることが容易に推察できる。おそらくは、遅くとも同年の春先には「株式への投資枠を大幅に拡張」という方針が内閣から厚労省を通じてGPIFに伝えられたはずである。

一方、外務省の記録によれば、今年1月下旬にスイスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(通称「ダボス会議」)で、安倍首相は著名な投資家ジョージ・ソロス氏と会談している。

ソロス氏は、四半世紀前の1992年、英国政府の為替介入に対抗したポンドへの空売りで約1500億円の利益を得、「イングランド銀行を潰した男」として世界的に知られるようになった人物。慈善事業家という顔も持つ。今年4月に世界中を騒然とさせたオフショア金融市場の膨大な顧客情報、いわゆる「パナマ文書」を公開したのは国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)だが、その母体である米国の非営利調査報道団体「センター・フォー・パブリック・インテグリティ(CPI)」が、他ならぬソロス財団の資金提供を受けてきたことは米国では広く知られている。

GPIF運用転換の年初にも接触

ソロス氏は13年にアベノミクスの量的緩和による円安で1000億円超の利益を得、自ら創始したヘッジファンド「クォンタム・ファンド」も6000億円にも届きそうなヘッジファンド史上最高額の利益を上げたと報じられているが、今年は年初から「世界経済は危機の入り口にいる」「リーマン・ショックを思い出す」などと発言、注目を集めていた。5月の伊勢志摩サミットで安倍首相が「世界経済はリーマン・ショック前に似た状況」と発言し批判を浴びているが、同じ認識を持っていたのは安倍氏だけではなかったようだ。

5月に市場への現役復帰が伝えられたソロス氏は、英国のEU離脱を決定づけた投票日の翌日(6月24日)に、自ら所有するドイツ銀行株の空売りを手掛けていたことが報じられた。周知のように、空売りは株価下落に乗じて儲ける手法。仮に同日最高値のタイミングで売り出していたのであれば、今回も一挙に百十数億円を得た計算になる。

安倍首相と、ダボス会議の常連といっていいソロス氏との会談は、実は今年1月だけではない。GPIFの運用転換が実施された2014年にも、1月のダボス会議で安倍首相はソロス氏と面談しているのである。株投資50%への拡張の舵切りが同年10月末。前述のとおり同年春先までにそれが起案され、準備が始まっていたとしたら、両名の密談内容が気になるところだ。相手は、持ち前の政治力を駆使して世界的なニュースと連動するかのごとく動く超大物投資家である。一国の首相が安易に近づいてよいものか、大いに疑問が残るところだ。

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