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「謝ったら死ぬ病」という現代の社会病理

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2018/10/11 21:00 山本 一郎

 最近身近なところで「謝ったら死ぬ病」に罹患している人を見かけます。

 どこかの出版社の社長さん、筋の悪い方策に拘泥して自縄自縛となりさんざんネットで暴れた挙句、自分で吐いた唾を全量飲み干している姿を見ると涙で液晶画面が見えなくなります。

気づいたときに試される

 あ、間違ってるのにそのまま突っ走っていったぞ、と第三者が勝手にやらかしてコケて大炎上するのは、普通に見ていて面白いわけなんですが、これがうっかり政府がらみだったとか、業界全体の浮沈や存亡が問われるとか、そういういろんな人を巻き込むような話だと「あっ、どうしようもないトップが、またくだらない意志決定をしているのか。止めなくては」となるのが人情です。もちろん、局面局面で指さして笑うお作法もあります。馬鹿に権限を持たせるとロクなことにならないのは、先の大戦で日本人が命を代償にして学んだことだったはずなのですが。

日大アメフト部の謝罪 ©AFLO © 文春オンライン 日大アメフト部の謝罪 ©AFLO

 その一方、別の出版社では過激な国粋思想の記事を掲載して燃えたあとで、自社の別媒体で自己批判がなされてて、これはこれで健全だなと思ったわけです。「まずいな」とか「しまった」などと思ったら、パッと謝ってしまえと簡単に言うのは問題だけれど、問題は問題と気づいたときにどう対処するのかでその人物や組織の器の大きさが試される、という部分はあるのかもしれません。そして、往々にして思い込みや被害妄想の強いトップは、人の意見を聞き入れる以前に自分自身の中で自家撞着に陥ってしまうこともまた、多いのです。

昨今の政治と「ああ、やっちまったな」

 物事は、すぐに結果が出ることばかりではありません。経営でも建築でもコンテンツ開発でも、何か目標を設定し、取り組んでいく過程では外野の声が大きく聞こえることは確かにあるでしょう。夏に鳴く蝉のように、当事者ではない人たちが横から「それは失敗だ」「どうせうまくいかない」と半笑いで揶揄して来て仕事の邪魔をすることは往々にしてあり、それでも折れない心で立ち向かう人こそが、物事を完成に導くことができる側面はあります。気持ちの強さもトップに必要な要件であることは間違いないのです。

 ただし、それは正しい努力をしている、間違いのない道のりを歩いている場合のみです。他人からの批判を受けながらも、結局は作り上げるのは自分です。「途中だけ見ていると文句をつけたくなるけど、完成してみたら良い出来だった」という結果が得られることは往々にしてあります。自分の仕事にこだわりを持ち、他人からの横やりにめげずやり遂げるのも必要だし、その辺は機微なんだろうなあと思います。

 昨今、政治が抱えるさまざまな政策審議で起きている事件の数々は、この手の問題意識の集大成とでもいえるものばかりです。何しろ、どの事件、事案も、外野から見て「ああ、やっちまったな」という内容ばっかりなんですよね。文科大臣が記者会見で定番の質問に乗せられて教育勅語の必要性について語り、通信ブロッキングは問題山積の状況を正面突破しようとしてにっちもさっちもいかなくなり、科学技術政策担当大臣がEM菌推進議連にいたりする。沖縄県知事選では野党が支持する玉城デニーさんが勝ち、ようやく移転した豊洲市場ではいまだに築地万歳のネタも沢山乱舞しています。何より肝心のアベノミクスも、いまやこれを評価して推進しようというまともな経済学者は本当にひとりもいなくなりました。本当に、ひとりも賛同者がいないと言える状況です。ヤバイと思うんですよ。そんな経済政策を堂々と推し進める政権って、さすがにちょっと危なくないですか。

失敗の積み重ねがもたらすもの

 いつの間にか、増税前提で軽減税率の在り方を巡って、コンビニでは普通に食材を買うのは軽減税率で、イートインを使ってその場で食べるのは軽減税率が適応されないとか、ほんと意味が分かりません。何なんですか、これは。聞き及ぶ限りでは、なかなか状況の厳しい創価学会と公明党の間で綱引きがあって、「戦争法案」と揶揄された安保法制まで賛成させられた”与党”の代償として「生活必需品の増税は見送り」という意見に押されたのだとか。ほんまかいな。そんなら生活必需品に増税されたら負担に耐えられなくなるような世帯には直接給付したほうが軽減税率使ってみんな大混乱するよりはよっぽどコストが少なくやっていけるんじゃないかと思うんですが。

 それとも、物品税でも復活させますか。ボードウォークに建ってるホテルの手前で75ドル払うモノポリー的感覚でいますけど。

 細々とした政策の失敗が積み重なっている安倍政権3期目ですが、それでもどうにかなっているのは景気が良いからで、まあまあ飯が食えて、就職したければそれなりに仕事がある状態なので、若い人が支持しています。仕事があるというのはとても大事なことです。ただ、景気が悪くなったらどうなるのか知りません。ようやく都市部も地方もどの産業も概ね人手不足の状況が行き渡ってきたので国民の賃金も上がっていくのかなと思ったら、人手不足の産業界がワーワー言った結果、政府が外国人受け入れ政策を「大転換」することになってしまいました。新たな在留資格を創設して、単純労働の分野でも労働者として正式に受け入れるそうです。もうね、賃金上昇は大事なファクターだってみんな分かってるのに、低賃金で働く労働者を海外から入れるのを促進しましょう、って、それまたデフレになるじゃねーか。それに、何よりも受け入れ準備とか社会的コストとか全然考えてないよね。地方経済を回す大事な要素として外国から来た労働者を使わざるを得ないというのは分かるけど、どうやって彼らを遇するの。日本人の数が減り、若者が地方からいなくなって、景気が良いから都合よく安価な労働力と入れてきて、そのあとのことを考えていないのではないか、と。

声の大きい人の話を聞き続けた結果

 外国人も立派な人間であって、彼らも日本で暮らし、家族を作り、子供を儲けて日本に定着する可能性があります。景気が悪化して労働力がだぶつき都合が悪くなったら帰国してくれるとは限りません。当然、地方に暮らしている外国人たちは自分たちの権利を守るために参政権を求めたり、日本人と同じような生活を求めてくるでしょう。当たり前ですよね、人間なんだから。労働者として外国人が日本にやってくること自体は反対しないまでも、彼らに日本を良く知ってもらい、どう日本の中で時間をかけて共存していくべきなのか、もう少しちゃんと考えておくべきなんじゃないですかね。

 対応するべき課題も重要な政策も、場当たり的に取り組むから、間違っていたときに責任を取りたくなくて突っ張るハメになる。社会保障改革も教育改革も少子化対策も「今までのやり方では間違っていました」と分かっているのに、ごめんなさいして修正をかけることすらできなくなりつつあります。声の大きい人の話を聞き続けた結果、国民や社会全体の利益が後回しになったりしていませんかね。

修正することと、リスクを引き受けることと

 本来は、そういう政治であってはいけない、間違っているモノをもう少しきちんと軌道修正し、幅広い意見を吸い上げられる仕組みを与党野党の間で調整していくべきところが、野党が血道を上げる政権批判の骨子がモリカケだったりして、そんなパフォーマンスで国民の生活が向上するような議論に資するわけがないだろうと思うわけです。まあ、この辺は筋の悪いスキャンダルで政権を追い詰めようとするメディアの側にも責任はあるのですが、肝心なところでイデオロギーが邪魔をする。立憲民主党も左派だけの支持ではなく中道派やノンポリの国民の請託も受けられるよう追い風を求めたいはずなのに、重要な政策議論で存在感を示すことができないから、せっかく新党が立ち上がったのに期待感が剥げ落ちて支持率一桁前半とか、どうしようもないなと思うわけです。

 たぶん、みんなこのままじゃいけない、日本社会は衰退を受け入れざるを得ないと思ってはいると思うのです。ただ、声を上げようにも受け皿はなく、安倍晋三のやることを容認していかなければならない。もちろん、民主主義ですから、自由民主党が政権を取りました、公明党と連立ですと言われれば、それは尊重しなければならないし、党内での決め事で総裁選に三選したのだから、安倍ちゃんは立派な宰相だとも言えるでしょう。でも、それは安倍ちゃんが最善だからというよりは、他に良い人がいないからという相対的なものだということは国民もうすうす気づいていると思うのです。どの世論調査を見ても、支持する理由は「他に相応しい内閣がないから」、不支持の理由はだいたい「人柄が信頼できないから」です。もうこの状況は安保法制ですったもんだする前からずっと続いているわけですよ。

 当然、在庫一掃内閣と言われたり、全員野球内閣と名づけるとみんなライトを守ってるとか揶揄されるわけですけど、それ以上に、政策議論の不実さ加減は相当なものです。これで、本当に憲法改正とかやるんでしょうか。安倍政権が概ね支持されているのは経済が回っていてそこそこ好況だからで、この前提が崩れたらどうしようもないことぐらい分かっていると思うのですが、そろそろ身近な人が、安倍ちゃんに「大将、そろそろ服着ませんか?」とやんわり言ってあげられないものかと思ったりもするんですけどね。風邪ひきますよ。

(山本 一郎)

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