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カルロス・ゴーン氏弁護団会見で露わになった、日本の司法の前近代的システムに海外メディアが驚愕

HARBOR BUSINESS Online のロゴ HARBOR BUSINESS Online 2019/01/12 08:32

「I am innocent(私は無実だ)」

 会社法違反の特別背任容疑で東京地検特捜部に再逮捕された日産自動車前会長のカルロス=ゴーン氏は1月8日、東京地検の法廷でこう繰り返した。50日にわたる拘留生活で頬はこけ白髪も増えたが、眼光は鋭かったという。東京地裁や東京拘置所前には、日本のメディアのみならず海外プレスも殺到し、法廷内のゴーン氏の一挙手一投足を伝えた。

 午前中の過熱報道が終わり、午後には第2ラウンドが始まった。ゴーン氏の弁護人を務める元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士はじめとする弁護団が、日本外国特派員協会にて200超の報道陣を前に2時間の会見を行ったのだ。ムービー取材は39社と、特派員協会史上最多となった。

◆事件の本丸は10年前の特別背任

ハーバービジネスオンライン: 1月8日、日本外国特派員協会で会見を行ったカルロス・ゴーン氏の弁護団 © HARBOR BUSINESS Online 提供 1月8日、日本外国特派員協会で会見を行ったカルロス・ゴーン氏の弁護団

 特捜が本丸に据えるのは、ゴーン氏の特別背任である。新生銀行と契約した「スワップ取引」で生じた私的な損失を日産に付け替えたという疑いだ。大鶴弁護士は「ゴーン氏と日産、取引銀行の3社で合意形成があった」と、特捜部と正反対の主張を展開した。

 問題の契約をゴーン氏に戻すにあたり、信用保証に協力したサウジアラビア人の大富豪、ハリド=ジュファリ氏への見返りに日産子会社の「中東日産」を通じて約1470万ドルを支払った疑いについても否定。大鶴弁護士は後輩にあたる特捜捜査員に「正当な報酬。検察は知人側から聴取していない」「もう少し慎重な捜査をしてほしい」と苦言を呈した。

 この特別背任疑惑は10年前のもの。特別背任罪の公訴時効は7年。当時の日本人関係者はすでに時効になっている。ゴーン氏は海外生活が長いので、時効になっていないという理由で逮捕された。

「ゴーンさんだけが海外にいたという理由で逮捕されるのは非常におかしい」と大鶴弁護士は不満を口にした。さらに、ハリド=ジュファリ氏は「支払いは正当なビジネス目的」と米国のPR会社を通じて声明を発表した。

◆田中康夫氏の質問に驚く海外メディア

 海外メディアはどう見たか。米国CNNは「追い出された日産会長のカルロス=ゴーン『私は無実』と話す」、『ニューヨーク・タイムズ』は「ゴーン氏無罪を主張」とゴーン氏側に立った記事を配信。AFP通信は、手錠と腰縄を付けてスリッパ姿で入廷したゴーン氏について「7週間に及ぶ東京拘置所での生活が活力を奪った」と伝えた。

 フランス紙『フィガロ』の記者からは、会見でゴーン氏の拘置所での処遇について質問が出た。

「元検察官として今回は違う側で事件に関わっているが、拘置所の中では話すことも立つこともできないなど聞く。拘置所の中の状況は正しい扱いなのか。それは本当の意味での正義なのか」

 海外メディアは総じて、日本の司法の前近代的なシステムを批判的に報じた。そして、2時間に及ぶ会見で最後に質問に立ったのは作家の田中康夫・元長野県知事だった。

「今、法廷でのやりとり、あるいは大鶴基成弁護士のお話をお聞きしていると、私は不起訴となる蓋然性も極めて高いというふうには思っておりますが、しかしながら日本の特捜部の蓋然性として、起訴というものも少なからず高いという中でお聞きします。

今回、起訴が仮にされるという場合に、サウジアラビア中央銀行の理事でもあられる方の側への送金が特別背任に当たるという場合、このハリド=ジュファリ氏に対する東京地検特捜部の聴取は未了のままでの起訴ということになるわけでありまして、また今後も証言を得られる見通しというものは極めて低いという中で、起訴および裁判という展開になるかと思います。

この場合に、なおもカルロス・ゴーン取締役の保釈に検察が反対し、東京地裁も保釈請求を却下した場合、このジュファリ氏との証人尋問が実現しない限りは、ゴーン取締役は裁判が終わるまで保釈されないという、およそ法治国家としてはあり得ない深刻な事態に陥るということが考えられます。

こうした場合に検察側が出る、こうした行動に検察側が出るという可能性に関して、弁護団としてはどのようにお考えになっているでしょうか。

また、保釈請求が却下された場合に、これに対して具体的などのような対応を取られるのか。現状、本日お越しの3名の弁護団の体制で今後も対処されるのか、この点をお聞きしたいと思います」(田中氏)

 フランスの経済事件は逮捕されても1日2日で出所する。ゆえに「裁判が終わるまで保釈されない」という可能性があるという田中氏の発言に対して、海外プレスからはざわめきが起きた。

◆「人質司法」という人権無視の横行

 大鶴弁護士は次のように答えた。

「検察は11日までにはおそらく間に合わないのではないかとは思いますけれども、司法共助という仕組みもありますので、公式にサウジアラビア政府に要請をして、ミスターEさん(ジュファリ氏)の話を聞けるように、たぶん手続きを進めていくのではないかと思います。そこは分かりませんが、そうではないかと思います。

それから先ほど、裁判が終わるまで保釈が認められないのではないかというようなご主旨のお話がありましたが、本件でいうとどうなるかがまったく分かりません。分かりませんが、一般的にいうと、第1回公判までは保釈が認められないケースが非常に多いです。

これを“人質司法”などと呼んで、弁護士は強く批判しているわけですけれども、『裁判が終わるまで保釈が認められない』ということはたぶんなかなかないだろうと。

ただ、この事件で第1回公判がいつになったら開かれるのかなんとも分かりませんが、仮に金融商品取引法違反の起訴と、それから今回の特別背任だけであったとしても非常に難しい事件です。かつ証拠も英語のものも日本語のものも、いろいろ混在していますので、第1回公判が開かれるまでたぶん半年以上はかかるかもしれない。

一般的には特別背任を全面的に否認していると、少なくとも第1回公判までは東京地裁の令状部は保釈を認めないケースが多かろうと思います。それは弁護人としていちばん懸念しているところですし、その話はゴーンさんにもずっとしています。ゴーンさんもそれは非常に困ったことだというふうに考えておられると思います」

 大鶴弁護士は「裁判が終わるまで勾留されることはない」と楽観的に語ったが、特捜に詳しいあるジャーナリストは「保釈を認めない最大の理由は、証拠隠滅の恐れです。この理屈では、ゴーン氏が容疑を認めない限り、判決が出るまでの勾留を許すことになりかねない」と警告する。

 特捜vs.ゴーン氏の全面対決が幕を切って下ろされた。事件はどうなるのか、今後も目が離せない。

<及川健二(日仏共同テレビ局France10記者)>

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