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ポケモンGOで「日本の引きこもりが外に出る」は本当か

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2016/07/27 池上正樹

「海外では、精神科医が対処できなかった“引きこもり”が全部外に出るようになった」

 そんな麻生太郎財務大臣の発言で話題になっているのが、22日に日本での配信が始まったスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」。麻生大臣は、「G20」財務相・中央銀行総裁会議を前に「精神科医より漫画のほうが、よほど効果が出るのがいちばん大きいんじゃないか」とも語ったと報じられている。

 実際、先行配信されたアメリカでは、自閉症の子どもが「ポケモンGO」を始めた途端、外に飛び出し、知らない相手と情報交換やハイタッチまで交わすなどの嬉しい変化が現れたことを受け、「息子にとっては殻を破るきっかけとなった」という記事も紹介されている。

「ポケモンGO」を始めると、外に出るというのは本当なのか。

引きこもり当事者がポケモンGOをやらない理由

 筆者は、報道されている変化などの効果のほどを検証しようと思い、ふだんネットを使っている周囲の20人近くの当事者たちに聞いてみた。

 すると、意外というべきなのか、やはりというべきなのか、メディアでの盛り上がりぶりとは裏腹に、「ポケモンGO」をしている当事者は、比較的元気な人たちも含め、筆者が聞いた範囲では誰もいなかった。

 その理由を聞くと、最も多かったのが、「アプリをダウンロードできない」端末しか持っていないというものだ。

「ポケモンGOはやりたいのですが、端末が対応していないため、今は断念しています」

「この携帯はアプリをダウンロードできませんし、ああいうゲームには興味がなくて。今日も、街中でポケモンGOをしている人を見て、違和感を覚えていました」

「生憎、自分のスマホはメモリが足りなすぎて、1ギガしかないので、ポケモンGOが作動しないんです」

 ふだん引きこもる生活を強いられている当事者たちは、必要最低限な情報を収集する手段として端末を選んでいることが多く、通信費を節約する傾向にある。物理的にダウンロードできないというのも、もっともな話である。

 こうした理由から、スマホは持っていても「モバイル通信契約をしていないから」という人もいる。

「モバイル通信契約は、もし契約すれば特定疾患の為、S社で月額ウェブ接続料300円とパケット通信料0~5700円です。ですから、使わなければワンコインでお釣りが来るはずですが、契約したら上限に達すると思うので、抑えています」

 また、まったく外に出られないタイプの人も、やっていなかった。

「スマホは持っていますが、やっていません。病院以外、全く外に出られなくて…。実は全くゲームに興味がないタイプの引きこもりでして、ゲーム関連の情報には疎いのです」

 もちろん、世間の人が思い描くイメージとは違って、ゲーム自体が好きではない人も少なくない。

「ポケモンGOはあいにく使っておりません。私は他人との競い合いのような気がするのでゲームはあまり好きではないのです」

「引きこもり当事者の中でも、ふだんに閉じこもっているような方だと、たとえポケモンGOがやりたかったとしても、そんな簡単には出てこれないんじゃないでしょうかね…。世間の当事者でない人たちには、引きこもり当事者たちの外や世間や他人へのハードルの高さが全然わかってないのでしょうね」

 ゲームする時間があるのなら、他にやりたいことがあるという声もある。

「もっと学べる系のマンガもたくさん出ている。ポケモンGOよりは、誰にも迷惑をかけないし、役に立つかもしれない。ただゲームをやるなんて、あまりないかな」

 そもそも、「ポケモンGOで引きこもりが外に出るとは思えない」と首を傾げる当事者たちも少なくない。

「私もスマホを持っていますが、全然使っていない。精神的に落ち込んでいるとか、精神疾患を抱えているという人にとっては、そういうゲームがあろうとなかろうと、変わらないと思う」

「田舎だとポケモンが少なくて、逆に心が折れたという報告を読んだ。私の住む地域も微妙で、田舎で孤立した人がポケモンGOやると、もっと孤独感を味わわざるを得ないのではないか」

当事者たちはポケモンGOへの意欲さえ持てないのが現実

「引きこもり」の背景にある精神疾患に向き合い続けているという当事者は、より重く受け止める。

「あれはゲームだという認識ができればいいのですが、幻聴、幻覚になりそうで、ちょっと怖い。ならなかったとしても、リアリティとゲームの世界の境界線の区別が曖昧になっていかないのかなって…。それで事故とかも起こる可能性もあるので…」

 研究のため、筆者も「ポケモンGO」をダウンロードしてやってみた。スマホをかざして歩いていくと、次々にポケモンが現れるので、捕まえようとするとつい夢中になる。確かに、何度もぶつかりそうになった。

 周囲では「今日、こんなの捕まえた」「今、レベルいくつ」などと、自慢し合っている。

 しかし、当事者たちに聞いてみてわかったのは、ふだん家から出られないタイプだけでなく、比較的出歩けている人でも、それどころではなかったり、意欲がなかったりする現実だった。

 引きこもり関係の自助会を運営している当事者でさえ、こう説明する。

「私がポケモンGOを大好きだと仮定して、持病(強迫性障害、うつ病)の症状が比較的軽い時は外出も多くなるとは思いますが、症状が重い時だとやはり病気でいっぱいいっぱいでそれどころではないと思いますね」

 一方で、こんな見方もあった。

「面白い事になりそうでワクワクしています。 (端末が未対応の方含めて)引きこもり当事者経験者を巻き込んで、何か企画できたらないいなとは思っています」

「ポケモンGOについてはやってはいませんが、共通の話題としてのコミュ二ケーションツールとしてはいいのかなと感じました」

 米国では、精神医学の専門家がうつ病などメンタルヘルスの不調の改善に効果があると指摘したうえで、ゲームプレイのために外に出て歩き、人々とやり取りすることが心身ともにいい影響を与えているとの報道もある。

 もちろん、引きこもる人たちの状況は、背景も障壁も千差万別、様々だ。日本でも、「ポケモンGO」をきっかけに外に出るようになって、各地のスポットを巡るうちに他人と交流やつながりができた人もいるかもしれない。

 しかし、報道が一人歩きしている「“引きこもり”が全部外に出てポケモンするようになった」という麻生大臣の発言そのものは、あまり根拠がなさそうである。

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