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レーダー照射問題 韓国に「強い抗議は難しい」軍事ジャーナリストが解説

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2019/01/12 08:00
神奈川県の厚木基地から発進する海上自衛隊の新鋭哨戒機P1 (c)朝日新聞社 © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 神奈川県の厚木基地から発進する海上自衛隊の新鋭哨戒機P1 (c)朝日新聞社

 海上自衛隊機が韓国海軍艦艇から射撃用レーダーの照射を受けたとされる。これは、法的拘束力がある協定では「危険行為」ではない。

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 昨年12月20日、日本海中央部で韓国駆逐艦「広開土大王(クアンゲトデアン)」(3900トン)が海上自衛隊第4航空群(厚木航空基地)所属の哨戒機P1に射撃用の火器管制レーダーを照射したとされる事案は、韓国側がそれを否定して両国間の応酬が続き、日韓関係を一層紛糾させる事態となった。

 韓国側は「遭難した北朝鮮漁船の捜索のため水上監視レーダーを使用していた」と主張した。だが水上監視レーダーは通常アンテナを回転させて広い範囲を見張るから、相手側は電波を間欠的に受ける。一方、射撃用レーダーは目標を追尾して電波を出し続けるし、波長も異なるから違いは歴然で、韓国側の釈明は苦しい。

 とはいえ哨戒機が射撃用レーダーの照射を受けたことを、防衛省が「非常に危険な行為」と発表し、ソウルの日本大使館が韓国国防省、外務省に抗議したのは騒ぎ過ぎだろう。

 冷戦時代の米国海軍はウラジオストク沖などソ連沿岸に空母群を派遣、発着艦訓練をして威嚇、ソ連は駆逐艦で空母の針路妨害をしたり、爆撃機多数を出して対抗した。海上で「あおり行為」を競ううち、1967年には日本海で米ソの駆逐艦が衝突、70年には地中海で英空母とソ連駆逐艦が衝突した。

 こんな愚行を続ければ核戦争に発展しかねないから、米ソは72年に「海上事故防止協定」を結び、英、仏、独、伊、加などもこれに続いた。日本も93年に同様な「日露海上事故防止協定」を締結した。

 これらの協定はたがいの海軍の監視活動は認めつつ、衝突防止の方法や、事故の場合の情報交換、危険行為の禁止などを定めている。日露協定でも「砲、ミサイル発射装置、魚雷発射管、その他の武器を指向すること」や「艦橋、航空機の操縦席への探照灯の照射」などを危険行為として禁じているが、火器管制レーダーの照射は禁じていない。

 2014年、中国の青島で米、露、中、日、韓など21カ国の海軍首脳が参加して行われた「西太平洋海軍シンポジウム」では、法的拘束力のない自発的な規制として「艦長は誤解されるおそれのある行為をする前に、派生的影響を考えるべきだ。慎重な艦長が一般的に避ける行為としては、砲、ミサイル、火器管制レーダー、魚雷発射管、その他の武器を艦船、航空機に向ける、などだ」と合意された。

 これは各国が調印、批准した協定ではなく、海軍の信頼醸成のために誤解を避けるマナーを示したものだ。もしロシア艦が射撃用のレーダーを照射しても、法的拘束力がある日露協定では危険行為として禁止していない以上、強い抗議はしにくい。

 射撃用レーダーの照射は「ミサイル発射寸前だった」の報道もあるが「広開土大王」号が艦首の対空ミサイル16発入りの垂直発射機のハッチを開いていない以上、嫌がらせ程度にすぎず、大局的に見て韓国海軍が日本の哨戒機を撃墜する危険が現実にある状況ではなかった。「米軍は射撃用レーダーで照射されるとただちに攻撃する」との説があるが、これはイラク上空で米軍機がイラクの対空ミサイル用のレーダーの照射を受けた際の話だ。米空軍には敵の防空網制圧を専門とする部隊があり、レーダー電波の発信源に向かうミサイルを付けて哨戒飛行をし、相手が照射するのを待ち構えて攻撃した。平時に公海で軍艦が出合うのとは全く状況が違う。

 冷戦たけなわの1972年にも、米ソの海上事故防止協定が成立したことを思えば、今後南シナ海で対立する米中間での不測の事態を防ぐため、同様な米中協定が結ばれ、日本もそれに続く可能性はある。それは日本の安全保障上望ましいが、ロシアとの協定では射撃管制レーダーの照射は危険行為としていないから、中国、韓国との協定でそれを禁止するのは整合性に欠ける。日露協定にもそれを入れるよう改定を持ちかけても、ロシアは多くの国と同一の協定を結んでいる以上難しそうだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

※AERA 2019年1月21日号

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