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古賀茂明「米朝戦争のリスクとコストは日本へという米中密約説」

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2018/01/08 07:00 AERA dot.

 2018年に入って、北朝鮮が韓国にラブコールを送り始めた。韓国もこれに呼応する動きを見せている。動きは急だ。

 金正恩朝鮮労働党委員長は、1月1日の新年の辞で、平昌五輪について、「代表団の派遣も十分に可能だ」と発言。

 2日、韓国の趙明均(チョミョンギュン)統一相が、9日に板門店の韓国側施設「平和の家」で南北高位級当局者協議を開くことを提案したと発表。

 5日午前には、韓国政府は、南北の高位級会談開催を北朝鮮が受け入れ、1月9日におよそ2年ぶりに南北による会談が開かれることを発表。

 1日の新年の辞で金正恩氏は、米韓合同軍事演習の中止を求めたが、これについても、韓国は米側に五輪後まで延期することを提案し、トランプ大統領もこれを受け入れたことから、韓国国内では対話ムードが一段と高まっているという。

 もちろん、北朝鮮のこうした行動がどこまで本気なのかはわからない。これまでの行動からは、単なる時間稼ぎと日米韓の結束にくさびを打ち込むためだけのものだとする見方のほうが、より現実的なように見える。

 それでも、この動きが、五輪後すぐにも米朝戦争になるのではないかという懸念をかなりの程度和らげるものであることは確かだろう。

 そもそも、米朝戦争など起こりえないという人もいる。その理由は、まず、北朝鮮からそれを仕掛けるのは自殺行為だからありえない。米側から仕掛けることも、それによって在韓米軍や在韓米国人、在日米軍と在日米国人に大きな被害が出る。東京、ソウルが火の海になるような戦争を米側が起こすことは米国利益に合致しないし、同盟国の日韓の利益にもならない。さらに、中国が黙っていない。中国を敵に回せば、世界の種々の問題で中国の協力を得ることができなくなり、外交・通商上米国にとって大きな損失になる。

 こう考えれば、米朝戦争など起こしてはいけない。北朝鮮への圧力を強めて、何とか外交努力で解決するしかないということになるわけだ。こうした考え方は、米国務省などの良識派には多いようだ。

 しかし、それでもなお、戦争の危機は依然として続いているという見方はむしろ強まっている。そこには、もちろん、トランプ大統領にはこれまでの常識は通用しない、だから戦争を起こしても不思議ではないという前提がある。いつ、その決断を下すのかと米軍部は非常に心配しているともいわれる。

●安倍総理を忖度して自衛隊の戦争の準備が進む

 北朝鮮と対峙するには、弱気の態度は見せられない。仮に戦争を回避したいと考えても、敵に対して決してそんな態度は見せてはいけないというのが、チキンレースの常道だからだ。相手を脅すためには、味方をも欺かなければならない。そう考えれば、トランプ大統領は、いかにも戦争を起こすようなふりをするしかなくなっているという見方もできる。

 しかし、そうした態度を大統領が取り続けると何が起きるのか。

 まず、軍部は、戦争の命令が出た時を想定して、万全の態勢を整えなければならない。あらゆる可能性を考えて最善の戦略、戦術を準備し、ロジスティクも整えるしかない。いざ、戦争だと言われたときに、準備ができていませんとは言えないからだ。

 逆に、戦争する場合のシミュレーションを出せと言われれば、被害想定を含めたいくつかのシナリオがすぐに提示されることになる。そのうちの一つをトランプ氏が選べば戦争になる。

 また、トランプ氏が戦争をするかもしれないと諸外国が考えればどうなるか。日本の自衛隊は、すでに、米朝戦争が始まるときに、米軍が自衛隊に何を要求するかを想定してその準備を整えつつある。米軍にやってくれと言われたときに、今までは、憲法9条があるからできませんと言って断れたことも、今はほとんど断れなくなってしまった。

 特に安倍総理が、あらゆる選択肢がテーブルの上にあるとしたトランプ氏の方針を手放しで礼賛しているから、トランプ氏が開戦したとき、日本が断る選択肢はないだろうと考えてしまうはずだ。これは非常に危険だ。

 自衛隊は、本当はできないこと、あるいは、やってはいけないことでも、安倍総理のことを忖度して、できますと言ってしまうかもしれないのである。その結果国民が大変な被害を受けるかもしれない。

●昨夏から流布される米中密約説は冗談ではすまない

 トランプ氏のチキンレースの影響を受けるのは中国も同じだ。

 もちろん、トランプ氏の戦争をするぞという姿勢は、北朝鮮に対する脅しであるのと同時に、中国への脅しであることは中国は百も承知だ。本気で北朝鮮に圧力をかけて核を放棄させなければ、戦争になるぞと脅しているだけだという見方もできる。

 しかし、トランプ大統領の行動は予測不能だと考えれば、最悪の事態に備える必要がある。中国も米朝戦争が始まった時のことを真剣に考えざるを得ない。

 その場合、中国が最も恐れることは二つあるといわれる。一つは、北朝鮮から大量の難民が中国国境沿いに流入してくることだ。この地域には、もともと朝鮮民族が多く居住している。そこに大量の朝鮮人が流入してくると、ここでの少数民族問題が深刻化し、これが、他地域の民族問題にまで波及しかねない。

 もう一つの大きな問題は、北朝鮮が米韓軍に敗北した場合、米韓中心に朝鮮半島が統一され、米国の勢力下にある国と中国が直接国境を接することになることだ。これは、中国の安全保障の観点からは許されない事態だ。

 逆に言えば、この二点が解決される方法があれば、戦争となった場合でも不幸中の幸いということになるのかもしれない。

●嘘であってほしい米中密約説

 ここまで述べてきたことと関連して、昨夏から一部の中国専門家の間で囁かれる怖い話がある。何かハードエビデンスがあるというわけではないから、細かい点では人によってバリエーションがあるのだが、おおむね以下の内容の密約がある、または、密約が成立しそうだというのである――

・米国が北朝鮮を攻撃し、核兵器を確保するため北朝鮮領内に入ることを中国は容認する。

・ただし、南北統一まではせず、北朝鮮に中国が容認する形での新体制を作る。

・米国は、中国が北朝鮮領内に入り、中国との国境沿いに難民キャンプを作り国境管理をすることを認める。

・米側は、北朝鮮の核を抑えたら直ちに休戦ラインから韓国内に退去する。

・終戦後、韓国内のTHAAD(高高度ミサイルシステム)は撤去し、在韓米軍も大幅に縮小する。

・北朝鮮の復興プランは、米中が主導して作る。

・ただし、難民キャンプや北朝鮮の復興費用は日本と韓国に負担させる。米国は負担しない。

 ――この密約の中に日本の役割は、ほとんど入っていない。ただ、最後の部分は、「とんでもない」内容だ。全部日本につけ回しって、どういう理屈でそうなるのだろうか?

 しかし、あのトランプ大統領と安倍総理の関係を前提にすれば、「うん、なるほど」と頷きたくなるのは私だけではないだろう。もし、北朝鮮復興のコストを日本がかなり負担するとなると、それは戦争の費用の何倍、いや何十倍にもなりかねない。それも、何十年かの間続くことになる。

●ティラーソン国務長官の失言問題に隠れた重大発言

 密約説は、あくまでも噂に過ぎないと言って一蹴する人も多いだろう。ただ、昨年末には、この密約説と符合する重大な発言があったことは、あまり認識されていない。

 それは、12月12日にティラーソン米国務長官が、ワシントンのシンクタンク、アトランティック・カウンシルでの講演で発言したものだ。この講演は、実は、即日世界中に大きく報道された。それは、ティラーソン氏が、「北朝鮮と前提条件なしに交渉する用意がある」

「まずは会おうではないか。北朝鮮が望むなら、天気の話をしてもいい」と発言したためだ。

 これまで、核の放棄を対話の前提条件としていたトランプ政権の方針と全く異なるこの発言に、世界は、「方針大転換か?」と色めき立った。しかし、ホワイトハウスが即座に否定し、本人も間もなく訂正したため、それで話は終わったかに見えた。

 しかし、この話とは別に、韓国などでは、非常に大きく報道されたことがあった。それは、ティラーソン氏が、「北朝鮮政権崩壊の時に米国にとって最重要なのは核兵器の確保である。そのために休戦ラインを越えても、必ず北緯38度線以南に戻ると中国に約束した」「中国は北朝鮮から難民が大挙して流入してくることに備えている」と発言したからだ。米中がそこまで具体的に戦争を前提にした話をしていたということを米国務長官が公表したのだから驚くのは無理もない。その後、日本のテレビなども事の重大性に気づいて二日くらい遅れて少し大きく扱うところもあったが、一日でそのニュースは消えてしまった。

 しかし、米中密約説を知っている者なら、このティラーソン発言には、「やっぱり、そうだったのか!」という反応になるのではないだろうか。

 先に述べた中国の「二つの懸念」に対して、米中が話をしていることがよくわかる内容だ。しかも、密約の内容とぴったり符合する話が行われているようにもとれるのである。

●日本のための戦争だと言いたいトランプ大統領

 ただし、このティラーソン発言からは、日本に負担させる理由は見えてこない。

 その観点で気になるトランプ氏の発言がある。

 これは、なぜか、トランプ大統領訪日直前になって、ワシントン発共同の記事として流された。時期から見て、トランプ政権が意図的に日本へのメッセージとして記事を書かせた可能性が高い。

 それによれば、北朝鮮が8月から9月にかけて日本列島上空を通過する弾道ミサイルを発射した際、日本が破壊措置をとらなかったことに対して、トランプ大統領が、東南アジア諸国の複数の首脳に「日本は迎撃するべきだった」「武士の国なのに理解できない」と語ったというのだ。

 この発言を聞いたとき、私が最初に思ったのは、トランプ大統領は、北朝鮮との開戦の引き金を安倍総理に引かせたいのだなということだ。

 北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)などが日本の上空を通過する時の高度は、上空数百キロの高さになる。領空は高さ100キロまでというのが概ねの国際的理解(正確な定義はない。宇宙空間はどこの国にも領有権が認められていないので、その逆の解釈として宇宙空間よりも下が領空だということになる。宇宙は何キロぐらい以上かというのも決まっているわけではないが、概ね100キロ程度とされている)なので、これは領空侵犯にはならない。それにもかかわらず、日本が北朝鮮のミサイルを打ち落としたら、これは、日本の領空外で北朝鮮の飛行機を打ち落としたのと同じで、不当な武力攻撃となり、北朝鮮から、日本が戦争を仕掛けたと言われても仕方がない。

仮に北朝鮮が、自衛権の発動と称して、日本をミサイルなどで攻撃する動きを見せた場合、米国には、日米安保条約に基づき日本を守るという名目で北朝鮮を攻撃する口実が与えられる。

 これは、トランプ大統領にとって、六つの意味で非常に好都合である。

 第一に、「この戦争は米国が始めた戦争ではない。北朝鮮からの攻撃に対して、同盟国である日本を守るための戦争だ」と言えることだ。世界中で北朝鮮問題の解決のために軍事力を行使することに賛成しているのは、米国と日本だけだ。ドイツのメルケル、フランスのマクロンら欧州大国のリーダーはもちろん、韓国の文在寅大統領もこれには明確に反対している。米国が北朝鮮を攻撃すれば、当然国際的批判が集中するはずだが、それに対して、非常に有効な言い訳ができるわけだ。

 第二に、「日本のための戦争」であれば、当然、米国よりも日本が前に出るべきだと言える。米軍兵士の死傷者が増えれば、米国内で批判が出るから、それを最小限に抑えることが必要だが、そのために、自衛隊をより多く最前線に送ることができれば、トランプ氏にとっては非常にありがたいというわけだ。

 第三に、「日本のための戦争」だから、米軍の戦費を全部または大部分日本が負担すべきだと要求する口実になる。

 第四に、「日本のための戦争」なのだから、北朝鮮の難民を日本が受け入れるべきだということができる。これによって、中国が心配している難民問題を少し緩和できるし、中国に恩を着せることができる。

 第五に、「日本のための戦争」なのだから、戦後の北朝鮮復興にかかる費用の大部分を日本が負担すべきだと要求できる。

 第六に、「日本のために米国人が血を流す」のだから、通商分野では日本が譲歩すべきであるという要求をしやすくなる。アメリカ車やアメリカの農産品をもっと買えという要求も出せる。

 これだけおいしい話だから、トランプ氏としては、ぜひとも、この戦争は日本のための戦争だということにしたいはずだ。

著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催 © dot. 著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催

 この話も、先のティラーソン発言と平仄(ひょうそく)が合っている。

 もちろん、いますぐに米朝戦争が起きる可能性は非常に低いというのが、有力な見方ではある。密約説がもっともらしいといっても、だから、戦争が始まるに違いないというほどの説得力があるわけでもない。

 しかし、トランプ大統領が何を考えているのかを考えることは、日本の国民にとって非常に大事なことだ。なぜなら、日本のリーダーは、トランプ大統領に追随することしか考えない安倍総理だからだ。

 私たち国民が、冷静に事態を評価しなければ、安倍総理の暴走を止めるどころか、「トランプさん、日本のためにありがとう」などと叫びながら、米国国旗を振って、米軍基地から米軍の出陣を見送るなどということになりかねないのである。

 米中密約説は、そんな日本国民に対するタイムリーな警鐘なのではないだろうか。

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