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復興税の「不正流用」、中止のフリをして今も執行されている現実

マネーポストWEB のロゴ マネーポストWEB 2019/09/10 16:00
陸前高田市では被災地最大の“台地建設”が行なわれているが…(写真:時事通信フォト) © SHOGAKUKAN Inc. 提供 陸前高田市では被災地最大の“台地建設”が行なわれているが…(写真:時事通信フォト)

 東日本大震災の復旧・復興財源として創設された10兆円の「復興特別税」が、中央官庁が巨額の予算を被災地以外の事業に流用していたことが発覚して国民の大きな批判を浴びたのはまだ記憶に新しい。「流用したカネは国庫に返納させた」。時の政府はそう説明したが、実際は大半が戻っていなかった。どこに消えたのか──。

無人の土地を守る防潮堤

 東日本大震災(2011年3月11日)から8年半、復興は未だ道半ばだ。

 4000人近い犠牲者を出した宮城県石巻市の北部、雄勝地区は高さ約10mの津波に襲われて町が潰滅した。現在、住民は海から離れた安全な高台に集団移転し、そこからは巨大な防潮堤が一望できる。高台から防潮堤までの空き地に住宅はなく、真新しい道路の建設工事が急ピッチで進んでいた。

「誰もいない土地を守るためになぜあんな巨大な堤防が必要なのか、不思議でしょう?」

 高台に住む男性が語り始めた。

「私も疑問に思って説明会で県の農林水産部のお役人に聞いたんです。そしたら、あの堤防は津波から人を守るんじゃなくて『県道を守るためです』と答えました」

 本誌・週刊ポスト取材班は「復興道路」の三陸自動車道を北に向かい、やはり津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市に入った。

 ここでは被災地最大の“台地建設”が行なわれている。川向こうの愛宕山を切り崩して巨大なベルトコンベアで毎日トラック4000台分の土を運び、復興予算1600億円をかけて市の中心部を10m以上盛り土をして約300ヘクタール(東京ドーム64個分)の市街地を造成する区画整理事業だ。だが、現地ではメインの商業施設は開業したのに、肝心の宅地予定地はガラガラで空き地が目立つ。

「時間がかかりすぎた。待ちきれずに別の土地に引っ越した人も多いし、被災者住宅などに残った人たちは高齢化して、いまから借金をして家を建てる気にならない」(住民の1人)

 造成した宅地の66%で住宅建設希望者がいない。その造成につぎ込まれた復興予算は1戸あたり5000万円といわれる。その原資は復興税である。

「増税の口実になる」──大地震と大津波、原発事故という未曾有の危機に直面したあの時、当時の菅直人内閣の中枢にそう考えた者がいたことは間違いない。

 復興税の構想が浮上したのは震災発生のわずか2日後だった。菅首相は野党だった自民党の谷垣禎一総裁と会談して復興への協力を要請する。2人とも財務大臣経験者で増税論者として知られていた。党首会談後の会見で谷垣氏はこう述べた。

「復興財源を国債発行だけで賄うことができるのか。復興支援税制のようなことを考える必要があるかもしれない」

 自衛隊や消防、警察が懸命に被災者の救助にあたり、福島第一原発ではメルトダウンが進んでいたさなかに、国民の生命を預かる首相と野党第一党の党首がカネの話し合いをしていたのだ。

 菅首相はほどなく「震災に伴う負担を社会全体が分かち合う」と呼応し、そこから与野党一体で増税シナリオが進んでいく。

 菅首相から「東日本大震災復興構想会議」の議長に任命された五百旗頭眞・防衛大学校校長が「震災復興税を創設する」と提案すると、短期間の議論で政府は復興基本方針に復興税の創設を盛り込む。その年11月には復興増税法案が民主、自民、公明党の賛成多数で成立した。所得税と住民税にそれぞれ「復興特別税」を上乗せする形で、総額10兆5000億円の増税が決められた。

 負担額は年収500万円のサラリーマン世帯(4人家族)で年間約2600円、年収1000万円なら年間約1万5000円だ。

 どんな国の政府であろうと大災害が起きれば被災者の生活再建と復興に最優先で取り組むはずだ。震災を口実に「財源がない」と復興より増税を優先させたのは世界でもこの時の日本の政治家、官僚たちだけではないか。国民は口車に乗ったことで、後々まで苦しめられる。

役人の給料に計上

 増税が決まると、各省庁は被災地そっちのけで湯水のようにカネを使い始めた。「復興予算の流用」である。

 国民が増税の痛みに耐え、何十万人もの被災者が不自由な避難所生活を強いられているとき、役人は自分たちの“職場環境改善”や福利厚生に増税のカネを食いつぶしていった。

 文科省は復興予算389億円で被災地以外の国立大学の体育館、図書館などの施設を建設し、国交省は「道のないところに道路ができれば防災に役立つ」と100億円をかけて沖縄と北海道で国道を整備、農水省は「被災地の住宅再建のために木を植える」と九州に林道を引き、水産庁は「被災地の石巻はかつて捕鯨の町だった。商業捕鯨再開で活気づけたい」と南氷洋での調査捕鯨とシーシェパード対策に23億円をつぎ込んだ。

 それだけではない。官僚たちは「防災」名目で内閣府が入居する霞が関の中央合同庁舎4号館、荒川税務署などの改修費など役所の職場環境改善に何億、何十億の復興予算を計上、各省の人件費(給料)にも131億円が計上され、果ては福利厚生で利用するスポーツクラブの割引にまで復興増税を使い込んだ。

 そうした実態をジャーナリスト・福場ひとみ氏が本誌追及レポート(2012年8月10日号)でスクープすると、被災者や国民から怒りの声が巻き起こった。『国家のシロアリ 復興予算流用の真相』の著者でもある福場氏が指摘する。

「官僚たちは最初から流用するつもりで復興特別税をつくった。当時は民主党政権で公共事業予算が減らされており、各省とも予算が欲しい。そのために政府の復興基本方針にあらかじめ『全国防災』という考え方を盛り込んで、復興予算を全国の公共事業に流用する口実を用意していたのです」

 流用問題は国会で問題化し、会計検査院も調査に乗り出す。次の野田佳彦内閣は「復興予算見直し」の方針を掲げて35事業の予算執行を停止した。各省が基金に貯め込んでいた復興予算流用分の1000億円も追加で返納させると発表した。

 国民は役人が流用したカネは国庫に戻ったと思い込まされた。

返納額は1割未満

 真相は違った。返納指示の一方、野田内閣は役所がすでに執行していた予算は「返納に及ばず」と不問にしていたからだ。

 当時、会計検査院は復興予算が使われた1401事業を調査し、そのうち326事業、総額1兆3000億円分を「被災地と関係ない」と認定していた。政府が執行停止したのはわずか35事業、しかも全額停止は8事業のみで一部停止を合わせても停止額は168億円。追加返納分を合計しても1168億円で、流用総額の1割にも満たない。

 会計検査院はこの326の流用事業が何かを具体的に明らかにしていない。では、1兆2000億円ものカネは何に消えたのか。予算が消化された事業を探れば行き当たる。

 前述の水産庁は捕鯨調査費を全額執行し、昔からの天下り財団として知られる日本鯨類研究所への赤字補填の補助金につぎ込んでいた。

 環境省は震災の瓦礫処理を引き受けなかったにもかかわらず、自治体のごみ処理施設建設に250億円の補助金を与え、公安調査庁は「被災地での過激派や外国スパイの活動監視」を名目に無線付きの公用車14台を復興予算で購入していた。合同庁舎や税務署の改修予算は一部執行停止されたものの、その後、別の予算で改修工事が行なわれ、役人の“職場環境”はしっかり改善した。

 増税は政治家も潤した。震災復興は2020年までの10年計画で総額23兆円をあてる予定だった。だが、安倍首相は政権に返り咲いた直後の2013年1月に復興計画を修正して「前半5年で25兆円」に予算を増額させる。そのタイミングで自民党は復興特需に沸くゼネコン業界に「4億7100万円」の献金を要請する文書を送った。

 効果は覿面だった。その年の建設業界の自民党へのゼネコン献金は倍増し、大手ゼネコン5社の自民党献金が2012年は1社約810万円だったが、2017年には1800万円へと倍増している。

 その間、復興予算はさらに膨れあがって8年目の今年度までに35兆円が投じられた。シロアリ官僚が全国にバラ撒いた復興予算がゼネコンを太らせ、自民党へと還流する増税のトリクルダウンである。

恒久的に徴収され続ける

 味をしめた政治家と官僚は復興も増税も決して終わらせるつもりはない。住民税の増税分(1000円上乗せ)は期間10年間で2023年までで廃止されることになっていた。

 ところが、自民党は今年の通常国会で法案を成立させ、国民が気づかないうちに2024年からは「森林環境税」(国税)と名前を変えて同額を恒久的に徴収することが決まった。正直に「復興増税を永遠に続ける」といえば国民は黙っていなかったはずだ。

 復興事業も止まらない。復興庁は10年の復興期間が終われば廃止される臨時官庁だが、自民党と公明党は政府に「存続」を提言し、「防災省」へと格上げすべきという意見もある。

「臨時増税」を安易に認めてしまうと、いつまでも増税が終わらなくなるという苦い教訓を国民に残した。

※週刊ポスト2019年9月13日号

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