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新しく就任した大臣が「失言」を繰り返す、3つの理由

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/10/09 08:51

 内閣改造の風物詩ともいうべき、「大臣の首を取りましょうキャンペーン」がいよいよ本格化してきた。

「大臣の首を取りましょうキャンペーン」が本格化している © ITmedia ビジネスオンライン 「大臣の首を取りましょうキャンペーン」が本格化している

 まず、分かりやすいのが、毎日新聞の記事だ。

 改造内閣に期待8% 麻生氏留任「評価せず」61%(毎日新聞 10月8日 東京朝刊)

 この見出しだけを見た人は、国民の安倍政権への期待も、野党の支持率並に落ち込んだのだと受け取るだろうが、よくよく記事の中身を読めば、この「8%」というのは、過半数近い人が内閣改造で「何も変わらない」と回答する中で、「期待が高まった」と答えたゴリゴリの安倍信者か、超ポジティブシンキングの方の割合である。安倍政権への信任的な「期待」とはまったくニュアンスが違うのだ。

 毎日新聞的には、これぞ「ペンの正義」ということなのだろうが、我々一般人の感覚では、「印象操作」以外の何物でもない。

 また、週刊誌業界にも大型キャンペーンの動きがある。今週にも、初入閣した大臣のスキャンダルが某誌にドーンと取り上げるともっぱらのうわさなのだ。

 もしこれが事実なら、週刊誌の早刷りを手にしたテレビや新聞の記者たちが、大臣が白旗を上げるまで延々と叩き続ける、いつもの「殺人フルコース」がおっ始まるということだ。臨時国会で集中砲火を浴びれば、わずかひと月あまりのスピード辞任という展開も十分ありえる。

 ただ、何よりも「大臣の首を取りましょうキャンペーン」の盛り上がりを感じるのは、ちまたのハロウィンパーティーさながらに、マスコミによる「秋の失言祭り」がちょこちょこと始まっている兆しが見て取れるからだ。

 これは大臣の記者会見で、どう答えたところで炎上必至という地雷的な質問を執拗(しつよう)に繰り返すことで、失言を引き出し、それを鬼の首を取ったかのように、みんなでワッショイ、ワッショイと朝から晩まで大騒ぎをする日本の「ジャーナリズム村」で長く続けられる伝統的な祭りで、時に「言葉狩り」とも呼ばれる古い因習だ。

●次から次へとクビをはねられていく現象

 今回も既に柴山昌彦文科相の周りで、「教育勅語を現代に復活させるべきなどけしからん」という祭りが始まり、マスコミだけではなく、教育関係者も巻き込んで大盛況のまま幕を閉じた。この興奮も冷めやらぬうち、放射性物質で汚染されたゴミの焼却灰を「人の住めなくなった福島に置けばいい」と発言するなど安定の失言癖を持つ五輪相が標的として定まり、次の祭りの準備も粛々と進められている状況なのだ。

 なんて話をすると、「問題大臣をかばうなんてこいつは安倍応援団だ!」とか「いや、権力の暴走を監視してくださる立派なマスコミを茶化すなど低脳ネトウヨに違いない!」という怒りのクレームがじゃんじゃか飛んできそうなので断っておくと、筆者は改造内閣の大臣がどうなろうとも、マスコミの皆さんがどういうキャンペーンを仕掛けようとも、ぶっちゃけそこにはあまり関心がない。

 では、なぜこんなお話をするのかというと、日本の大臣という人々が、その偉そうな肩書きのわりには、「失言」やら「問題発言」によって、ブラック企業に勤める若者のように、次から次へとクビをはねられていく現象が興味深くてしょうがないからだ。

 「ヒトラー安倍の下で、軍国主義に毒されているようなヤツらが大臣など務まるわけがないだろ、この低学歴が!」という憎しみのこもった叫びが聞こえてきそうだが、実はこの傾向は民主党政権時代から変わらない。

 失言大臣ばかりなので、どんどん忘れ去られていくが、福島第一原発を視察した後に記者に対して、「放射能を分けてやるよ」と大はしゃぎしたような大臣もいたし、県知事との会合で待たされたことにプチンとキレて説教し、それを見ていた記者に「これを書いたらその社は終わりだからな」と恫喝をした復興大臣もいた。

 つまり、大臣が失言や問題発言を繰り返す現象は、与党とか野党とか、保守とかリベラルとか一切関係ないのだ。

 では、何が関係するのか。報道対策アドバイザーとして、企業の経営者や政治家というリーダーがボコボコに叩かれるパターンを山ほど分析してきた立場から私見を述べさせていただくと、これには「大臣」ならではの職業病というか、この役職を目指す人のキャラクターも大きく関係している可能性が高い。それらを分かりやすく整理をすると、以下の3点に集約される。

(1)「大臣の椅子」への執着が強すぎて地に足がついていない

(2)政治家としてマスコミ対応をこなしてきた「自信」が裏目に

(3)記者の「誘導質問」のかわし方を知らない

●大臣の椅子は、政治家にとって「上がり」

 まず(1)から説明しよう。今回の改造内閣が「在庫一掃」「バーゲンセール」など揶揄(やゆ)されていることからも分かるように、当選回数で実績のある議員は向き不向きは関係なく、トコロテン方式で一度は大臣ポストに就けなくてはいけない、というのが永田町の不文律なのだ。

 こういう「みんな仲良く、ケンカせず」ができないリーダーは、貴乃花親方ではないが「組織人失格」の烙印(らくいん)を押されて組織からすさまじいリンチにあう。それは日本の最高権力者である内閣総理大臣も然りで、各派閥のパワーバランスや、総裁選への貢献度で、「みんな」が納得するような采配ができなくては、すぐに「総理おろし」の風が吹き、マスコミに悪口がどんどんリークされるシステムなのだ。

 それは裏を返せば、政治家にとって「大臣の椅子」は、総理にたてついてまでも手に入れたいポストだということだ。短期間であっても大臣になれば、地元では「元ホニャララ大臣を務めた」という肩書きが死ぬまでついて回る。国会議員は選挙に落ちればただの人だが、「元大臣」はさまざまな名誉職のお声がかかる。ある意味で「大臣」というのは、政治家にとって「上がり」なのだ。

 では、そこでちょっと想像してほしい。何年も、何年も、大臣の座が先送りにされ、同期に追い越されたりしてきた政治家が大臣になったときの心境を。

 この世の春どころか、天にも上る気持ちではないだろうか。かなり舞い上がっていることは容易に想像できる。

 このように地に足がついてない人が、何十人というマスコミ記者に囲まれ、全方向から厳しい質問を受ければ、地に足のついていない回答をするのは目に見えている。

 そこに加えて、このように苦節十ウン年でようやく閣僚入りした人が危ないのは、なまじ選挙を何度も勝ち抜いてきているため、マスコミ対応に関してもそれなりに「自信」を持ってしまっているということだ。

 ただ、ここでこの人が勘違いをしているのは、あくまで一国会議員としてのマスコミ対応だということだ。これまでは許されてきた発言が、「大臣」という立場になれば重箱の隅をつつくような感じでつるし上げられる。これまで「政府の代表」になったことがないくせに、政治家としての自信とプライドだけが肥大化してしまったので、立場に見合わない失言をしてしまう。それが(2)の「自信が裏目」ということだ。

●柴山文科相と記者とのやりとり

 その典型が先ほど触れた柴山文科相である。新聞記事やらを見ると、柴山氏は何やら急にイキってしまい、自ら進んで「教育勅語の検討」なんかをぶちまけたような印象を受けるかもしれないが、そんなことはない。

 実は、ある程度キャリアを重ねた記者なら誰もが持っている「質問テクニック」によって、「言わされた」のだ。

 今年の8月17日、柴山氏はTwitterで「私は戦後教育や憲法の在り方がバランスを欠いていたと感じています」とツイートしていた。記者は、その発言の真意を尋ね、自然の流れでセンシティブなネタへ水を向けている。以下に文部科学省Webサイトの会見書き起こしを引用しよう。

記者: 関連してなんですけれども、教育勅語について、過去の文科大臣は中身は至極まっとうなことが書かれているといった発言をされているわけですけれども、大臣も同様のお考えなんでしょうか。

大臣: 教育勅語については、それが現代風に解釈をされたり、あるいはアレンジをした形でですね、今の例えば道徳等に使うことができる分野というのは、私は十分にあるという意味では普遍性を持っている部分が見て取れるのではないかというふうに思います。

記者: それはどの辺が今も十分に使えると考えてらっしゃいますか。

大臣: やはり同胞を大切にするですとか、あるいは国際的な協調を重んじるですとか、そういった基本的な記載内容についてですね、これを現代的にアレンジをして教えていこうということも検討する動きがあるというようにも聞いておりますけれども、そういったことは検討に値するのかなというようにも考えております。

 このやりとりを見てどう思われただろう。記者は「大臣のお考え」という言葉をぶっ込むことで、「個人」から「大臣」へと立場を巧みに切り替えた。が、柴山氏は先ほどまで就任前のTwitterについての私見を述べていたので、そのノリを継続して教育勅語についての私見を述べてしまっているのだ。これが後日、柴山氏が、文科相としての発言ではないと釈明をした理由だ。

 ちなみに、この現象は民間企業でもよく見られる。急なキャリアアップで幹部クラスに引き立てられた人の言動が炎上しがちなのは、柴山氏のように「立場の急変」に自分の感覚がついていけていないのである。

●経験不足によって脇の甘さを露呈

 なぜこういう脇の甘いことになってしまうのかというと、経験不足から「文部科学省大臣・柴山昌彦」と「政治家・柴山昌彦」がごちゃ混ぜになってしまっているのだ。立場によって発言を変えるなんて二枚舌だと怒りに震える方も多いだろうが、事実として地雷を踏まない、踏んでも要職に就き続けている人は、この切り分けをちゃんとやっている。例えば、河野太郎外務大臣は、一国会議員の時は歯に衣着せぬダイナミックな発言を繰り返していたが、閣僚入りをした途端、無難な発言、個人としての見解にオブラートに包んだ。

 良い悪いではなく、失言が国家のリスクに直結する「大臣」というのは、そういう立ち振る舞いが求められるのだ。

 このようにフワフワして、立場の違いを知らない政治家は往々にして、記者が「失言・問題発言をさせる」ために放つゴリゴリに意図を持った質問をさっとかわす方法を知らず大炎上してしまう。これが(3)の「誘導質問の罠にハマってしまう」ということだ。

 立派なジャーナリストがそんな「誘導」とかするわけがない、という人もたくさんいらっしゃると思うので、分かりやすいやりとりを、今回、新たに入閣をした岩屋毅防衛相の就任会見から引用しよう。

記者: 大臣は日中戦争から太平洋戦争に至る戦争は侵略戦争だとお考えでしょうか。

大臣: いわゆる歴史認識ですけれども、先に安倍総理が新たな談話を発表されたものに集約されていると考えております。

記者: 大臣の言葉で聞かせてください。侵略戦争と考えますか、考えませんか。

大臣: まさに安倍談話に私は集約されていると思いますし、私自身も談話の中身というものに当時非常に共感・共鳴をしましたので、まさにそこに集約されていると思います。

記者: 侵略戦争だと考えますか、考えませんか、御自身の言葉で語ってください。

大臣: 私が独自の見解を述べる立場にはないと思っております。

記者: これだけの大きな軍事組織を監督される立場になられたわけですから、侵略戦争について語られないというのはおかしいのではないですか。

大臣: したがって、先ほどから申し上げておりますように、安倍総理の談話を私も支持しております。

記者: 御自身の言葉で語っていただけないですか。

大臣: これが自分の言葉だと思いますが。

●永田町の互助システム

 なぜ記者が、青春ドラマの熱血教師のように「自分の言葉で話せ」などとしつこく迫っているのかというと、日本国の防衛大臣が自身の「歴史認識」をペラペタと語ることは、どう転んでもトップニュースは間違いないからだ。

 少しでも中国や韓国、あるいは朝日、毎日、どこかの歴史学者の皆さんの歴史認識とトンマナが違えば、「軍国主義だ!」「歴史修正主義だ!」という「秋のリベラル例大祭」がおっ始まる。また、そのような人々に「忖度」をして侵略でしたと認めたら、自民党支持者やネトウヨの皆さんから袋叩きにされる。つまり、この質問は、どう答えても「地獄」しかない「大臣ホイホイ」ともいうトラップなのだ。

 岩屋氏はどうにかこの罠をかわしたので、大事にならなかったが、もしも記者が求めるように「自分の言葉」で、侵略戦争への考えを述べていたら今ごろ、柴山文科相のようにボコボコに叩かれていたはずだ。いや、立場と発言の中身からすれば、中国や韓国からも猛反発がきて、国際問題に発展していたかもしれない。

 「オレ的にはこう考えてますね」「ぶっちゃけ、私はこう思いますよ」と正々堂々と持論を展開するのは男らしいが、大臣としては、格好の政府批判の材料である。いろいろな意見はあるだろうが、大臣としては極めて正しい、「誘導質問のさばき方」なのだ。

 ただ、大臣になった人の多くは、このようなテクニックを身に付けていない。学んでこなかったことももちろんあるが、「LGBTには生産性がない」などと述べた杉田水脈氏がこれまで政治家がやってこれたように、選挙という審判さえクリアできれば、政治家というのは多少の失言、問題発言を許される人たちだからだ。

 このような構造的な問題がある限り、安倍政権でも、そのまた次の政権でも、大臣の失言や問題発言は繰り返されるはずだ。

 ただ、政治家本人たちからすればそれでもいいのかもしれない。

 先ほども述べたように「大臣の椅子」は、政治家ならば誰もが欲しがる「最高のご褒美」だ。大臣がコロコロ変わるのは国民にとっては不幸なことこの上ないが、政治家にとってはご褒美をもらうチャンスが増えてありがたい。それは周囲で甘い蜜を吸う人も同じだ。

 そう考ていくと、大臣のクビを狙う「失言祭り」は、政治家、マスコミ、官僚など永田町ムラで細く長く生きていく「みんな」が無意識でつくり出した、互助システムなのかもしれない。

(窪田順生)

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