古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

日ロ首脳会談が4島返還にこだわりすぎてはいけない理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2016/12/14 高橋洋一
日ロ首脳会談が4島返還にこだわりすぎてはいけない理由 © diamond 日ロ首脳会談が4島返還にこだわりすぎてはいけない理由

それほど甘くない日ロの領土交渉

 本稿が公開される15日は、日ロ首脳会談が山口県長門市の老舗旅館「大谷山荘」で行われる。

 これまで、マスコミは、2島先行返還、共同統治、ロシア施設権、面積二等分など様々な予測を報道した。

 しかし、日ロの領土交渉はそれほど甘くない。日ロ平和条約を結び、その後2島返還を軸に領土交渉に入るという程度であろう。その上で、日ロの経済協力関係ができるだろう。

 これに対して、現状では、経済協力を条件にとられて2島も返ってこないと酷評する向きもあるかもしれない。

 もっとも、これでも、戦後70年間で1ミリたりとも動かなかった交渉話が「やっと動いた」という意味で画期的なことである。安倍・プーチン以外の誰がやっても、領土交渉は動かなかっただろうことを思えば、上々である。

 それを正しく理解するためには、これまでの領土交渉の歴史を振り返っておく必要がある。

領土問題の解決は基本的には戦争だった

 領土問題の解決は、基本的には戦争である。平和的に解決したら、ノーベル平和賞ものである。さらに、70年の間に日本外務省の外交失敗もあった。それを今回取り返そうというのだから、かなりの妥協が必要である。こうした妥協は、経緯を知らない人から見れば、それほどの外交成果に見えない。

 そもそも、多くの日本人は北方4島すべてが返還されるという願望がある。実際、歴史から見れば、第2次世界大戦の終わりに旧ソ連がどさくさに紛れて北方4島を不法に占領したのは事実である。ただし、それは基本的には戦争でしか領土問題が解決しないことと裏腹である。

 もし日本が平和国家でなければ、25年前のソ連邦崩壊前後、武力で北方4島を奪還したとしても不思議ではない。武力での奪還というと穏やかではないが、意図的に紛争を起こして、それに乗じて事実上の武力行使をして、既成事実を積み重ねてしまうことだ。

 思えば、その当時が日本としても最大のチャンスだった。GDPは世界2位でアメリカを急追しており、日本の国力は絶頂期であった。さらに、中国の台頭もまだなかったので、北方領土交渉に日本が注力できる体制であった。当時のロシアはソ連崩壊直後で市場経済が混乱しており、日本側は日本の経済力を生かせるチャンスだった。

北方領土交渉の最大機運をうまく生かせなかった日本

 しかし、日本はこの機運をうまくいかせなかった。ロシアの識者では、「日本は90年代にロシアが苦しんでいたときに何もしてくれなかった」という不満が多い。

 その中でも絶好機を逃したのが、1992年ロシアから提示された北方領土に関する秘密提案だ。その提案に対しては、北海道新聞などで関係者の話が掲載されている、

 この秘密提案は存在しないことになっているが、実際に行われたのは「周知の事実」だ。日本側の関係者であった東郷和彦・元外務省欧亜局長によれば、以下の通りだ。

 1992年3月、東京で行われた日ロ外相会談において、当時のコズイレス・ロシア外相が渡辺美智雄外相に対して、平和条約締結以前に歯舞群島、色丹島を日本に引き渡すという内容の秘密提案(コズイレフ提案)を行った。この提案はエリツィン氏の了解は得ていなかったが、もし日本側が乗ってくれば正式提案するという含みがあった。

 提案は当時渡辺美智雄外相とコズイレス外相の会談の席上、口頭で行われた。ロシア側は、(1)歯舞、色丹を引き渡す手続きについて協議する、(2)歯舞、色丹を引き渡す、(3)歯舞、色丹問題の解決に倣う形で国後、択捉両島の扱いを協議する、(4)合意に達すれば平和条約を締結するというものだった。

 これは、歯舞、色丹の返還を先に進めるという点で1956年の「日ソ共同宣言」とは違った内容だ。さらに協議の行方によっては国後、択捉の返還の可能性も残したので、間違いなくこれまでのロシア提案では最大限に譲歩したものだ。

 しかし、この提案について、ロシアの最大限の譲歩であることを認識できずに、もっとロシアは妥協してくると根拠のない希望的予想をして、受け入れを真剣に検討しなかった。

経済回復に伴い強気に転じたロシア

 その後、ロシアは経済回復に伴い強気に転じた。ほぼ10年後の2001年のイルクーツク会談で、今度は日本側がプーチン政権に対し、1992年のロシア側の秘密提案とほぼ同じ提案を行ったが、プーチン政権に完全に無視された。その後、現在に至るまで、プーチン氏は、1956年の「日ソ共同宣言」を踏襲するとして歯舞、色丹はいざしらず、まだ一度も国後、択捉の帰属協議に応じると言ったことはない。

 もっとも、プーチン氏は、「日ロ共同宣言」を履行すると断言する、ほぼ唯一のロシア政治家である。プーチン氏以外のロシア政治家は、「日ロ共同宣言」を無視するか、重要視していない。

 というのは、1956年の「日ソ共同宣言」後、日本はアメリカと同盟関係を強化し、旧ソ連を敵国扱いした。このことをもって、「日ロ共同宣言」の前提条件が崩れたと解釈できるというわけだ。

 以上がこれまでの日ロ関係の単純化した歴史である。今の状況は、1992年当時ほどではないが、プーチン氏がいるという意味では、チャンスである。しかし、プーチン氏はしたたかであるので、手放しで喜べる状況でないのはいうまでもない。

一歩でも進まなければ「返還なし」が固定化する

 日本政府は、表向き4島返還というが、日本が旧ソ連を敵国扱いしていたときであり、そのため日本の言い分は説得的でない。ここは、プーチン氏だけが認める1956年の「日ロ共同宣言」を履行すべき時である。つまり、平和条約締結を先行させて、その後二島返還で決着せざるをえないのが現実的な話である。この意味で、4島一括返還は絶対にあり得ない。

 日ロの平和条約の後に、2島返還を協議するとして、国後、択捉の返還の可能性も消さなければ御の字である。そのための経済協力である。

 当面の結果を見ると、ゼロ島(返還なし)+経済協力の食い逃げに見えるかもしれない。しかし、将来は2島+αで、αはゼロではないということに、最終的な着地点があるのではないか。

 素朴に4島返還と思い込んでいる方から見れば不満足であるかもしれない。ただし、安倍・プーチンのうちに、一歩でも進まなければ、このままゼロ島が固定化するだけである。

ヨーロッパ型和解がプーチン氏の共感を呼ぶか

 安倍首相が、12月26、27日にハワイ真珠湾を訪問することは、日ロ交渉にプラスになる。今回の真珠湾訪問の歴史的な意義は大きい。戦後処理は古今東西どこの国も大変である。戦争責任、謝罪が伴うからだ。

 しかしながら、第1大戦と第2次大戦を経たヨーロッパでは、戦争責任も謝罪もなく敵と味方がともに犠牲者を追悼するという和解方式をとっている。いわゆるドレスデン和解が代表例である。

 ところが、アジアでは、中国と韓国のように、日本に対して戦争責任を主張し、「まず謝罪せよ」との、古いタイプの言い方がまかり通っている。それが、今年は日本だけがいち早くヨーロッパ型の和解(戦争責任・謝罪なしでともに追悼)を取り入れることになる。このヨーロッパ型和解が、プーチン氏の共感を呼び、つき動かすことを期待したい。

 と同時に、日米和解とともに、日ロで平和条約が締結されれば、対中戦略にも好影響が出るはずだ。日本は、米国の後ろ盾があったとしても、中国とロシアの二面作戦は採れない。であれば、日ロの平和条約を優先すべきである。こうした点から考えても、当面ゼロ島であっても、将来2島であれば、日本の国益に十分にプラスである。

 今回は、領土交渉の終わりでなく、始まりと考えるべきだ。

ダイヤモンド・オンラインの関連リンク

ダイヤモンド・オンライン
ダイヤモンド・オンライン
image beaconimage beaconimage beacon