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日本の探査機、月の地下に巨大な空洞を発見。いったい何がすごいのか?

HARBOR BUSINESS Online のロゴ HARBOR BUSINESS Online 2017/10/22

 月の地面の下に、全長50kmにもおよぶ巨大な空洞が広がっている——。そんなSF的な想像をいろいろとかき立てられる研究結果を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2017年10月18日に発表した。

 この地下空洞を発見したのは、JAXAなど国内外の研究者が参加する国際共同研究チーム。もともと地下空洞が存在することは理論的に予測されていたが、研究チームが日本の月探査機「かぐや」の観測データを詳しく解析した結果、この空洞がたしかに存在することをつきとめた。

 この月の地下空洞は、科学的な面からも、そして人類の月面基地や都市の建設といった面からも、今後の探査や開発には大きな意義と可能性がある。しかし、そこに発見した張本人である日本がどこまでかかわることができるかは不透明な状況にある。

◆日本が見つけた月の「縦孔」が地下空洞への入り口

 地下空洞が見つかったのは、月の表側(いつも地球から見える面)の西にある、「嵐の大洋」の中のマリウス丘と名づけられた場所である。

 この場所にはもともと、2009年にふしぎな「縦孔」が見つかっている。月面を詳しく探査していた「かぐや」が発見したもので、その後米国などの月探査機がさらに詳しく観測した結果、これがただの孔ではなく、孔の奥にある程度の広さの地下空洞が広がっていることがわかった。

 研究者らは、この地下空洞を「溶岩チューブ」によってできたものだと予測していた。溶岩チューブというのは、火山から噴火した溶岩が地面を流れていく際、表面だけが固まり、内部が流れ続けていくことで、やがて表面を天井とする天然のトンネルができあがる現象のこと。地球上、たとえば富士山の周辺にも、風穴と呼ばれる溶岩チューブができており、一部は観光名所として公開もされている。

 現在の月は火山もなにもない、静かな世界が広がっているが、かつては火山の噴火が起こっていたと考えられており、地形や石の組成など、さまざまな痕跡がそれを物語っている。この地下空洞はそのときにできた溶岩チューブで、そしてどこかのタイミングで隕石がちょうど天井に衝突するなどして孔が開き、やがてこうして人類の目にとまることになった、というわけである。

 もっとも、本当に地下に空洞があるのかは、月のまわりを回りながらカメラで撮影したのではわからなかった。

 そこで今回、研究チームは、「かぐや」に搭載されていた、電波を使って地中の構造がわかる装置のデータや、のちに米国の探査機が観測した地中の密度のデータを詳しく解析した。

 その結果、たしかに地下に空洞が、それも床から天井までの高さ約数十から200m、幅約100m、そして全長50kmにもおよぶ、広大な空洞が広がっていることが確認できたという。

 ちなみに月には表側にもう1つ、裏側にも1つの、あと2つの縦孔があることが確認されている。また孔が現れていないだけで、他にも地下空洞が存在する場所があるかもしれない。研究チームでは今後も、月全体を対象にして、さらに研究を続けるとしている。

◆科学的にも、月面基地や都市の建設にも重要な地下空洞

 この月の地下空洞には、科学的な面からも、そして人類の月面基地や都市の建設といった面からも、多くのさまざまな可能性が秘められている。

 たとえば月という天体が、どのようにでき、これまでどのような歴史を歩んできたのかは、まだ謎が多い。これまでも数多く探査が行われているが、そもそも月には大気がなく、月面に隕石や有害な放射線が直接降り注いでいるため、岩石などが破壊されてしまっている。そのため月の表面だけ探査したのではわからないことも多い。

 しかし空洞内なら、破壊されていない”新鮮”な岩石があるはずで、それを調査すれば多くの発見があると考えられている。他にも水がガスとして埋蔵されていたり、月の磁場の痕跡が残っていたりなど、さまざまな可能性が潜んでいる。

 さらに、月面に建物を建てようとするなら、隕石や放射線の襲来に耐えられるだけの頑丈なものにしなければならない。結果、建設には手間もお金もかかる。

 しかし、もしこの地下空洞の中に基地を造れば、天井が守ってくれるため、手軽に、なおかつ安全に建設することができる。また、空洞内は温度が比較的安定しているというメリットもある。また、空洞の壁や底はガラス質で覆われており、密閉性が高いと考えられているため、縦孔の部分を扉などで密閉すれば、そのまま人が住めるようになるとも考えられている。

 もちろん、いくつかの困難や欠点はあるものの、地下空洞は将来、人が住める場所として大きな可能性をもっている。

◆動き始めた月ビジネスの新たな目的地になるか?

 もっとも、月面基地や都市の建設なんて所詮は夢物語、と思われるかもしれない。たしかに現状のままでは、50年後あたりがいいところだろう。

 しかし、世界各国では有人の月探査に向けた動きが始まっており、さらに民間企業による、月探査や資源の開拓といった、月開発をビジネス化しよう動きもある。彼らがこの科学的にも、将来の月面基地の建設地としても有望な地下空洞を見逃すはずはない。

 世界の中でいま、もっとも月探査に力を入れているのは中国である。2007年に初の月探査機の打ち上げに成功して以来、これまで4機の探査機を送り込み、うち1機は月に着陸し、現在も稼働を続けている。今後も世界初となる月の裏側への着陸や、大型の探査機で月の岩石を回収し、地球に持ち帰るミッションにも挑もうとしている。彼らがその気になれば、2020年代の前半ごろに、地下空洞に達することは不可能ではない。

 また、米国も近年、有人探査を含む月探査に興味を示しており、インドやロシアも探査機を送り込む計画を立てている。彼らもまた、計画を少し変えて地下空洞に降り立つことは十分可能である。

 機を見るに敏、という点でいえば、民間企業にも分がある。現在米国では、アストロボティックとムーン・エクスプレスという2つの企業を中心に、月探査や資源の開拓を事業化しようという動きがある。また、まだ詳細は不明なものの、Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンや、おなじみイーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXも月開発に向けて動き出している。米国以外にも、興味を示している、あるいは探査機の開発を進めている企業はいくつか出てきており、月はすでにビジネスの舞台となっている。

 彼らが目標やリソースを地下空洞に振り向ければ、国の機関よりも先にたどり着けるかもしれない。

◆日本が発見した地下空洞に、日本がかかわり続けるために必要なこと

 ひるがえって、現在の日本の月探査は、まず2019年以降に月に着陸することを目指した小型探査機の開発が進んでいるくらいで、他国(や企業)ほどの勢いはない。

 実は日本では、かねてより月の縦孔や、その下に広がっている(と考えられていた)地下空洞を探査しようという動きが行われていた。しかし、現在まで具体的な計画にはなっておらず、この調子では地下空洞にたどり着けるのは、早くとも2020年代の後半あたりになろう。そのころにがすでに、どこかの国か企業が降り立っていてもおかしくない。

 しかし、月の縦孔も、そして地下空洞も、科学的な面、人類の宇宙進出という面から大きな可能性があること、そして日本が初めて発見したものであることを考えると、日本も探査計画を早期に立ち上げ、進める意義は十分にあろう。

 もちろん、日本が率先して地下空洞に基地を建設するなどといったことは、予算などから難しいことは否めない。しかし、たとえばせめて、日本が先んじて地下空洞に無人探査機を送り込み、地形や岩石の組成などを調べておけば、他国や企業が探査に赴こうとした際にデータの提供や探査の支援といった形でかかわることができ、存在感を発揮することができる。また、いずれ有人探査や基地建設が始まることになった場合でも、共同で参加できる可能性が生まれるだろうし、その中である程度強い発言権をもつことも可能になろう。

ハーバービジネスオンライン: 米国の月探査機が撮影した月の縦孔。この下に、広大な地下空洞が広がっていることが明らかになった Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University © HARBOR BUSINESS Online 提供 米国の月探査機が撮影した月の縦孔。この下に、広大な地下空洞が広がっていることが明らかになった Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University

 もちろんJAXAなど国が主体となって進めるのもひとつだろうが、日本でも近年、民間企業による宇宙ビジネスが活発になっており、いくつかの企業がロケットや衛星、月探査機の開発に挑んでいる。彼らの意欲と技術力を活かし、そこに国が適切にサポートすれば、実現の可能性も増し、直接ビジネスにつながるチャンスもある。

「どうせ他国がやるのだから、日本はそれに付いていけばいい」と考える向きもあるだろうが、しかし他国との共同探査や開発計画を行う場合、まず相手と対等な関係を構築できるかが重要であり、そしてそれは、その分野において他に負けないほどの実力と実績があって初めて成立するものだということを忘れてはならない。

 この月の地下空洞が、これから先どのように探査され、そして活用されていくのかはまだわからない。しかし、だからといって他国や他社が動き出すのを待っていては、日本は地下空洞における存在感を失い、そして科学でもビジネスでも後塵を拝することになるだろう。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・月の地下に巨大な空洞を確認 | 宇宙科学研究所(http://www.isas.jaxa.jp/topics/001156.html)

・マリウスヒルの縦孔 | UZUME Project(http://kazusa.net/uzume/?page_id=13)

・月周回衛星「かぐや(SELENE)」 – 観測ミッション – LRS(http://www.kaguya.jaxa.jp/ja/equipment/lrs_j.htm)

・SLIMについて(http://www.isas.jaxa.jp/home/slim/SLIM/about.html)

・Exciting New Images | Lunar Reconnaissance Orbiter Camera(http://lroc.sese.asu.edu/posts/286)

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