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森友問題で財務省が「交渉記録データ復元」に態度を変えた理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/04/12 山田厚史

 森友学園への国有地払い下げで、財務省は交渉経過を書き留めた書類を「破棄した」としてきたが「電子データなら復元できる可能性あり」と態度を変えた。

 防衛省の「南スーダン日報問題」と似た展開になった。防衛省は日報を「破棄した」と言い張り、ウソがバレそうになると「電子データならある」と認めた。財務省も同じコースを歩むのか。

 書類が存在していることは、3月2日の『世界かわら版、財務省の「交渉記録は残っていない」は本当か』に書いた通りである。私文書として保存するのは官僚の常識。それを「ない」と言い張るのは無理がある。資料がないなら、当事者に聞いて報告すればいい。調べる意思はなく、第三者による調査もしない。そんな当たり前のことさえ拒む。国民への背信を続ける役所が「増税」を叫んでも、誰も相手にしないだろう。

パソコンで作り電子で残す時代に「残っていない」は無理がある

 いまどき行政文書を手書きする役人はいないだろう。会議の報告書や面談の応答記録はキーボードを叩いて作る。手元にはプリントされた文書が残っても役所の記録は電子データだ。

 財務省の佐川宣寿理財局長は「短期間で自動的に消去され復元できないようなシステムになっている」と国会で答弁していた。

 これもウソだったようだ。10日付朝日新聞によると、財務省が2013年に導入した現在のシステムには「自動的にデータを消去する仕組みはなく」、データの消去は手作業だと職員は言う。消してもシステム上に残る。佐川局長が頑なに「消去された。復元できない」と言い張ったのは「文書を見せろ」と言われると困るからだろう。だが、そこに無理があった。

「ないことにしよう」という方針が揺らいだのは、大阪地検特捜部の動きと絡む。

 豊中市議らが「国有地を格安で払い下げ、国に不当な損害を与えた」として近畿財務局を背任罪で告発した。地検特捜部は4月5日この告発状を受理した。

 起訴か不起訴か、特捜部は判断することになる。交渉経過をまとめた書類は、重要な手掛かりになる。「破棄しました」「ありません」は通用しない。自発的に出さなければ家宅捜索される恐れが出た。財務省は「電子データならある」と態度を変えた。

 かつて「大蔵省」だった頃、接待汚職で地検特捜部の家宅捜索を受けた。メモや手帳など私文書をごっそり持っていかれた苦い体験。あの二の舞はゴメンということだろう。「出せる資料は出す」という方針に変えざるを得なくなった。

「都合のいい資料は出す」に転換姑息とはまさにこのこと

 反省して態度を改めたのか。残念ながら、そうではなさそうだ。朝日新聞によると「復元できるかを調べるためには、相当の費用と時間がかかる」と同省情報管理室は説明している。消去された文書は、2週間経つと新たなデータが上書きされる。つまり「残っていないデータもある」と匂わせている。

 ポイントはここだ。「出せるデータ」と「出せないデータ」を分ける、ということだ。「情報公開は都合が悪いからしない」という方針から「財務省にとって都合のいい資料は出す」という態度に変わった、ということだろう。

 これも捜査が関係している。財務省は「背任ではない」と主張したい。そのためには、不正はなかった、とする証拠が必要だ。刑事事件もそうだが、証拠は権力側が握っている。その中で犯罪を立件するのに都合のいい証拠を選び、起訴状が描くストーリーに沿って並べる。

 財務省は手元にある情報から、自分が主張したいストーリーに合わせ「データが復元できた」と資料を出す、というハラだろう。

 森友学園の小学校用地にはゴミがたくさん詰まっていた。撤去するには巨額の費用が掛かる。想定される費用を値引きしたら9億円の土地が1億円になりました。そんなストーリーに合わせた資料を出そうというのである。

 姑息、とはこういうことではないか。財務官僚は競争社会を勝ち抜いてきた人たちだ。優秀な頭脳をこんなことに使うため難しい試験を突破してきたのだろうか。

 森友学園の籠池理事長は、近畿財務局の対応に「想定外の大幅な値下げ」と驚いて見せた。世間は知っている。特段の便宜を図りながら、ルール違反にならない「知恵」を官僚は持っていることを。

 人々が知りたいのは、なぜそんな「知恵」を働かせて、特定の団体や人物に得させたのか、である。特段の措置を与えるために無理はなかったか。誰が指示すればそんなことができるのか、ということだ。

 疑われるのは財務省に責任がある。払い下げ価格の開示を求める情報公開請求を、近畿財務局は拒否した。後ろ暗いことがある、と誰しも思う。

防衛省の日報問題と同じ構図データ廃棄なら証拠隠滅だ

 防衛省の「日報隠匿」も、都合の悪い情報は国民に知らせない、という身勝手が底流にあった。こちらも情報公開を拒んだことが発端だった。

 南スーダンでは昨年7月、駐屯地近くで起きた大規模な武力衝突が起きた。状況を時系列で報告したのが日報だ。公表すると部隊が戦闘地域にいることになり、PKOの継続が危うくなる。

 ジャーナリストの開示請求に対し、防衛庁は「日報は事務連絡の書類。保存義務はない。廃棄した」と開示を拒んだ。

 PKOを継続できるかに関わる重要情報でありながら、都合が悪いから隠す、という安易な対応に、自民党内からも疑問の声が上がり、調査すると電子データが統合幕僚監部に残っていた。陸上自衛隊の複数のコンピューターにもデータはあり、不開示後に消去された疑いも浮上した。

 紙の時代とは違い、電子データは転々流通しやすく、機密情報でもない日報を防衛庁は隠しきれなくなった。

 財務省でも同様なことが起きてはいないか。近畿財務局の担当者が作成した面会記録や会議資料は担当者の端末だけでなく、財務省のデータベースで管理されているはずだ。アクセス権は誰にあるのか。籠池理事長は本省で理財局の室長に面会している。当然、室長はアクセスできるのだろう。情報データは多くの関係者が保管している可能性がある。

 調べればすぐ分かることだ。関係書類は「保管期限1年、国有地売却が決まった時点で廃棄した」と佐川局長は言うが、子どもだましの言い訳である。

 森友学園への売却は分割払いで、支払いは完了していない。カネがない学校法人である。鴻池事務所が口利きし、首相夫人付きから照会があった「政治案件」。トラブルが起きかねない案件であることは役人なら分かる。経過や対応を記したデータを廃棄するなどありえないことだ。やっていたら証拠隠滅だ。

情報公開法に反する文書管理の省令不都合な細部はすべて「私文書」に

 財務省の情報管理に詳しいOBによると、「公開制度ができたとき、文書管理を洗い直した」という。内部の書類をすべて出すと面倒が起こりかねない。開示するのは、国会などに出す公式文書などで、交渉経過や面談記録など細部を記録したものは、担当者が保管する「私文書」として情報公開の枠から外した、という。

 佐川理財局長が主張する「文書管理は財務省令に従い」というのはこれである。財務省が勝手に決めたことで、「政策決定過程を後で検証できるようする」という情報公開法の趣旨に、明らかに反した情報管理がなされている。

 TPP(環太平洋経済連携協定)を思い出してみよう。交渉内容は「非公開」だった。何がどう話し合われているか表に出てこない。交渉担当者は「守秘義務」が課され、しゃべってはいけない。と言いながら交渉についてはレクや懇談があり、外務省や経産省の役人が記者クラブで説明する。世論対策として都合のいい部分だけ公開した。

 交渉が妥結して、分厚い協定書や付属文書が公開された。ところが交渉経過や個別会談の内容は非公開のままだ。

「真実は細部に宿る」という言葉がある。どこの誰が、いつ、どんな話し合いをしたか。その「細部」が全体の性格を映し出す。だからTPPは交渉記録を非開示にする。どこの国が、どんな要求をして、どう決着したか。そこにTPPの本質が滲むからだ。

 財務省が交渉記録を出さないのは、それと同じである。誰の圧力で、どう動いたかが分かるからだ。

 森友事件は、情報公開制度の実態を考え直すいい機会だ。鉄面皮な理財局長が「省令に従い」というが、その省令がとんでもないものであることがよく分かった。

情報公開なくして増税なし情報公開なくして民主主義なし

 財務省だけの問題ではない。元経産官僚の古賀茂明さんも「交渉記録など大事な文書はないことになっているが、あります。担当者がちゃんと保管している。局長が、誰か持っていないか、というと『あります』と出すようになっている」と役所の内情を語っている。

 財務省も経産省も、多分その他の官庁も、同様な「抜け穴」を作っているのだろう。それが公然化したのがTPPだった。

 役人は、税金で情報を集めながら、情報は自分のものだと思っている。

 情報は権力だ。民主主義は政府に集まる情報を透明にすることなしに実現しない。

 南スーダンの日報問題も、森友学園の国有地格安売却も、発端を切り開いたのは情報公開請求、という点は意味深い。

 権力者は公開の間口を限りなく狭くする。情報公開法ができても、省令でブロックする。世間が知りたい情報は出さず、「私人である首相夫人付きの役人」への回答書という意味不明な文書などが突然出てきたりする。

「情報の非対称性」とは、こういうことだろう。権力側は情報を全て抱え込み、都合のいい「証拠」だけを小出しにする。市民の側は、請求しても「のり弁」。真っ黒に消された文書か「非開示決定」である。

 日報問題も森友事件も、安倍政権の性格を色濃くあらわす事件だった。そして情報公開がいかにおろそかにされ、権力者の都合で運用されていることを学ぶ機会となった。

 情報公開なくして民主主義なし。財務省は肝に銘ずべきだろう。情報公開なくして増税なし。政府への信頼がなければ財政再建など夢物語である。

(デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員 山田厚史)

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