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森友学園問題の真相は財務省による「忖度」ではないか

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/13 上久保誠人
森友学園問題の真相は財務省による「忖度」ではないか © diamond 森友学園問題の真相は財務省による「忖度」ではないか

 学校法人「森友学園」(大阪市)が大阪府豊中市の国有地を評価額より大幅に安く取得した問題で、森友学園が小学校の設置認可を求めた申請を取り下げた。学園理事長の籠池泰典氏は、理事長を退任する意向を示したが、国有地売却を巡る「政治家の関与」は否定した。

 14億円相当の国有地が実質200万円で売却された不可解な経緯に、政治家の関与があるのではないかと、野党は厳しく追及してきた。森友学園の要望が次々と実現した背景に、政治家の口利きがないというのはあり得ないとする見方が広がる一方で、それを示す確たる証拠は未だに出てきていない。安倍晋三首相は「私と家内、事務所も一切関わっていないと申し上げた。もし関わっていたら私は政治家として責任を取る」と明言している。

 本稿は、安倍首相など閣僚級の政治家の関与はなかったのだろうと考える。むしろ「安倍首相に近い」とされる保守系の団体からの強い要求を、財務省が首相の意向を「忖度」して認めていったように思われる。しかし、安倍首相を支持しているとされる保守系の団体が、日本社会で不思議な影響力を持っているとするならば、それは「政治家の口利き」のような単純な話よりも、はるかに根が深く、嫌な問題になってくるのではないだろうか。

地方レベルの「政治家と保守系団体」の日常の付き合いとは

 森友学園と政治家が、実際にどこまで接触していたのかを推測してみるところから始めてみたい。一般的に考えて、日常レベルで様々な接触があったと考えるのが自然だ。日本の地方政治の日常を見れば、運動会など学校行事等に地方政治家や国会議員が、選挙対策として顔を出すのはよく知られていることだ。特に、自民党や維新の会のような「保守」であれば、一応思想的にも近い。塚本幼稚園に顔を出し、「教育方針が素晴らしい」などリップサービスを交えた来賓祝辞もしていた政治家がいたことは、容易に想像できることである。

 筆者は、大学のキャンパスが大阪にあるので、大阪の地方自治体・議会と若干なりとも交流がある。そこで、「維新の会」についての話を聞くことがある。ご存じの通り維新の会は、「既得権打破」「二重行政打破」を強く主張したきた。一方、「日本会議」のような、いわゆる「新しい保守」系の団体は、最近までいわば「マイナー」な組織に過ぎなかった。そういう意味で、同じくマイナーな存在同士であった、維新の会の地方議員と接近するのは容易に想像できる話だろう。

 維新の会は地方レベルではいろいろなバックグラウンドを持つ議員がいる。自民党から維新に移ったコテコテの「土建屋政治家」の古株議員もいれば、若手には、流行りの言葉でいえば「オルタナ右翼」のようなレベルの議員も少なくないようだ。彼らと「新しい保守」系の団体とは、思想的な親和性もあり、互いに警戒することはほとんどなく、むしろ惹かれ合うように接近していったように思われる。

 今回の件で、橋下徹元大阪市長や松井一郎大阪府知事など、維新の会のトップレベルと森友学園の深い関係が噂されている。しかし、それは松井知事の「面識がある程度」という説明を、素直に受け取っていいのではないだろうか。むしろ、それ以前の現場レベルでの、日常の付き合いがかなり密接にあったと考えるほうがいい。

地方政治家、鴻池氏、近畿財務局は動かず財務省理財局で土地取得は決められた

 しかし、そんな日常的な付き合いが割と気楽に続いているうちに、森友学園側が「小学校を設置したい」と、いろいろな政治家に言い出すようになった。最初は地方議員に陳情を繰り返し、話がなかなか進まないと鴻池祥肇元防災担当相のような国会議員に陳情をしていったということだ。「学校の認可・設置に関する政治家への陳情」というだけならば、どこの地方でもよくあることで、「政治家が相談に乗る」「役所の担当者を紹介する」程度のことなら、別に珍しい話ではないだろう。ただし、今回はそれとは別次元の、土地取得に関するあまりに不可解な話がある。これについては、よくある話と片付けるわけにはいかないものである。

 今回の件に関しては、鴻池事務所に対する籠池理事長の「陳情報告書」の記録が出てきている。そこには、鴻池元防災相の元秘書・黒川治兵庫県議会議員(自民党)や、中川隆弘大阪府議会議員(維新の会)らの名前が出てくる。彼らは、再三再四に渡って、籠池理事長から「鴻池事務所につないでほしい」と依頼を受けていた。そして、「相談に乗ってあげてよ」という形で、鴻池事務所につないだという。ここまでは、まだ通常の陳情の範囲内だ。

 しかし、2016年3月に森友学園が、杭打ち工事を行う過程で新たな地下埋蔵物が発見されたことをきっかけに、資金不足のために土地を賃貸することから、突然購入に方針転換してからは、陳情攻勢のしつこさが尋常ではなくなった。報告書には、「うちはコンサル業ではありませんので」「うちは不動産屋と違いますので。当事者同士で交渉を!」「どこが教育者やねん!」「大阪府の担当者は、土地以外の(生徒募集)を一番懸念されているようですが」などと、籠池理事長のあまりにしつこい陳情に、鴻池事務所が呆れかえっていた様子が記されていた。

 そして、籠池理事長は、要求に応じない近畿財務局を飛び越えて、財務省理財局を訪れて直談判に及んだ。その際、理事長は鴻池事務所にアポ取りを依頼したが、断られていた。しかしノーアポで理財局に乗り込み、ゴミ処理代を8億1900万円とする内諾を得て、評価額9億5600万円の国有地を、1億3400万円で購入したのである。

 要するに、籠池理事長は地方・国の様々な政治家に接触し、近畿理財局にも掛け合ったが、国有地を安く購入することはできず、財務省理財局訪問のアポ取りさえ断られていた。理事長が理財局に直談判して、初めて森友学園の要求が通ったのである。つまり、地方議員も鴻池元防災相も、ルールに従って事務的に対応していた近畿理財局を動かすことはできなかったのだし、そもそも動かす気がなかったように思われる。全ては財務省理財局で決められたのであり、そこに政治家の関与、それも鴻池元防災相を超える「大物」が関与したかに焦点が絞られることになる。

安倍首相があえて保守系学校法人の土地取得に関与するとは考えられない

 要するに、突き詰めると「安倍首相夫妻が森友学園の土地取得に関与していたか」が焦点となるわけだ。しかし、筆者は「現時点では」安倍首相夫妻の直接的関与はなかったと考えている。安倍首相は、第一次政権(2006年9月~2007年9月)をわずか「365日」の短命政権に終わるという失敗を経験している。その一因は、「年金未納問題」や度重なる閣僚の「スキャンダル」などで支持率が低下し、求心力を失ったからだ。筆者は、スキャンダルが頻発したに背景には、「教育基本法改正」など、首相が保守的な信念を貫こうとして、左翼勢力を本気で怒らせたからだと考えている。

 安倍首相は、2012年12月に政権復帰するにあたって、この第一次政権期の失敗から様々な教訓を得ていた(本連載2015.3.5付)。それは、政敵に隙を与えないために、「守り」を固めるということだ。例えば、首相は、自身の保守的な思想信条を表明するのに、非常に慎重である。もちろん、「特定秘密保護法」(2013.12.6付)、「安保法制」(2015.9.19付)など、「やりたい政策」を実現してきた。それでも、「アベノミクス」による経済重視を打ち出して、愚直に政策実現を目指した第一次政権期と比べれば、相当に慎重に振る舞ってきたのだ(2014.12.18付)。

 そんな慎重な安倍首相が、保守系の学校法人の土地取得に関与するなど、危ない橋を渡るはずがないと思うのだ。本人ではなくても、スタッフが関与したというかもしれないが、本人以上にスタッフが慎重なはずで、ありえないことだ。もし本当に関与しているならば、即刻「内閣総辞職」に値する愚行であろう。

 従って、森友学園が「安倍晋三記念小学校」という名称を使って寄付集めをしたことに抗議したことや、「何度も何度も断ったのに、しつこかった」という首相の国会での説明は、嘘を言っていると決めつけることはできないと思う。日頃の首相の慎重な行動から理解できる範囲のものだ。

 一方、安倍昭恵夫人が、森友学園の小学校の名誉校長に就任し、講演会でその教育方針を賛美したことは、軽率であったと言わざるを得ない。しかし、擁護するわけではないが、端的に言えば、夫人が世間知らずで「天然ボケ」のお嬢様だったというだけの話だ。これも一般論になるが、政治家やその関係者に講演や取材の依頼は日々いろいろ来るものである。事務所は、相手の思想信条などあまり考慮せずに引き受けることはある。逆に、依頼を断るのは案外に難しいものである。

そして、講演になれば、目の前に座っている人たちに、ある種の「リップサービス」をすることはよくあることだ。例えば、首相・閣僚レベルでも、有名な森喜朗氏の首相在任時の講演での発言「日本は神の国」や、麻生太郎財務相が「ナチスの手口をまねたらどうかね?(会場から笑いが起こった)」と口が滑ったりしたような話である(2013.8.30付)。

 それは、森氏や麻生氏が時代錯誤なとんでもない思想信条の持ち主だというより、その言葉だけ取り上げず、講演の前後の文脈も併せて聴けば、目の前の人を単純に笑わせただけだとわかる。安倍夫人の発言も、そういう類の話で、「今後気を付けてください」という厳重注意で済む話だ。それが直ちに、首相夫妻の土地取得やその他の便宜への関与の証拠というわけではない。「アッキード事件」というのは、明らかに限度を超えているだろう。

保守派は影響力があるという「空気」を断ち切らなくてはならない

 そうすると、誰が関与して森友学園の国有地取得が実現したのかだが、基本的には政治家は誰も「口利き」はしていないのではないだろうか。財務省理財局が、籠池理事長の直談判を自らの判断で受け入れてしまったのだ。要は、籠池理事長が安倍首相と「近い関係にある」と思い、安倍首相の意向を「忖度」して、理財局の判断だけで話を通してしまったのではないだろうか。

 これも一般論から入りたいと思うが、日本社会では、「うるさい人」がやってきたら、いちいち理屈で抵抗しないで、できるだけ触らない、関わらないということで話を通してしまうということがよくある。まして、権力を持つ人がバックにいるとなれば、なおさらである。

 籠池理事長が財務省理財局に直接乗り込んできて、「安倍首相がバックにいる」とか、あることないことを言って圧力をかけたことは容易に想像できる。理財局からすれば、本当に首相がバックにいるのかどうかはわからない。しかし、杓子定規に断った後で、本当に首相が出てきたら面倒な話になってしまう。

 麻生財務相が国会で「適切に処理した」と再三答弁しているように、国有地の売却自体は、財務省理財局の権限でできるもので、違法ではないのだろう。だから首相などに確認することもなく、通したということだろうか。それならば、至って「日本的な話」だということになる。

しかし、もう一歩踏み込んで考えると、話はもっと深刻なものになるかもしれない。安倍政権が長期政権化していき、次第に首相が特定秘密保護法、集団的自衛権から共謀罪、そして憲法改正へと「やりたい政策」を着実に進めていくようになると、それを支持する「日本会議」など保守派が、なんとなく政界に影響力を持っているような「空気」が流れているように思える(2016.11.8付)。

 前述のように、政治家は地方でも中央でも、日常の活動において、日本会議の関連など保守的な団体に「いい顔」を見せて、その思想信条を素晴らしいなどと「リップサービス」を繰り返すようになっている。その空気は、中央の官僚組織の中心である財務省までもが、強く感じるようになっているのではないだろうか。そして、安倍首相に何も頼まれているわけではないのに、きっと首相が望むことだと「忖度」してやったことだとすれば、物事は単なる「政治家の関与」よりも、より根深く、面倒なものになるのではないだろうか。

 さらに言えば、籠池理事長と財務省が接触した時期は、安倍首相と財務省が「軽減税率」を巡って激しい攻防戦を繰り広げた後であった(2015.12.22付)。そして、首相がノーベル経済学賞の受賞者を官邸に招き、「消費増税延期のお墨付き」を得ようとした時期でもある(2016.4.12付)。財務省と首相の関係が悪化していた時期だったといえる。財務省が首相のご機嫌を取り、関係改善のために行ったことが、「首相を支持する保守的な団体の国有地取得に便宜を図ること」だったとすれば、大問題であろう。

 おそらく、この問題は籠池理事長の辞任と、小学校の認可申請取り下げで、幕引きを図る方向に向かうのだろう。安倍首相など「政治家の関与」も、確たる証拠は出てこないだろう。しかし、野党は追及の手を緩めるべきではない。前回論じたように、この機会に、自民党と保守派の不適切な関係を絶たせるべきである(2017.2.28付)。単なる政治家のスキャンダルという以上のより深刻な問題が、日本社会の地方の現場レベルから、中央政界・官界にまで静かに広がりつつあることを、見逃すわけにはいかないのではないだろうか。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

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