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米国裏切る日本政府、中国へ朝貢政治

JBpress のロゴ JBpress 2019/10/09 06:00 用田 和仁
尖閣諸島を警備する海上保安庁の巡視船 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 尖閣諸島を警備する海上保安庁の巡視船

迷走する日本の政治

 日本の政治は迷走している。特に安全保障分野においては、どこを向いてこの国の舵を切っているのか分からない。

 日本独特の空気の支配と、阿吽の呼吸とでも言うのか、国民、マスコミは全く気にするそぶりも見せない。さらに、日本のシンクタンクも警鐘を鳴らすどころか、沈黙を貫いているように見える。

 つい最近まで中国に対して警告を発していた方々も、中国へすり寄る日本政府に対して何の意見も言わないのは実に異様である。

 その発端は、昨年(2018年)10月、安倍晋三首相をはじめとする政府の要人が中国を訪問し「中国との関係は完全に正常な軌道に戻った」との認識を明らかにしたことである。

 この認識は、首相の2019年1月の施政方針演説でも述べられ、今や日本政府の統一見解になっている。

 しかし、首相訪中後も、中国は公船と称した軍艦をほぼ毎日、領海を含む尖閣諸島周辺海域に遊弋させ、施政権の奪取、あわよくば同諸島奪取のチャンスを狙っている。

 このように、中国公船(軍艦)が我が国の主権を侵害する明確な意図をもって航行し、実力によって現状変更を試みるという挑戦的行動を踏まえ、昨年12月の「防衛計画の大綱」で中国に対する評価として「安全保障上の強い懸念」を示したのではないか。

 日本政府の日中関係の正常化発言は、中国が我が国に突きつけている危機事態とは明らかに矛盾する。

 さらに米国の貿易戦争を端緒とする「中国共産党」に対する妥協のない戦いの決意の腰を折っていないだろうか。

 はっきり言えば、米国に対する裏切りである。いったい誰がそう言わせているのだろうか。

矛盾する政府の考え方

(1)日本発のインド太平洋戦略

 首相は、10月4日の国会における所信表明演説の「地球儀を俯瞰する外交」で、どう考えても矛盾する内容を発言した。

 その中で「日米同盟を基軸としながら、我が国は、英国、フランス、豪州、インドなど基本的な価値を共有する国々と手を携え、自由で開かれたインド太平洋を実現して参ります」と述べた。

 これは、首相が2012年に提唱した「セキュリティ・ダイヤモンド構想」と2016年にアフリカ開発会議(TICADⅥ)で提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」を再確認したもので、米国やインド、オーストラリアも高く評価している。

 それだけに首相の本気度には大いに期待が膨らんだが、その分、最近の失速には失望も大きい。

 本来、日本はその中核となる軍事戦略を明確にすべきであったが、それを埋めたのは米のシンクタンクCSBAが今年5月に発表した「海洋圧迫戦略(Maritime Pressure Strategy」である。

(JBpress2019年6月26、27日「対中国長篠の戦で勝つことを決めた米国」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56815、「長篠の戦で中国に勝つ具体的戦略」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56817参照)

 これに対してロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2019年10月3日、露南部のソチで開かれた国際会議の場で、インド太平洋戦略について「中国を封じ込めようとする試みは不可能だ。それを試みる者は自身に損害を被るだろう」と述べている。

 この発言から見ても、インド太平洋戦略は、政治的には中国の独裁の抑圧社会を否定し、軍事的には中国の海洋侵出の勢いを止めようとするものであることは、明白であろう。

(2)米国の決意は固い

 米国は、2018年10月のマイク・ペンス副大統領の演説を言うまでもなく、中国の「自由を抑圧する共産党政権」に対して完全に対決姿勢になっていることは承知の事実であろう。米国は本気だ。

 習近平共産党書記長は、2017年10月の中国共産党大会で「中華民族の偉大な復興の下に、人類運命共同体を構築する」と、中国があたかも朝貢体制を再構築するかのような宣言を行った。

 その直後の2017年11月7日に米国のドナルド・トランプ大統領は、「共産主義犠牲者の国民的記念日」を宣言した。

 その日は、ロシアのボルシェビキ革命から100周年にあたる日で、そこでトランプ大統領は「共産主義は、自由、繁栄、人間の命の尊厳とは相いれない政治思想だ」と強く非難したのである。

 その後の2019年3月、米国連邦議会は超党派で40年ぶりに「現在の危機に関する委員会:中国」を設置し、「我々は最終的に共産主義体制の性格から生じる問題に対処しなければならない」と決議した。

 繰り返すが、米国は中国と単なる貿易戦争を行っているのではない。「米国は対極に位置し支配に飢え、他を支配する勢力に対し、自らが依って立つ伝統や慣習を守っていく」(9月24日トランプ大統領の国連演説)ことを目標としているのである。

 日米貿易協定が早期に妥結したのも、日本が対中国において政治的にも、軍事的にも重要だからであり、上手く交渉できただけではないことを銘記すべきだ。

(3)日本の対中政策はこれでいいのか

 一方、日本政府は、中国のCCTVでの中国建国70周年記念日の祝意や、先の所信表明演説では耳を疑うようなことを述べている。

 CCTVでは、「両国経済は緊密なものとなっていると同時に、お互いがお互いを必要としている関係になっている」と述べているが、中国にとっては米国との深刻な貿易戦争で痛手を被っているから、その穴埋めとして日本を利用し、同時に日米の離間を図るのは当然だろう。

 米国は中国との交渉で「資本移動の自由」を突きつけているそうだが、端的に言えば中国にいる外国企業が撤退しようとしても、撤退できない状況を打破しようとして戦っているのに、日本の企業はあえて中国の人質になろうとしている。

 米国の本気に水を差す日本は、この1~2年の内に米国の国防権限法で痛い目に遭うだろう。それでもまだファーウエイを使い続ける企業もあるようだ。

 日本が米中間で中立の立場を維持すれば、漁夫の利もあると考える人たちは危機意識に乏しいか、正気を失っている。

 さらに、首相は、中国建国70周年の祝賀メッセージで「良い雰囲気の中で日中新時代を切り開く覚悟」「共に国際社会への貢献」「日中で世界の課題に取り組み、新たな未来を切り開く」「日本国民を代表してお祝いを申し上げる」などと述べている。所信表明演説もほぼ同じ内容である。

 共に日中で世界の課題に取り組むとは、中国からすれば下位に見ている日本が中国国家に優先する中国共産党のいう事を聞いたうえで中国の考えを広めるということであろう。

 中国は、2020年を目標に完全な監視・統制社会を作ろうとしているのである。その一員として協力するのは、世界に中国の独裁、抑圧社会を広めることに日本が手を貸すということではないのか。

 日本の祝賀メッセージに対する中国の反応は、「中国は高く評価する」というものだ。まるで日本は朝貢国ではないか。

 日中の間に真の共存共栄はあり得ない。経済的利益だけ受ければ、エコノミックアニマルと言われてもいいと考えるのなら、それは独立主権国家とは言えない。筆者は、祝意を述べる国民に含まれることを拒絶したい。

米中の軍事的対決回避は困難

 外交や政治の動きもあるだろうが、軍事的に見れば米国の覇権に挑戦しようとしている中国の軍事的対決は、もはや不可避である。それは次の3つのことから言える。

●相互の覇権に対する強い意志

 中国は2017年の中国共産党大会で、中華民族を中心として人類運命共同体を構築すると宣言し、その裏づけとなる軍事戦略では2035年までに西太平洋以西の支配を明確にするなど、米国から覇権奪回の意志は強い。

 経済面でも一帯一路に代表される独自のシステムを構築して、新たな秩序を構築すると宣言している。

 一方、米国は最終的に中国共産党の存在を認めないと言う固い決意を持っている。その考え方は、超党派で米国議会が後押しをしているため、中国に対する対決の意思は揺るがない。

●第1列島線の価値

 中国にとって第1列島線は、中国の経済的核心地域(天津・北京、揚子江デルタ地域、珠海・広州地域)を守る外壁であると同時に、中国の海洋侵出の戦略的通路であり、太平洋への「飛び板」である。

 一方、米国にとっては中国の海洋侵出、特に太平洋への侵出を封じ込め、東アジアにおける覇権や権益を守る砦の意義がある。

●明確に敵を打ち破る作戦・戦略の存在

 中国は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略で米国の第2列島線以内への接近を阻止するとともに第1列島線内の米軍を撃破する構想の下に、第1列島線に対する短期高強度の戦い(Short, Sharp War)、すなわち、南西諸島全域や台湾、フィリピンなどを目標とした短期決戦による既成事実化を目標に準備し、訓練している。

 一方、米国は第1列島線へ米陸軍・海兵隊を展開させて中国海空軍の太平洋への進出を阻止するするとともに、米海空軍と同盟国・友好国の軍隊が協力・連携して中国艦隊(潜水艦を含む)を撃滅する構想の海洋圧迫戦略を採用した。

 そして、2020年から台湾を含む南・東シナ海シナリオで「Defender Pacific」機動展開訓練を実施することを決めた。

 このような状況の中で、日本の選択肢は、米国と共に第1列島線を守り「自由を守る壁」となるか、中国の軍門に下って中国と共に「抑圧の壁」となるかの二者択一であり、中立はない。

© Japan Business Press Co., Ltd. 提供

日本の決断

 日本の中国に対する宥和政策的な考え方に、アジア諸国も西欧諸国も失望しているだろう。

 香港の自由を巡る戦い、少なくとも中国が一国二制度を反故にしようとしている動きに、日本は何ら苦言を呈するわけでもなく、米国が中国を追い詰めて真に国際社会の一員にしようとする行動に同調するわけでもない。

 自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配を普遍的価値として掲げる日本は、日本人として恥を感じないだろうか。

 かつての天安門事件において、諸外国の中国への制裁を破って、真っ先に中国を支援した同じ過ちを犯していないだろうか。

 来年春の日本の桜は、中国国家主席の国賓としての訪日を喜ぶだろうか。

 しかし、希望は失ってはいない。

 首相は10月5日の所信表明演説において次のように演説した。

「パリ講和会議において、日本は人種平等を掲げ、世界中に欧米の植民地が広がっていた当時、日本の提案は各国の強い反対に晒されました」

「しかし、決して怯むことはありませんでした。日本全権大使は、困難な現状にあることは認識しているが、決して乗り越えられないものではないと述べた」

 日本はその後戦争に負けはしたものの、高尚な理念を持ち、それを主張し続けたではないか。

 それが分かっているなら、なぜ今、米中の戦いの本質は、「自由を守るか」「独裁の抑圧する社会で生きるのか」の選択だと気がつかないのだろうか。いや、良識あるサイレント・マジョリティーは気づいているだろう。

 ならばもう一度立ち止まって、敢然と自由と民主主義、基本的人権の尊重、法の支配を守る側に立ち行動を起こすべきであろう。

 今こそ日本は、中国への過剰な配慮を止め、勇気をもって自らの立ち位置を明確に表明しなければならない。

 短期的な経済的利益だけを追うような日本ならば、決して歴史に名は残らないだろう。

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