古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

結局のところ、水道はどうすればいいのか 公も民もダメダメな理由

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/12/04 08:21
水道法改正に問題はないのか(写真提供:ゲッティイメージズ) © ITmedia ビジネスオンライン 水道法改正に問題はないのか(写真提供:ゲッティイメージズ)

 日本に混乱をもたらす「移民法案」の成立が目前に控える一方で、もうひとつ我々の生活に計り知れない大きな影響を及ぼす法律がこれまたしれっと通過しようとしている。

 水道法改正だ。

 この改正案の最大のポイントが、自治体が水道事業の認可や施設の所有権を持ったまま、民間企業に運営権を委託できるという「コンセッション方式」の導入だ。

 ご存じの方も多いと思うが目下、全国の水道管が老朽化しており、これを取っ替えるのに莫大なカネがかかるという深刻な「水道クライシス」に直面している。法定耐用年数を超えた水道管は13.6%もあって、現在のペースでせっせっと取り替え工事をしても130年かかる見込みだが、自治体は過疎だ、人口減少だ、ととにかく余計なカネがない。そこで、「民」の力を活用して、運営してもらおうじゃないのというわけだ。

 そう聞くと、「ま、電気、ガス、郵便局も民営化して、なんやかんやとまわっているんだから水道だっていいんじゃないの」と感じる方もいるかもしれないが、その一方で、「民営化すると日本が滅びる」くらいの勢いで猛反発する方たちも少なくない。

 20年以上前に水道民営化に踏み切った後、料金の値上げ、水質悪化などが発生し、「再公営化」の動きも出ている英国や仏国などを引き合いに出して、こんな主張をされているのだ。

 「命に直結する“水”を民間企業なんぞに任せたら、もうけ第一主義で、たちまち料金が高騰して貧乏人が飲めなくなるわ、水質も悪くなるわで、世界に誇る日本の水道がムチャクチャになる!」

 気持ちは分かる。ただ、この手の感情論ばかりが溢れるのもちょっとマズい。この問題を「民営化=悪、公営化=善」という分かりやすい二元論へミスリードして、日本の水道が直面している本当の問題から目をそらさせてしまうからだ。

●問題の本質は「統合」である

 水道民営化にさまざまな問題があるのは紛れもない事実だが、では公営にしておけば低料金も安全も守られてメデタシメデタシ、かというとそんな甘っちょろい話でもない。むしろ、現在の惨状を招いたのは「公営」であって、このままいけば日本の水道代は間違いなくドカンと跳ね上がって不正も続発、遅かれ早かれ水の安全が脅かされる。

 何を根拠にと思うかもしれないが、前回の教訓だ。先ほど述べたように水道管の寿命は40年。ということで、60年代にも今より深刻な「クライシス」が到来している。

 『大都市は軒並み豊水断水 ボロボロの排水管 財政難で進まぬ工事』(読売新聞 1960年7月29日)

 こんなニュースが溢れ、日本の至るところで無差別テロのように水道管が破裂。疲弊した現場のモラルも壊れていった。

 例えば1969年、横浜市水道局職員が水道法違反で逮捕されている。これは市衛生研究所から水質に問題があると指摘されるも、給水停止をしないで幼稚園などに大腸菌が含まれた水を垂れ流したからだ。

 不正を招くのは「企業のもうけ主義」だけではない。財務省や文科省でスキャンダルが続発したことからも分かるように、「危機」に直面した公務員というのは、「保身」や「組織の理論」でうそや不正を重ねていく。

 「水道クライシス」に立ち向かうという点においては、「民」も「公」もダメダメだ。ダメ同士でどんなに罵(ののし)り合っても、明るい未来が生まれないことは言うまでもない。

 じゃあ、結局のところどうすればいいのか。厳しい現実を直視すれば、まずすべきは「統合」しかないのは明らかだ。

 「は?」という方も多いと思うので順を追って説明しよう。

 全国の水道事業の3割が水道収入だけで経費をまかなえないので、自治体が税金を投入してどうにか回している。そんなもん生活必需品だから当然だと開き直る人も多いだろうが、この「無理」のしわ寄せが、自治体間の「水道料金格差」となって現れている。

 普通に生活をしていると、隣町の水道料金など気にならないだろうが、実は水道料金というのは自治体の財源や、浄水施設、水源の有無、権利などによってバラつきがあって、地域によっては数倍の「格差」が生じている。

 平成26年度の総務省の調査によると、料金が最も低い兵庫県赤穂市では10立方メートル当たり367円だったが、最も高い群馬県長野原町は同3510円と10倍近くの開きがあり、この格差は徐々に広がっている。要するに、民営化うんぬんの前に「料金高騰」はとっくに始まっているのだ。

●事業者の数が多すぎる

 「民営化ハンターイ」の方たちがもてはやす「公営化」で、なぜこんな目を覆うような惨状となってしまったのかというと、実は犯人は分かりきっている。

 事業者の数がバカみたいに多すぎるのだ。

 「全国の水道事業は1400弱。複数自治体で運営する事例もあるが市町村経営が原則で、合併を除くと大きな変化がなかった。少子高齢化などで給水人口が5万人未満の小規模事業者は約950もあり、職員が2~3人という事例も多い」(日本経済新聞2017年11月20日)

 電力やガス、鉄道などを見れば一目瞭然だが、公共サービスを安定的に提供するのは「広域化」が欠かせない。明らかに赤字の過疎地でも都市部と同じレベルの公共サービスが提供するには、ある程度のスケールメリットがなくてはいけないのだ。

 ここまで言えばもうお分かりだろう。破たん寸前の水道事業を健全にまわすためには、1400も乱立する事業者を整理して、ひとつの県に1つの水道事業者、あるいは「東日本水道局」みたいに広域エリアで1つにまとめるしか道はない。実際、香川県は今年4月、県内16市町の事業を統合して、全国初の1県1水道体制をつくっている。

 このような全国的な「水道事業統合」が実現すれば、まず拠点や人員が減る。ノウハウの共有や、リクルートも一括でできるので生産性が格段に向上する。さらに言えば、水道の「質」も上がるはずだ。

 「民営化で水道がハチャメチャになる」論者の方を前にして大変申し上げにくいが、実は公営水道でも、一部の役人と懇意の工事業者がやりたい放題で、既に十分ハチャメチャという動かしがたい事実がある。

 例えば、橋下徹氏の時代から「水道統合」でやり玉に上がってきた大阪市の水道は不正の温床となっており、今年3月に発表された市の調査では、業者が安い資材を使ったりする「不正工事」が76件あった。しかも、それは市職員が不正を認識したままスルーしていたのだ。

 他にもあまり注目されないが、自治体の水道局や水道工事を舞台にした汚職は定期的に発生している。

 なぜこうなるかというと、先ほども申し上げたように小規模事業者が多いからだ。

 全国で1400も乱立する一方で、人員も少ないため、権限が個人に集中してガバナンスが崩壊している。つまり、分かりやすく言うと、全国の市町村に「水道利権」がバラまかれているため、全国に小さな猿山のボス猿が溢れかえっている状態なのだ。

●日本の悪評を世界に広めるだけ

 「民営化」ばかりに注目が集まってしまっているが、実は今回の水道法改正には、「広域連携」を進めるための協議会の設置を可能にすることも含まれている。

 水道の料金高騰を招き、不正の温床となる「各地域の水道利権」にメスを入れようという試みが入ったのは素直に評価すべきだが、問題の本質に手を突っ込む施策にはそこまで踏み込まず、問題を先送りする「民営化」ばかりが注目を集めている。そのような意味では、同じ国会でゴリ押しされている入管法改正案とよく似ている。

 前回も述べたように、日本の経営者が大騒ぎしている「人手不足」のほとんどは雇用ミスマッチが原因だ。

 賃金が低くて待遇も悪い。そんな生産性の悪い小規模事業者が日本には多すぎる。彼らを「延命」させるには弱い立場の「奴隷」が必要だ。が、若者や派遣労働者からも敬遠されてきた。そこで、何も知らぬ外国人にやらせちゃえ、というのが今回の改正案の真の狙いなのだ。

 ここでやるべきは、「奴隷」を増やすことではなく、まずは技能実習生や外国人留学生の皆さんの待遇をよくすることであるのは明白だ。労働者の賃金アップや待遇改善についていけない小規模事業者は残念ながら自然に「淘汰」される。

 これは経営者個人で見れば「悲劇」だが、日本として見ればそれほど悪い話ではない。産業内の「事業統合」が促進されてスケールメリットが出るのでコストも減るし、無駄な人員も削減できる。要は、先ほど触れた「広域化」の恩恵に授かることができるのだ。

 このような生産性向上策を進めて、賃金と待遇という環境を整えた上で、それでもなお労働者が必要だというのなら、移民でもなんでもやればいい。今のままでは、日本人労働者が被害者となっているパワハラやセクハラを外国人にまで広めて、日本の悪評を世界に広めるだけだ。

 水道も全く同じだ。「統合」という生産性向上を抜きに民営化を進めても、自治体の水道局を買おうというもの好きはいない。破たんした不良物件を押しつけられるだけだからだ。

●「海の向こう」に逃げる、悪い癖

 まずやるべきは1400にも散らばっている水道事業をまとめる。そして、東日本や西日本というエリアごとに運営をしていく中で、コストや安全性をかんがみながら、他国の失敗事例を精査して、「民営化」という選択を検討しなくてはいけない。

 一言で言えば、どちらも順番が逆なのだ。

 日本人はよくも悪くも「ムラ」の秩序を大切にする。そのため、「自治体の水道利権」や「生産性の悪い中小事業者」という構造的な問題も、見て見ぬふりをしてきた。

 そんな面倒臭い話に手を突っ込むと、仕事を奪われて困る人がたくさんいる――。その一言で黙りこくり、ひたすらこの問題を次世代に先送りしてきた。

 政治家はもっと露骨で、地方の公務員も中小企業も「票田」なので、彼らの権益を守るしかない。そこにメスを入れるといいだすと、すさまじい反撃に合うのは、橋下徹氏を見れば明らかだ。

 だが、その問題先送りがいよいよ限界に差し掛かってきた。そこでひねり出したウルトラCが、「外国人」だ。

 留学生や技能実習生のように「奴隷」をさらに増やせば、生産性の悪い中小企業は変わることなく「延命」できる。同様に、水道も民営化すれば、豊富な日本の水資源を狙って外資が上陸してくれるので、自治体は血の流れる改革をせず問題を丸投げできる、と踏んでいるのだ。

 要は、自分たちで手を突っ込むことができない難問を、「外国人労働者」や「外国企業」というよそ者をスケープゴートにして押し付ける。どっかの大企業の外国人が手のひら返しで犯罪者にされる構図もそうだ。

 日本人は無意識だが、世界ではそういうメンタリティを「島国根性」と呼ぶ。まずはそろそろ、「困った時の外人頼み」はやめにしないか。

(窪田順生)

ITmedia ビジネスオンラインの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon