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自衛隊はドローン1機の攻撃を防げない

JBpress のロゴ JBpress 2017/08/10 部谷 直亮
ウクライナ東部バラクリヤで、爆発が起きた弾薬庫から立ち上る煙。同国政府提供(2017年3月23日撮影)。 © AFP/UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE〔AFPBB News〕 ウクライナ東部バラクリヤで、爆発が起きた弾薬庫から立ち上る煙。同国政府提供(2017年3月23日撮影)。

 以前、本コラムで、イラクとシリアでイスラム国が人類史上初の自爆ドローン戦に踏み切った事実を紹介し、これが日本にも深刻な影響を与えると指摘した。

◎「100億円のF-35が数万円のドローンに負ける日」

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48136

 この指摘に対してドローンを過小評価する見解も見受けられたが、その後、とうとうドローンによってウクライナ軍の世界最大の弾薬庫が爆破されるという事態が発生し、米国の戦略家たちの注目を浴びている。

 以下ではこの事件についての概要や見解を紹介し、我が国への教訓を論じたい。

世界最大の弾薬庫がドローンで破壊

 今年3月23日、ロシア軍はたった1機の小型ドローンで世界最大の弾薬庫を爆破してしまった。「ウクライナのKGB」と言われるウクライナ保安庁の発表によれば、ウクライナ東部バラクリヤに存在する約7万トンもの弾薬(10億ドルもの損害)を破壊したのは、たった一発の焼夷型手りゅう弾を積載したロシアの小型無人機だったという。

 米陸軍戦争大学特任招聘教授のロバート・バンカーは、「この種の焼夷型手りゅう弾と無人機を組み合わせた弾薬庫への攻撃は、ウクライナ南東部ではすでに二度発生している」と指摘している。

 実際、ウクライナではこの2年間、そうした攻撃が上記以外にも以下のように相次いでいる。

・2015年10月29日、スヴァトヴォ弾薬庫が爆破され、3000トンの弾薬が1700軒の民家を巻き込んで吹き飛ぶ。

・2015年12月、小型ドローンがバラクリヤ弾薬庫に少なくとも14個の手榴弾を投下。

・2017年2月17日、ザポロジエの弾薬庫が爆発した。

・同年3月14日、ドネツク近郊のウクライナ軍施設が無人機攻撃を受ける。

 これらの攻撃で使用されたのはZMG-1手榴弾だったという。この手榴弾はテルミット式で、爆発するのではなく2200度以上の高熱で炎上し、厚さ1.27cmの鋼板を溶かすことができる。

戦略家たちが重大な懸念

 こうした事実は、欧米の戦略家たちの間で重大な危機感を持って受け止められている。

 例えば、日本でも「オフショアコントロール戦略」の提唱者として知られ、我が国の防衛省とも交流がある元米海兵隊大佐、国防大学上席研究員のトーマス・ハメス氏は、メディア取材に対して、ドローン攻撃の威力を次のように語っている。

「脆弱な目標であれば、弾頭が小さい無人機でも大ダメージを相手に与えることができる。爆薬は必要ない。なぜなら、すでにそこにあるからだ。この意味で駐機中の航空機も危ない。液化天然ガス施設、石油化学製品工場、燃料貯蔵施設も危ない。また、危険な化学物質の貯蔵タンクは爆発はしないが、破裂すれば壊滅的な影響を与える可能性がある。1984年のボパールの事故では、工場からメチルイソシアナートガスが誤って放出され、3000人以上が死亡した」

 現役の米軍人も注目している。マイヤー・ヘンダーソン・ホール基地司令を務めるパトリック・デューガン大佐も、自らの論説の中で以下のように危機感をあらわにしている。

「ロシアの情報機関とゲリラ軍は、ウクライナの基地に対して、ドローンと手榴弾を組み合わせた体系的な攻撃を行っている。なお、バラクリヤが大爆発したのと同じ週、ワシントンの陸軍基地のわずか1キロ以内で、5体の小型ドローンが飛行制限規制を無視して飛んでいた。ドローンを飛ばした飛行者の意図は不明であり、将来の陸軍基地が大丈夫かどうかも不明である」

 さらに欧州評議会の無人機専門家、ウルリッケ・フランクは、「こうした弾薬庫は、ちょっと燃やせば大爆発するので、ドローンの小規模攻撃の良い目標だ」とし、先のバンカー氏も「これは弾薬庫だけの問題ではない。航空機燃料タンクや給油したままの民間機も良い目標だ」とメディアにコメントしている。

ゲリラコマンドへの警戒が薄すぎる自衛隊

 それでは、これらの指摘を我が国はどう考えればよいのか。

 確かにバラクリヤ弾薬庫の保管状況はひどいものであった。いくつかの爆破前の写真を見れば分かる通り、弾薬入りの木箱を大量に野ざらしに置いているような、お粗末極まりないものであった。一方、自衛隊の弾薬庫や備蓄燃料は基本的に盛り土がしてあったり、地下化されているし、弾薬管理は非常に厳密である。

 しかし、本件は我が国にとっても看過できない。例えば、航空自衛隊の那覇基地は、那覇空港と共有しており、民間ジェット機が(特に滑走路で離陸時に)破壊され、大炎上すれば幾日かは航空作戦は不可能になる。その間に航空優勢を奪取されるなり、空爆されれば目も当てられない。

 また、早期警戒機E-2CやKC-767空中給油機のような、数が少なく、戦力発揮に重要な影響を及ぼす機体も破壊・損傷されれば大変なことになるだろう。一発の焼夷手榴弾および数万円のドローンで、1機100億円のF-35やF-15戦闘機を短期的にでも機能停止に追い込めるならば、非常に効果的である。

 そして、航空自衛隊の弾薬庫は高蔵寺等、非常に数が限られており、弾薬庫からのトラックなどへの積み出し時は露出している。こうしたところやトラックでの基地内での移動時に複数のドローンで焼夷手榴弾を投下すればどうなるかは、火を見るより明らかだ。PAC-3等の防空装備も同じような攻撃で無力化されてしまうだろう。

 海上自衛隊も同様である。基本的に護衛艦の装甲は薄く、停泊時に狙い撃ちされればひとたまりもない。例えば、イルミネーター、SPYレーダー、艦上の地対艦誘導弾などにドローンで自爆攻撃なり引っかかるような爆発物を落とされればひとたまりもない(VLSのような装甲がある部署は除く)。実際、ソマリア沖に派遣された艦艇は小銃弾で貫通するために装甲板が追加されている。しかも、海自は作戦行動中の低高度低速目標からの防衛訓練は行っているが、停泊時の対策については訓練していない。

 陸上自衛隊も同様だ。地対艦誘導弾システム等の高価値目標は平時は駐屯地に駐機しており、装甲もないため、簡単に手榴弾で破壊できるだろう。また、オスプレイも同様である。陸自が南西諸島等に戦力を派遣するために契約している高速船「ナッチャンworld」もアルミ船体でよく燃えるだろう。艦橋も狙いやすく、ここが燃えれば動けないだろう。

 もちろん、地対艦誘導弾システム等については「有事が近づけば掘削機でトンネルを掘る」というのが陸自の理屈だが、そうした行動が緊張状態において許されるのか、また、すべてのシステムを格納できるトンネルを掘る時間的余裕があるのか非常に疑問である。

 自衛隊は、こうしたゲリラコマンドへの警戒が薄すぎる。自衛隊の訓練等は相対的にほとんどされていない。陸上自衛隊の理屈としては、野戦演習がすべての基礎であり総合戦闘力発揮の基盤なので大丈夫だ、としているが、野戦と市街戦や施設警備がまったく違うというのは子供でも分かるはずだ。

 航空自衛隊も、基地警備の人数は非常に足りない。仮に増強したとしても、あの程度ではどう考えてもあの広大な敷地の防衛は不可能である。一部の空自関係者は中国の弾道・巡航ミサイルで空自基地が破壊されても民間空港が使えるなどと豪語するが、せいぜいT/G訓練程度で、そのための訓練も態勢も何もない状況で単なる軍事的妄想でしかない。

自衛隊がドローン1個で壊滅する日

 そもそも、三自衛隊のすべてがドローンディフェンダーのようなドローン迎撃用の装備もなく、訓練もしていない。

 地対空ミサイルでドローンを迎撃するのは、自衛隊のただでさえ少ない弾薬量を減少させるだけだし、レーダーに映るのかも微妙だ。実際、英国王立防衛安全保障研究所のジャスティン・ブロンク氏も「パトリオットでドローンを撃墜したという事例は明らかに費用対効果が悪く、現代の高価な装備の軍隊が安価で容易に利用できる民間技術に苦戦する課題を露呈している。また、パトリオットのレーダーは、小型ドローンを効果的に狙うのは難しい可能性がある」と指摘している。

 もちろん、小銃で迎撃するというのもあるだろう。だが、多くの人間が小銃での迎撃は難しいと語る。そもそもの問題は、平時と有事の葉境期において、自衛隊が不審なドローンを小銃なりミサイルなりの実弾を使用できるかである。しかも住宅が近接している状況で、である。法的に自衛隊が平時に不審な基地に近づく小型ドローンを撃墜が可能かという問題もある。要するに、事実上、能力的、法的に小型ドローンによる自衛隊への攻撃は死角となっている。

 しかし、こうしたドローンは家電量販店で数~10万円で購入可能であり、操縦も簡単で目立たない。あとは工作員が焼夷手榴弾等を持ち込めば、簡単に那覇基地等を機能停止に追い込むなり、高蔵寺弾薬庫からのミサイル搬出中に一気に爆破して弾薬欠乏にさせるなり、自衛隊の宮古島に配備した地対艦ミサイルを破壊するなり、あらゆる攻撃が可能である。また、ハメス氏やバンカー氏が指摘するように民間インフラへの脅威も重く受け止めるべきだ。

 しかも、こうしたロシア軍のやり方を、A2/AD戦やドローン戦を我が国以上に重視している中国や北朝鮮が真似しないはずがない。その意味で「数万円のドローンで自衛隊は1日で壊滅!」というのは、誇張であっても虚偽ではないのである。今やドローン対策のための装備・訓練・態勢の導入こそ急務なのだ。

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