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進む拉致被害者家族の高齢化、横田夫妻が置かれた残酷な状況

NEWSポストセブン のロゴ NEWSポストセブン 2018/06/14 07:00
滋さんの入院から2か月。早紀江さんは病院と自宅を往復する生活 © SHOGAKUKAN Inc. 提供 滋さんの入院から2か月。早紀江さんは病院と自宅を往復する生活

 つい半年ほど前まで、「東京を火の海にする」と叫びながら日本海にミサイルを撃ち込んできた北朝鮮。それが突然の“微笑み外交”なんて嘘くさいが、米朝首脳会談は実現した。拉致被害者家族たちは「期待しすぎるとあとでつらい思いをする」と冷静ながらも、並々ならぬ思いで行く末を見守っている。本当にこれがラストチャンスかもしれない。

「今、お父さん(夫の滋さん・85才)が入院する病院に行ってきたところです。もう、忙しくて、忙しくて…。米朝会談ですか? なにもわかってないでしょう。もう、しょうがないですよ、どうにもならない。私たちは親だけど、どうにもならない…」

 神奈川にある自宅前で、横田早紀江さん(82才)は、両手に大きなバッグを抱え、疲れのにじみ出た表情でそう語った。米朝首脳会談を目前に控えた6月上旬の午後だった。

 苦節41年。13才のわが子・めぐみさんを連れ去られたあの日から、あまりにも長い時間が経っていた。米朝トップ会談は、一筋の光となったのか、それとも──。

 6月12日、史上初の米朝首脳会談がシンガポールで行われた。朝9時から昼過ぎまで、たっぷりと語り合ったドナルド・トランプ大統領(72才)と金正恩委員長(34才)。数か月前まで、「アメリカの老いぼれの狂人」「北のロケットマン」と罵詈雑言を飛ばし合っていたとは思えないほど終始笑顔。何度も握手し、肩や背中を触りあい、親密さをアピールした。全国紙国際部記者の解説。

「今回の会談の焦点は、北朝鮮の完全な非核化でした。トランプ氏はずっとこれを強く主張してきましたが、そう簡単なものではないことに気づいたのか、会談直前に“核廃棄は急がなくていい”とトーンダウン。トランプ氏は会見で“すぐに非核化のプロセスに取りかかる”と強調しましたが、結局、段階的にやるという玉虫色の結論でした」

 世界の注目を集め、サプライズの合意文書へのサインが行われ、会見ではトランプ氏が成果を強調した。しかし、実際には具体的な進展はほとんどなかったというのが、本当のところだ。そもそも、過去に何度も合意を無視してきた北朝鮮が、これから本気で取り組むのかを疑問視する専門家も多い。

 そして、日本にとっては最大の関心事といえるのが、拉致問題だ。

「会談で拉致問題の話題が出たことは大きな一歩でした。しかし、具体的にはなにも合意されず、トランプ氏は“これから話し合う”と述べるにとどまりました。金氏のこの話題に関する反応もわかりません。そもそも北朝鮮は『拉致問題は解決済み』という姿勢を崩していません。

 米朝の合意文書には『朝鮮戦争での行方不明者の帰還や遺骨の返還』が盛り込まれただけに、拉致問題では具体的な進展がなかったことが悔やまれます。これから緊張緩和が進む中で、拉致問題だけが取り残されていかないように、いかに日本政府が交渉していくかが問われています」(前出・国際部記者)

◆夫の入院先で一緒に点滴を受ける

「人生を絶望で終わるのか、がんばってきてよかったとなるのかわからないが、金正恩氏には人間としての“親の心”をわかってほしい」

 早紀江さんは米朝会談前日の会見でそう語った。早紀江さんは今年、82才になった。めぐみさんが失踪してから約40年。被害者家族の高齢化は、もう待ったなしの状況に追い込まれている。

 昨年12月12日には拉致被害者の増元るみ子さん(64才)の母・信子さん(享年90)が、娘との再会を果たせないままこの世を去った。松木薫さん(65才)の母・スナヨさんは2014年に92才で、松本京子さん(69才)の母・三江さんも2012年に89才で亡くなった。政府が認定している未帰国の北朝鮮拉致被害者の両親で、存命しているのは横田さん夫妻を含め4人だけ。早紀江さんは近年、「私たちにはもう時間がない」と繰り返してきたが、その思いは強まるばかりだ。

 4月4日には、二人三脚で闘ってきた夫の滋さんが、入院を余儀なくされた。4月15日には安倍首相が見舞いに訪れたが、会話もままならず、2か月以上たった今も退院できない状態が続いている。

 滋さんは2005年、国の指定難病の1つ「血栓性血小板減少性紫斑病」の診断を受けた。血小板の塊(血栓)が抹消の血管を詰まらせることで出血する病気で、完治が難しいため、滋さんは拉致被害者家族会の代表を退いた。

「数年前から急激に体力が落ち、階段の昇降が難しくなり、最近は歩行もままならないといいます。転倒してけがをすることを恐れて、自分で立ち上がれなくもなっているので、トイレの世話も早紀江さんがされているそうです。

 もう85才ですからね…。食事の量も減ってきて“危ない”ということで、入院されました。言葉もうまく理解できないので、会話も難しくなってきているそうです。それでも、ふと“めぐみちゃんに会いたい、会いたい”ということはお話しされるようです」(家族会関係者)

 滋さんを支える早紀江さんの体力も限界に達してきているに違いない。

「早紀江さんは滋さんの看病だけでなく、拉致問題への理解と支援を得るために講演活動を積極的にこなし、その回数はすでに1300回を超えています。家族会関連の書類の整理や会見などのほか、家庭の主婦として家事もこなさなければいけない。めぐみさんの弟とその子供も一緒に暮らしているそうで、孫の世話にも追われているそうですから、負担は相当のものです。

 最近は滋さんが入院する病院で点滴治療を受けることもあるそうです。なんとかめぐみさんを取り戻したいと、疲れた体に鞭打ってがんばってこられましたが、体力的にも精神的にもかなり厳しい状況に追い込まれています」(前出・家族会関係者)

◆今回を逃したら永遠に帰って来ない

 そんな中、今年2月頃から突然、金正恩氏が急激に態度を軟化させ始めた。早紀江さんたち家族会がこの流れを“最後のチャンス”として期待をしなかったはずはない。そして決まった米朝首脳会談。

 早紀江さんは5月中旬、「ちょっとだけ希望を持ちながらあまり喜びすぎると大変なことになるので…」と複雑な胸中を明かした。家族会の代表を務める飯塚繁雄さん(80才)は会談前日の会見でこう語った。

「今回を逃したら私たちの家族は永遠に帰って来ないという覚悟をしないといけない」

 もう本当に時間がない──家族会の悲痛な思いが伝わってくる。ある政治ジャーナリストが語る。

「北朝鮮は拉致問題の解決を訴える安倍政権を嘲笑しているし、トランプ大統領からも拉致問題を重視している姿勢は見えません。せっかく北朝鮮側から歩み寄ってきている千載一遇のチャンスでも、安倍首相が呆然と眺めているだけでは被害者が帰ってくることはありえません。“外交の安倍”を自称し、拉致被害者の全員帰国を政権の公約に掲げているのであれば、この米朝会談の機会を生かし、あらゆる手を使って、北朝鮮当局との拉致問題の交渉のテーブルをセッティングすべきです。今までの安倍首相の拉致問題交渉はことごとく失敗してきましたが、今回の失敗は許されません」

 滋さんは病室に飾ってあるめぐみさんの写真を眺め、会談に期待を寄せていた。そんな病床の滋さんに、早紀江さんはこう声をかけたという。

「もうすぐ帰ってくるかもしれないから、がんばらなきゃいけないよ」

※女性セブン2018年6月28日号

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