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2000万円報告書に安倍首相が「大バカ者だな」 与党が参院選まで隠したい、もう1つのこと

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2019/06/20 06:00 大山 くまお

 退職後の老後資金として「約2000万円が不足する」と指摘した金融庁の報告書をめぐる混乱が止まらない。政府の報告書への対応は「受け取らない」から「(報告書は)なかった」ことになり、「質問にも答えない」ことになった。一体、どのような思惑があるのか? 閣僚の発言を追った。

閣議決定

「報告書を前提としたお尋ねにお答えすることは差し控えたい」

BuzzFeed News 6月19日

 政府は6月18日、野党議員が提出した金融庁の報告書についての質問主意書について、「回答を差し控えたい」とする答弁書を閣議決定した。

月例経済報告等に関する関係閣僚会議に臨む安倍晋三首相(左から3人目)ら=18日、首相官邸 ©時事通信社 © 文春オンライン 月例経済報告等に関する関係閣僚会議に臨む安倍晋三首相(左から3人目)ら=18日、首相官邸 ©時事通信社

 立憲民主党の中谷一馬衆院議員が提出した質問主意書は、貯金がない世帯が2000万円の貯蓄を作る方策や、公的年金制度が100年安心という政府見解が維持されているのかなど、政府の見解を問うたもの。

「世間に著しい誤解や不安を与え、政府の政策スタンスとも異なることから、正式な報告書としては受け取らないと決定し、政策遂行の参考とはしないとしたところであり、報告書を前提としたお尋ねにお答えすることは差し控えたい」とする答弁書を閣議決定した。

 報告書は受け取らないし、何を聞かれても答えない。これが政府としての統一見解ということだ。

不都合な真実を隠しているのでは

 立憲民主党の福山哲郎幹事長は、政権にとって都合の悪いものを受け取らないのであれば、今後さまざまな審議会は政府が喜んで受け取るものしか報告書を書かなくなるのではないかという懸念を示した上で、政府の体質について次のように批判した。

「森友加計学園の文書改ざん、国会での虚偽答弁、防衛省の日報の廃棄や隠蔽、厚労省のデータの不備等も含めて、不都合な真実を国民に隠すという安倍政権の体質そのものが表れてきた」(BLOGOS 6月19日)

安倍晋三 首相

「金融庁は大バカ者だな。こんなことを書いて」

朝日新聞デジタル 6月18日

 これまで、政府は報告書について躍起になって火消しを続けてきた。麻生太郎副首相兼金融相は「正式な報告書としては受け取らない」と表明(FNN PRIME 6月11日)。自民党の林幹雄幹事長代理は金融庁の幹部を党本部に呼んで撤回を求めた。自民党の森山裕国対委員長は「報告書はもうない」と主張している(毎日新聞 6月12日)。

 参院決算委員会で「2000万円不足」問題の追及が強まった今月10日、安倍首相は「金融庁は大バカ者だな」と激怒していた。

 事態の収拾に動いたのは首相官邸だった。菅義偉官房長官は報告書を受け取らないという異例の対応を指示した。それまで報告書について肯定的な発言をしていた麻生氏が態度を一変させたのは、菅氏の指示によるものだったのだ。

 2006年に発足した第1次安倍政権は参院選前に「消えた年金記録」の問題が噴出し、1年で退陣に追い込まれた。首相官邸にはそのときの記憶があるのかもしれない。自民党の二階俊博幹事長は「参院選を控え候補者に迷惑を及ぼさないよう党として注意しないといけない」とストレートに発言している(日本経済新聞 6月11日)。

三井秀範 金融庁・企画市場局長

「配慮を欠いた対応でこのような事態を招いたことを反省するとともに深くおわびする」

産経新聞 6月14日

 14日に行われた衆院財務金融委員会では、審議の冒頭に金融庁の三井秀範企画市場局長が謝罪した。三井氏は林幹雄氏が自民党本部に呼び出して撤回を迫った人物。政府に対する「おわび」に見えて仕方ない。

与党が参院選まで隠したい、もう1つのこと

安倍晋三 首相

「こういう問題についてはですね、いわば政争の対象とするのではなくてですね、冷静な議論が大切でございますから、それはですね、まさに確かな検証をしっかりとお示しをするということが、政府としての使命なんだろうと」

日テレNEWS24 6月18日

麻生太郎 副首相兼金融相

「(公表を)選挙前にできると言える段階でない」

ロイター 6月18日

 参院選前に明らかになっては困るものがもう一つある。厚生労働省が公的年金の将来的な給付水準の見通しを示す「年金財政検証」だ。前回、財政検証が行われた5年前は6月3日に公表されたが今年はまだ公表されていない。

 立憲民主党の川田龍平参院議員は「この国会終わってから出したり、ギリギリに出して議論できなくするのはダメです」と追及したが、安倍首相はいつ出すのか明示しなかった。野党側は夏の参院選の後に先送りするのではないかと指摘しているが、麻生氏の発言はそれを認めた形だ。

安倍晋三 首相

「あたかも一律に老後の生活費が月5万円赤字になるとしたことは、国民に誤解と大きな不安を与えるもの。高齢者の実態はさまざまで、平均での乱暴な議論は不適切であった」

朝日新聞デジタル 6月18日

 こちらは18日の参院厚生労働委員会での発言。しかし、本当に「平均での乱暴な議論」は「不適切」だったのだろうか? 経済評論家の加谷珪一氏は次のように記している。

「あくまで平均値なので、全ての人に当てはまるものではないが、年金収入だけでは暮らせない人が多いのは事実である。2000万円という数字の是非はともかくとして、支出に応じた相応の貯蓄が必要という指摘そのものは間違っていない」(ニューズウィーク日本版 6月17日)

 現在、厚生労働省が示しているモデル年金(夫が厚生年金に加入し、生涯平均年収が約500万円の専業主婦世帯)は月額21万8000円とされているが、2014年に行われた年金財政検証では、最悪のケースとして14万6000円まで減額されるケースが提示された。年金制度は安倍首相が繰り返し言うとおり「100年安心」かもしれないが、支給される年金は確実に減る。

 今年の財政検証の結果に注目が集まるが、やはりある与党関係者は、公表時期は「参議院選挙のあとになるだろう」と明かしている。政府関係者の1人は「年金が選挙の争点になるのは困るのだ」とも語った(NHK政治マガジン 6月19日)。

菅義偉 官房長官

「国民の不安をあおることがないよう、丁寧に説明していきたい」

NHK NEWS WEB 6月17日

 菅官房長官は国会内で開かれた政府与党協議会で、報告書について今後「丁寧に説明」していく考えを示した。公明党の斉藤鉄夫幹事長が麻生氏の対応について国民に説明を尽くすよう求めたが……。

麻生太郎 副首相兼金融相

「私自身は年金がいくら入ってきてという心配をしたことがあるかという点では、自分の生活としては心配したことはありません」

FNN PRIME 6月14日

 麻生氏は自分が年金を受け取っているかどうかを知らず、生活の心配をしたこともないという。名家の出身で、何十億円にも上る遺産を受け継いでいるのだから、そりゃそうだろう。在職老齢年金の制度に従えば、厚生年金はもらっていない可能性が高い。

還暦を迎える人の貯金額は4人に1人が100万円未満

 還暦を迎える人々の貯金額は4人に1人が100万円未満だというアンケート結果も発表されている(共同通信 6月16日)。麻生氏は世の中で何が騒ぎになっているのかわかっていないのかもしれない。本当に「丁寧に説明」できるのだろうか?

 政府は報告書を「なかった」にするのではなく、議論のきっかけにすべきだ。そのためには選挙の争点にもしなければならないだろう。老後のために「自助」が必要だと突きつけられた若者世代、現役世代は貯蓄を意識し、消費はさらに冷え込む。それでも今秋、消費税は予定どおり上がるらしい。

(大山 くまお)

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