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森友問題の本質は「100万円寄付金」の有無ではない

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/27 上久保誠人
森友問題の本質は「100万円寄付金」の有無ではない: 写真:つのだよしお/アフロ © diamond 写真:つのだよしお/アフロ

 3月23日、「森友学園」の籠池泰典理事長への証人喚問が行われた。籠池理事長は安倍晋三首相夫人・昭恵氏が森友学園の経営する塚本幼稚園で講演会を行った際、籠池理事長と2人きりの状態で「安倍晋三から」として「寄付金として、封筒に入った100万円をくださいました」と証言した。また、籠池理事長からは、大阪府の小学校設置基準緩和について、政治家に協力を求めたとして、以前から名前が出ていた鴻池祥肇氏に加えて、東徹氏(維新の会)、柳本卓治氏(自民党)らを挙げた。

 これに対して、昭恵夫人はフェイスブック上で「私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料をいただいたこともありません。私は講演などの際に、秘書に席を外してほしいというようなことは言いませんし、そのようなことは行いません」と完全否定した。名前を挙げられた政治家も、国有地売却や大阪府の小学校設置認可基準の緩和をめぐり不当な働き掛けを否定した。ただし、籠池理事長の依頼に対して、役所へ照会したことは認めている。

政治家の「実名」以外何も明らかにならなかった証人喚問

 基本的に、筆者はジャーナリストではなく学者だ。森友学園の件に関して、何か裏情報などを持っているわけではない。この連載の紹介文の通り、「さまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する」のである。従って、この問題についても、あくまで日本政治・社会の特徴を一般的に論じることに徹している。

 証人喚問で明らかになったことを一般的に考えてみよう。端的にいえば、証人喚問で話されたことは、日本政治・社会では「当たり前のこと」の範囲を超えるものではなかった。前回論じたように、運動会など学校行事等に地方政治家や国会議員が、選挙対策として顔を出すのは日本政治の日常だ。

 そこでは、「教育方針が素晴らしい」などリップサービスを交えた来賓祝辞もしていただろう。自民党だけではなく、維新の会とも「オルタナ保守系」同士で交流を深めていたのだろう。そんなことが続くうちに、小学校を作りたいと相談を受けるようになった、というのが基本的な流れだ。

 証人喚問で明らかになったのは、その政治家の「実名」というだけのことだ。しかし、政治家に役所を動かす力があったことが明らかになったわけではない。「政治家が相談に乗る」「役所の担当者を紹介する」という通常の陳情があっただけだ。名前が挙がった政治家も、陳情があったこと自体を否定していない。

 結局、籠池理事長が地方・国の様々な政治家に接触し、近畿理財局にも掛け合ったが、国有地を安く購入することはできず、財務省理財局訪問のアポ取りさえ断られていた。理事長が理財局に直談判して、初めて森友学園の要求が通ったのであり、政治家はルールに従って事務的に対応していた近畿理財局を動かすことはできなかったという、既に明らかになっていたことを超える事実は出てこなかったのだ(本連載2017.3.14付p2)。前回の繰り返しだが、結局少なくとも鴻池元防災相を超える「大物政治家」が関与したかが焦点ということになる。

昭恵夫人が財務省を動かすことはあり得ない

 証人喚問の実施をずっと否定してきた自民党が一転、実施を決めたのは、籠池理事長が「安倍首相から100万円の寄付を受けた」と発言したからである。「売られた喧嘩は買う」とばかりに、そこまで言うなら、「偽証罪」に問われる証人喚問で白黒つけてやろうということだ。従って、突き詰めれば証人喚問の焦点は、本当に森友学園の土地取得に首相および昭恵夫人の関与があったかのみということになる。

 それでは、昭恵夫人だが、財務省を動かす力は全くないし、あってはならないだろう。どこかの国で、「占星術で大統領を動かす」という噂のファーストレディがいたが、日本は「官僚支配」と批判され続けてきたほど、完璧にシステム化された政治・行政システムを持つ国で、ファーストレディが「女帝」のような権力を持つことはあり得ない。

 一般的に知られている昭恵夫人の人物像から、何が起きていたのか容易に想像できるのではないだろうか。昭恵夫人は歴代ファーストレディの中でも、最も行動的で社交的な部類に入るそうだ。元々、交友関係が広い上に、夫が最高権力者だ。首相夫人となってから、どんどんいろいろな人が寄って来ていたのだろう。籠池夫人はその中の一人と考えればいい。

 昭恵夫人は元々リベラルな思想で、原発問題などで安倍首相と意見が異なる「家庭内野党」だそうだ。それでも、「首相夫人という権力」に近寄ってくる人の思想を、いちいちチェックすることなどできない。普通の人間関係でも、相手の思想信条がわかるのは、しばらく付き合ってからだ。

 そこで思想信条が合わないと気づいても、人間関係をキッパリと切るというのは難しい。「政治家の妻」なのだから立場をわきまえろというかもしれないが、日本では、政治家の妻だからこそ、近寄ってきた人を簡単に切ることはできないという側面もある。夫の選挙のために、「誰にでもいい顔をする」のが政治家の妻の役割ともいえるのだ。

 昭恵夫人と籠池理事長夫人のメール交換が問題となっている。しかし、社交的な上に、元々SNSでの発信等も熱心に行っている昭恵夫人にとっては、普通のことなのだろう。気軽にいろいろな人とメールやSNSで交流していて、その一人が籠池理事長夫人だったということだ。昭恵夫人と籠池理事長夫人のショートメールのやり取りの全文が、自民党の西田昌司参議院議員の事務所から公開された。その内容は、確かに「口止めともとれる」ものではある。

 しかし、見方を変えれば、昭恵夫人は「逆切れ状態」の籠池理事長側を少しでもなだめようとフォローのメールをしていたように思える。ましてや、相手から送られてきたメールをスルーするのは、相手を更に怒らせてしまう心配がある。返事をしないというわけにはいかないだろう。慎重な言い回しをしなければいけないが、何か返事をしないといけないのだ。昭恵夫人のメールからは、そのあたりの苦慮の跡が見えるように思う。

 いずれにせよ、たとえ昭恵夫人の森友学園の交流がいろいろあったとしても、そこから彼女が「財務省を動かす」という仮説を証明するところまで因果関係を辿るには、あまりに距離が遠すぎて、証明のしようがないだろう。安倍首相と昭恵夫人の日頃の関係性から見ても、どこかの国の「占星術政治の女帝」のような要素を見つけ出すことは全くできない。

首相の100万円の寄付金の有無は森友学園の問題の本質ではない

 そうなると、安倍首相本人が森友学園の土地取得に関与していたかが最後の焦点となる。しかし、証人喚問が終わってなお、首相本人の直接的関与を示す事実は見つかっていない。この連載が指摘してきたように、第一次安倍政権(2006年9月~2007年9月)の失敗から、政敵に隙を与えないように守りを固めてきた首相が、保守思想を露骨に出した軽率な行動を取るはずがないと思っている(2014.12.18付)。

 しかし、籠池理事長が「首相から100万円の寄付をいただいた」と発言したことが、証人喚問を実施する直接的な引き金になったわけであり、それが事実かどうかが争点となっている。一般的にいえば、講師が謝礼金を断った場合、講演を実施した側としては、謝礼金として予算取りしていたものが浮いてしまうことになる。その際、実施した側は講師の了解を取った上で「寄付金」という形で浮いた予算を処理し、別の用途に使わせてもらうということは、よくあることだろう。

 あるいはもっと踏み込んで、安倍首相からの直接的な寄付の有無については、なかったとはいえないかもしれない。一般的に講演を頼まれた時、ただ謝礼をいただくだけでなく、それに対する「お返し」を用意することがある。普通は「菓子折り」程度だろうが、夫人が講演にいくとなれば、夫である首相が「菓子折り」代わりに少し「包んで持たせる」ことは、あり得ないことではないのかもしれない。

 今回の問題が発覚した当初を思い出してみる。安倍首相は国会で、森友学園の教育方針に共感を持っているかのような答弁をした。首相が何と言おうと、森友学園に好意的だったことは明らかだ。そこで昭恵夫人が講演すると聞けば、何か包んでもおかしくない。ただ、その額が「100万円」であるならば、我々の庶民感覚では理解できる範囲を大きく超えているとは思うが。

 そもそも、政治家が学校に寄付をするという行為自体は、選挙区外であれば違法ではない。今回の問題は、それが小学校設立の認可と、学校設立のための土地取得のプロセスに問題があったために、取り上げられることになっただけだ。仮に、寄付が事実だとしても、首相のプロセスへの関与を疑うならば、それは首相が「カネをもらった」ケースだろう。

 今回は、首相が「カネをあげた」のであり、そこから「首相と森友学園は深い関係だ」と推測することはできても、首相の関与との因果関係の証明は極めて難しい。今回の森友学園を巡る問題の中で、これは本質的に重要な問題ではないはずだ。

 結局、「首相が100万円を寄付した」という籠池理事長の発言に対して、「売り言葉に買い言葉」的に証人喚問を実施したものの、むしろ「首相の寄付」「昭恵夫人のメール」に過度に関心が集中してしまい、本質的に重要な問題から国民の注目が完全に外れてしまっているのではないだろうか。

保守派が政界・関係に影響力を持つ「空気」が本質的な問題だ

 前回指摘した通り、今回の森友学園の問題で本質的に重要なのは、どの政治家が関与して森友学園の格安での国有地取得が実現したかではない。むしろ重要なのは、基本的には政治家は誰も「口利き」をしていないのに、財務省理財局が安倍首相の意向を「忖度」して、首相と「近い関係にある」と思った籠池理事長の直談判を、自らの判断で受け入れてしまったことだと思う。そして、その「忖度」の背後に、安倍政権を支持するとされる「日本会議」など保守派が、なんとなく政界・官界に影響力を持っているような「空気」が流れていることが、嫌な感じがするのである(2016.11.8付)。

 そういえば、文部科学省が2018年度から使用される道徳と各教科の教科書検定結果を発表したとのニュースが流れていた。小学校の道徳については、文科省から「国や郷土を愛する」「公共の精神」などの学習指導要領の内容に従っているか、細部に至るまで検定意見がつけられたという。

 文科省が教科書につけた意見は、例えば「日本の伝統と文化の尊重」のためだとして、「パン屋」を「和菓子屋」に、「アスレチック公園」で遊ぶ子どもたちを「こととしゃみせんの店」に変更するなどがある。なんとなく、英語の使用を禁止し、野球のストライクを「よし」と言わせたような、かつての非常に偏狭なナショナリズムの復活の芽を感じてしまうのは、筆者だけだろうか。

 驚くのは、このような文科省の意見が、道徳だけではなく他の教科にも及んでいるからだ。理科では「なるべく地名を入れて、郷土愛を誘う」ことが求められており、例えば「大きな山車を引く大阪の岸和田だんじり祭り」を素材に、物を動かす力を考えさせる教科書があるという。

 数学でも、演習問題に日本国土や文化に関する素材を多く取り上げたり、「和算」や、数学の問題や解き方を額に書いて神社などに奉納した「算額」を紹介したりする教科書が増えた。数学でそこまで「郷土愛」「日本の伝統」に拘る必要があるのかと疑問に思うのは、筆者だけではあるまい。

 このように、文科省やその意向に従う教科書会社など、教育において安倍首相やそれを支持する保守派の影響を意識する「空気」が流れていることが非常に気になるのだ。森友学園の問題における財務省だけではない。あらゆる省庁にその「空気」が広がっていないだろうか。いや、もしかすると、保守派の意向を省庁が「忖度」しているだけではない。省庁内に、保守的な思想を持つ官僚が増えているのではないかとも疑ってしまう。

 今回の森友学園の問題から明らかになりつつある本質的に重要なこととは、保守派の影響が日本政治・社会全体を覆いつつあるという、非常に大きな構造的な問題ではないだろうか。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)


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