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「世界最悪のアウェー」危険な国イランは行ってみたら意外にもフレンドリーだった

SPA! のロゴ SPA! 2018/11/15 15:53 日刊SPA!

「イランと言えばアメリカと敵対している、過激なイスラム宗教の危険な国」という漠然とした印象を持っている人は多いだろう。そんなイランで、先日、鹿島アントラーズがアジアチャンピオンズリーグを制した。試合についての詳細は各報道をご覧いただくとして、1泊4日のイラン弾丸ツアーに参加した記者からはイランの現状についてご報告したい。

「世界最悪のアウェー」と言われるペルセポリスのホームであるアザディ・スタジアムは実際どんな雰囲気だったのか?

◆日本からイランへの直行便はない!

 まず、イランに行くにはイラン・イスラム大使館にビザ申請をしなければならない。直接大使館に行って申請をするか必要書類を郵送しなければならないのだが、事前にE-VIZA申請を行い、緊急申請を申し出ればビザは即日発行される。

 日本からイランへの直行便は飛んでいないので、どこかの国を経由して行くことになる。今回、私はカタール航空を利用しカタール経由でイランに向かった。日本からカタールまでが約12時間、カタールからイランまでが約2時間という道のりであった。

 今回、アザディ・スタジアムで観戦するためイランに向かう日本人は全員、鹿島アントラーズに訪問予定を事前にメールで報告し、無用なトラブルを避けるため現地邦人も含め、日本人はすべて専用バスでスタジアムに移動をすることになった。

日刊SPA! © SPA! 提供 日刊SPA!

 だが、スタジアムがあるテヘラン市内すべてが敵地かと言えば実はそんなこともなかった。

 なぜなら、テヘランにはペルセポリスの他にエステグラルというライバルチームが存在し、エステグラルのファンたちはペルセポリスの敗戦を心から望んでおり、むしろ鹿島を応援しているほどだった。空港で何人かのイラン人が「エステグラル、エステグラル。カシーマ、ビクトリー」といった片言の英語で話しかけて来たり、鹿島アントラーズの公式SNSアカウントや鹿島ファンのツイッターには、決勝戦1stレグの前からエステグラルファンからの友好的?な書き込みが溢れていた(要するに「ペルセポリスを倒せ!」という書き込みである)。

 記者は、テヘランにあるエマーム・ホメイニー国際空港からツアー会社の用意したバスに乗りスタジアムに向かった。スタジアムまでは約1時間の道のりだったが、バスが高速道路を走っていると、あちこちでブブゼラが鳴ったり、ペルセポリスの旗をなびかせた車が走っている。

 ペルセポリスファンが乗った車が日本人バスに気づくと、こちらに向かってクラクションを鳴らして来たりもしたが、車が近づくと笑顔で手を振ってきたり手でハートマークを作ったりと、挑発しているというよりは歓迎されているムードだった。

 スタジアムに近づくにつれて、ペルセポリスファンが増えていく。ペルセポリスはイラン全土で圧倒的人気を誇るサッカークラブで、ACL決勝ともなると全国各地からファンが押し寄せ、試合前日の夜からスタジアム周辺には多くのファンがたむろしていたそうだ(そして現地ツアーガイドいわく、日本人に石を投げたりする輩はそういうお祭り気分の連中だそうである)。

 先ほどの高速道路同様、道を歩いているイラン人たちがもの珍しそうに私たちが乗っているバスを見てくる。「3-0でペルセポリスが勝つぞ」というジェスチャーをしてきたり、たまに中指を立ててくる者もいたが、先ほど同様、みな笑顔でこちらを見ており挑発されている感じはまったくなかった。

 スタジアムに到着し、1時間ほど車中で待機をした後、現地警察に囲まれながら団体でスタジアムに入場した。現地スタッフからは「写真を撮ったり、相手を挑発するようなことは絶対に控えてください」という忠告があった。

 バスからスタジアムまでの間、記者たちの周りで多くのイラン人たちが騒いでいた。今回は警察官がいたので少々緊張感もあったが、やはり概ね笑顔でこちらを見ていた。言葉はわからないが興奮して汚い罵声をとばしてくるような素振りもなかった。

◆スタジアムに鳴り響く大音量のブブゼラに最初は怖気づいたが……

 キックオフは18時30分なのだが、我々は13時30分頃スタジアムに入った。まずスタジアムに入って驚いたのが、試合開始5時間前にも関わらずスタジアムの8割が既に席で埋まっており、大音量のブブゼラが鳴り響いていた。

 さすがにこれには圧倒され「とんでもないところに来てしまった……」と最初こそ少々怖気づいたが、1時間もしてくるとブブゼラの音量にも慣れてしまい、緊張感も徐々に解けてきた。日本人エリアは多くの警察官が配備されており、「通路であまり立ち止まらないで」などという注意はされたが、必要以上に日本人を厳しく取り締まる様子はなかった。

 入場から2時間ほど経った頃、スタジアムが大きく沸いた。メインスタンドにあった空席エリアにイラン人女性の集団が入場してきたのだ。既に各報道で伝えられている通り、今までイラン国内でほとんど認められていなかった女性のスタジアム観戦が今回認められた。その女性たちが入場する歴史的な出来事にスタジアムの観客も喜び、女性たちも旗を振りながら入場してきた。

 ちなみに、その他のエリアは全て男性ではあるが小さい子供や若者も多く見受けられた。相変わらずブブゼラは鳴り響いているが、暴力的な雰囲気はほとんどなかった(これがACL決勝だからなのか、普段からこうなのかは定かではないが)。

 また、日本人エリアの左隣にはお揃いのジャージを着てAFCのIDパスを掲げた現地アンダーカテゴリーのサッカー選手らしき集団が居た。鹿島の応援が始まると、向こうも騒ぎ出したが途中で「ヒロキーアーベ!」と歌いだした。10月にインドネシアで行われたAFC U-19選手権(来年行われるU-20ワールドカップのアジア予選)で活躍した鹿島アントラーズ所属の安部裕葵選手の活躍が強く印象に残っていたようだ。またその後は「ウターワエッズ」(恐らく浦和レッズと言っている)と言うような声が聞こえてきた。恐らく鹿島サポーターを挑発してきたのだろうが、残念ながら鹿島サポーターはこの搖動に対して完全無視であった。というか正確には「何を言っているか聞こえなかった」のほうが正しいかもしれないが。

◆トイレは和式。だけど紙がない!どうする?

 スタジアム内に売店はなく、途中で売り子の人たちがやってきた。とにかく喉が渇いたのだが、パッケージの底側にストローを刺して飲むオレンジジュースしか売っていなかった(※ちなみに空港ではペルシャ文字が書かれたコカ・コーラが売っていた)。

 日本人エリアには男女用トイレが1か所ずつ配置されていた。男性トイレもすべて個室であり、和式トイレのような形状であった。だが驚くべきことに、トイレには紙がない。大のほうの用を足した後は、シャワーホースで洗い流すのだ。これはスタジアムだけではなく空港でも同様だった。どうやらイランに限らず中東ではこのような形式が一般的のようだ。

 さて、キックオフが近付くにつれて緊張感が増してくる。スタジアム内で花火があがり、両チームの大きなエンブレムが登場し、現地の人気歌手によるパフォーマンスなどが行われた後、キックオフを迎えた。

◆試合はスコアレスドローで結果、鹿島が王者に。そのときスタジアムは……

 相変わらず大音量のブブゼラが鳴り響く。しかし試合時間が進んでもずっとブブゼラだけが鳴り続けている。これは日本でテレビ中継を見ていた人も気付いたかもしれないが、ペルセポリスの選手たちやチームを鼓舞する応援がほとんど聞こえてこず、それは試合終了まで続いた。

 あの大観衆が揃ってチームを鼓舞するような応援を行っていたら、正直試合結果は違ったものになっていたかもしれない。ペルセポリスのファン・サポーターたちはホームの利を正しく活かせなかったのだ。「世界最悪のアウェー」と言われるアザディ・スタジアムだが、今回はACL決勝でお祭りムードが高まりすぎたのか「世界最悪」と言えるほどの雰囲気を醸し出すことはできなかった。

 試合はスコアレスドローで終わり、2戦合計2-0で鹿島アントラーズがACL王者に輝いた。試合終了後、しばらく経っても多くの観客がスタジアムに残って、ペルセポリスの選手たちに歓声を上げていたが、それがブーイングなのか励ましなのかはブブゼラの音も混ざっていため、わからなかった。

 表彰式になると、まず準優勝のペルセポリスの選手たちが表彰台に登った。その時、鹿島サポーターからも「ペルーセポリス!」と声援が送られたが、スタジアムのざわめきやブブゼラの音が相変わらず大きく、残念ながら選手たちの耳には届いていなかったかもしれない。

 表彰式が終わると「こちらに向かって小石を投げている奴らがいるらしいので、座って静かにしてて」と注意があり一時緊張したが、その後も特に大きなトラブルは起きなかった。表彰式終了後、30分ほどスタジアム内で待機し入場時同様、警察官に囲まれながら団体で退場し、バスに向かった。

 外には多くのペルセポリスファンが残っており、さすがに試合前より興奮していた様子だったが、特段トラブルはなくバスに帰れた。歩いている日本人集団の中にヘラヘラしながら加わってきたイラン人がいたが、すぐに警察に追い出されていた。バスまでの道には等間隔で警察官が配備されており、警察官は「ウェルカム、イラン」などと声をかけてくれて、やはり笑顔で手を振ってくれていた。

◆イランのホテルはどんな感じだったか?

 スタジアムを後にし、バスでホテルに向かう。チェックイン時にパスポートを預けて、代わりにルームキーを受け取った。部屋は日本でもよく見かける普通のビジネスホテルである。大変ありがたいことに、トイレも普通の洋式トイレで紙も置かれていた(お腹を壊すことの多い筆者は今回の旅でこれが一番心配だった)。

 ただ、なぜか知らないが私の泊まったホテルではテレビの電源ケーブルが抜かれており、テレビを視聴する事ができなかった。ちなみに冷蔵庫もテレビも韓国のSAMSUNG製品だった。部屋の中にある本棚にはコーランが置かれていた。

 今回のイラン訪問にあたり、米ドルをイランリヤルへ換金した(日本円からイランリヤルに直接換金はできず、一度ドルかユーロにする必要がある)。結構な紙幣の量になり、少しばかりリッチな気分になるが、実のところこれで日本円換算約324円である。全て日本で事前精算をしていたので、ほとんど現金を使う機会はなかった。

 この日の夕飯はホテルでのディナーだった。サラダバーとメインで鶏肉のカツレツや鶏もも肉のローストなどが振る舞われた。

 翌日は朝9時にホテルを経ち、空港に向かい日本への帰路についた。帰り、イランでは珍しく小雨が降っていた。

 記者は飛行機の時間の都合で残念ながら、テヘラン市内の観光はできなかったが、試合前日に宿泊した日本人によると、危ない雰囲気はなく、みな歓迎ムードで写真撮影を求められることも多かったようだ。

◆行ってみたらフレンドリーだったが日本の外務省はレベル1の注意喚起をしているイラン

 とはいえ、ほとんどの日本人が団体で行動しており、今回はACL決勝が行われるお祭りムードもあったので、平常時も全く同じかどうかはわからない。外務省のホームページでは

「レベル1:十分注意してください。その国・地域への渡航、滞在に当たって危険を避けていただくため特別な注意が必要です。」

とアナウンスされており、イランに入国するとアメリカへの入国やトランジットでの手間が増えるなどのリスクも当然ある。

 ただ、「何となく漠然と危険」と思っていた未知の国イランは、笑顔が溢れるフレンドリーな国という印象に変わり、団体ツアーであればまたぜひ訪れてみたいと思った。今回、日本からは約300人の日本人がイランに向かったそうだが、サッカーを通じて、ACL決勝戦を通じて日本とイランの交流がほんの少し深まったのではないだろうか。 <取材・文・撮影/日刊SPA!取材班>

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