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「余命3カ月」を友人が誤訳…日本医療の外国人患者対応に壁

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2019/01/17 17:00
東京医科歯科大学医学部附属病院の国際医療部で、日々、外国人患者と医師、看護師、事務職員らの間でさまざまな調整に尽力する医療コーディネーターの二見茜さん(撮影/岡田晃奈) © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 東京医科歯科大学医学部附属病院の国際医療部で、日々、外国人患者と医師、看護師、事務職員らの間でさまざまな調整に尽力する医療コーディネーターの二見茜さん(撮影/岡田晃奈)

 実質上、移民解禁の方針をとることとなった日本。そんな中、課題となっていることのひとつが、外国人への医療だ。外国人患者が母国語ではない国で医療を受けることは、時に本人や病院側にとっても、リスクや問題となることがある。

*  *  *

 40代のネパール人女性、ガンガ・ダンゴール・栗原さんは、12年前、医療通訳として初めて患者と向き合った。千葉県の病院のベッドに小学1年の男の子が寝ていた。目は虚ろで「痛い」とか細い声で言う。医師は「脳腫瘍で余命3カ月」とネパール人の両親に告げた、はずだった。しかし、調理人の父と母の表情は妙に明るい。ニコニコしている。通訳を知人に頼んでいた。おかしいと病院側は感じ、ガンガさんが派遣された。

 ガンガさんは日本語検定1級の資格を持つ。保健医療NGOで専門の研修を受け、医療通訳デビューしたばかりだった。医師の前で「この子は3カ月経ったら死にます」と直截に両親へ伝えた。一瞬、シーンと静まった後、「なぜ、正しく説明してくれなかったのだ!!」と両親は泣き崩れ、半狂乱となった。

 ガンガさんは回想する。「前の通訳は『余命』の意味を理解していなかった。日本の大病院で最先端の治療をしてもらってるから、子どもは治る、と正反対のことを言っていた。8時間かけて、先生の説明を逐語で通訳し、やっとご両親は覚悟してくれました」

 1時間1万円の通訳料と交通費は病院と外国人支援団体が払った。その後、ガンガさんは電話による医療通訳の会社、メディフォンなどと契約し、活動を続けている。

 外国人の急増で医療現場が混乱気味だ。ところが、外国人患者に必須の「医療通訳」になかなか光が当たらない。病院での言葉の壁が、どれほど誤解と恐怖、医療事故のリスクをはらむか、想像してほしい。

 東京都文京区の東京医科歯科大学医学部附属病院は、「救急車を断らない」をモットーに、外国人患者も受け入れる。保険に未加入で医療費全額自己負担の患者も運ばれてくる。医療費の未収や、さまざまな同意が得られにくいリスクもある。

 昨年、ある外国人患者がカテーテル検査を受けた。事前に医療通訳を介して検査方法や起こりうるリスクが説明され、同意書にサインをした。

 だが、検査中、静脈から注入する造影剤が漏れる。偶発的に起きる症例だった。検査後、患者が痛みを訴え、家族は病院の責任を問う。

 ここで、昨年4月に設立された国際医療部の医療コーディネーター、二見茜さんが患者側と向き合った。携えたビデオ医療通訳のタブレット端末で、患者の母語を選ぶ。LTE回線で通訳者とつながり、家族と対話した。家族は同意文書で造影剤漏れのリスクも説明されていたことを確認すると納得した。

「医療通訳は患者へのサービスである一方で、医療スタッフをトラブルや訴訟から守る効果があります。医療費の未払いも、退院時に突然高い金額を言われて払えないというのが最も多い。あらかじめ患者が理解できる言語で概算金額を伝え、相談して解決してきました。医療通訳は、病院を守るためにも必要です」

 と二見さんは述べる。実際に東京医科歯科大では多言語の医療通訳システムを活用するようになって未収金が激減した。

 気になる医療通訳のコストだが、東京医科歯科大は通訳タブレット1台を月額4万円で契約している。定額制なので何度使ってもこの料金内。定額制の秘訣を「多くの医療機関の方々に通訳を共有していただいているからです」と開発したコニカミノルタの担当者は言う。(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

※AERA 2019年1月21日号より抜粋

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