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「日本人だけが知らない」鳥取県が外国人観光客をうなぎのぼりに集める3つの理由

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2019/02/12 11:00 牧野 知弘

 鳥取県と聞いて多くの日本人が思い浮かべるのは「砂丘」だろうか。食いしん坊ならば20世紀梨の産地くらいは思いつくかもしれない。だが一般的に鳥取県に対する印象は非常に希薄である。

国内では「不動の不人気県」

 こうした印象を裏付けるかのように、ブランド総合研究所が毎年発表する「魅力度47都道府県ランキング」では鳥取県は41位。この順位は最近ほとんど変わっておらず、いわば「不動の不人気県」ともいえる存在だ。

鳥取の代表的な観光地「鳥取砂丘」 ©iStock.com © 文春オンライン 鳥取の代表的な観光地「鳥取砂丘」 ©iStock.com

 鳥取県の正確な位置を言い当てられる人も少ない。中国地方にあることはわかっても、たいていは隣の島根県と混同されてしまう。日本海に面して東西に細長く、知られている都市も少ない。県庁所在地である鳥取市は東部に(鳥取県の県庁所在地はと聞かれてすぐに鳥取市と答えられる人も実は少ない)、中部には倉吉市、西部には米子市と境港市があるのだが、人口は少なく、一番多い鳥取市でも19万人にすぎない。

 そんなわけで、とうとう参議院議員選挙の選挙区まで島根県と合区されてしまい、県の印象はますます希薄化しているともいえる。

 ところがどっこい、鳥取県は実は外国人の間では非常に注目される旅行先になっていることをご存じだろうか。外国人向け日本情報サイト「ガイジンポット」が公開した「2019年に外国人が訪れるべき観光地ランキング」において鳥取県は福岡や東京(代官山)を抑えて堂々の第1位を獲得したのだ。

 なぜ、日本人にとって「不動の不人気県」である鳥取県が、外国人にとって魅力ある観光地となっているのだろうか。

 1つ目の理由は容易に想像がつくだろう。土地そのものの魅力だ。

「ガイジンポット」のサイトを覗くと、日本人である我々でも鳥取県が実に魅力にあふれる地であることが実感できる。まずは自然の豊かさだ。外国人にとって砂丘はもとより、砂丘から見える日本海の美しさに感動する。大山は中国地方では標高が最も高い山だが、彼らは夏のトレッキングのみならず冬のスキーリゾートとしての大山を楽しむ。

 クールジャパンの代表であるアニメについても鳥取県は聖地のようなところだ。境港にある水木しげるロードは、彼が描く150体以上の妖怪が街中に鎮座し、さながらストリートミュージアムのよう。また倉吉市の北側に位置する東伯郡北栄町にある青山剛昌ふるさと館は、今や世界的なアニメとして名高い「名探偵コナン」の原作者青山剛昌の資料館で、公式ツイッターのフォロワー数も3万人を超える人気スポット。訪ねてみたい外国人は若い層を中心に多そうだ。

なぜ境港が外国人観光客の玄関口になれたのか

 2つ目の理由は、島根県と鳥取県の境目にある境港(境港市)という街の存在である。西側は中海を通して島根県に接し、東側は日本海に面する、人口約3万4千人の小さな港町である。だがここは今、遠い海の向こうからやってくる大量の外国人観光客の玄関口になっているのだ。

 境港管理組合によれば、境港に寄港するクルーズ客船の数は昨年で37隻。クルーズ客船でも大型といわれる総トン数10万トン超の船は、このうち13隻も寄港している。日本を代表するクルーズ船といえば飛鳥IIだが、この船で総トン数が約5万トンだから、飛鳥の倍以上の規模を持つクルーズ船が続々境港にやってきているということになる。

 なぜ日本人に馴染みのない境港が寄港地に選ばれているかというと、それには理由がある。実は近年大型化している豪華客船は、寄港地の水深が10~12メートルないと接岸できない。境港の水深は14メートル。豪華客船に対応できる日本有数の「水深が深い港」なのだ。

 クルーズ船から境港に降り立った外国人観光客は「水木しげるロード」に整備された商店街で特産のカニや干物を買う。彼らは1回の寄港で、1人当たりおおむね3万円から4万円の買い物をする。昨年3回寄港した大型客船、オペレーション・オブ・ザ・シーズ(168,666トン)クラスになると乗客定員数は優に4000名を超える。つまり、地元では一度の寄港、上陸で1億円を超える経済効果が期待できることになる。彼らは現地で宿泊はせず、船は翌日には岸を離れるが、街にとってはあたかも宝船がやってくるようなものだろう。

外国人観光客は前年度比40%増 

 外国人に人気の鳥取県、実際に観光データでもこの傾向ははっきりと表れている。県の調査によれば、平成29年の観光客入り込み数は実人数ベースで923万人。この数値は前年比で89万7000人、8.9%の減少を記録している。いっぽうで外国人の延べ宿泊者数は14万人、前年が10万人だから、なんとたった1年で4万人、40%もの高い伸びを示したことになる。たしかに日本人の間では不人気が継続しているいっぽうで、外国人人気はうなぎのぼりと言えるのだ。

 国別ではどうだろうか。地理的な近さも相まって韓国が全体の4割近くとなる39.6%。香港22.0%、台湾12.9%。東アジア3か国(・地域)で75%程度を占める。

 そして3つ目の理由が、鳥取県がアジア中心の客層から欧米からの観光客も取り込もうと展開している「一大作戦」だ。県では「元気づくり総本部広報課」という、明石市の職員とは違ってなんだか元気のよさそうな職員がいそうな部署が県のPR動画を作成した。

 2017年8月12日にお目見えした第1弾は県の中部の紹介だ。案内役の日本人と思われる女性が、堪能な英語で案内。森の中でのランチ風景を皮切りに浦富海岸でのクリアカヌー、砂丘でパラグライダーに挑戦、県の名産、梨狩りに興じ、あっと驚く砂の像が収容された砂の美術館を見学、和紙すきを体験して三朝温泉でまったりするというストーリー。なんと12分を超える長旅レポートだ。この動画をYouTubeで配信。今年の2月段階ですでに28万回も視聴されている。英語で視聴する日本人も少ないだろうからおそらくかなり多くの外国人がこの動画を見ているはずだ。

 動画配信はこれだけでは終わらない。間髪入れずに第2回を8月25日に配信。この回では中部から西部をテーマに白壁土蔵群、三佛寺投入堂参拝登山、皆生温泉などジャパンを存分に意識させる設えの数々、そしてアクティビティ大好きな欧米人を意識した大山でのダウンヒルサイクリングなどを紹介している。

 続けて翌年3月の第3回では大山での雪上ランチとスノーボード、とっとり花回廊のイルミネーション、名物のカニ料理、温泉、世界で激増中の日本酒ファン向けの酒蔵巡り、和傘張りや藍染め体験などてんこ盛りである。

 鳥取県では隣の島根県とも組んで一般社団法人山陰インバウンド機構をつくり、訪日外国人客と国際交流をしたい日本人をつなげるガイドマッチングサービス会社であるHuber社と提携し、山陰エリアの魅力を紹介するグローバルWEBサイトやPR動画の制作も始めている。

 まだまだ割合は少ない欧米人を誘致するにあたって彼らが好むツボを良く押さえた広報体制、戦略である。日本人がステレオタイプで考える良い景色、美味しい食事、温かい温泉だけでなく、欧米人が好むアクティビティやエキサイティングな体験、彼らが知らない文化や歴史、風俗などを余すことなく企画、紹介している。

 その成果もあってだろうか。昨年にはアメリカの有名司会者でコメディアンのコナン・オブライエン氏が、自身の冠番組「CONAN」で鳥取県北栄町を訪れてSNSで話題になった。

「Googleで“コナン”って検索すると、すべての国で僕が最初に出てくるんですよね。そうあるべきでしょ。でもひとつだけそうじゃない国があるんですよ…日本です」。コナン氏は、「名探偵コナン」への対抗心をむき出しにして、ユーモアたっぷりに北栄町を紹介。町長もSNSを活用してそのユーモアに応え、番組を盛り上げた。日本では知られていない鳥取県の小さな町が、全米に知られるきっかけになったのだ。

「おもてなし」の言葉でごまかさないインバウンド政策

 とかく地方創生を考える場合、日本人が感じる「良さ」ばかりを金科玉条のようにとりあげ、「おもてなし」という超曖昧なサービス単語でごまかそうとするインバウンド政策が多い中、鳥取県の取り組みはしっかりと顧客対象を定め、マーケティングをしている痕跡がありとあらゆるところに垣間見える。

 ここには東京や、大阪のおこぼれを頂戴しようなどという野暮な発想もない。

「鳥取にはスタバはないけどスナバがある」あの平井知事が宣った自虐ネタの奥には実は並々ならぬ地方創生への決意があったのだ。

 PR動画を見ていると日本人である私までなんだか鳥取に行ってみたくなるから不思議だ。そうだ、砂丘に行って「すげえ」と言うだけでなくパラグライダーに挑戦してみればよいのだ。浦富海岸のクリアカヌーは楽しそうだ。ちょっと怖いけど大山ダウンヒルサイクリングも挑戦したいな。

 国内の不人気なんか関係ねえ。今、鳥取県がクールだ。

(牧野 知弘)

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