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「生活保護ならエアコンはつけられない」は本当か

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2016/08/18 みわよしこ
「生活保護ならエアコンはつけられない」は本当か: 生活保護の人々は、どのようにこの夏をしのいでいるのだろうか © diamond 生活保護の人々は、どのようにこの夏をしのいでいるのだろうか

記録的な猛暑となっている2016年夏は、単に気温が高いだけではなく、過去に類例のない高温・多湿・豪雨・台風などによる問題が相次いている。生活保護制度が想定していない事態のもと、生活保護の暮らしは、今、どうなっているだろうか?

酷暑の夏、生活保護で暮らす人々は?

 2016年夏は、厳しい暑さとなっている。

 東京の最高気温が37.7℃(東京都東京)となった8月9日、アメダスで気温を計測している全国約930地点のうち198地点で、最高気温が35℃を超える「猛暑日」となった。この日、多くの友人知人が「外にいるだけで体力を消耗するだけではなく、判断力が奪われていく感じがする」と語っていた。

 しかし、同じように猛暑であっても、その影響は一人一人異なる。まず、基礎体力・暑さへの馴れ・体調の異常に早期に気づくことができるかどうかといった個人的問題による違いがある。それに加え、どこか涼しい場所に逃げ込んで涼を取ることができるのか・そもそも猛暑から逃げて行く場所があるのか・就寝する時だけでも快適な環境で安眠できるのかといった数多くのことがらが、無事に酷暑をしのげるかどうかを左右する。「住まいにエアコンがあり、使用できる」ならば、それだけで消耗はかなり防げるはずだ。

 では、原則としてエアコンを新規に購入する経済力がなく、またエアコンがあっても電気代が心配で使いにくい生活保護世帯の人々にとって、この夏はどのようなものであろうか? 

 今回は、生活保護で暮らす千葉県の50代男性・北海道の40代女性の2人が語る「酷暑の2016年夏」を紹介し、最後に「生活保護でエアコンは持てるのかどうか」についての現状を述べる。

暑さをしのぐのは「扇風機」だけ睡眠障害に追い打ちをかける熱帯夜

 まず、千葉県の馬場寿一さん(54歳)の毎日を紹介する。

 精神障害をもつ馬場さんは、もともとは4人家族であったが、家族が他界したり施設入居を余儀なくされたりした結果、現在は単身生活だ。経緯は、本連載でも何回か記事化させていただいた(http://diamond.jp/articles/-/93191ほか)。

 馬場さんに電話してみたところ、

「今日は調子よくないです。頭が、脳が働いていない感じです」

 という。発音は、ふだんよりも不明瞭だった。向精神薬の副作用かと思って聞いてみたところ、薬の内容や量は以前と変わりないそうだ。しかも、馬場さんの住まいから最寄りのアメダス観測地点の気温データを見てみると、最高でも30℃を少し超える程度。室温は「30℃くらい」ということだった。馬場さんの住まいは、鉄筋コンクリート5階建ての県営住宅の1階で、南向きでも西向きでもない。住まいが極度に暑くなりやすかったり、逆に涼しくなりにくかったりするというわけではない。しかし、最高気温が13時に35℃となった日には、やや遅れて15時ごろ、室温も35℃程度になるようだ。

「今日は曇っているので、気温はそうでもないのですが、湿度が高くて蒸し蒸しします。じっとしていても、汗ばんできます。扇風機はあるので動かしています。扇風機の風がなければ、やってられません」(馬場さん)

 東京の私の住まいの仕事場で、手元の温湿度計を見てみた。エアコンの冷房を最低限に動かしており、気温は29.5℃、湿度は68%。言われてみれば、湿度の高さは感じるけれども、暑いとも寒いとも感じない。健康な成人なら、同じ温度湿度で「ちょっと暑いかな、ちょっと蒸すかな」程度の感じ方であることが多いだろう。馬場さんは、何が違うのだろうか?

「暑さだけではなく、睡眠不足が辛いんです。夜は、睡眠薬を飲んで9時より前には寝るんですが、今朝は0時30分に目が覚め、その後眠れませんでした。若いころから睡眠障害があって、眠りが極端に浅くて、夜中に最低でも2回は目が覚めるんです」(馬場さん)

 そこに、暑さの影響も加わる。特に深刻なのは夜間だ。どこか涼しい場所に「眠りに行く」というわけにもいかない。

「日中暑いのも辛いんですが、熱帯夜が続くと、とにかく寝苦しいんです。ふだんから睡眠障害があって眠りが浅いところに、夜中の暑さが加わると、よけいに厳しいです。暑くて眠れない日、寝不足の日が毎日続くと、身体に響いてきます」(馬場さん)

 夜間の睡眠不足に暑さ、昼間の酷暑が重なる毎日が続けば、当然そうなるであろう。

「夏になると、体調も悪いです。いつもなら、もう少しキビキビやれている家事の一つ一つが、『よっこらしょ』という感じです。記憶力も落ちてくる感じです。熱中症にはなっていませんが、暑い日は、『死のうにも死ねず、暑さを我慢しているだけ』という感じです。これは生活保護に関わる公務員には分からないかもしれませんが」(馬場さん)

 そういう世帯の住まいに訪問調査に行くケースワーカーは、知っているかもしれないし、対策の必要性も感じているかもしれない。しかし、生活保護政策には反映されていない。

 2016年8月7日未明、埼玉県加須市で、37歳の男性が死亡した。前日、最寄りの久喜市の最高気温は35.2℃だった。男性は熱中症で死亡したと見られている。同居していた母親が、苦しそうな男性を心配して119番したが、時すでに遅く、救急隊が到着したときには心肺停止状態であったという(埼玉新聞記事)。この世帯の生活状況の詳細は報道されていないが、「熱中症で孤独死」は、馬場さんが毎夏のように語る、リアルな恐怖だ。

冬より夏の方が耐え難いのになぜ「夏季加算」はないのか

 エアコンを取り付けたいとは思わないのだろうか?

「福祉に相談してみたんですが、『手段がないから無理です、お金貯めて買うしかないです』ということでした」(馬場さん)

 そんなことはない。本記事末尾で述べるとおり、社協の貸付金を利用してエアコンを取り付けることができる。障害基礎年金を受給している馬場さんは、この制度の対象となる。

 実際にエアコンを取り付けるかどうかはともかく、「エアコンを設置する」という選択肢が、具体的に馬場さんに示されることを願う。

 馬場さんはさらに、

「冬季加算はあるのに、なぜ、夏季加算はないんですか? 自分にとっては、冬よりも夏の方が耐えがたいのに」

 という。夏季加算の必要性は、生活保護に関する審議会などで過去に何度も検討されているが、未だに実現していない。私は、そのことを馬場さんに話してみた。さらに「住まいの状況も、エアコンの性能もまちまちだから、健康に暮らせる温湿度をもたらすエアコンと電気代の『現物』という形ではどうでしょう?」と聞いてみた。馬場さんは、

「理想をいえば、十分な現金があって『自分で選べる』ということですが……そういうものだったら現物でもいいかなあ、と思います。とにかく、今より少しでも過ごしやすくなれば……暑さが続いて、もう考える気力がないです。次、何をすればいいのか、頭に浮かんでこないし、何もしたくありません。暑さから遠ざかることも含めて、考えるのも動くのも難しいです」

 と答えた。そういう現在の馬場さんは、どれだけの気力を振り絞って、行政にエアコン設置を相談してみたのだろう? そして、回答に対して、内心でどれほどの落胆をしたのだろう? 想像もできない。

 ちなみに、障害年金は縮小される方針だ。障害年金の対象とならなくなる障害者が生活保護を必要とするようになり、しかも就労も不可能であったら、エアコンのない酷暑を耐え忍ぶしかなくなる。現在、規定路線となっている政策が「粛々と」実施され続ければ、2~3年の間には、そういう状況に置かれる障害者が続出するであろう。

冷涼な北海道なら、暑さ対策は不要なのか?

 次に、私は北海道中央部に住む平田明子さん(仮名・47歳)に電話してみた。「北海道だから夏は涼しい」とは限らないが、平田さんの住む地域は、夏も冷涼なことで知られている。しかし、北海道は、台風7号に9年ぶりの直撃を受けたばかりだ。「毎年、そうだから」が、この夏も通用するとは限らない。今日の気温と湿度は?

「29.3℃、湿度は64%です。家の中も外も、けっこう蒸し暑いです」(平田さん)

 職場のパワハラの果てに精神疾患を抱え(本連載記事)、生活保護で暮らすこととなった平田さんは、現在も、治療を続けながら生活保護で暮らしている。症状も生活の様子も、ほんの少しずつだが改善しつつある。昨年からは、年に数回、数日間程度のパートタイム勤務も行っている。ケースワーカーは「無理はしないでください」と言い、やりとげたら「よく頑張りましたね」と評価してくれるそうだ。

 平田さんの現在の住まいは、公営住宅だ。木造の老朽アパートで暮らしてきた平田さんは、ケースワーカーの勧めもあり、2016年春、公営住宅に転居した。収納が少ないことを除けば、広く快適な住まいであるというが、一つだけ問題がある。

「以前の住まいと方角が違うので、風が入ってこないんです。よほど強い風でないと入ってこないんです。扇風機は持っていなかったので、購入しようかなと思いましたが、結局、なくてもなんとかなるかなあと」(平田さん)

 風が入ってこないことに加えて、今年の夏は北海道でも暑い。平田さんの住む地域でも、最高気温が30℃以上の日は何日もあった。明日も、最高気温は30℃を超えるという予想だ。暑いだけではなく、湿度も高い。

「蒸し暑くてムンムンするので、汗で肌に張り付かない、さらっとした衣類でごまかしています。例年、8月中旬の今ごろになると、そろそろ涼しくなってくるんですけど、今年は9月に入っても蒸し暑いようですね。まあ、なんとかしのげる範囲ですけど」(平田さん)

 平田さんの住む地域は、冬の厳寒と積雪が問題だ。しかし、冬季加算は昨冬から削減されている。

「でも、もしも夏季加算があったら、とは思います。扇風機くらい、あまり悩まずに買えるかなあ?と。暑い地域、もっと夏が大変な地域は、夏季加算がないのはおかしいと思います」(平田さん)

 それでも「いつも暑い」「いつも寒い」なら、その地域なりの生活の知恵や身体の馴れに期待することができる。それではどうにもならない問題は、2016年1月の九州に見られた厳寒や、北海道や東北の冷涼な地域で見られる夏の暑さなどの「想定外」であろう。個人レベルでは、ましてや経済的な余裕の少ない生活保護世帯では、備えようにも備えようのない現象だ。生活保護世帯が備えるためには、何が必要だろうか?

「こういう『たまに』来るもののために備えるとしたら……蓄えです。お金の蓄え。蓄えがない、作りにくいために不便で困っているのが、生活保護世帯の暮らしです。結局、生活保護基準を上げる、せめて2013年の引き下げ前に戻すことしかないのではないかと思います」(平田さん)

 私も、その点は同感だ。

「生活保護ならエアコンはつけられない」はウソしかし対象にならない世帯も

 現在、生活保護世帯がエアコンを設置する方法は、「健康で文化的な最低限度」から爪に火を灯すような貯蓄だけではない。

 酷暑だった2011年7月19日、厚生労働省は生活保護の実施要領を一部改正し、生活保護世帯が社協の貸付金でエアコンを取り付けられることとした(厚労省プレスリリース)。それまでも、社協の貸付金でエアコンを取り付けることは可能だったが、貸付金は収入認定された。貸付金は「召し上げ」られ、にもかかわらず返済をしなくてはならない。「それでもよければ、エアコンを」ということである。

 2011年7月の通知で、貸付金は収入認定されなくなった。また、貸付金の返済も「収入認定の控除」対象となった。実質、毎月の生活費に食い込まない形で、エアコンを購入できるようになったというわけである。

 さらに2011年、東京都は独自に、保護費以外の収入のない生活保護世帯に対し、エアコン購入助成を行った(東京都Webサイトより)。2011年だけの緊急支援であり、上限額は4万円。取り付け費用を考えると、この4万円だけでエアコンを購入することは不可能である。この助成を利用できたのも、少なくとも2~3万円の自費負担が可能だった世帯や、電気店に分割払いを依頼するだけの交渉能力があった世帯に限られることにはなったが、この時にエアコンを設置できたことで、生命や健康への重大なダメージを避けられた世帯は、確実に存在した。

 しかし、「社協の貸付金でエアコンを」は、すべての世帯が対象となっているわけではない。制度を利用できるのは、就労収入・年金収入など生活保護以外の収入がある世帯に限定される。それもない世帯では、貯蓄以外の方法はない。このため、「特定NPOほっとプラス」では、生活保護世帯への中古エアコン配布事業を行っている(http://hotplus2011.blog.fc2.com/blog-entry-231.html)。しかし、中古エアコンは冷暖房効率が悪く、電力消費も激しいことが多い。しかも、月々の電気代に対する加算類は全くない。

「健康で文化的な最低限度」の住環境を実現するために、不足がありすぎることは明確だ。しかし、対策として何が最良なのだろうか? 私自身、はっきりとした答えを持ちあわせているわけではない。ただ、利用を抑制することが可能な制度や、目先「安上がり」な対策の数々で、日本の住宅政策の貧困という大きな問題を埋め合わせることは不可能だろう。

 次回は、貧困状態にある子どもの夏休みについて、レポートする予定だ。

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