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タイに実在する“地獄”と呼ばれた世界最悪の刑務所

SPA! のロゴ SPA! 2018/12/07 15:53 日刊SPA!

 微笑みの国と呼ばれ、観光地として人気のタイだが、汚職やレイプ、殺人などが横行し、“地獄”と呼ばれた世界最悪の刑務所が実在する。12月8日(土)より公開される映画『暁に祈れ』は、イギリス人ボクサーのビリー・ムーアが実際に服役し、過酷な環境をムエタイで生き抜いた実話をもとに書かれた自伝小説を映画化したものだ。

 同作に興味を持ち、現地取材を敢行した犯罪ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏は、公開記念イベントのトークショーに登壇し、そのリポートを話した。これまで数々の危険地帯を訪れた経験があるゴンザレス氏だが、「ここだけには絶対入りたくない」という。

 今回は、ゴンザレス氏が現地で撮影してきた写真と共にその様子をお届けしよう。

◆“地獄”のようなタイの刑務所の実態

 10月下旬、ゴンザレス氏はタイを訪れたが、イベントの冒頭でその経緯をこう話した。

「この作品に衝撃を受けて。昔から刑務所には興味があったんです。いくつか取材したこともありますが、タイでは中に入ったことは今までなくて。映画で描かれている内容が、刑務所の中がメインだったので、“あれって本当にそうなのかな?”って気になったんです。それほど地獄みたいな描写だったので」

 ——幼い頃から札付きの不良だった主人公のビリーは人生をやり直すためにタイへと渡った。しかし、そこには誘惑も多かった。ヘロインやヤーバー(覚せい剤の一種)など麻薬中毒となり、自堕落な生活に陥ってしまう。結局、逮捕されてしまい、“地獄”とも呼ばれるチェンマイ中央刑務所に収監されてしまったのだった……。

 凶悪な囚人たちが集う房。彼らの言葉さえも理解できない。ドラッグや喧嘩が横行し、看守からも人間扱いされない。そんな日々に耐えきれず、自殺する者も……。

 そんな中、ビリーが刑務所内に設置されたムエタイクラブと出会い、一筋の希望を見出していくというストーリーだ。

 その軌跡を辿り、実際にビリーが収監されていたバンコクのクロンプレム中央刑務所を訪れたゴンザレス氏。結局、当局の厳しい目もあり、取材の許可がおりなかった。そこで、映画の撮影が行われたナコーンパトム刑務所に向かったという。

 現在は閉鎖され廃墟となっているが、撮影の1年前までは実際に刑務所として使われていたという。映画の撮影後もほぼそのままの状態となっており、数々の遺留品が目につく。食堂には、ナンプラーなどの調味料も残されていた。

「印象的だったのが、寝る場所の近くの壁には車の写真が多く貼られていたこと。恐らく、囚人たちが刑務所を出たら買いたいなと思っていたのでしょう。また、女性のグラビア写真も多く貼られていました。ほかには前タイ国王(プミポン氏)やお坊さんの写真なども」

 刑務所という抑圧された環境の中で、こうした写真が囚人たちの心の拠り所となっていた。また、刑務所には意外なものまで残されていたという。

「刑務官の詰め所にラブレターが落ちていたんですよ。どういうことかと言えば、外にいる囚人の彼女から届いたけど、検閲の途中で刑務所が引っ越してしまった。本人の手には渡っていなかったということですね」

 余談だが、刑務所を一般の旅行者が訪れることはできるのだろうか。ゴンザレス氏によると、旅行者の間ではバンコクの隣・ノンタブリーのバンクワン刑務所が有名で、囚人と面会する人も多かったらしい。

「以前は旅行者でも差し入れを持って面会に訪れることもできました。しかし、近くの売店で弁当を買って、そこにヤーバーなどの麻薬を仕込んで差し入れする人が増えてしまった。今は差し入れすることは簡単ではなくなっているようです。外国人だと、入るのも難しくなっています」

◆犯罪者でさえ、生きるのが困難な環境

 主要キャスト以外の役者の大半は、現地タイ人の元囚人が起用されている。実際の獄中体験に基づいた迫真の演技……いや、演技ではなく、ほとんどリアルだ。

 ゴンザレス氏が映画に出演している元囚人のチャルームポン・サワットスック氏にインタビューしたところ、「特に役作りはしていない。監督からは『とにかく刑務所にいた時と同じようにしてくれ』と言われた。(映画で描かれていた刑務所の様子は)80〜90%はリアルですね」とのことだった。

 そんな彼が実際に服役していた理由は、なんと殺人(&麻薬)。「人から頼まれて、お金のために殺した」らしい。そんな彼でも刑務所の中は「怖かった」という。ゴンザレス氏がこう話す。

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「タイの一般市民も刑務所の実態は知らないことが多い。みなさんも普段生活している中で、まわりに犯罪者はいないと思います。この映画に出てくる人たちは役どころだけではなく、実際に元犯罪者。“現”もいるでしょう。そういう人たちだって、地獄みたいな環境の中で生きるのは大変。どんなに追い詰められて今が地獄と思って犯罪に走ったとしても、その先にまっているのは、さらなる地獄だということですね」

 社会の底辺でもがきながら生きてきた人たちが、どのように更生していくのか。泥沼から抜け出すことはできるのか。生々しい人間ドラマがそこにある。<取材・文・撮影(トークイベント)/藤井敦年、写真提供(タイ現地)/丸山ゴンザレス>

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