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テレビの映画再放送にイラッとする人の目線 「またジブリ?」他局のドラマ潰しに終始

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/07/27 木村 隆志
潰し合いの構図が見えてきます(撮影:尾形文繁、田邉佳介、吉野純治) © 東洋経済オンライン 潰し合いの構図が見えてきます(撮影:尾形文繁、田邉佳介、吉野純治)

 「また2週連続ジブリ?」と思った人は多かったのではないでしょうか。「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)で、7月7日に『借りぐらしのアリエッティ』、14日に『思い出のマーニー』が放送されました。

 放送回数は、『借りぐらしのアリエッティ』が3度目、『思い出のマーニー』が2度目と、この2作に関してはまだ少数ではあるものの、春夏秋冬ほとんどの季節でジブリ映画の再放送が行われているのです。

 これまで『風の谷のナウシカ』が17回、『天空の城ラピュタ』が15回、『となりのトトロ』が15回、『火垂るの墓』が12回、『魔女の宅急便』が12回、『おもひでぽろぽろ』が8回、『紅の豚』が11回、『平成狸合戦ぽんぽこ』が8回、『耳をすませば』が10回、『もののけ姫』が9回、『千と千尋の神隠し』が8回、『猫の恩返し』が5回、『ハウルの動く城』が5回、『ゲド戦記』が3回、『崖の上のポニョ』が3回、『コクリコ坂から』が2回放送されました。

 「人気があるから別格」という声がある一方、録画機器が発達・普及した今、「なぜ何度も放送するのか」という不満の声が増えているのも事実。近年、「Hulu」「Amazon プライム・ビデオ」「Netflix」などの有料動画配信サービスが登場したこともあり、「再放送のせいで新作映画が無料で見られない」「新作映画は有料で見ろということか!」と怒っている人々がいるのです。

 また、ジブリ映画に限らず再放送という切り口で見ると、フジテレビが6月17日から4週連続で『パイレーツ・オブ・カリビアン』、7月14日に『カーズ』を再放送しました。いずれも人気シリーズではあるものの、そもそもプライムタイム(19~23時)で再放送をしているのは映画だけ。バラエティ、情報、スポーツ、音楽が再放送されることはほとんどないのです。

 録画機器と動画配信サービスの普及で、映画を見る環境が充実した中、なぜ映画だけが再放送されるのか。そこには「人気があるから」だけではない事情があるのです。

「TBS『金曜ドラマ』潰し」の是非

 日本テレビがジブリ映画を再放送し続ける最大の理由は、「人気があるから」というより、「リアルタイムで見てもらいやすい映画だから」。現在の視聴者は、「新しい」「面白そう」「本当に好き」な番組は録画してじっくり見る傾向がありますが、一方のジブリ映画は「気軽に見る」「安心する」タイプのコンテンツ。連ドラの録画率が高く、ジブリ映画のリアルタイムツイートが多いことからその様子がわかります。

 事実、日本テレビはほとんどの季節で、TBSの「金曜ドラマ」第1話放送日に合わせてジブリ映画を放送してきました。「1話を見てもらえないと、その後の継続視聴が厳しく、約2カ月半もの間、低迷し続ける」他局の連ドラにとっては、嫌がらせのような戦略です。

 しかし、この問題は「日本テレビによるTBSの『金曜ドラマ』潰し」だけではありません。フジテレビの『カーズ』もTBSの「金曜ドラマ」第1話に、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』も日本テレビの「土曜ドラマ」第1話に合わせて放送されました。

 たとえば、「新作連ドラvs.新作映画」という勝負なら健全な業界内の争いといえるでしょう。しかし、現状のような「新作連ドラを旧作映画で潰す」という考え方では、業界内で足を引っ張り合っているだけで、充実化へ向かう“外敵”ネットコンテンツとの争いに不安が残ります。

 みなさんに誤解してほしくないのは、「ここでジブリ映画や『カーズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン』の批判をするつもりはない」ということ。私自身、楽しんで見ている作品も多く、クオリティの高さに疑いの余地はありませんが、このままテレビ局同士の争いで再放送を続けていたら、せっかくの好印象が下がってしまいかねないのです。

 実際、ジブリ映画は重要なターゲットであるはずの子どもたちが見られない21時以降に放送されています。本当の意味で「視聴者のために再放送している」と言うのなら、21時以降ばかりではなく、ファミリー層が見やすい平日の19時スタート、土日の昼前後にも放送するほうが自然でしょう。

 一度もそのような時間帯での放送がないところに、視聴者よりも目先の視聴率を優先させていることがわかります。ただ、テレビの視聴習慣や愛着がない子どもたちが大人になった頃、今以上に苦しいビジネスを強いられるのは間違いありません。

狭い争いをやめ、大同団結できるか

 映画再放送から少し話はそれますが、「テレビ局同士で潰し合う」という現象がほかの時間帯でも見られます。

 7月16日に「ごめん、愛してる」(TBS系)、「警視庁いきもの係」(フジテレビ系)、「愛してたって、秘密はある。」(日本テレビ系)という新作ドラマ3本の放送時間がかぶっていました。本来、「ごめん」「警視庁」は21時から1時間、「愛して」が22時30分から1時間の放送で3本がかぶることはないはずなのに、「ごめん」が22時15分までの拡大版、「警視庁」が前番組の影響で繰り下げスタートとなり22時10分まで、「愛して」は30分繰り上げ拡大版で22時からの放送で、「民放3局が同じ時間帯に新作ドラマを放送している」という不思議な状況が起きてしまったのです。

 他局との争いを意識しての策であることは明らかであり、「形を崩してまでドラマ視聴者を奪い合う」という戦略は疑問。「テレビ局の思惑や目先の競争を優先させ、視聴者を置き去りにしてしまう」という黄金期から続く悪癖がまったく直っていないのです。

 さらに、ドラマ同士ではないものの、フジテレビの月9ドラマ第1話放送日に合わせて、「はじめてのおつかい」(日本テレビ系)、「とんねるずのスポーツ王は俺だ」(テレビ朝日系)、「プロ野球選手の妻たち」(TBS系)という人気シリーズ特番をぶつけ合ったのも同様。賢くなった昨今の視聴者は、「普段からこれくらい力の入った番組を放送してくれるのならいいけど……」とがっかりしてしまうのです。

 テレビ番組以外のコンテンツの種類と量が増えたことで、質の高さで勝負しなければいけない時代になりました。だからこそ各局には、「各局で視聴率を奪い合う」のではなく、「各局が質の高いコンテンツで競い合って全体の視聴率を上げる」という大同団結が求められているのです。各局が「ネットコンテンツの脅威を感じつつも、現状を変えられず、狭い争いに終始する」という消極的な体質からいつ抜け出せるのか。これがテレビ業界全体の今後を左右するのではないでしょうか。

ジブリ映画ですら視聴率1ケタの苦境

 そんな現状の危うさを示しているのは、皮肉にもテレビ業界が最も重視する視聴率。再放送の映画は、『借りぐらしのアリエッティ』が9.1%、『思い出のマーニー』が9.7%、『カーズ』は7.1%、『パイレーツ・オブ・カリビアン』は10.4%、10.3%、9.8%、11.3%と、「良くて2ケタがやっと」の状態であり、ジブリ映画や人気シリーズですら、視聴率に陰りが見えはじめています。

 そもそも「好きな時間に好きなものを見る」という自由を求め、オンデマンドを好む現代人に、「再放送をリアルタイムで見てほしい」という施策そのものが疑問。それでも、新作映画を放送する、新たなコンテンツを作り出すというスタンスで勝負できないところにテレビ局の苦悩が見て取れます。

 もう1点、見逃せないのは、視聴者が「固定ファンの多いジブリ映画や人気シリーズをたたきにくい」という世間の風潮。新作映画や新作ドラマは放送前から厳しいコメントが飛び交う一方、「いったん人気を得た作品は自分が批判されることを恐れてたたかない」という人が多いのです。

 実際のところ、SNSでは新作映画に対して、「こんなものを放送するなら『〇〇』(往年の名作映画)を再放送したほうがいい」というコメントが少なくありません。反面、「ジブリはつまらない」「パイレーツはもう飽きた」という声は出にくいため、テレビ局が再放送に踏み切るという側面は間違いなくあるでしょう。

 また、各局が映画事業に力を入れていることも、再放送の多さに関係しています。2016年は邦画の興行収入が過去最高の1486億円を記録しましたが、民放テレビ局は『踊る大捜査線 THE MOVIE2』(フジテレビ)が興行収入173億円の大ヒットとなった2003年あたりから積極的に映画製作するようになりました。もはやテレビ局は、テレビ番組の製作だけでなく、映画製作会社ともいえるのです。

 今年も日本テレビが『THE LAST COP/ラストコップ』『メアリと魔法の花』、フジテレビが『昼顔』『帝一の國』、TBSが『忍びの国』『チア☆ダン』、テレビ朝日が『TAP-THE LAST SHOW―』などを公開。公開時期に合わせて、似たテイストの映画や、主演俳優が同じ映画を再放送するなどのPRをしました。

 さらに各局は、『名探偵コナン』『ワンピース』『ドラえもん』『相棒 劇場版』『クレヨンしんちゃん』『アンパンマン』などの人気シリーズの映画も製作。こちらも新作の公開に合わせて、旧作を再放送しているのです。

 テレビ局自身が製作したものであれば、当然ながら再放送のコストは安くなりますし、そのうえ、新作映画のPRになるのですから一石二鳥。多額のコストをかけて2時間のドラマやバラエティ番組を作るよりも、再放送の映画を選ぶ機会が増えているのも無理はないのです。

新作映画がテレビ放送されない理由

 しかし、テレビ局が製作する映画が多い割に、あまりテレビ放送されないのはなぜでしょうか?

 その理由は、やはり「視聴率が取れない」から。「興行収入が振るわなかったものを放送しても見てもらえないし、新作は録画される可能性も高いから、視聴率を取りやすい人気シリーズを再放送したほうがいい」という思惑があるのです。

 また、テレビ局以外が製作した映画は放映権という費用面の問題があり、「コストに見合うコンテンツでなければ放送されない」のも寂しいところ。かつて邦画・洋画を問わずヒット映画は必ずテレビ放送されていましたが、近年はそうでもないのです。

 その結果、「各局が提携する動画配信サービスか、CSチャンネルなどの有料コンテンツでなければ見られない」という新作映画が続出。「新作映画を無料の地上波で見たい」という視聴者にとって悲しい状況は、残念ながらしばらく続くでしょう。

 各局がこのまま映画再放送のような消極的な姿勢を続けていたら、テレビが「ときどき録画番組を見るだけ」「ネットコンテンツやDVDを楽しむだけ」のスクリーンとなりかねません。“日本のナショナル映画”ともいえるジブリ映画の再放送に関しては賛否両論がありそうですが、今後もテレビ局が映画を収入の柱とするのなら、新作を放送するなどのポジティブなスタンスが欠かせないでしょう。

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