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中国の理解不能な“膨張主義”がまかり通る3つの理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2016/09/27 嶋矢志郎
中国の理解不能な“膨張主義”がまかり通る3つの理由: 国際社会の働きかけも虚しく、南シナ海問題は中国による一方的な「力の支配」で押し切られようとしている。理解不能な中国の膨張主義がなぜまかり通るのか Photo:首相官邸HP © diamond 国際社会の働きかけも虚しく、南シナ海問題は中国による一方的な「力の支配」で押し切られようとしている。理解不能な中国の膨張主義がなぜまかり通るのか Photo:首相官邸HP

 国際社会で非難の的になっている南シナ海問題が、中国による一方的な「力の支配」で押し切られ、封印されようとしている。日米中とASEAN(東南アジア諸国連合)など18ヵ国が参加して、9月8日に閉幕したアジア首脳会議をはじめ、世界の首脳がアジアに集結した一連の外交ラッシュで、最大の焦点であった南シナ海問題を巡る攻防が、中国側の事前の切り崩しや巻き返し工作が功を奏して、中国ペースで終始したためである。

「法の支配」で中国を牽制し、圧力をかける日米両国の攻め手が不発に終わり、周縁の当事国側の抵抗も腰砕けで、提訴したフィリピンが一切言及せず、封印に手を貸した格好である。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が7月に国連海洋法条約に基づいて、中国の主権主張を全面否定した仲裁判決は、国際秩序を法的に守る最後の砦であったが、中国は「紙くずに従う必要はない」と強弁。引き続き国際秩序に挑戦する実効支配の手を緩めず、エスカレートさせている。

 中国の膨張主義、とりわけ海洋進出戦略は、今後とも拡大の一途を辿ることは必至である。東シナ海への攻略も明日は我が身であり、狙いは沖縄トラフ(海溝)にあることが明らかになってきた。日本を含め、国際社会は中長期的な戦略で中国の膨張主義と厳しく向き合い、国際秩序の中へ封じて、取り込んでいく必要に迫られている。

中国の「力の支配」に屈服?南シナ海問題を巡る働きかけ

 一連の外交ラッシュを締めくくった東アジア首脳会議は、南シナ海での中国の主権主張を全面否定した仲裁裁判所の判決後、関係各国が顔を合わせる初めての国際会議であった。日本の同行筋によると、南シナ海をめぐる安全保障問題を議論して閉幕したが、日米両国が国連海洋法に基づく仲裁判決には法的拘束力があるとしてその受け入れを中国に迫ったものの、中国は反発、当事国間での解決を主張。参加各国からは南シナ海情勢を懸念する発言はあったものの、ASEANの当事国の代表からは中国を名指しで批判する声は出なかった。

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、「仲裁判決の尊重」を主張するペーパーを用意、事前に配布していながら読み上げることもなく、南シナ海問題には言及しなかった。提訴した当事国のフィリピンの主張が宙に浮いてしまったため、日米両国の「法の支配」を砦に中国を強く牽制し、国際秩序の中へ取り込み、諌めていく絶好の機会を失したことは否めない。

 オバマ米大統領は、南シナ海での航行の自由や非軍事化の重要性を訴えて、中国に対し、改めて仲裁判決の受け入れを求め、国際法の順守を迫った。安倍首相も沖縄県の尖閣諸島の周辺での中国による挑発行動を念頭に、南シナ海や東シナ海で中国の一方的な現状変更や軍事化の試みが続いており、深刻に憂慮していることを強調した。その上で「すべての当事国が地域の緊張を高めるような行動を自制し、国際法に基づいて、平和的な解決を追求すべきである」と訴えた。

 これに対し、中国の李克強首相は「南シナ海問題は当事国間の問題であり、域外国は関与すべきではない」との従来の主張を繰り返し、強調するだけで、日米両国の訴えに聞く耳を持たなかった。この国際会議のさ中にも、南シナ海で中国船約10隻がフィリピン沖のスカボロー礁で確認され、同礁では中国が建設作業にも着手する準備が進んでいる懸念が広がっている。

 閉幕後に出された共同声明では、ASEANと中国は海上での行動を規制する「行動規範」(COC:Code of Conduct)の合意を急ぐことを盛り込んだが、仲裁判決については全く触れていない。ASEANと中国は、2002年に武力による威嚇と武力行使の禁止、領有権問題の平和的解決などを盛り込んだ「南シナ海行動宣言」(DOC:the Declaration on the Conduct of parties in the South china sea)に合意したものの、中国の一方的な実効支配で有名無実化してから14年。COCはDOCを発展させ、法的拘束力を備えたものである。

中国の実効支配は40年以上騒乱の舞台となった南シナ海

 南シナ海は、中国をはじめベトナムやフィリピン、マレーシアや台湾など計8つの国・地域に囲まれている公海で、中東からの原油を輸送する要衝である。海域には南沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、東沙諸島の4諸島があり、それぞれの諸島には大小様々な島や岩礁が広がり、その数はおよそ200超と言われている。国連海洋法条約による排他的経済水域の制定をめぐる攻防の過熱化とともに、領有権を巡る争奪戦が熾烈を極め、中国が1971年からいち早く人工島を造成し、多数の施設を建造して、実効支配への動きを強めてから、騒乱の舞台となってきた。

 以来、南シナ海問題とは南シナ海の島々や岩礁とその周辺海域の領有権を、中国とフィリピンやベトナム、台湾などが争う諸問題の総称となっている。南沙海域では6ヵ国・地域が、西沙や中沙海域では3ヵ国・地域が領有権を主張して争っているが、中国は領有権の約90%を主張している。

 背景にあるのは、周辺海域に眠る豊富な海底資源である。米政府の推計によると、原油埋蔵量は約110億バーレル、天然ガスは約190兆立方フィート。シェールガスなどその他の資源への期待も大きい。このため、1970~80年代から中国とASEANの間で軍事的な衝突が絶えず、多数の犠牲者を出してきた経緯もある。主因は、中国が一方的に実効支配をエスカレートさせてきたためであるが、その真の狙いは軍事基地化だろう。

 現在の中国の実効支配の状況を見ると、すでに西沙諸島の最大の島である永興島で人工用地を整備、飛行場と南シナ海の岩礁群のすべてを統治する自治体として三沙市を設置、市庁舎を建てて、主に中国人民解放軍、中国人民武装警察部隊、さらには三沙市の行政関係者が常駐し、居住している。居住者には、食糧や水、石油などの生活物資を支給し、軍事用地以外の土地の自由な使用を許可するなど、中国政府が直接住民の生活支援に乗り出している。

 2013年末には、南沙諸島の7ヵ所で人工島を造成するなど、実効支配のペースを速めている。米国防総省によると、人工島には滑走路や港湾施設などを次々と建設、滑走路は3000m級が3本あり、百数十人乗りのジェット旅客機を試験飛行、着陸させている。さらには、大型レーダー施設や灯台、ヘリポートから地下防護施設まである。実効支配が40年以上に及ぶ西沙諸島では、地対空ミサイル部隊の展開や戦闘機の配備など、軍事基地化を加速している。ウッディ―島では、対艦巡航ミサイルを展開させたとの分析もある。

執拗な妨害工作を続けるも仲裁判決は中国の全面敗北

 中国政府がこれらの実効支配を対外的に認めたのが2012年7月。フィリピンが中国も締約・批准している国連海洋法条約に基づいて常設仲裁裁判所に提訴したのが2013年1月のこと。フィリピンが国際海洋法裁判所やICJ(国際司法裁判所)など4つの選択肢の中から常設仲裁裁判所を選んだのは、相手国が拒否しても、手続きは進められるからである。

 仲裁裁判所は、南シナ海のほぼ全域で領土の主権を主張する中国に対し、「中国が歴史上、排他的に支配してきた証拠はない」と断じた。中国が排他的な支配の根拠とする、いわゆる「九段線」についても「国際法上、根拠はない」と退けた。特に、中国が建設を進める7つの人工島については、うち3つは満潮時に水没する「低潮高地」であり、南沙諸島には「島」はなく、この海域には「中国の管轄権が及ぶ場所はない」と決めつけた。

 不利な判決は中国も予想していたようで、事前に「判決を出すな」との妨害活動に打って出て、それが無視されると、判決の翌日には中国国務院が準備していた2万字に及ぶ白書を発表し、一方的な反論を展開した。同白書によると、70ヵ国以上が中国の立場を支持しているとして、支持国を朱色で染めた世界地図を同日付けの中国共産党傘下のチャイナ・デーリー紙の一面に掲載した。ところが、インドが即刻「中国による誤報運動だ」と反発し、仲裁裁判所の裁定を支持すると表明した。

理不尽さがまかり通る3つの理由国際社会と異なる国境・領土観

 中国の南シナ海における一連の実効支配は、中国が自ら認める国際秩序への確信犯的な挑戦である。それにしても誰もが「法の支配」に倣い、従うことで成り立つ国際秩序の中で、なぜ中国の一方的な「力の支配」がまかり通るのか。1つ目は中国の大国化による驕りであり、2つ目は中国の国境・領土観の違いであり、3つ目は国際秩序の劣化・脆弱化である。この3点をベースに分析してみよう。

 まずは、大国化による驕りである。「米ロ両国に肩を並べる大国になれば、大国の狙い通りに無理を通せば道理が引く」との国際秩序を蔑ろにした傲慢不遜な大国意識である。中国は、2010年にGDP(国内総生産)ベースで日本を追い抜き、世界第2の経済大国になり、今や世界の工場から世界の消費市場へ脱皮しつつある。軍事力の面でも、米ロ両国に追いつけ、追い越そうと軍事費のGDP比率では米ロ両国を凌駕、背伸びしている。

 習近平国家主席が就任前の訪米時、オバマ米大統領に対し米中両国の「新しい大国関係」を提案し無視されたが、「太平洋は米中を受け入れるに十分な広さがある」として太平洋の「米中二分論」を口にした構想は本音であり、いずれ太平洋へ進出する野望を抱いているのだろう。南シナ海の内海化と軍事拠点化はその布石であり、東シナ海の攻略もすでに指呼の間である。詳細は後述する。

 2つ目は、国際的には通用しない中国の国境・領土観による実効支配である。中国は歴史上、「天下に王土にあらざるものなし」と唱え、「世界はすべて中国のもの」という中華思想を根本に持ちながら今日に至っている。大国化してきた今の中国は、この認識が強く、中国は今こそ「天下はもともと中国のもの。そのすべてを回収し、取り戻すとき」と考えている。このため、中国は元来国境や領土に対する価値観が薄く、もっと言うとないに等しい。強いて言えば、実効支配した領域が領土であり、国境はその先々にあろうがあるまいが関心がない。

 さらに通用しないのが領土観である。中国が一度でも支配した国、中国に朝貢した国、中国の古典に登場する国なども中国の「領土のうち」になる。大琉球の沖縄や小琉球の台湾をはじめ、遣隋使や遣唐使も朝貢扱いであり、中国の古典に登場する邪馬台国・日本も北朝鮮や韓国並みの「領土のうち」で、その潜在意識は根強い。

国際的な法秩序の劣化を突いたサラミ・スライス戦略とキャベツ戦術

 そして3つ目は、世界統治(グローバル・ガバナンス)の体制維持に必須な国際社会の社会基盤である国際的な法秩序の劣化であり、脆弱化である。主因はひとえに国連の安全保障理事会の機能不全にある。拒否権を持つ常任理事国が大国の横暴で国際的な法秩序を無視した立ち居振る舞いに及んでも、拒否権の応酬で相互監視機能が働かず、むしろ大国が相互の牽制合戦で国際秩序を撹乱し、混乱に陥れる原因者と化している。とりわけ、国際社会で一極支配を続けてきた米国の統治力の衰退は否めず、そこに付け込んできたのが中国である。

 1992年に米軍がフィリピンの南シナ海に面するスービック基地から撤収し、南シナ海方面に向けた米軍の最前線拠点が沖縄まで後退したのとは対照的に、中国が南シナ海における実効支配を一方的に強化・拡大させてきたのは、いかにも象徴的であった。それ以来、中国は海洋戦力の増強とともに、南シナ海での積極的な海洋政策に打って出てきている。

 これに対し、米国は外交的な警告を発しているだけで、より具体的で効果的な反対行動には出ていない。少なくともオバマ政権は、中国の膨張主義的な海洋政策に対し、何の対抗措置も打ち出していない。この間隙を突いて中国が南シナ海の全域で展開してきたのが、いわゆるサラミ・スライス戦略とキャベツ戦術である。

 サラミ・スライス戦略とは、丸ごとのサラミでは目立つが、薄くスライスすれば目立たないように、敵側に気がつかれないうちに、目立たない些細な攻撃を小出しに積み重ねていくことで、敵側の抵抗勢力を封じ、制圧しながら、自軍の攻め手を尽くして、目標を達成する戦略手法のことである。

 これに対しキャベツ戦術とは、芯を葉が幾重にも取り巻いていくキャベツのように、目指す目標に向かって多種多彩な攻め手を繰り出して幾重にも取り囲み、そんな状況を継続することで、目標を陥落させる戦術手法のことである。この場合は、目標とする島嶼や環礁に対し、武装民兵が乗り込んでいる漁船をはじめ、海洋調査船や海洋警察艦、さらには海軍の艦艇などで取り囲む。中国は、この手で満潮時には水没する「低潮高位」の環礁を次々と立派な島々へと変身させてきている。

 東シナ海は、日本にとって明日は我が身である。とりわけ尖閣諸島だ。この絶海の小さな岩礁に、中国はなぜそこまで執着しこだわるのか。その狙いは沖縄トラフにあることを、日中両国の外交筋が明らかにした。中国が尖閣諸島の領有権を公言し出したのは、国連機関による石油資源探査が始まった1960年代以降であったため、当初は海底資源が狙いと思われていたが、狙いははるかに野心的で、安全保障上の軍事戦略拠点としての沖縄トラフが垂涎の的なのである。

 中国大陸を取り囲む大陸棚は、水深が約200m程度の浅瀬である。一般に、戦略原潜は自国周辺の安全な海中で係留、停泊し、外国の探知から身を守りながら、核ミサイルの発射命令を待つのが任務である。しかし中国は、戦略原潜を保有していながら、その身を潜め守るだけの深い海を持っていない。

 沖縄トラフは、九州の西側から台湾島の北側まで、南西諸島と琉球諸島の西側に沿った円弧状の海底盆地で、全長約1000㎞、幅約200㎞、水深は2200mに及ぶ、長大な、東シナ海では最深の海域である。この海域であれば、中国が保有する戦略原潜が身を潜めるのに、戦略上も恰好な位置取りとなる。沖縄トラフであれば、中国の戦略原潜096型「唐」が搭載する潜水艦発射弾道ミサイル「巨浪2」の射程は約1万1000㎞で、米国の東海岸の政治中枢をも射程内に納めることができるからである。

 中国は少なくとも4隻の戦略原潜を保有し、最低でも48基の「巨浪2」を搭載している。いずれも多弾頭(MIRV)であるため、約200個の核弾頭を積載していることになる。これは、中国の核戦力のおよそ3分の1を占めている。これだけの核戦力を外国の、具体的には日米の潜水艦ハンターによる監視の目からどうやって身を隠しながら、安全に作戦を展開し得るか。

 それには、この水域内に自国の領土、領海を多少でも確保することである。そこに逃げ込むことで、他国からの手出しを封ずることができるからである。そのためのお目当てが尖閣諸島である。水深は500m、12カイリ離れた領海の水深は1200mで、沖縄トラフの水深2200mには及ばないが、尖閣諸島は沖縄トラフへ通ずる、いわば橋頭堡なのである。中長期的な狙いでは、太平洋を米中二分論で管理、監視する野望への布石として押えておきたい海であり、島なのである。

「明日はわが身」の東シナ海法の支配による平和的な解決へ

 直面する東シナ海への中国の一方的な攻勢を含め、中国の膨張主義に対し、日米両国をはじめ国際社会はどのように対処すべきか。国際社会は決して手を緩めず、厳しく向き合いながら、既存の国際秩序の中へ取り込み、その価値観の下で徹底的に話し合い、理解を求めて諌めていく必要がある。既存の国際秩序に挑戦的な中国の膨張主義は、やがて国際秩序も中華思想で塗り替え、世界の統治も中国が先導する新秩序の構築へと、いわばパワーシフトを狙っている遠大な戦略・戦術であり、放置できない危険な思想でもあるからである。

 したがって、ここは「力の支配」による愚かな武力衝突を避けて、国際的な法秩序を背景に「法の支配」による平和的な解決へ、人類の英知を結集すべき絶好の好機である。まずは中国に対し、中国が愛する子々孫々の未来に至るまで、このかけがえのない地球倶楽部の住人であり続けたいと思うならば、住人一人ひとりが公正に守り合う国際的な法秩序を守り抜く順法精神の醸成こそが、平和と安寧を守ってくれる真の安全保障であり、その第一歩であることを、中国が心から理解し悟ってくれるまで、愚直な努力を積み重ねていくことが先決ではないだろうか。

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