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仕事で「ONE TEAM」を求めるほど若手がついてこなくなる理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2020/09/16 06:00 渡部 卓
若い人が言われたことしかやらないのは、気が利かないわけでも、やる気に欠けるからでもない(写真はイメージです) Photo:PIXTA © ダイヤモンド・オンライン 提供 若い人が言われたことしかやらないのは、気が利かないわけでも、やる気に欠けるからでもない(写真はイメージです) Photo:PIXTA

近年、「自分の意見をハッキリ言えない」「ちょっと注意をしただけで、すぐに心が折れる」といった繊細な若手社員が増えています。さらに、新型コロナ禍でオンライン会議、リモートワークなど働き方が変化したことで、ステレオタイプな上司と繊細な部下の溝はますます深くなっているといいます。この先、ウィズコロナに対応した新時代の職場のコミュニケーションをあらためて見直す必要性があるでしょう。そこで今回は、産業カウンセラー・渡部卓氏の新刊『あなたの職場の繊細くんと残念な上司』(青春出版社)から、新時代の若手の力を引き出すコミュニケーション方法を紹介します。

若手社員が何も言わずに定時で「お先に失礼する」心理

 先日、ある中小企業の部長が私にボヤいていました。

「いまどきの新人は、来社した顧客に対して笑顔がないんですよ。さすがによくないと思ってやんわりと注意したら、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で『面白くもないのに笑えません』なんてボソッとつぶやかれて、あぜんとしました」

 ボソッとつぶやいたとはいえ「面白くもないのに笑えません」と反論してしまうこの新人社員の態度は改めなければなりません。ただ多くの学生と接している私からすれば、彼は決してムッツリしていたわけではないと思います。でも、社会通念上で要求されるレベルの笑顔にはほど遠かったようです。

 原因は、彼が育ってきた環境にもあるでしょう。喜怒哀楽を表出させる場面が極端に少なくなっているからです。私らの子どもの頃は、学校から帰宅したら外に出て遊んだり、行動範囲が広く、他人と接する機会も多かったものです。

 ところが、いまの時代は帰宅後は塾で忙しいし、家にいれば1人で過ごすツールも充実しているため、あまり外に出なくても楽しいことがいくらでもあります。1人で楽しめるので、家族とのコミュニケーションの絶対量も少ない。兄弟姉妹がいない子も多く、あまり喧嘩もしない。つまり、表情が豊かになるような体験、経験、失敗の絶対量が減ってきているのです。

 それなのに、職場が以前の価値観、経験則に基づいて、社員を枠にはめたりマネジメントしたりすれば、ミスマッチが起こるのは当然でしょう。先の「お客様の前では笑顔でいろ」はその典型です。我々の世代にとって当たり前のことでも、同じ文化を経ていない彼らには簡単にはできないのです(しなくていい、ということではありませんが)。

 似たケースに、定時で仕事が終わった若手が、まだ残っている上司や先輩に「何かやることありますか」と訊く慣例があります。20~30年前の職場なら当たり前の光景でした。意訳するなら「今日はこのまま帰ってよろしいですか」と許可を求めているわけです。

 上司や先輩より先に帰る場合には、必ずひと言かけろ、がビジネスマナーだと言われてきました。自分の担当分が終わっても、それ以上の仕事をしてこそ認められると教えられました。ビジネスとは、相手の期待に応えているだけではダメで、期待値を上回る成果を見せて初めて評価される。そんな教育を受けてきました。

 いまでは違います。若手は“声がけ”などなくサッサと帰っています。そうすると「なぜ若い社員は残業を嫌がるのか」と中高年世代は言いがちです。でも、この「なぜ」という疑問自体がおかしいと考える必要があるのです。

 この不安定な世の中では、会社に尽くしても必ずしも報われるわけではありません。だから、若い人が言われたことしかやらないのは、気が利かないわけでも、やる気に欠けるからでもない。指示された以上の仕事をしても、自分のためになるという意識を持てないのです。

近年の若手世代が“親の背中”を見て学んだこととは

 若い世代の心理にはベースとして「不安」があります。不安定な環境で育ってきた影響が大きいのです。

 現在の30代ぐらいまでの世代は、多感な時代に、社会が劇的に変化する衝撃を嫌と言うほど経験してきました。まず彼らが物心がついたときに「阪神・淡路大震災」「地下鉄サリン事件」(95年)がありました。「アメリカ同時多発テロ事件」(2001年)、「リーマン・ショック」(2008年)も日本に甚大な影響を与えました。さらに、大型の台風、水害、酷暑、冷夏など毎年のように異常気象が叫ばれ、実際に被害の様子を目の当たりにしてもいます。

 不安をかきたてる要素は、災害や事件だけではありません。もはや大企業がリストラ、早期退職者を募るのは珍しくありません。昭和世代の人間なら、大企業に就職が決まれば一生安泰だと思えたでしょう。寄らば大樹の陰、という人生観は現実もその通りだったのです。

 しかし、世はバブル経済の崩壊から平成・令和へと移り、そんな成功の保証はどこにもなくなりました。私は多くの学生から「両親(の働き方)が幸せそうに見えない」という声を聞いています。彼らは「親を見ていると、(働くことに)不安になってきます」と口にします。休日も出勤や出張で仕事に振り回されていた、毎朝早くから出勤していたのに定年前に部署が替わり閑職に回された……。最近のコロナ禍でも在宅勤務を許された親はそう多くはないようです。そんなこともあって、親の背中を見る限り、楽しそうに仕事をしているように見えなかったと言います。

 いまや彼らからすれば、どんなに会社に忠誠を尽くしても、大企業にさえ裏切られる時代です。どんな企業にもリスクはあるし、将来は不安定であると考えています。かつてなら、東京大学に入れば、天下を取ったぐらいの雰囲気がありました。でも、いまの東大生が「将来が不安で、留学したいです」と私に相談に来ることがあります。もはや、東京大学の看板があっても、未来の安心材料だと考えないのです。

 思い返せば、私が学生だった時代は単純だった気がします。とにかく豊かさを求めて、がむしゃらに突き進めた高度経済成長の名残が確実にありました。努力すれば報われる。勉強すれば上に行ける。そして現実に夢見た結果はついてきた。いまや、職場でしゃにむに頑張ることが人生の幸せにつながるとは限らない世の中になったのです。

「ONE TEAM」な働き方では若手社員はついてこない

 ひと頃ほどではなくなったとはいえ、まだまだ“ブラック企業”はたくさんあります。もちろん、働き方改革、ハラスメント問題が連日メディアで騒がれるようになったため、目に見えるブラックさはなくなっています。残業代を払わない、怒鳴りつける、セクハラなどの露骨なケースはかつてよりはずいぶんと減ってきていると思います。しかし、全体同調を良しとする目に見えないブラックな部分はまだまだ多いのが現実です。

 私は「2019ユーキャン新語・流行語大賞」に選ばれた「ONE TEAM(ワンチーム)」は素晴らしいフレーズだと思います。同年、ワールドカップで大活躍したラグビー日本代表のスローガンで、彼らの活躍ぶり、躍進ぶりは思い返すだけで胸が熱くなります。

 しかしながら、スポーツの世界では異論のない価値観であっても、企業やビジネスの世界にそのまま応用できるわけではありません。「ウチの会社もワンチームでまとまるぞ」とリーダーが言い出した場合、ダイバーシティ(多様性)という価値観とは対極にある“ブラックな環境”を生み出すリスクもあるのです。

 そもそも、ラグビー日本代表がたどり着いた「ONE TEAM」も、初めからスローガンありきのものではなかったといいます。ラグビー日本代表のメンバーは、ご存じのように出身国も違えば、考え方も習慣も一つではない、まさにダイバーシティの象徴のような集団です。そんな中で、何度も話し合いをし、違いを理解し、互いに歩み寄ることでたどり着いたのが「ONE TEAM」なのです。そういったプロセスをいっさい省いて、言葉だけで「ONE TEAM」を強要したところで、いまの時代、真の意味でチーム(部署)がまとまるはずもないでしょう。

 むしろ、私はこのご時世において、ワークライフバランスに反して、全体を一律に管理しようとする経営手法は、ブラック認定に属すると考えます。実際に、明白な法令違反はしていなくても、みんなと同じにしろと心理的に追い詰める、柔軟性のない規則の中で働きにくくして追い詰める、といった世界の潮流に逆行するグレーとも言える企業が増えています。

 たとえば、9時から5時の定時フルタイム勤務のみで、フレックスタイム制度が認められなければ、子育てや介護をしている人にとってはグレーな職場です。従業員の個人個人の働く事情を認めず、みんなそうしているのだから、あなただけ特別待遇は許さないという価値観で、認めてもいいはずの個の事情を押し潰している。

 コロナ下でもそうです。2020年4月上旬のアンケートでは、自宅などでテレワーク勤務ができるのは、わずか3割程度の企業でした。すぐに一律にテレワークは無理であっても、社員の感染リスクを減らす方法はあるでしょう。たとえば、長時間の通勤は感染リスクが高まる。だから、遠距離通勤者から優先して自宅勤務に切り替える手もある。自宅にPCがないなら会社から支給すればいい。でも、一部の社員にだけそんな取り組みをすれば、必ず内部からクレームが出てきます。

「なぜ彼らだけが特別待遇を受けるのか」と、現場からの風当たりが強くなります。中高年の管理職世代は「若い社員は権利ばかり主張する。もっと愛社精神を強く持ってほしい」と言います。でも、若手社員が愛社精神を自然に持つような、頑張りたくなる環境や待遇が整えられているかどうかも重要なのです。

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