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婚活アプリで詐欺師と「出会った」女性の顚末 デート3回で婚約、結婚まで一直線のハズが

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/04/06 鎌田 れい
最近では、気軽に利用している人も多い婚活アプリ。便利な一方で、とんでもない相手と「出会って」しまった女性もいます(撮影:bee / PIXTA) © 東洋経済オンライン 最近では、気軽に利用している人も多い婚活アプリ。便利な一方で、とんでもない相手と「出会って」しまった女性もいます(撮影:bee / PIXTA)  

 先日、1通のメールが届いた。

 「結婚詐欺に遭いました。それでもやっぱり結婚したいんです。面談を希望します。加藤聡美(仮名)37歳」

 やってきたのは、キリリとした黒目がちの瞳が印象的な柴咲コウ似の美人だった。今は働いていないというが、少し前まではある会社で社長秘書をしていたという。紅茶を静かにすする所作には知性と品があり、結婚詐欺に遭ったことがにわかには信じがたかった。

 「話を詳しく聞かせてもらってもいいですか? どこで出会った人?」
「一昨年の10月に婚活アプリで知り合いました」

会員数500万人の大手アプリで出会った相手は…

 登録料が安価で気軽に出会える婚活アプリは、ここ数年大人気だ。ITやSNS関連会社、日本を代表する大手企業が次々に参入し、怪しい“出会い系”のイメージを払拭、婚活したい男女の出会いの場として今や認知されている。

 婚活アプリで幸せな結婚をしている人たちもいるのだが、気軽さがトラブルを招くこともある。登録にあたりチェック機構が設けられてはいるものの、それをくぐり抜けて既婚者が登録したり、プロフィールを偽ったり、宝石やマンションなどを買わせるデート商法がはびこったり、高額保険の勧誘が横行したりしているのも、また事実だ。聡美が“結婚詐欺に遭った”という婚活アプリも、大手が運営する会員数500万人を誇る有名なアプリだった。

 今回は、聡美が遭った結婚詐欺の顚末を記す。

 婚活アプリでマッチングした相手、健治(仮名)と実際に会ったのは、一昨年の10月のことだった。自分よりも3つ下の34歳。差し出してきた名刺を見ると、誰もが知る有名企業に勤めていた。健治の両親はすでに他界していたが、亡くなる直前に母親から、「結婚してほしかった。孫の顔が見たかった」と言われたのが心残りだったという。

 「だから結婚できる女性を真剣に見つけたいと思って、婚活アプリに登録したんです」。健治は真剣な表情で言った。

 37歳の聡美もまったく同じ気持ちだった。出産することを視野に入れたら、一刻も早く結婚がしたい。3回目のデートで、「結婚を前提にお付き合いしてください」と言われ、そこからは、結婚に向けての具体的な話がスルスルと進んでいった。

 交際がスタートして3カ月が経った年末のこと、健治が聡美の家にあいさつにやってきた。テーブルを挟み、両親を前に神妙な面持ちで言った。

 「聡美さんとは、結婚を考えて真剣にお付き合いさせていただいています」

 「娘のことをよろしくお願いします」

 父も母も深々と頭を下げた。

 年が明けてお正月。毎年恒例の親戚一同が集まる場があり、聡美はそこに健治を連れていった。

 「ほう、聡美ちゃんの婚約者か」
「いい人そうで、よかったねぇ」
「幸せになるんだよ」

 親戚の人たちみんながお祝いしてくれたのが、うれしかった。

 結婚式に向けての準備も着々と進められていった。3月末にハワイで挙式することになり、海外挙式を仲介してくれる代理店に前金として8万円を払い込んだ。「和装も写真だけは撮ろう」ということになり、写真館で聡美は打掛け、健治は紋付姿の写真を撮った。写真撮影には10万円かかった。結婚指輪も買いに行った。裏側に名前を彫りサイズ直しをしてもらうには10日ほど時間がかかるというので、内金3万円を入れた。

 これらのおカネは、すべて聡美がカードで払った。「会社の労金に積み立てがあるから、それを下ろして後でまとめて払うよ。会社から労金まで距離があるから、なかなか行けなくてごめんな」という健治の言葉を受けてのものだった。

なぜか健治の近親者に会えない

 結婚に向けて準備が着々と進んでいく中で、気にかかることもあった。聡美は、両親、親戚、仲のいい友達に健治を会わせているのだが、健治の近親者には誰ひとりとして会っていない。お正月に初めて健治の家を訪れたときも、一緒に住んでいるという妹は、「彼氏の家に行っている」といって不在だった。

 「この間、妹さんにお会いできなかったから、近いうちに会いたいな。あと、親戚の人にも会わせてもらえないかな。私の親が、『親御さんが亡くなっているなら、親代わりになる親戚の人を交えて両家のあいさつを正式にしたい』って言ってるの」

 「わかった。考えておくよ。そうだ、今週末は、親父とおふくろの墓参りに行くか?」

 その週末、健治の父母の墓参りに行った。「聡美です。今度、健治さんのお嫁さんになります。健治さんをずっと大切にしていきます。よろしくお願いします」。心の中でこう言って、手を合わせた。ここまではまだ、結婚への道は順調だと思われた。

 しかし、事態は急変した。2月に入って間もなくのこと、健治からLINEが来た。「聡美、ごめん。3月末まで仕事が立て込んでしまったから、3月末の挙式を5月に延期したいんだけれど」。驚いて、すぐに電話をした。

 「メール読んだけど、そんな勝手なことを今になって言わないでよ」
「仕事なんだから、しかたがないだろ」
「結婚式は私たちだけの問題じゃないよ。こっちは両親も親戚もそのつもりで、みんなそこを予定してスケジュールを空けてたんだから」
「急に決まった仕事なんだよ」
「会社には3月の末に結婚式をするって言ってなかったの?」
「はあ?」
「健ちゃんのせいで、みんなに迷惑かかるんだよっ!」

 こう言ったとたん、健治はドスのきいた声でまくしたてた。「俺たちの結婚だろうがっ! 親だの親戚だの関係ないだろ!! お前はそういう性格してるから、その年になっても結婚できねぇんだよ。延期といったら延期なんだよ」。

 一方的に電話を切られた。健治がこんなふうにキレたのは、初めてのことだった。怖くて体が震えた。

 その日を境に、メールもそっけなくなり、電話で話せばけんかになり、健治の暴言もひどくなっていった。

 「そんな性格してたら、そのうち友達がいなくなるぞ、ボケ」
「お前、これまで俺以外の男と、結婚の約束もしないうちから簡単に寝てきたんだろ、このアバズレ女が」
「俺に向かって偉そうに指図するんじゃねぇ、バカ」

 日に日に結婚することに疑問を感じるようになった聡美は、ある夜、母親にこれまでの経緯を話した。さすがに暴言の細部までは言えなかったが、話しているうちに涙がボロボロとこぼれてきた。そんな聡美をなだめるように母が言った。

「これがラストチャンスかもしれない」

 「健治さんも今仕事が忙しくてイライラしてるんじゃないの? お正月には親戚の人にもお披露目しちゃったし、着物の写真も撮ったんだから、もう少し我慢して頑張ってみたら。聡美は37歳なんだから、これがラストチャンスかもしれないよ」

 “ラストチャンス”という言葉が、胸に突き刺さった。37歳とは、そういう年齢なのだろうか。

 ある夜、電話で健治と言い合いをしていると、母親が聡美の部屋に入ってきて「お母さんに電話を代わって」とスマホを取り上げた。

 「健治さん、聡美の母です。聡美にも至らないところはたくさんあると思うんですよ。ここのところずっともめているみたいですね。これから結婚をどうするか、ちゃんと話し合いをしませんか?」

 その週末、健治が菓子折りを持って、聡美の家にやってきた。父と母を目の前に正座をし、言った。「自分も短気なところがあるんで、聡美さんを悲しませるようなことをしてすいませんでした。ちゃんと結婚をするんで安心してください」。

 結局、3月末に開催される予定だった結婚式は、5月の末に延期された。

 4月に入り、ハワイ挙式に向けてパスポートを代理店に提出することになった。しかし、なぜか健治は一向にそれを持ってこない。

 「何で? 毎回言ってるのに何で持ってこないの?」
「またそんなちっさいことにいちいち文句を言いやがって。本当にアバズレだな、おまえは」
「前にも言ったよね。けんかしても、言っていいことと悪いことがあるって」
「話のすり替えがうまいなぁ。アホンダラ、ボケ」

 その日も大げんかになって別れた。これはもうさすがに結婚は無理だと思った。その夜、健治にLINEを入れた。

 「これからのこと、キチンと話したい」
「結婚を辞めたいんだろ? 辞めてやるよ」
「そういう言い方ってある? とにかく会って話をしようよ。これまで私が立て替えてきたおカネの清算もしたいし」 

 そのメッセージへの返信はなく、再びLINEをいれようとしたら、アカウントがブロックされたのか、いつまで経っても既読にはならなかった。

 翌日、ハワイの挙式の代理店から、「キャンセルを承りましたので、お支払いいただいていた内金からキャンセル料を引いて返金いたします」という連絡があった。健治が、ハワイ挙式をキャンセルしたようだった。

判明していく、とんでもない事実の数々

 両親に事の経緯を話した。「親戚にもお披露目してしまったから、ここで結婚を辞めたことを伝えるのは気恥ずかしいが、あの男と結婚しても聡美は幸せにはなれないだろう」というのが父の見解だった。確かにそのとおりだ。

 そして、冷静になって考えてみると腑に落ちないところがたくさんあった。これは結婚詐欺ではないだろうか? そこで知人に、結婚詐欺の裁判を視野に入れて弁護士を紹介してもらうと、「ちょっと調べてみます」と受任してくれた。

 2週間ほどのち、弁護士から連絡があった。そこで語られたのは驚愕の事実の数々だった。

 「教えてもらった住所で、住民票を取り寄せました。それがこれなんですが」。弁護士が住民票を見せてくれた。

 「相手は34歳と言っていたようですが、生年月日から計算すると54歳ですね」

 「えええーっ、ご、54!?」

 「松原ひとみさんという方は、ご存じですか?」

 「知りません。あ、でも、私、聡美なのに、ひとみって、しょっちゅう呼び間違えられていて、1度それでけんかになったことがあるんです。それは誰ですか?」

 「ここでは、妻になっていますね」

 「つ、妻ぁ〜????」

 「今戸籍謄本も取り寄せているので、それが来たらもっといろいろとわかっていくと思います」

 数日後、戸籍謄本が届くと、さらに新事実が露呈された。今の妻との結婚は2回目で子どもはいないが、前妻との間に30過ぎの息子が2人いた。そこで子の戸籍謄本を取ると、次男坊には5歳と4歳の子どもがいるので、健治には孫までいたことがわかった。

フェイスブックには「いい人がいれば結婚したいです」

 さらに弁護士はパソコンを開きフェイスブックページを立ち上げ、健治のページを表示した。

 「この方ですよね」

 「そうです。えっ!? 私にはフェイスブックはもう辞めたと言っていたのに」

 辞めたのではなく、聡美のアカウントをブロックし、聡美からは見ることができないようにしていただけだった。さらに健治のフィードには、驚きの動画がアップされていた。

 「妹と暮らしています。36歳の独身です。いい人がいれば結婚したいです」

 弁護士が苦笑いしながら言った。「今度は36歳になりすましていますね。まあ、確かに30代に見えなくもないですが」。

 アニメのアンパンマンのようなふっくらとした丸顔にはシミひとつなく、おかっぱにした髪の毛からのぞく一重の目元にはシワもない。

 「それにしても、かなり悪質です。内容証明を送りつけましょう」

 内容証明は、これまで立て替えた代金の半額を支払ってほしいというものだった。しかし後日、健治側が立てた弁護士から、「支払いを拒否します」という書面が送られてきた。

 第1回の口頭弁論では、こちらの主張に健治側の弁護士が真っ向から反論してきたという。反論してきた内容は、こうだ。

 ・ 出会った当初は34歳だと言ったが、付き合うようになって54歳という実年齢を明かしていた。
・ 結婚していることも正直に話した。
・ 既婚者だから、「別れる」と言うと聡美が泣きながら、「別れるなら死ぬ」と脅してきた。気の弱い健治は別れることができなかった。
・ 結婚式の写真も、無理やり写真館に連れて行かれて撮らされた。
・ 結婚式場も勝手に予約をされていた。
・ それで「これまでかかった代金を半額支払え」というのはおかしい。
・ 既婚者であることを知りながらつきあっていたのだから、逆に聡美は妻から訴えられる立場にある。

 結婚詐欺にあった経緯をここまで一気に話すと、聡美は私に言った。

 「彼が既婚者だと見抜けなかった自分も甘かった。だまされた私も悪い。だから最初は立て替えた代金の半額を支払ってくれたら、それで終わりにしようと思っていたんです。でも、これだけうそ八百を並べ立てて自分を正当化してきたのが腹立たしくて、腹立たしくて」

 「ここまできたら徹底的に戦う!」。家族で腹をくくり、聡美は本人尋問のために出廷する覚悟でいたが、裁判は、3回目を終えたところで、あっけなく幕切れとなった。

 これまで健治とやりとりしていたLINEのトーク履歴、暴言がひどくなってきた頃に万が一に備えて録音しておいた電話の音声、母と健治が電話で話した時の会話音声が状況証拠の決定打となった。

 「今年2月の第2週目に、向こうの弁護士さんが、『原告側の言い分をすべて認めて謝罪する。解決金200万円を現金一括で払うので、もう終わらせたい』と言ってきたんです。私の弁護士さんは、『200万円は解決金としては妥当な金額』だとおっしゃるし、何より私はこれまでしてきた事実を認めて謝ってくれたらよかったので、そこで終わりにしました」

結婚詐欺に遭っても、結婚したい

 私は、すべてを包み隠さず話してくれた聡美に言った。

 「聡美さん、私はね、『結婚詐欺に遭いました。それでも私は結婚がしたいんです』といういただいたメールの一文が、心に刺さったんですよ。婚活をしていて失恋をしたり、それこそだまされたりすると、自分を悲劇のヒロインにしてしまう。つらさを乗り越えるよりも、相手を恨んだり、不運を呪ったりして、後ろを向いてしまう人が多い。そんな中で前を向いて歩き出そうとしている聡美さんはすばらしいと思ったの」

 「ありがとうございます」

 起こってしまった過去を変えることはできない。しかし、未来を幸せにするかどうかは、今の自分の行動にかかっている。幸せを手にいれた時、つらかった過去への思いが変わる。過去の景色が違って見える。「あのつらい経験があったからこそ、この幸せがある」。そう思うことができるのだ。

 「婚活がうまくいかない」と思っている人たちは、ぜひあきらめないでほしい。前に進み結婚を決めて、過去のつらさや失敗続きだった婚活を思い切り笑い飛ばしてほしい。

 ファイト!

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