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安倍首相の「傲慢症候群」3つの要因 それを支えるメディアの罪とは?

dot のロゴ dot 2016/07/12 dot.

 第24回参議院選挙の投開票が行われ、参院全体で自民、公明、おおさか維新の会など、憲法改正に前向きな「改憲勢力」が3分の2を超えた。安倍晋三首相を「オレ様化」した傲慢(ごうまん)人間だと断じる精神科医の片田珠美さんは、著書『オレ様化する人たち あなたの隣の傲慢症候群』で、身近に存在する「オレ様」を徹底分析。安倍首相の傲慢さがもたらす弊害と、「オレ様」に負けないためにどうするべきか、指南してくれた。

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 安倍首相の歓喜にあふれ、高揚した顔を見て、「傲慢症候群(ヒュブリス・シンドローム)が一層悪化するのではないか」と危惧せずにはいられなかった。

「傲慢症候群」は、イギリスのデービッド・オーエン元外相・厚生相が提唱した概念である。オーエンは「権力の座に長くいると性格が変わる人格障害の一種」と説明している。たしかに、「権力を握ってから、おかしくなった」とか、「権力を振るえる立場になってから、とんでもないことをするようになった」と言われる人はいる。

 権力の座につくことによって、おごりや自信過剰が生まれ、そのせいで周囲が見えなくなり、冷静な判断ができなくなるのが傲慢症候群の特徴だ。オーエンは政治家であると同時に神経科医でもあるので、国家のトップが周囲の助言に耳を傾けず、暴走する姿を医師のまなざしでつぶさに観察していたのだろう。

 オーエンがヒュブリスという傲慢を意味するギリシャ語をあえて用いたのは、古代ギリシャではヒュブリスが非常に重要なテーマだったからだ。

安倍首相の「オレ様化」が止まらない!? © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 安倍首相の「オレ様化」が止まらない!?

 ヒュブリスという名前の女神が『イソップ寓話集』の「戦争と傲慢」に登場する。神々が結婚式を挙げ、それぞれの伴侶が決まったのだが、ポレモス(戦争)の神は遅れて到着したので、1人だけ残っていたヒュブリスをめとることになった。ヒュブリスは絶世の美女だったらしいが、その性格ゆえに売れ残っていたようだ。もっとも、ポレモスはヒュブリスにぞっこんで、この女神の行くところにはどこにでもついて行くので、傲慢のあとから、たちまち戦争がやって来るといわれるようになった。

 この話が端的に示しているように、傲慢の後にはしばしばもめ事がやって来る。これは、国家や企業などの大きな組織のトップに限らない。上司、同僚、友人、恋人、隣人、場合によっては家族の中に傲慢な人が1人でもいると、振り回されて大変なことになる。傲慢な人がもめ事を引き起こしやすいのは、プライドが高く、自信過剰に陥りやすいからだろう。

 もめ事くらいなら、じっと我慢していればすむかもしれないが、傲慢な政治家は実際に戦争を引き起こしかねず、笑い事ではすまない。そのため、ヒュブリスは古代ギリシャでも強く戒められており、傲慢の当然の報いとして破滅する物語がギリシャ神話には数多くある。

 たとえば、ギリシャ神話に登場するイカロスの悲劇はその典型だろう。イカロスは、父が鳥の羽根を集めてこしらえた翼で空を飛び、「あまり高く飛びすぎてはいけない」という父の戒めを無視して、天に達するまで高く昇っていった。やがて、燃え立つ太陽に近づきすぎ、羽根をとめていたろうが柔らかくなって、ばらばらにほぐれてしまったため、墜落し、青海原のまっただ中に沈んだ。

 イカロスの名前を冠した「イカロス・シンドローム」も、欧米では最近話題になっている。育児休暇取得を宣言し、安倍首相をはじめ自民党の重鎮政治家を招いて盛大な結婚披露宴を催した宮崎謙介・元衆院議員が、妻の出産直前の不倫を認めて議員辞職した騒動は記憶に新しいが、栄光の絶頂から真っ逆さまに転落した宮崎氏は、典型的な「イカロス・シンドローム」ではないか。

 傲慢を戒める逸話は、もちろんわが国にも昔から数多くある。その極致ともいえるのが、平家物語で、「驕(おご)れる者は久しからず。ただ春の夜の夢のごとし」という一節は、よく知られている。これほど傲慢がもたらす悲劇を見事に描いた物語はないだろう。

 この世の春を謳歌(おうか)し、栄光の絶頂にいたとしても、少々のことは許されるという驕りゆえに傲慢な振る舞いを続けているうちに転落した実例は、古今東西枚挙にいとまがない。過去の成功体験の上にあぐらをかき、「自分たちは特別な力を持っている」と自信過剰に陥って、目の前の現実をきちんと認識できなくなれば、イカロスのように破滅の危機にひんする。

 このことは、過去の歴史を振り返れば一目瞭然だ。にもかかわらず、傲慢症候群に陥るトップが少なくないのは、オーエンが挙げている3つの要因によると考えられる。

(1)実権を握っている

(2)権力の座に長期間座っている

(3)個人が権限をふりかざすのに最小限の制限しかかからない

 安倍首相の傲慢症候群は、この3つの要因に支えられているように見えるが、私が何よりも深刻だと思うのは、(3)を可能にしている最小限の制限しかかけない国民、とくにメディアの責任である。

 今回の参院選の争点は、改憲勢力が3分の2に達するか否かだったはずだ。にもかかわらず、安倍首相は選挙期間中その点を隠し、「アベノミクスは道半ば」ということばかり強調した。メディアも、権力者の意向を忖度(そんたく)したのか、争点ぼかしに協力した。唯一追及したのは、投票後の選挙特番で安倍首相に「憲法改正の『け』の字も出さなかった」ことを問いただしたジャーナリストの池上彰氏くらいで、あとはみな腰が引けていたようだ。

 これは、メディアをはじめとして大多数の国民が「イネイブラー(支え手)」になっていたからだろう。最近、女優の高島礼子さんの夫である高知東生容疑者が覚せい剤取締法違反で逮捕されたが、近年は俳優としての活動がほとんどなかった高知容疑者が覚せい剤を購入し続けられたのは、高島さんの稼ぎのおかげである。その意味では、高島さんは、知らず知らずのうちに「イネイブラー」になっていたといえる。

 傲慢症候群に陥っている安倍政権の「イネイブラー」にならないように、国民1人1人が気をつけなければならない。そうしなければ、ヒュブリス(傲慢)に続いてポレモス(戦争)がやって来るかもしれない。そのときになってあわてても、あとの祭りなのである。(精神科医・片田珠美)

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