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就活セミナーの闇 学生インフルエンサーの「裏バイト」蔓延

NEWSポストセブン のロゴ NEWSポストセブン 2018/10/08 16:00
会社説明会を盛況にするための禁じ手も © SHOGAKUKAN Inc. 提供 会社説明会を盛況にするための禁じ手も

 スマホとSNSが普及したことで、口コミを偏重する不思議な風潮が生まれている。学生の就職活動についても同じような現象が起きていて、それを利用した裏バイトが学生インフルエンサーの間で広がっている。いまは2020年卒の学生たちがインターンシップなどに取り組み、来年春に始まる企業説明会やセミナーなどの情報を一学年上の先輩から得ている頃だろう。ライターの森鷹久氏が、企業セミナーに出席するサクラが増えた経緯と、サクラになったインフルエンサーたちの本音をレポートする。

 * * *

「とにかく人が集まりません。学歴フィルター云々と言っているのは、超一流企業と、そんな企業にエントリーする一流大の学生たち。私たちとしては、なりふり構わず学生を集めるしかないのです」

 こう語るのは、東京都某区にある中堅商社の採用担当者・M氏。昨年、一昨年と十数名の新卒採用枠を設けたが、実際に入社したのは10名にも満たなかった。採用担当者として上司からは「集め方が悪いのではないか」と叱責され、あらゆる就職サイトの担当者とも協議を重ねてきたが、インターン応募者も、採用試験応募者も一向に伸びない。「人不足」を肌で実感せざるを得ない状況の中で、とある広告代理店から持ち掛けられた“秘策”に、M氏は茫然とした。

「そこまでしないと人は来ないのかと…。あまり気は進みませんでしたが、背に腹は代えられずやってみると、確かに人が来たのです。私としては本当にうれしかったが、正しいことなのかと問われると、まあ…」(M氏)

 その“秘策”とは、会社説明会などにサクラを雇うという禁断の手法だった。

 サクラ達は、ただ頭数をそろえるだけでは意味がない。ネット社会で「インフルエンサー」とも呼ばれる、モデルや芸能活動をしたことがある人、ブロガーやサークルの代表として活躍する学生たちにサクラになってもらうのだ。彼らは、SNSなどで多くのフォロワーを持ち影響力がある。その口コミによって説明会に人を呼び込む、という寸法だったというのだが…。

「いくら費用がかかったか…多くは言えませんが、以前よりだいぶかかったとだけ…。でも、彼らの影響力は本当にすごい。一人のインフルエンサーが弊社についてのポジティブな情報をSNSで発信し、会社説明会に行くと投稿すると、そこには"私も行く、俺も行く"との返信が相次ぎました。そしてそのうちのほぼ半数以上が、実際に説明会に参加した。すごいことです」(Mさん)

 当初、Mさんはこのやり方について大いに疑問を抱いていたが、実際にたくさんの学生が会社に来て、説明会に参加した後には「きっかけは何でもいい」と考えるようになった。インフルエンサーは単なるサクラではなく、人を呼び込むための「コンサルタント」とも言えるのではないか、筆者にそう思いを吐露するまでになったのだ。

 確かに、採用担当者にしてみれば、まずは人が集まれば良い、という思考に陥りやすいことは理解できなくもない。分母が多ければ多いほど、優秀な人材を獲得できる可能性は高まるのである。しかし、こうした採用に関する"インフルエンサー業務"を行ったことがある学生側は、単なる仕事、もしくは小遣い稼ぎとしてしか考えていないらしい。

「サークル内向けのSNSや、個人SNSへフォロワー限定ポストで“××会社は期待できる”とか“採用試験受けるつもり”と書いたことがあります。すでに某メディアに就職が決まっていましたが、広告会社に勤めるサークルの先輩からお願いされたので、仕方なくって感じですね。報酬は五~六回、××会社のことをつぶやいたりして、3万くらい。あとは打ち合わせの時に焼き肉に連れてってもらった(笑)」

 このように打ち明けたのは、現役の大学4年生で、大手運輸系企業に来春から勤務する予定のU君だ。難関国立大に在籍するU君は、今年春にはすでに内定をゲットしていたが、そのことを公表せずに、自身が「就職活動中」である体で、このような依頼を受けたというのだ。顔立ち端正なU君は、かつて雑誌の読者モデルとしても活躍していた。インスタグラムでは数千人のフォロワーを持ち、投稿には毎回数百の「いいね」が付き、十数件のコメントが寄せられる。フォロワーにはU君と同世代の学生がたくさんいるから、U君の一挙手一投足が彼らに与える影響は小さくない。まさに「インフルエンサー」なのだ。

 国内大手の保険会社に勤めるTさんも、昨年同じような「業務」を経験した一人だが、U君同様に「あくまでも仕事だった」と明かす。

「私の場合は今の会社から内定をもらった後も、三社くらいの会社説明会に出かけました。アパレル系、音楽系、あとはなんだったかな…。忘れちゃいましたが、合計で10万くらいは貰ったと思いますね。今の会社の人事担当者にバレて大変でしたが、代理店に勤める先輩から頼まれてと弁解して、何とか事なきを得ました(笑)。社会人になって冷静になって考えると、そうまでしないと人が集まらない企業ってどうなのかな?とも感じます。はっきり言ってダマしじゃないですか。

 私が宣伝した会社名をネットで調べると“ブラック”とか“激務”みたいなキーワードが出てくる。そんな会社に人が集まるわけがない。あと、今だから言えるけど、私なんかの宣伝に影響されてくる学生って、結構情報に疎いというか、微妙な感じじゃないのかなって思ったりしますよ、正直」(Tさん)

 TさんもSNS上では少なからず影響力を持っていた一人だが、就職を機にSNSへの投稿が減り、今では立派なビジネスマンとして、毎日激務に励む。「単なるバイトでしたよ」として、わずか一年前の事ながら、記憶も薄れているほどなのだ。

 さらに、こうした「事情」を知った学生の中から、さらなる強者が産まれている。有名私大四年のIさんもまた、すでに大手広告代理店から内定を得ている立場であるが、“先輩”からのあっせんにより、多くの企業にエントリーしたり、説明会に参加して、割の良いアルバイトをこなしていると明かす。

「内定先の先輩から頼まれて、企業の説明会に参加したり、エントリーしたりして一件につき五千円くらい貰っています。エントリーだけでもらえることもあれば、説明会に行ったり、実際に採用試験を受けて、もっと多くのバイト代もらえることもあります。友達を連れて行けばさらに金額が増えますね。SNSの友人限定の投稿で募集して、10人から20人くらいが集まります。悪いことかって言われると…うーん、社会勉強って感じですかね」(Iさん)

 つい先日も「遺伝子組み換え食品」に関するイベントに関し、複数の「サクラ」とみられる学生が、遺伝子組み換え食品について肯定的かつ紋切り型の…いや単なる「コピペ」にしか見えない投稿をSNS上に上げていたのではないか、そんな疑惑が話題になった。

 SNSの世界での強者はフォロワーが多いインフルエンサーで、そのインフルエンサーによる発信がステマ(※ステルスマーケティング、広告であることを伏せた宣伝)であろうがなかろうが、強い者やそれに近い者だけは真実の情報をつかんで生き残る。インフルエンサーの情報を疑わずに従うだけのフォロワーは、偽りの情報に人生まで振り回される可能性があるが、それには気づいていない。

 かつて、ある家電製品の使い心地の良さを語った芸能人ブログのエントリーが、実は広告料をもらった宣伝だったとわかったとき、世間はブログを書いた芸能人に対する非難一色になった。それからしばらくの間は、広告だと告げないネット投稿を、読者はもちろん、広告主も敬遠した。ところが、スマホとSNSがコミュニケーションツールとしての比重を増してきた最近では、この、ずるい広告に対して鈍感になってきてはいないか。

 そしていま再び、目につき始めたインフルエンサーを利用した「サクラ」を呼び込むフェアではない手法は、広告会社やPR会社を通じたオーダーということで「プロモーション代金」という名前に化ける。この、いかにもきれいな名目で決済ができるからか、広告主側の感覚までもがマヒしているといった実情でさえ散見されるのだ。

 情報強者は強者とだけ組み、富める者は富むが、情報弱者は弱者のまま、持たざる者はさらに無くしていくといった様相だ。階層化を固定するようなこの傾向は、この社会が内側で食い合うだけであり、犯罪者にも簡単に悪用される。社会に出る前の現役の学生諸君に、目の前に危機が迫っていることを、ぜひ知っておいてほしいところだ。

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