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日本人が知らないハワイの意外な「ウラの顔」 観光客は気が付かないかもしれないが・・・

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/04/30 桑原 りさ
日本人に人気のハワイでは、ホームレスや薬物問題が深刻化している(写真 : bee / PIXTA) © 東洋経済オンライン 日本人に人気のハワイでは、ホームレスや薬物問題が深刻化している(写真 : bee / PIXTA)  

 太陽が降り注ぐビーチ、ハワイアンソングにフラダンス――。ハワイを思い浮かべるだけで癒やされ、笑顔になってしまうのは筆者だけではないだろう。この連休中にハワイを訪れる人も少なくないはずだ。しかし近年、私たちの知らざるハワイが顔を見せ始めた。それは、急増するホームレスの問題だ。現地では「ハワイが隠したいダークサイド」という声も聞かれる。

 最近ハワイを訪れた人でも、「ホームレスが急増」にピンと来ないかもしれない。それもそのはず、ハワイのホームレスの人たちは、観光客と見分けがつかないことも多い。ワイキキビーチに設置されている無料のシャワーで自由に体や衣類を洗い、せっけんの香りが漂うほど清潔なホームレスもいる。小ぎれいなTシャツと短パン姿でビーチに寝ていたり、スマホを片手にバス停に座ったりしているホームレスの人たちは、観光客に溶け込んでいるのだ。

2015年10月に非常事態宣言が発令

 しかし一方で、薬物依存、アルコール依存、精神疾患の症状を抱えるホームレスの人たちも多く、トラブル発生や医療費などに伴う社会コストは膨れ上がり、大きな課題となっている。ホームレス人口のさらなる増加による街のイメージや治安の悪化は、観光業を基盤とするハワイ経済にとっては死活問題になるだろう。

 ハワイ州でホームレス人口の急増により非常事態宣言が発令されたのは2015年10月のこと。ホームレス急増の要因は、全米最高レベルの生活費の高さと最低賃金の低さにある。そして、ハワイに“引っ越し”てくるホームレスの人たちの存在も見過ごせない。冬でも凍死するおそれがない常夏のハワイに、全米からホームレスが暖を求めて集まってくるのだ。

 2016年1月現在、ハワイのホームレス人口は7921人。内訳は、ホームレスの人たちのための宿泊施設「シェルター」での生活者が3613人、路上生活者が4308人。その数は年々増加の一途をたどっている。

 非常事態宣言から1年半。筆者は3月に再び、取材のためオアフ島・ホノルルを訪れた(前回は2015年10月に取材)。繁華街での座り込みの禁止や、ホームレスの人たちのテントの強制撤去など、やや強行的な対策の結果、1年半前に比べ、観光客の視界からはホームレスの数が減ったように見えた。また、以前はホームレスの人が住みかを構えていた沿道のスペースには、大きな四角いアスファルトの障害物が置かれ、ホームレス対策の痕跡が確認できた。

 ワイキキとアラモアナショッピングセンターを結ぶアラモアナ通りを歩いていると、ホームレスの男性が歩道に座っていた。フィリピン生まれのアーネル・エスピリトゥさん(53)だ。「ホームレスです。お腹が空いています。少しの助けが大きな助けになります。ありがとう。神のお恵みを」と書かれた段ボール紙を持っていた。

 「お腹、空いていますか?」と話しかけた。すでに午後3時を過ぎていたが、アーネルさんは朝からお菓子のグミしか食べていないという。そこで、一緒に近くのマクドナルドへ向かい、話を聞かせてもらうことにした。筆者が支払うにもかかわらず、アーネルさんは小さなハンバーガー1つしか注文しない。もっと注文するよう勧めると、ようやくチキンナゲットを追加した。初めは「水があるから大丈夫」と飲み物も注文しないほど、とても遠慮深い人だった。

 席に座ると、アーネルさんは目をつぶって祈り始めた。クリスチャンだという。「食事を食べさせてもらえることに感謝。そして、話しかけてもらえたことも嬉しかった。私は神様に見守られている」。アーネルさんの目からは涙があふれていた。

薬物に手を出し、人生が狂い始めた

 アーネルさんの友人であるホームレスの男性が店内に入ってきた。彼の名前は、スマイリー。ホームレス同士で呼び合うストリートネームだという。名前のとおり、笑顔が印象的なスマイリーさんは、空き缶を拾い集めることでおカネを稼いで生活しているそうだ。アーネルさんは、1口も食べていないチキンナゲットを箱ごとスマイリーさんに渡した。日頃から、お腹を空かせたホームレスの友人たちを見ると、自分の食料配給券をあげてしまうという。

 アーネルさんは祖父が米軍人だったため、高校時代はハワイで生活し、その後、アメリカ本土へ渡ったという。覚醒剤に手を出し、更生施設に入ったこともあったそうだ。その後、友人の死を機に再び薬物に手を出し、人生が狂い始め、ホームレス生活が始まった。そして「今でも、仲間が分けてくれた時にだけアイス(覚醒剤の一種)を吸っている。でも依存症にはなっていない」と話し、薬物を使用する理由について「モチベーションをあげてくれるから」だと言う。

 4年前、コロラドの冬の寒さに耐えられずハワイに。数カ月間、ホームセンターで働いていたこともあったが、腰を痛めて仕事ができなくなり、再びホームレス生活が始まったそうだ。住所不特定であるうえに、心臓の持病もあり、仕事を見つけるのは非常に難しいという。

 兄弟がハワイにいるが「彼らにも家族がいる。生活を邪魔するわけにはいかない」と、親戚を頼ることもないそうだ。アーネルさんに夢を尋ねると「住む場所を持つこと。家でなくていいから」と話した。

 アーネルさんのような施しの精神にあふれた優しい人が、人生の階段を踏み外して困窮しているこの現実に、胸が締め付けられる思いだった。

 ハワイでは「ハウジングファースト」という公共プログラムが導入され始めている。ホームレスの人たちにアパートを無償で提供し、薬物依存や精神疾患から立ち直るための支援体制を整え、生活基盤を作ることで社会復帰を促すものだ。通常、シェルターには、薬物依存症やアルコール依存症の人たちなどは治療を受けることに合意しなければ入居できないが、ハウジングファーストは無条件でアパートに住むことができる。その後、仕事に就くことができたときに、可能な範囲で家賃を支払う必要があるが、最大でも収入の30%に制限されている。

 ハウジングファーストの効果はいかほどだろうか。カナダのサイモンフレイザー大学健康科学部助教授で、聖ポール病院薬物使用研究主任の林神奈氏に話を聞いた。

家があれば薬物問題が解決するという話でもない

 「カナダでは実際に、ハウジングファースト導入によって、社会コストが減り、1人当たり年間4万2000ドル(約460万円)のコストができたというデータがある。また、ホームレスの人たちは、寝ている間に盗難やレイプのリスクから身を守るために覚醒剤を使って起き続けていることも多いので、住む場所が確保できれば薬物の使用頻度が減る可能性はあるかもしれない。ただ、ホームレスの人に家を提供すればドラッグの問題が解決するかというと、そういう簡単な問題ではない」

 住民からはハウジングファーストに反対する声もあった。「ホームレスたちは甘えているだけだ。自分たちは必死で働いているのに」と話すのは、アラモアナショッピングセンターで働く30代の男性Kさん。勤務する店ではマネジャークラスだが、1人暮らしをできるだけの収入がなくルームシェアをしているという。

 「今の時代、大卒くらいではいい給料がもらえないので、キャリアアップのために大学院を目指している」と話し、仕事後に睡魔と戦いながら勉強するために薬物を使っていると明かした。病院で偽って、ADHD(注意欠陥多動性障害)の薬を処方してもらい、残ったものは人に売って生活費の足しにしているという。「そうでもしないと自分がホームレスになりかねない」という。

 ハワイの生活費は全米で最高レベルの高さであり、最低賃金は現在、時給9.25ドル(約1020円)。最低賃金で働く人が、無理なく平均的な2ベッドルームの部屋を借りるには、週に180時間も働く必要がある計算になるという。ハワイでは多くの人が仕事をいくつも掛け持ちして、ギリギリの生活をしながら生きているのだ。

 正直なところ、「ハワイが隠したいダークサイド」は目をそらしたくなる現実だった。しかし、国が発展し富が生まれる一方で、社会的弱者を生み出しているこの現実はしっかりと受け止めておきたい。

 また、薬物は富を得た人たちにもはびこる問題だ。敗者も勝者も、大きなストレスを抱えて生きているに違いない。戦い続けなければいけない資本主義社会で、富と引き換えに何か大事なものを置き去りにしているのではないかと、感じずにはいられなかった。はたして、この資本主義は誰に幸せをもたらすシステムなのだろうか。

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