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正月明けに職場で「精神的にひきこもる」フラリーマンたち

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2018/01/10 11:30 AERA dot.

 正月気分が抜けて、そろそろ日常生活に戻るころ。我が家から離れ、職場でやっと一息付く人もいるかもしれない。それって精神的なひきこもりかも……。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦やカップルの間に起きがちな問題をやさしく紐解く本連載。今回は夫と妻の「居場所」について解説します。

*  *  *

 昨年はフラリーマンなる言葉が注目を浴びました。フラリーマンとは、仕事が早く終わってもまっすぐ家に帰らない人たちのことで、以前は帰宅拒否症候群などと言われていました(個人的には、◯◯拒否というのは、何かの目的のために積極な意志で拒否するのではない場合は適切な言い方ではないと思いますので、以下「帰宅恐怖」といいます)。

 そもそも、一緒にいたい人と結婚し、新婚当初は残業を言いつけられても1秒でも早く終わらせて早く帰った人が多いはずです。それがなぜ、帰れなくなってしまったのでしょう。

■「週末が苦痛」

 まだ働き方改革が声高に叫ばれる前にお会いしたAさん(男性)は、見るからに憔悴されていました。会社にいられるのが9時までで、まっすぐ帰ると10時ごろには家につくのですが、最初はちょっと家に帰るのが気が重いなぁ、と感じる程度だったのが、駅から家までちょっと遠回りするようになり、それがだんだんエスカレートして、どこかで30分頭を冷やしてから帰るようになり、今では妻子が完全に寝静まる12時過ぎまで、お金があればファストフード店やマンガ喫茶などに行き、お金がなければ公園などで時間をつぶしているそうです。

「妻が一人で家事育児をしていて、妻も疲れているのだから、早く帰れば多少は手伝いもできるのだから早く帰るべきだとわかっているのだけど、どうしても家に帰れない」

とおっしゃっていました。「帰りたいけど帰れない」、これぞ帰宅恐怖です。そして、朝は起きるとすぐに会社に行くので、体力が持たない、のだそうです。

 その人の体力にもよりますが、ウィークデーに12時過ぎに帰って6時に起きる生活を続けること「だけ」でそんなに疲弊するとは思えませんので、憔悴しているのは肉体的な疲労だけではないはずです。

「週末はどうしてますか」

とお聞きしてみると、

「週末はもっとつらいでんです。家事育児全部妻がやるので、やることはないけど、家にいるのはいたたまれず、どうやって2日間時間をつぶすか毎週苦しんでいます」

とのことでした。

 働き方改革に伴って早く退社しなくてはならなくなったことで、Aさんほどシビアではないけれど、Aさんの予備軍のような人々があぶりだされたのです。帰宅恐怖というと深刻な感じがするのに、フラリーマンというと深刻な感じがしないのが不思議です。

■本当は帰りたいから苦しい

 いずれにしても、彼らの問題は、

・帰宅できないことに、両者とも苦痛を感じていること

・そして潜在的には「帰りたい」という気持ちがあること

です。本当は帰りたいのに帰れないという心理的な葛藤に苦しんでいるのです。人によっては、帰りたくないところに帰らなければならないことに苦しんでいる場合もあり、そのどちらかによって対処がまるで違うため、慎重に検討する必要があります。

 後者は、本当は中学受験なんかしたくないけど親の意向で勉強しなければいけない苦痛のようなものです。小学生なら残念ながら親なしに生きていくのは困難ですから、仕方ない現実があるかもしれませんが、大人であれば自分の人生を考えて、自分がどういう人生の選択をするか、という問題にほかなりません。いいと思って就職して何年かまじめに働いたけど、これは自分がやりたいことではなかった、と気づいたというのと同じ話です。

■「妻が怖い」という理由は本当か?

注目を集めるフラリーマン。実は育児にかかりきりになる妻のほうも同じ問題を抱えていることがあるという (※写真はイメージ) © dot. 注目を集めるフラリーマン。実は育児にかかりきりになる妻のほうも同じ問題を抱えていることがあるという (※写真はイメージ)

 フラリーマンの本流である帰りたいけど帰れない、というタイプの人に話を戻します。理由もわからず「帰りたいけど帰れない」という状態は、心理的には非常にきつく、少なくとも何らかの説明が付けば、多少は救われます。

 フラリーマンがらみの記事を読むと、「妻が怖い」という理由が多く見受けられます。帰っても妻に嫌味ばかり言われるとか、家事を手伝ってもダメ出しばかりされるとか、わかりやすい理由付けは一種の麻薬です。帰りたくない気持ちに説明がついて(どこか正当化され)、そしてそれ以上考えないで済むようになります。

 妻が怖いのが本質的な問題なのであれば、何がどうなってそういう状況に陥っているのかの洞察と話し合いが必要です(交際当初からそうで、怖い人が好きで結婚したなら別ですが)。

 妻側からは、母親は育児から逃げられないのに、自分だけ、さっさと帰らずにふらふら逃げているのが許せない、という主張が見受けられます。

 確かにそれはもっともなことです。男性が育児を「手伝う」のが当たり前のことになってきましたが、そもそも2人の子どもなのに夫は「手伝い」というサブの役回りで良しとする感覚に、納得のいかない女性は少なくありません。

 新生児のときの3時間おきの授乳(ミルク)はほとんどの家庭で妻の役割でしょう。もう少し大きくなっても、保育園に送っていくお父さんは多くても、お迎えの多くはお母さんです。毎日5時とか6時に必ず仕事を切り上げなければならないストレスは並大抵ではありません。基本的に母親はワンオペを多く含む週7日、24時間勤務であるのに対して、父親はパートタイマーであるなら、ムカついてしまうのは無理からぬことです。

 ここで、問題解決のために手伝いを増やすというのは、正しい答えではありませんが、脱線してしまうのでここでは割愛します。

■ワンオペ育児も「心理的ひきこもり」

 私の回りにもこんな事例がありました。私がまだサラリーマンだったころ、残業時間の記録ホルダーのおじさんがいました。週休二日になる前の記録ですが、週休2日になっての誰も記録を更新できなかったのです。その記録なんと月300時間だそうです。

 私が年に何回か休日出勤すると、たいてい彼は会社にいました。彼曰く

「パチンコに行けば金かかるけど、会社にいれば金かからんだろ」

だそうです。彼にとっては、会社は家よりも居心地がよく、パチンコ屋のようにお金がかからないどころか、ただでお茶が飲めてテレビも見れる理想的な「居場所」だったのです。

 人には、自分の「居場所」が少なくとも1つ必要です。働き方改革は、職場はあなたの「居場所」ではないですよ、ということを突きつけました。もともと職場以外にも居場所があった人はいいですが、ほかに居場所がなかった人にとっては居場所を追い出されてしまったわけです。

 子育て中の妻に帰宅恐怖がほとんどないのはそう考えるとうなづけます。多くの場合、子どもとの関係にある程度は居場所感を持てるからです。

 究極の自分の居場所は、心理的にひきこもることです。ひきこもると言っても部屋に引きこもっているだけが引きこもりではありません。嫌なことがあった時、気持ち的に仕事に引きこもった経験のある人は少なくないのではないでしょうか。これは外からは仕事に集中しているようにしか見えないけど、心理的な引きこもりです。フラリーマンの暇つぶしも引きこもりですし、場合によっては、ワンオペ育児も引きこもり的な側面があります。

 ワンオペで大変な育児、(妻から見れば)役に立たない夫、そんな中で妻は育児に引きこもり、結果、家庭に居場所がない夫はファミレスでひきこもる、という構図です。

 人には、自分自身を癒す時間がある程度必要です。それを確実にできる方法の一つがひきこもりなので、ひきこもりがダメなこと、とは私は思いません。問題があるとすれば、自分の居場所が引きこもりだけでいいのか、それが悪循環になっていないか、ということです。

■居場所を作る求心力

 居場所はどうしたら作れるのでしょう?

 女性からも自分の「居場所がない」という直接的な訴えもそこそこあります。夫や生活になにか不満があるわけではないし、もちろん自室が欲しいということでもありません。夫とは日常的なコミュニケーションはとれるけど、気持ちが「つながっている感じがしない」というのです。

 気持ちが「そばにあるらしい」ことと、「つながっている実感がある」ことは違います。生活がうまく回っているなら気持ちがそばにあるらしいことは想像がつきます。しかし「つながっている」と感じるためには、求心力が必要です。絆といってもいいのですが、静止的な感じがする絆という言葉よりも、あえてダイナミックな感じがする「求心力」と言っています。恋愛初期を思い出してみれば恋愛感情というダイナミックな求心力があったはずです。

 求心力を作る要素のひとつは、今まで見えていなかった相手の素顔を知る体験です。

「中国嫁日記」というマンガご存知ですか? 中年の日本人男ジンさんと、若い中国人女性の月(ユエ)さんの結婚生活を描いた4コマ漫画です。その中に、自分たちが飼っていた猫を知人にあげるエピソードがあります。月さんがあまりに手際よく話を進めるので、ジンさんは、猫を手放したい月さんの陰謀では、と疑ったのですが、本当は月さんは猫に寂しい思いをさせてしまった自分たちに猫を飼う資格がないと自分を責めた末の苦渋の決断で、ものすごく苦しんでいることを知ったという話です。これは、今まで見えてなかった相手の本当の姿を一つ知った経験です。胸がキュンとしますよね。こういう経験で求心力がちょっと増します。

 お二人の求心力はどんな体験でしたか? 今年一年、パートナーの素顔をたくさん知れたら、きっと一緒にいることが幸せな一年になるはずです。(文/西澤寿樹)

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